第9話

 とある喫茶店に私はいた。

 私は『緊急ミーティング』というメッセージとピンが刺さった地図の画像だけを送付して、今に至る。

 目の前にはいかにもオタク……みたいな風貌の男が一人。もちろんオタク。もう一人は金髪ギャル。こっちはオタクのように見えないけれどオタク。要するにどっちもオタク。私もオタク。オタクカルテットってわけ。


 「まききんさん。結局なんなんですか。俺たちを呼び出して。また厄介事ですか」

 「フォースに厄介事を持ってきた記憶はないけど」

 「私には?」

 「ハルヒはお互い様でしょ」

 「いやー、なーんのことだか……」


 なるほどなるほど、知らぬ存ぜぬを通そうってか。ふふふ、私は優しいからね。その知らんぷりに付き合ってあげちゃう。


 「ちなみに持ってきたのは厄介事じゃなくて真面目な話ね」


 忠告をする。

 厄介事だと言われるのはあまり面白くない。いや、たまに厄介事を持ってきている自覚はあるし、言われてもしょうがないなって納得もしているが。それはそれ、これはこれ、ということだ。


 「ふぅん、じゃあどうぞ」


 ハルヒは疑いの目を向けてきた。


 「二人はさ、ALIVEのメンバーが百合営業をしたらって考えたことある?」


 躊躇も言い淀むこともなく、ストレートに訊ねた。


 「どういうこと?」


 ハルヒは首を傾げる。

 別に百合営業に対して疑問を持っているわけじゃないだろう。多分、私がなぜこんな質問をしたのかという疑問だと思う。


 「いや、百合営業って良いかもって思って……」

 「ほうほう。それで?」

 「ALIVEが百合営業したらもっとALIVEの魅力って高くなるんじゃないかなーと」


 フォースは口元に手を当てる。


 「ALIVEの百合営業……」

 「……」


 フォースは真剣に考え込む。考え込みすぎて、声が漏れている。一方でハルヒは私を見てニヤニヤしている。なにか言いたそうだ。


 「なに?」

 「いーや、なーんにも」


 言葉と表情があまりにミスマッチだ。


 「というか、言って良いの?」

 「別にやましいことはなにもしてないから。良いけど……」


 そこまで言ってからやましいことだらけであることに気付く。

 ダメだ。私やましいことしかしてない。どうしてこんなこと言えたのだろうか。謎だ。やましいことだらけ。やましさの化身と言えば私のことだって言えるレベル。


 「んー、さゆちゃん本人に聞けば良いじゃん。百合営業してみればって」

 「……聞けないよ」

 「なんで?」

 「握手会でわざわざそんなの言えないでしょ。面倒なオタクには成り下がりたくない」

 「いや、握手会じゃなくてさ、家で――」

 「いえーい。美味しいね。このスコーン! やっぱカフェで食べるのは格別だよねー」


 コイツ、ほんと。

 私は慌てて私の目の前にあったスコーンをハルヒの口にぶち込んだ。言葉の通りぶち込んだ。

 ぐがぁふぁぐと喋れなくなっているが、知ったことじゃない。カフェラテのストローをぶち込まなかっただけ人の心があるねとむしろ褒めて欲しい。


 「……テンション高いですね。そんなに百合営業して欲しいんですか」

 「して欲しい、かなぁ」

 「急に下がりましたね、テンション」


 別にテンション高かったわけじゃない。

 テンション高くないのにスコーン口にぶち込むのは不自然極まりないから、テンション無理矢理上げただけ。いや、テンション高くてもスコーンを相手の口元にぶち込むってのはおかしいけどね。


 「でも今も百合営業してるじゃないですか」

 「あんなの百合じゃない。あれは仲良しこよし営業」

 「そんなの聞いたことないですけど」

 「今私が適当に作ったから。でもあれは百合じゃない」


 私の思い描く百合。それはこの前見せられたライブ映像のようなもの。言ってしまえば濃厚なやつ、だ。


 「どういうのなんですか」

 「こーゆーのでしょ。まききんが思い浮かべてんのって」


 名前で呼ばないとか偉いじゃん。さっき秘匿をバラそうとしていたけど。プラマイゼロってことにしておこう。なんて上から目線で偉そうに心の中で語っていると、顎に指を持ってくる。色っぽい手つき。なんかえっろ、えろいよ。と一人で興奮する。顔を近付けてきた。ちょっと冗談じゃない。心の中でふざける余裕はなくなってきた。

 ハルヒはすんごい真面目な顔をしていた。本気なのかな? って思うくらいの顔をしていた。だから目を逸らす。現実から目を逸らすように。

 唇に人差し指と中指を当てて、指を挟むように唇を持ってきた。

 キスはしていない。キスをしたという感覚もない。けれど、外から見たらキスをしているように見えるのだろう。


 「こんな感じ」


 みぃちゃんガチ恋勢のハルヒに怖いものはない。

 こんなことしておいて余裕そうだった。

 一方で私はヘロヘロになっている。でも私が普通だと思う。おかしいのはそっちだ。ハルヒがおかしい。


 「悪くないですね、これ」

 「でしょー、フォースもたまにはわかんね」

 「たまにはは余計ですよ」


 とりあえずわかった。

 オタク的には百合営業はオッケーということらしい。ガチ恋勢的にも百合営業は許容できるらしい。

 なら、本当に提案してみるのも一興かもしれない。

 そんな風に思いながら、時折唇に残った指の感覚を思い出していた。


◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇


皆様お世話になっております。こーぼーさつきです。

本作ですが、まだまだやりたいことだらけなので続きます><

もうしばらくお付き合いください。



またこーぼーさつき、新作を投稿しました。意図したわけじゃないのですが、ヒロインさゆちゃん(異世界ver)みたいな可愛さがあるんです。もちろん百合です。ガッツリ百合です。めっちゃ百合です。本作読んでる方なら絶対に好きになるような雰囲気の作品です。

『ニート(女)に転生した私はたまたま村に来ていた皇女様に「顔が。妾の好みじゃ」って口説かれたんだが〜皇女様に惚れられたニート、ニートに惚れてしまった皇女様〜』

ぜひ一度お目通し頂けると幸いです。

ブックマークと評価をつけていただけると泣いて喜んで、相乗効果的に他作品の投稿頻度も上がります(多分)


以上

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