第4話 突然ですが、魔王を倒しませんか

 弟子たちに次々と辞表を出され、その場には大量の辞表と、私と、黒髪の無愛想な少女──つまり2番弟子アリス・モノウィッチだけが残った。


「先生、お手紙いっぱいで良かったですね」

「なめてんのか君。早くいけよ、冷やかしか?」

「私は辞めませんよ」


 ──は?


「辞めない?」

「はい。それとも破門にしますか?」


 モノウィッチは淡々と言う。


「……はっ。モノウィッチ、私の弟子は物好き以外やめた方がいいんじゃなかったのかい?」

「私は物好きですので」


 ……。


「どういうつもりだ。言っとくが、マジで魔法はもう使えないからな。攻撃、回復、防御、固有魔法もな」

「問題ありません」

「…………じゃあ、勝手にしろ。ついてきても何もやらないからな。私はもう無職だし、弟子の世話なんかしている余裕はないからな」

「今までも、大して世話なんかしてなかったですよね」

「うっさい! わかったよ、たまには飯奢ってやるから! 他は自分でやれよ!」

「そうします」


 そういうことで、モノウィッチがついてくることになった。


 一体なんなんだ。



   - -



 城下町を歩き、外壁の外に出て、隣町の方向へ歩く。


 そうしていると、モノウィッチが私の視界の横からのぞき込んできた。


「なんだよ」

「どこに向かっているんですか?」

「実家だよ」

「実家?」


 私は本当に、魔法以外めっきりダメだ。このまま王都にいても職にありつけるとも思えない。


 散財していたので貯金もないし、一旦実家に帰り、家の手伝いでもしながら職探しだ。


「先生の実家は隣町なんですか?」

「いや、そのもっと先だ」

「……そうですか」


 そうこう話しているうちに、隣町・ニアリンゲンに到着した。


 王都の近くだけあって、なかなか賑わった大きな街だ。


 時間はもう日暮れどき。今晩はこの町に泊まることになるだろう。


「その前にまず、夕食にするか」

「先生の奢りですか? なら肉がいいです」

「肉はダメだ……まあ、カエル肉とかだったらいけるかもしれんが」

「じゃあいいです」

「なめてんのか君」


 結局、安い大衆酒場で食べることになった。


 今は金銭的に余裕がないのである。


 そして、今晩は私が奢ることになった。やれやれ。


 私が頼んだのはサラダ、米、ちょっとしたおかず。


 モノウィッチはよくわからないが米に卵を乗せたうまそうな料理を食べている。


「……君の、なんか私のより豪華じゃないか?」

「先生、大丈夫です。確かに値段はこっちが高いですが、そんなに美味しくないです」

「やっぱり破門にしようかなこいつ」



 モノウィッチは、相変わらず無表情で飄々としている。


 だが、そのときは心なしか何か言いたそうにしていた気がする。


 しばらくしてモノウィッチが口を開く。


「……先生、本当に実家に帰るんですか?」

「ん? まあそうだな。他に選択肢もないしな。まあ、君からしたら何が楽しくて師匠の里帰りについて行かなくちゃならないのかという話だがな。どうした、やっぱり弟子を辞めたいのかい?」

「……いえ。──先生は確か、魔王が倒されるまでは魔法が使えないんですよね?」


「?……そうだが」

「ですよね」


 それを聞いたモノウィッチは、珍しく少しだけもったいぶった感じで間を置く。


 そしてこう言った。




「──先生。実家に帰るのはやめて、私たちで魔王を倒しませんか?」




 ……は?

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