舞い降りるは不死鳥、奏でるは強者の調べ
白亜の城が前では二つの勢力が睨み合いをしていた。
同じ民族同士ということもあり、できるなら穏便に済んで欲しいと思うのが双方の本音。
実際歴史でも、民衆どうしが壮絶な殺し合いをしたとは書かれていない。
すなわち、代表者が最前線にいて争った事の証明であろう。
「嘘で塗り固めた偽りの身分とは言え、姫たる存在が料理人の様に刃物を持つとはな!何だ本当は料理でもしたいのか?血の卑しさが滲み出ているという悲劇。面だけは良いから使ってやろうと思ったが、君は城壁の一部に固めてやる。私は度量が広い!だから簒奪者の子孫らしく償いは民草への奉仕で許してやろう。」
「ソックリ、そのまま言葉を返してやる。いや乱世の男が、どんな時代であろうと料理中以外の男が刃物を持つなど!……ましてや女に刃物を向ける存在が情けない訳なかろう。すまない、そもそも器量も才覚も無いミミズの様なブ男に性的コンテンツとしての価値すら無いか!九族まで惨たらしく殺してやるから覚悟しろ。」
光り輝くカリバーンを持つコンスタンティンと、美しいだけのエクスカリバーを持つディアナが視線と言葉をぶつける前哨戦。
悪役とヒロインの後ろでどちらにつくべきか?やっぱり自分が間違っている気がする。という議論をするのは
だがコンスタンティンは、フン!と一言、馬鹿デカイ金属の塊、乱世に無い表現であらわすなら飛空艇がサイコパワーでフワフワと飛んでくる。
それはもうそんじゃそこらの援軍よりも、遥かに圧倒的な力。
それでイビルディア人を殲滅すればいいのでは……と思い日記に書き残した人間はチラホラいたようだ。
実際に乱世でこれらが使われていれば、終焉の儀等必要なくグレテン王国の天下であろう。
だがそうならなかった。常に最適解を取れるようになれば人の世は本当にツマラナイ地獄とかそう。
そもそも治世への移行も失敗するのは間違い無し。
長い独白か説明か……そもそもコレ必要か?と思いつつ職業花屋のラスボスを演じる男は大欠伸。
凄く罰の悪そうな顔は、突き刺さる視線のせいであろう。
「そもそも無能が玉座にあってはならない。あせくせ一生懸命働いて初めて価値が出るんだ。……あぁでも面が良くて若い女なら、無能でも稼げるか……あぁ!もういいや。とりあえず我が異能を受けてみろ。」
いらんアドリブをかましちゃったと思ったせいか恥ずかしさの余り、エイ!と言わんばかりに、本来の用途とはまるで違う質量兵器として使われた。
「ついでだ。正統なる王族の力、早い話がカリバーンの一撃もくれてやる。」
さらに追い打ちと言わんばかりに聖剣が振るわれ、魔術とは異なりし破壊のエネルギーがぶっ放される。
相撲ならば、ダメ押しをするな。と苦情が殺到するレベルの暴挙。
だが、グレテン動乱はこの様に史実として書かれている以上、ここまでしなければならない。
「うおお、何か威力は凄そうだけど……おっそナメているのか!」
演者思いの監督……ハッキリ言えばいらん配慮であるのは言うまでもない。
それらを無視したディアナの後ろには寝たきりの女王がいる白亜の城。
彼女はぶっちゃけ母と仲悪い事もあり、城は下々の者に立て直させればいい程度、何なら建築なんて王族の手がやる事では無い。という傲慢な性根と職業に対する差別意識を持つ。
が!避ける気は毛頭すら無い。
己の後ろには、現王族こそが正統と思い込む忠臣と心清き民……というのは建前、ただミミズの親分みたいな下衆にイライラしたのが本音。
「エクスカリバー、さきの要件を飲んであげるから、もう全承認だから力を貸しなさい!」
簒奪者の子孫は己が持つ聖剣に心中で語りかける。
「えっ、いいの?当剣はアヴァロンに帰れるの?ヨシ全部ぶっ壊してやる!」
その瞬間、輝きが増す。
グレテン全土を滅ぼすのはおかしいでしょ!という叫び。
「あっそせっかく人に自慢できるモンを残してやろうと……代償を割引をしてやるために範囲をしぼらないで壊し尽くしてやろうと思ったのに……知ぃらないキッチリ取り立ててやるから覚悟しろよ。」
理想郷に帰れればどうでも良かった聖剣は……代償を受け取る準備が終わった事もあり約定を果たす。
美少女の細腕によってエクスカリバーがひと振りされた瞬間、眩い閃光!!!
