第2話

 会場内にはやっぱりファーストファンが多数いる。私たち含めた、ファースト以外のファンは少ない。空気は完全にファーストのライブだ。圧倒的アウェーでここにいることすら憚られる。別に誰から言われたわけても、そういう視線を向けられたわけじゃない。なのに帰った方が良いかなと本気で思ってしまう。

 というか、リストバンド良いな。私も欲しいかも。普通におしゃれ。ALIVEもこういうおしゃれなリストバンドを作るべきだ。


 そうこうしていると、開演時間になる。


 暗転し、ステージ上に光が灯る。


 女性三人が立っている。見知った顔が並んでいた。

 一人はギターを持ち、もう一人はベースを持ち、あと一人はドラムスティックを持って座っている。

 そしてMCを挟まずに、ドラムの音が響く。

 リズムを刻み、二人はドラムを見る。それから大きく頷く。言葉はなくとも音色だけですべてが通じ合っている、みたいな。厨二病心を擽るような空気が流れる。


 「うわー、初っ端からかー」


 ぼそっとつぶやくようなハルヒの声が聞こえてきた。いや、実際問題誰かにぶつけた言葉ではないのだろう。思わず出てきてしまったというような感じであった。

 でめその感情もわからなくはない。むしろわかる。超共感できる。


 一発目に推しが出てきた。ALIVEが出てきた。

 少なからずガッカリ感というのはある。本日の目的が早々に達成されてしまうから。ここからは見知らぬバンドの曲を楽しまなければならない。

 多分というか絶対にその場になれば楽しいし、見て良かったなって思う。でもそこに辿り着くまでが大変だ。

 って、いかんいかん。ネガティブな思考が何重にも重なってしまっていた。


 それにしても、彼女たちの奏でる音は華麗だ。

 私の心を奪う。耳も奪う。

 いつもアイドルとしての三人を見てきた。だからこうやって、アイドルじゃなくてバンドとして活動している三人を見るのは新鮮だってのもあるんだろう。

 目を奪う。心も奪う。


 なによりも三人とも楽しそうに、そして自信を持って演奏をしている。

 加えてファンサービスも忘れない。むしろファンサービスを重視していそうだ。

 観客と目を合わせ、手を振ったり、ウィンクをしたり、間奏には投げキッスをしたりする。


 今のALIVEはアイドルではないけど、でもアイドルとしての意地みたいなものも感じられた。

 アイドルであるからこそできること。

 今日来る他のバンドにはできないこと、だ。彼女たちでもじゃなくて、彼女たちしかできないことというのをしっかりやっている。


 それに盛り上がる選曲をするのもさすがだ。オリジナル曲をやらなかったのは英断だと思う。ここにいる大半がきっとALIVEの曲を知らないから。

 トップバッターだから、尚更。場を温めるということに関しては、たしかに頭ひとつ抜けている。アイドルとしての経験が活きる。


 この中で一人でもALIVEに興味を持ってくれたら嬉しいなぁなんて思う。

 そして周りに合わせながら、ジャンプをする。


 今日は全力で楽しもう。


 ALIVEのターンは終わり、名前も知らぬバンドでも知らないなりに盛り上がる。

 やがてファーストのターンがやってくる。

 ただでさえ盛り上がっていたのに、会場内のボルテージは一つ、いや二つ三つほど高まった。声は響く。空気は揺れる。


 格の違い、というのを肌で感じた。

 さっきまで得た一体感。仲間になったように思っていたのに、突然置いてかれてしまう。

 アウェーはアウェー。どこまでいっても、それは変わらない。


 「君たちが私たちを見つける。そして君たちはここからたくさんの物語を私たちと一緒に描いていく。今日はその序章。プロローグ」


 捨てセリフのようなものをボーカルは吐いて、音を奏で始めた。

 ボルテージはもう限界突破している。屋根が吹き飛びそうなほどに盛り上がる。

 すげぇ、と感心する。


 一緒に騒ぐことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る