愛しの笑顔とこの世のはたて

 ネジ曲がった空間を抜けるとアヴァロンであった。


 そんな下らない事を考えながらも、ディアナは目的地へ到着。


「おお!何度も夢に見た光景!アヴァロンよ、当剣は帰ってきた。」


 そこは妖精達が住まう理想郷。


 人の身たる存在からすれば悪平等もいいところな……まぁ、ハッキリ言えば地獄であった。


 えぇ、お前片目見えなくなったの?ったくしょうがねぇな。という共通言語ともに目玉が一つ落ちてきたら……誰だってこう評するだろう?


 それを目の前に映っている全員がするのだから、パニックホラーかな。と素直に口から出すのも無理なき事。


 そんな物騒な光景を切り裂く様な声。


「「「し、新入者だ。な、何だエクスカリバーを持っているぞ。……人間が返しにくるなんておかしいな!!!」」」


 まるでヘリウムガスか何かを吸ったようなネタに走った音を全員が口からだす。


 これ程にまで無いほど平等を絶対視するはアヴァロン


 ガザール大公国が崩壊した後、皆が幸せで平等なシャングリラを作る。と言って顕現した現世の地獄たる……北の地を思い出したのはディアナ。


 若さと美しさを失った彼女は、もう完全に理解している。


 人が真に欲するのは、平等や公平では無く優遇であると。


 全ての存在が薄ら寒い綺麗事を是とする場所に生きる妖精達は、個性等くそくらえと言わんばかりに皆が似たような風貌。


 妖精が可愛く無いとか終わってるだろ。と思わず口にしたのは、ルッキズムの酸いも甘いも噛み分けた老婆。

 それはもうピンからキリまで、天国から地獄まで誰よりも知っているにも関わらず……尚その思想から抜ける事はできなかった。


「「「ええ、エクスカリバーを返しに来てくれたの!!!ババアなのに優しいね。普通人間は年を取ると性格も性根もひん曲がってしまうのに!」」」


 後半部分はいらないだろ。と実年齢的には言いたかったが、妖精達の低レベルさを理解したヒロインは、大きな度量で飲み込み我慢する事にした。

 

 現世は優が劣に合わす事でしか、磨り合わせはできないのだから。


 実際悪意が薄いのか、単純なのか素直なのかあっさりと道案内してくれるとの事で、老婆はその善意に甘える事にした。


 おっそ!と思わずディアナが声に出してしまったのも無理は無い。


 女性は劣等を愛せないのだから仕方無い。


 理想郷でも下が上に合わせることはできないのだから……当然有能が無能にあわせる


 言うまでもなく一番飛ぶのが、遅い奴に合わせていれば……こんな結果が出るのは必然。


 頑張れ、前より早いよ、昨日より上達している。という優しい言葉をかける連中の目が、死んでいるのを見て……あぁ翼は本当に優しかったんだな。と老婆は思い出を再確認。

 

 事実思い出の中でも、恋人の目はどこまでも本当に暖かく優しかった。


(私とランニングしている時なんて、絶対翼にとってはスローペースすぎて時間の無駄なのに、はぁ、マジで足おっそ。いやいや待ってチョット可愛すぎるんだけど!絶対に俺のこと誘ってるだろ、やっべ走りやすいように今は薄手の短パンなんだけど!すごくアレが目立つんだけど!!よしディアナ責任を取れ!君が悪いんだ。といいながら強い力で茂みに引っ張られて……)


 妄執の過去は余計な絵面になる前に終わる。


「本当に優しかったのに!チョット見た目が変わったくらいで私を認識できないとかありえない!!!だからあのソックリさんは偽物に決まっている!」


 その思い出は本当に綺麗か?と他者が疑問に思うであろう記憶でさえ……美しき過去も不幸になった現状から鑑みればイライラの元でしかない。

 

 そんな思考をしながらも、老婆が追い抜いてしまう程の低速。


 無能が無能に一番イラつくという、反乱やストライキが、余程の事が無ければ起きない理由の源は底辺そこにあった。


(うわっ、アシッドアタックでもされたのかな……いやそんな悪意理想郷には無いか。)


 よく見れば、この辺に住む妖精達は顔を酸で洗っているのか?と聞きたくなる程、崩れていた。


 もはや理由等聞くまでも無い、一番ブサイクに合わせているだけなのだから。


 そっか、もう私の価値はこのレベルなんだ。と口にするのはお姫様。

 

 自分の立ち位置を理解できる程度の知能があった事……本物のアホよりはるかに不幸なパターンの脳みそを搭載して産まれた悲劇はもう少し続く。


 現世の面白いところは、中途半端に考える奴よりも、何も考えない馬鹿な方が幸せに人生を過ごす事。

 

