第3話 突然ですが、辞めさせてもらいます

 やあ、読者諸君。私の名前はユン・ユニフォード。


 由緒正しいウォルラント王国の宮廷魔術師を


 なぜなら私が魔法を使えなくなったからである。


 そんな私は今、王宮の自室を引き払って大荷物を抱え、城から追い出されるところだ。


 もちろん次の仕事は見つかっていない。


 何が言いたいかわかるかね?


 つまり、私の華々しく完璧な人生プランは今日をもって完全に終わりということだ。


 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!クソクソクソクソk素kしお

 終わり! 終了! ああああ! 吐きそう! 最悪! ○ね! 王宮にいる奴ら全員○ねバカ! バカなんだから! バカなのでくたばれ! でっかいう○こに潰されて○ね! というかあのブスども対して魔法の知識もないくせによ何を偉そ──


       ただいま下品なセリフが流れているため、

〜〜〜〜〜〜〜内容を美しい情景描写に差し替えてお送りします〜〜〜〜〜〜〜


──私の目の前には雄大な自然が広がっていた。目に収まりきらないほどに遠くまで広がった渓谷の麓には、ゆったりと大河が横たわる。長年の水の浸食、数千年規模の自然の力によって削り出されたその神秘的な地形を見ていると、私の悩みが途方もなくちっぽけなものであると思わされずはいられない。岸壁はこれまで見たことがないほど鮮やかな花々に覆われていて、見上げれば青々とした空にやわらかに雲が浮かぶ。小鳥のさえずりは囁くように優しく、しかし一方で、自然の中を生き抜くその姿はどうしようもなくたくましく感じられた。その声と、遠くから流れてくるそよ風の音を聴きながら、私はこれから先、未来のことに想いを馳せていた……。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 ──がよ! クソが!


 フーッ、フーッ、フーッ……。



 一通り地団駄を踏んで多少落ち着いたので、私は再び歩き出す。


 さて、城門を出ると大勢の弟子たちが待っていた。


 私が来たことに気づくと、皆一斉にこちらを向く。


 まさか、私のことを待っていてくれたのか?


 お、お前達……!


 私は涙を堪え話しかける。


「すまない、諸君。もう知っていると思うが……私は魔法を使えなくなった。君たちには迷惑をかける。しかし、私は本当にいい弟子を持った」


 私がそう言うと、一番弟子のビブリオカスターが一歩前に出る。


「先生」

「ああ、どうした?」

「これを」

「ん?」


 ビブリオカスターが私に封筒を手渡した。


 書面には『辞表』とある。……うん。気のせいかな? ああきっと涙で視界がかすれて……


「先生、今日までお世話になりました」

「え? ちょ、ちょっと待て。ままままずはもちつけ」

「御恩はいつかお返しします!」


 息つく暇もなく、ビブリオカスターは足早にその場を去っていった。


 そうこうしている間に、セントボーンも同じく封筒を差し出す。


「う、うん、セントボーン君。これはなんだい」

「先生、今日まで、ありがとう、ございますでした」

「え、ちょ、待、」


 セントボーンもアセアセ、と言った感じでお辞儀をして小走りで去っていった。


 ──その二人を皮切りに、弟子達が次々と辞表を提出し、感謝の言葉を述べては去っていく。


「お世話になりました」

「今までありがとうございました!」

「御恩はいつかお返しします!」

「お疲れ様です!」



 そして最後その場には大量の辞表と、私と、2番弟子アリス・モノウィッチだけが残った。



 パラリと風に吹かれる辞表の音だけが響く中、モノウィッチがつぶやく。


「先生……お手紙いっぱいで良かったですね」


「なめてんのか君」

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