第31話 害するモノの影
「エルーシア。聞こえていますか?」
お人形さんのような整った容姿で、子供のわたしにも、わかるくらいにフェロモンたっぷりの女性が、語りかけています。
「いいえ。聞こえません」
わたしは、ここで返事をすると面倒な事をお願いされると思い否定してみました。
「『聞こえません』と答えるのは、聞こえている証拠よ。エルーシア」
「全然フレイヤ様の姿が見えないし、声も聞こえません。
わたしの目も耳もお休み中です」
「ふふふ。目も耳もお休みで大丈夫よ。
エルーシアの頭に直接問いかけているのだから」
うーん。フレイヤ様の方が一枚上手でした。
わたしは、拒否をすることえを諦めて、話しを聞くことに決めました。
「なんのお話しですか?
神様界のアイドルのフレイヤ様」
嫌な態度をとっていいたので、おべっかをしてみました。
その結果、フレイヤ様はご満悦の顔です。
(神様もチョロいところがあるのね)
「翌朝、治水の調査団が出発するのね?」
「そうです。ベルンの街がほぼ出来たので、土属性の魔法を使える者達と上位の水属性の魔法を扱える者達に依頼を行いました。
その魔法使い達と数人の役人でフーマ王国をまわる予定です」
フレイヤ様は、笑顔から真顔になりました。
「実は、治水工事が始まって数週間経つと、今まで人間達がかかった事の無い病気が発症します」
「新しい病気ですか?」
「そうよ。今まで人間が行った事の無い土地で工事を行うので、猿などが持っている病気が蚊を媒体にして作業員にうつってしまうの」
ああ。なるほど未知の病気にかかってしまうのか。
「その未知の病気を防げば良いのでしょうか?」
「それは、エルーシアが作業者について歩けば問題ないけれど、班分けをして、治水工事をするのでしょう。
未然に防ぐのは、現実的じゃないわね」
「そうですか?」
「そうよ。作業員だけが病気にかかるとは限らないわよ。
発症してもすぐに動けるように、調査団は、野生動物の生息地で蚊が多い所を調べて、病気が発症しそうな所に目星をつけておくのよ。
とくに猿などの哺乳類が多い所ね」
「哺乳類ですか?」
「そうよ。鳥類や爬虫類よりも哺乳類ね」
「それは、なぜですか?」
「鳥類や爬虫類は、病原菌と言うよりも、サルモネラ菌などの感染が心配されるわ」
「ああ~。
サルモネラ菌ですね。レストランでアルバイトしていたので聞いたことあります」
「陽菜の生きていた時代では、鳥インフルエンザの猛威があったけれども、季節的に心配いらないわ」
「それならば、病気を出さないように先に対応した方がいいのではないですか?」
「いいえ。それはNOね。
最初から押さえ込むのではなく、あえて病気を発症させて、すぐに終息して欲しいのよ。先ずは、貴女の反抗勢力のあぶり出し、教会の腐った奴のあぶり出しをして欲しいの。また、その後ろにいるモノもわかるかも知れないから」
「あの? もしかして、その病気は人為的なことが疑われると言う事ですか?
例えばメフェクトを操ったモノとか?」
「そうね。でも、雷にあたってハゲたメフェクトの派閥以外にも、貴女が目障りと思っている者もいると思うの」
「なるほど。反対勢力がわかれば対応しやすいですもんね」
「そうよ。
病気の症状を教えるわよ。
発熱・発疹・結膜炎が初期の症状よ」
「放っておくと人が亡くなったりすることもあるのですか?」
「病気などで体が弱っている人間は危険かもしれないけれど、健康な人ならすぐに抗体を作って治るわ」
「生死にかかわらないのなら、少しは安心ですね」
「いいえ、安心できないわ。
発症したらエルーシアの魔法で、病原菌を全滅させないと駄目よ。
突然変異して、毒性が強くなる可能性もあるわ」
「そうですね。
地球では、ウィルスなどは最初毒性が強く、ウィルスが生き残るために毒が弱くなって共存するってきいたけれど、この大陸は地球じゃないですもんね」
「そうよ。私達神々も、読めない事だらけなのよ」
「ところで、フレイヤ様」
「なーにエルーシア?」
「最近、わたしにいっぱい接触してきていますね。
なにかあったのですか?」
「それはね。
五年前にエルーシアが、大活躍したのに、貴女の家族とベルティンブルグ領の人間は『奇跡の一日』をなかったようにしているから、気になって様子をみるようになったのよ」
「つまり、何かの問題が解決して、暇になったのですね」
わたしはフレイヤ様説明を聞かず、暇になった原因はご主人が見つかり、旅する事がなくなったのだと考えてニヤニヤしました。
「こ、子供にははやいわ。
私は忙しいから神界に戻るわ。
それじゃ、よろしくね」
「ちょっとまった~!」
わたしはフレイヤ様が帰るのを阻止しました。そして続けて
「シャウセン教(教会)が騒ぎ出したら、危険な目に遭いませんか?」
「ふふふ」と笑った後フレイヤ様は
「例えエルーシアが寝ていても貴女の首を取れる生き物はほとんどいないわね。強いて言えば、ガイスト王国の聖女エリーゼね。
まあ、例え古竜が攻めてきてもエルーシアは大丈夫です。私の加護もありますし。
何よりも、貴女の身を守れるように公爵家のむす・・・ 」
「え? ごにょごにょして最後の方がきこえない・・・」
「あ、それとね。ベルンを中心にその他の街や村の治安が悪くなってきているわ。
この原因を探ることで、ベルティンブルグ公爵に反感をもっている者達が、わかる可能性があるわ」
「え? 悪い人達が我がベルティンブルグに入領しているのですか?」
「新しい街を作ったため、人の出入りが多くなり治安が悪くなったのもあるけれども、それだけじゃない感じね。
何やら私の目にも見えないように何者かが動いているように思うわ。少し対応を考えた方が良いわ」
わたしは、うんと大きく頷き意識をフレイヤ様の声に傾けます。
「そうそう。エルーシアは、新しい出会いをしているわ。そのモノと仲良くすると、更に新しい出会いをする事になるわ。
その出会いで新しいスキルを獲得するわ。
それが治安をよくする鍵になると思うわ。
それといつでもいいから、授業後にでも小等学校の図書館にリーサとメリアと行ってみることね」
フレイヤ様は、
「(ごにょごにょ)…… それじゃ!」
フレイヤ様は言いたいことだけ言って消えてしまいました。
それにしても、ごにょごにょと聞こえなかった声が気になります。
とにかく、わたしは、調査団に野生の猿の生息地とヤブ蚊が多い所を調べてもらうことが先決ね。と夢の中で考えていました。
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