 まぁ、自分が頭いい。世間は馬鹿だ。と思うクズが幸せになる資格等無いが。


「「「まさか、欲深い人間が聖剣を返還しに来るとは思わなかった。」」」

 

 この地では全員が同じ顔に整形し……酸をかぶる度胸が無かったのか、頭が良かったのかは知る由も無きディアナには、もはや怖気がはしる程生理的に受け付けないモノであった……はずなのに慣れとは怖いモノである。

 

 愛する人の思想を教えこまれ、つばさの好む色に染められるのも……最初だけは拒絶した日々を老婆は思い出した。

 

 しかし、もう全部どうでも良い。と年老いたお姫様はやけっぱち。


 だがどうしても、もう一度が許されるなら確認したい事が、後悔として残っている事実が聖剣を元あった場所まで運ぶ足取りを重くする。


 いやまぁ、一番の原因は勿論老化なのだが……


(どんな時もつばさは俺って言うのに……あのソックリさんは私って言った。じゃああの人は誰なの?そしたら本物のつばさはどこにいるの?)


 無駄に長い距離が、もう永遠に答えあわせをする事ができない謎に対して、思考をとばし続ける。


──本当に、本当にこのシーンが大変だった。と演者から老人虐待で訴えられ、問題になっても文句が言えない最終局面。

 長い、長い、曲がりくねった登り坂を……余計な物持って歩くという苦行。

 道程全部撮る必要あったのか?どうせ使わないんだし頂上からの撮影で良くないか?という演者からの苦情と提案は、老いという概念を理解ができない存在達、金属系の人間とかつて妖精と言われた人間から、うるさい黙れ!俳優としてのプライドは無いのか。演者が甘えるな。と暴言まじりの一喝。

 炭素系の人間は、うるせぇテメーらみたいに自我が薄かったり、部品交換で済まないんだよ。という叫び。

 しかしその言葉は、炭素系以外の弱いトコロを的確についた故に、人種差別だ!の一言で完封……否完全試合。──


 あぁ、疲れた。

 長き道程は終わり、エクスカリバーはあるべき場所へ……


 こんな役と務めは二度とゴメンだね。とヒロインの完璧な演技?否本音の発露に周囲は沸く。

 

 ラストが見えると、不思議な事に人は発奮する現象は古今東西万国共通。


「やった、やったついに当剣は番の中に戻れる。ただいま!」

 

 あっ、鞘の方は喋んないんだ。と思った瞬間ディアナの身体から力が抜けた。


 あっ、これ若さは寿命込みだったのね。と口にし、大事な事を意図的に省いたであろうエクスカリバーの方を憎らしげに見つめる。


 当然、詐欺師は搾り取った獲物になんて興味を示さず……愛しき相手との再会を楽しむ。

 

 彼女の前では鞘の中で上下にひたすら動き続ける……とても聖剣とは思えない醜態が晒される。


 まぁ、客観的に見れば動物の繁殖方法は大抵コレに近いのだが。


「こんな下品極まりない景色が……私の最期か本当に最悪。」


 そう言って、老婆は諦めた様に上を見た時。


「「「な、何だ。セキュリティーはすこぶる厳重にしているのに……ファイアウォール(物理も)を平然と突破してきたぞこのバケモノ。」」」


 不死鳥が征くは理想郷。


 平等を愛し進歩を拒絶した妖精のなす事等、ひたむきに改善と進化を続けた……禁忌の到達点、否!それすらも超えた存在に及ぶはずも無く。


「わわわ、戦ったところで勝てる訳無い。……よし皆で黙って見ていよう。無抵抗!それが平等で公平だ。誰でもできるしね。」


 何も行動しないだけで無く、死を受け入れる姿勢。


 それをかつての鳳翼なら許せず、一匹残さず殺処分したであろう。


 だが尊びを知った故、その行動と選択潔良しと感じた不死鳥は威圧を辞め、目的の人へ足を進める。


 起源にして頂点、最古の意志が動かすは最後の肉体。

 

 中身は完全に別人なれど、ヒロインが愛する主人公の姿形は何一つ変わっていない。


「おっ、いたいた。やっと怪しい婆さんを見つけたよ。聞きたい事があるんだけど、まぁ、遺伝子配列が同じだし十中八九そうだろうけど、これを確認しないと私は前に進めないというか……」

「私はディアナ。鳥から変身した貴方はだーれ?」


 それは、相棒が惚れた女と初めて会った時に言われたモノ。


 とんでもなくパスワードとしては充分な一品。

 

