第4話
「……」
星空未来は押し黙る。なにも喋らない。まるで声帯を奪われてしまったかのように。一切声を発しない。
目の前にいる星空未来はハリボテなんじゃないか。パネルなんじゃないか。そう思って、目を凝らして見る。そこにいるのはやっぱり星空未来本物である。瞬きはするし、髪の毛は揺れるし、息はしているし。生きている。
「だからみぃちゃん。なんで喧嘩したの?」
さゆちゃんはさゆちゃんで一切の容赦がない。
切れ味の良い言葉を一発星空未来にぶちこむ。少しでも逃げられそうな隙を見つけたらすかさずにその隙間を埋めていく。
傍から見ているだけだから良いけど、私がやられたらと思うとぞっとする。
「……できたから」
捻り出すような言葉だった。
葛藤のようなものが垣間見えた。
「なにが?」
当然さゆちゃんは聞き返す。
「好きな人が……できたから」
「ふぅん……って、はぁ!? んん、もう一回良い?」
さゆちゃんはお手本のような驚きを見せた。こめかみに指を当て、ふぅっと息を吐き、白い天井を見上げる。そして瞼を閉じて、しばらく動かず、数秒してからゆっくりと瞼を開けて、星空未来を見る。
「今、私の聞き間違えじゃなきゃ、好きな人ができたって聞こえたんだけど」
確かめるように問う。
「そう言ったから」
吹っ切れたのか真顔で答えた。
アイドルが堂々と宣言して良いことではない。ダメでしょ。どう考えても。
とはいえ、この目の前にいるアイドルは人のことが言えない。『アイドルが恋愛するな』と言ったら、ブーメランになって返ってくるから。
「ふっ、ふぅん……つまり、好きな人ができたから喧嘩したの? なんで喧嘩になるの?」
そりゃ重要な部分を省いて説明しているし、そういう反応にもなる。
「喧嘩になるから喧嘩になるんだよ」
「説明になってなくない?」
「なってる」
「なってない」
「なってる」
押し問答が始まる。
押しては押されて、また押して。それの繰り返し。
なにを見せられているんだ、という気持ちになる。
「あーもー」
押し問答をしばらく繰り広げていたが、星空未来が先に痺れを切らした。
癇癪を起こした子供のようにはちょっと言い過ぎなような気もするけど、でもその言葉がすっと浮かんでくるような一挙一動。
それから立ち上がって、さゆちゃんに向けてピシッと指をさす。
「女の子が好き。さゆちゃんのことが好き」
突飛な告白。
次から次へと問題が押し寄せてきて、もはや収集つかなくなっている。
どうすんだよこれ、どうしたいんだよこれ。
突然告白なんてし始めた星空未来を睨むように見ながら、苦笑することしかできなかった。
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