第35話 図書館 (また出た女神編)




 いきなりですが、ベルティンブルグでは、流行のお仕事があります。

それは、本を作るお仕事です。

ガリ版印刷が出来るようになり、一度に多くの印刷物を作れるようになりました。 

「ガリ版印刷だけれども本を作ってみよう!」

わたしの呟きに公爵一家が頷きました。


それまでの本は、一冊一冊を手写ししていました。

しかしガリガリと文字を彫り込み、インクをすり込むと何枚も印刷できるのです。

 手写しの時に比べ、作業は増えますが、二枚目および二冊目からは、驚きの早さで本が複写できます。


 公爵家とヒーナ商会で、貴重な本を写して、本をいっぱい作ろうと動き出したのです。


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ガリ版印刷でプリント作成が可能になった数日後の事です。


「エルーシア」

「エルーシア聞こえますか?」


 学校が終わり、お屋敷に帰って家庭教師との勉強も終わり、ほっとした瞬間のことです。

わたしのお部屋に、西洋のお人形の様な美形の女性が現われました。

わたしは、その美形の女性を凝視します。


「お、お人形さんが急に現われてしゃべりだした!」

わたしは驚いた表情を作り、演技します。


「え? 私よ。忘れたの、つい最近も夢で会ったわよね?」


「夢の中だけでなく、私室までかってに侵入してくる女神様など知りません」


そうです。女神フレイヤ様が、わたしの部屋に突然現われたのです。


「エルーシア。急にごめんなさいね。

いつも、お願いばかりしているから、今日は貴女達に役に立つことをしたかったので、その話をするために来たのよ」


「フレイヤ様。最近、出すぎではありませんか?

それに、わたしに役に立つことだけでなく、他になにかあるのでは?」

わたしは、女神様をジト目で見つめます。

そのとき、どっどっど と足音がこちら近づいて来ます。


バターン

「フレイヤ久しぶりなのだ!」


わたしは、非常識に入室してきたモノに冷たい視線をします。

そして

「マチルダ。他人の部屋に入るときは、ノックを三回して、返事が聞こえてから入ると教えましたよね」


ものすごい勢いで入って来たのは、わたしが名付けした火の古竜のマチルダでした。


「ごめんなのだ。

知り合いが来ている気配がしたので、あわてて入ってしまったのだ」

マチルダは、そう告げて、退室しました。


コンコン コン

「はーい。どちら様ですか?」


「マチルダなのだ。

エルーシアの部屋に入りたいのだ」


「はい。どうぞ」


マチルダは、ドアを開けて入室してきました。


「マチルダよく出来ましたね。

人間のルールは古竜にとって面倒だと思いますが、マチルダはすごいですよ。

わたし達の生活に馴染んできています」

そう告げてわたしは、マチルダの頭を撫でました。

 

 その様子をじぃ~ ――と見ていたフレイヤ様が、ドアから部屋の外に出ました。

すると

「きゃー」

「め 女神様!」

「フレイヤ様~!」

「なぜ エルーシアお嬢様のお部屋の前に?!」

廊下で使用人達がフレイヤ様を見て騒いでいるようです。


コンコン コン


使用人が騒いでいる中、ドアをノックする音が聞こえてきました。


「はい。 どちら様ですか?」


「フ フレイヤです」


「女神様ですね。

どうぞお入り下さい」


フレイヤ様は、ドヤ顔? したり顔で入室してきました。

そして、わたしを見つめ頭を低くしてきました。


(も、もしかして、マチルダのように頭を撫でで欲しいのかしら?)

そう考えて、フレイヤ様の頭を振れようとした瞬間!

「よく出来たのだ。 フレイヤにしては上出来なのだ!」

マチルダがフレイヤ様の頭を撫でました。


「ち、ちがうわ、火の古竜に撫でてもらいたい訳じゃないのよ」

フレイヤ様は、マチルダの手をよけて、わたしに近づき頭を低くしました。


(え? もしかして、わたしに頭を撫でて欲しいの?)

面倒くさい女神様!


わたしは、フレイヤ様の頭に手を伸ばしました。


「フレイヤ。遠慮することないのだ。

火の古竜のマチルダが頭を撫でて褒め讃えてあげるのだ!」

マチルダが、わたしの手を払い、フレイヤ様の頭を撫でました。


フレイヤ様は、頬をプクーっと膨らませました。

それを見たマチルダは、撫でるのを辞めて、フレイヤ様から距離を置きました。

フレイヤ様は、プンスカと頬を膨らせたまま、拳骨を作りマチルダに近づきます。


「このっ アホトカゲ!」

「私はトカゲじゃない。火の古竜マチルダなのだ!」

二人は追いかけっこを、はじめました。

まるで、仲の良い鼠と猫のようです。

それにしても、神と古竜の追いかけっこ、どんな突っ込みをするのが妥当なのでしょう。


「二柱とも、いい加減にしなさい。

お部屋の中で暴れてはいけません」

結局子供を叱るような言葉を使ってしまいました。


二柱は、肩を揺らしながら、わたしに近づいて来ました。

ゴツン

ゴツン

わたしは、二柱に拳骨を落としました。

これは、乱暴ではありません。愛の鞭です。


二柱はシュンとしてわたしを見つめています。


「二柱は、お知り合いと聞いています。

けれども、遊ぶなら外か神界でして下さい。

でも、わたしが止めるとすぐに追いかけっこを辞めたのは偉かったですよ」

わたしは二柱の頭を撫でました。

躾は、叱ることと褒めることがワンセットなのです。

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