 適当に空を飛んでいて、いつもカーテンを閉め切られた一室が……珍しく窓すら開いていた。


 双方の好奇心がもたらしたのは偶然の出会い。


 それは雛子翼が大事に、絶対に忘れないように記憶の奥へ……では無くいつでも反芻できるようにすこぶる前の方へ合った。


 同じ肉体を使う、鳳翼は相棒の愛と熱意に笑った。

 

 それが愛しき笑顔に見えたのは、ディアナの愛が軽薄なのか……はたまた本当につばさの笑顔が好きだったのか?それはもう誰にも分からない。



 だからこそ全てはつながり……この世のはたてで答え合わせは終わった。


 相棒の期待に応えたと自負する彼を詐欺師だと思う人間は、真に尊き感情を知らないのだろう。


 何故なら年老いたディアナに対して、相棒と全く同じ身体を持つ存在は、一切の躊躇も無く真実を告げたのだから。


 そこには紛うこと無き本当の信頼があった。


「私の子孫であり相棒であった雛子翼は完全に消滅したよ。ただ命よりも大事な君に対する発言と行動に、一切の嘘も偽りも無かったと言える男らしい最期だった。もし……他の択を取っていれば間違いなくディアナちゃんは死んでいたよ。だからつばさの事を褒めてくれないか?」

「ええ、真相を知るまでは何度も疑ってしまいました。本当に教えて頂いてありがとう御座います。これが今私の心にあるモノが、きっと真実の愛なのですね。さようなら最期に愛する人と同じ笑顔が見れて良かっ……た」


 不死鳥の前で死にかけの彼女は、鞘に収まっている聖剣を握った。


 それはもう偶然に、マグレでこんな事あっていいのか?と言わんばかりのタイミングで。


「あぁ、死んだ男を思うのだからそれ以上の感情は無いだろう。最期の言葉で嘘をつく様な人間は救いが無いからね……うん?」

 

 事実最期の花向けと言わんばかりに、肯定した鳳翼は……何かに気づいた。


 あれ?なかなか死なないな。と双方がしばらく程考え……二人はエクスカリバーと鞘を挟んで腰を下ろす。

 

 一人分の空白は、本来座るべき人間に対する男女の敬意であろう。


 不死鳥が往くは理想郷。


 死者を尊ぶ二人は……雑談を始める。


「そうそう聞いてくださいよ!このクソ詐欺師聖剣!私と翼の赤ちゃんを殺したんですよ!信じられなくないですか?」

「はぁ!これ以上の肉体は母体の都合上無理だったろうけど、あぁ子孫の顔は見たかったな。まぁ、優秀な身体だったとしても入る気はサラサラわかないけどね……そんなにビビるなってお前の相方がシレッと人質をとっているのだから。堂々としてろ。余計なことしたらへし折るからな!」

 

 絶対強者があえて弱みをバラすという行為。

 こんな非常識をされて、普通でいられるのは人間で無いだろう……まぁ、言われたのは不老不死をもたらす鞘なのだが。


 シレッと今私の事馬鹿にしていませんでしたか?というディアナの言葉には、事実を言っただけだが?と鳳翼の口から火の玉ストレートな返答。


「あぁ、やっぱり翼の方が絶対にカッコイイし、圧倒的に優しかったな〜。見た目が一緒なだけの下位互換とか最悪。今からでもいれ変わってくれませんか?あぁ鋭い目で、その目で見ないで好きすぎて心臓がバクバクしちゃう……本当にもの凄く単純な頭と身体が憎い。よくもレプリカの分際で私を興奮させたな!!!どうやって責任取るんだ!!!浮気と不倫は無き彼氏に誓って絶対にしないからね。人間は外見より中身だから、綺麗だった私がそう言うだからコレは絶対。」


 怒りは生きるためのもっとも強い活力である。


 それはもう絶対の理屈、首吊り用の縄を買った時はソレで相手を殺そうと思えば……何もせず自らの手で死ぬ気なんて一瞬で消し飛ぶ。

 

 まぁ、老いも若いも関係なく、負の感情が無くなった瞬間が人は死に時であろう。

 

 ハイハイ、すみませんでした。と不死鳥のいい笑顔で物語は締められた。




 一人二役の難しさを延々と主演俳優は語りだすが、それをBGMにして洗濯物がたたまれていく。

 さてもうお前らに用は無いと言わんばかりに。映像端末は真っ暗になり、狭くてオンボロな部屋を映し出す。

 その時インターホンが鳴らされ、ドカドカ。と音を鳴らし返し、部屋主は玄関のドアを開ける。

 約束の品持ってきたぞ。とスピーカーから音を出す機械生命体は炭素系の身体を持つ友人の家に入室。


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不死鳥がいくは理想郷 ふわポコ太郎 @yuusho

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