それは滅びの力を……ディアナの若さと美しさを供物にして無理やり変貌させられた、国家を維持し守護するための力。
事実重力なんて知らねぇ。と言わんばかりに、サイコキネシスの影響から離れたにも関わらず、質量兵器は浮いたまま。
「うわっ眩しい何も見えない!何?あっちの剣が出力上なの?カリバーンどういうことなの?本物が偽物に負けちゃだめでしょ」
「じ、自分で言うのも何だけど、本剣は一発一発に力を込める瞬発型じゃなくて……連射型だから。」
そっか。とあっさり納得した単純で素直なコンスタンティンは、この程度の器量で王となろうとしたのだから恐ろしいモノである。
滅びの力と守りの力がぶつかり、起こした光と煙が消えていく。
うん?何だ?と言う悪役の前には、本来立ち塞がっていなければならない簒奪者の末裔は無く……いやもう居るのだが正常に認識できていない。
(これ以上取り立てられないからここまでな。あとアヴァロンまで当剣を持っていく約定は結ばれた。もし小娘が死んだら……身内に対して血の契約で迫るからな。後腹の中にいたよく分からん命は当然死んだから!あぁやっと故郷に帰れる。)
持ち主の手から離れ地に落ちたエクスカリバーは輝きを失い。
ケチンボ、詐欺師。人殺し。とボヤき倒れるは、若さも美しさも手放した無能なお姫様、老婆ではあるが女王生きてるし定義じょうはコレでいいだろ。
雄の様な勝負所で博打を打っておきながら……愛する男との安寧と平穏を夢見てしまう。
それは運命に対する冒涜、己の選択に対する無責任。
「おい婆さん!大丈夫か?……あれディアナ様はどこに?光と煙が晴れたらいなくなっている。」
「あの面以外何の取り柄もない姫はどこに……まさか逃げたのか?誰が飯食わせてやったと思っているんだ。税金だぞ税金だぞ。見つけ次第身体で払わせてやるから覚悟しろよ!」
「ガハハ。所詮は偽りの存在。本物を前にすればこの程度、そこの婆さん丁度いいところにいるな。これは勅命だ。偽りの剣を持って真実の王たるコンスタンティンの近くに持ってこい。はっ、そうだ。ウチの花屋を代わりにやる気はないか?そのしわくちゃな手なら土いじり等、何の気も起きず健やかなまま行えるだろう?何よりも老後だし時間も余っているだろ?」
守りぬいた脇役からも、相対する敵役からも好き勝手な評論をされるはヒロイン。
才能を持って生まれた人間は、その恩恵とアドバンテージを失うまで気が付かない。
本人にとっては呼吸をするかのごとく当たり前の事であるから。
それが他者にどれだけ傲慢に思われ、疎まれる事象など知りもしないのだろう。
大半の人間が、自分より低レベルな存在や不幸な存在に、脳の思考領域を向けないのだから……視界にはいっても映らないという不可思議な現象を引き起こす。
「こんな結果ならやらなかったのに……子供産みたかったな〜。」
美しさと若さを失った……無能な老婆の顔に浮かぶのは悲嘆と憤怒。
「やらなくて後悔するよりやって後悔した方がいい。……それは何の責も背負わない部外者の戯言。そしてそれに踊らされ全てを手放したのは綺麗なだけのお人形。不幸話って他人の事なら凄く面白いけど……私自身の事だと一ミリも面白くない。」
自分の力で何かを成してみたい。という彼女の希望は叶ったのに、精神年齢だけは若々しいせいかワガママを喚く鬱陶しく邪魔な存在。
事実、うるせぇぞババァ!見苦しいぞ!年齢考えろ!と敵味方問わず罵詈雑言。
後ろ盾も、よりかかる配偶者も無いまま年を取る恐怖。
それを年だけ若い美空で知れたのだから……まぁ水を弾く様な美しい肌は絶対にとり戻せないのだが。
一秒先を知れず、一秒前にも戻れないのが現世。
「翼に合わせる顔が無いよ……でも命よりも大切だって言ってくれたし!何で来てくれないの?早く来てよ。助けてよ!こんなに命より大切な私が嫌な思いをしてるのに!!!」
実年齢だけは見た目以上に若い老婆を愛せる奇特な男等、人外の身になった存在を愛せる男程にレアケースであろう。
あぁ、そうか。ふーん。私と同じで嘘ばっかりついてたんだね。と下衆の勘ぐり百%な独り言。
その目が絶望のまま全てを諦めた様に天上を向く。
それは少女が見た流星。
きづいて、きづかないで!女性の言葉と感情に矛盾等無い。
な、何だアレは!という表現に価値など無い。
何を言ったかでは無く、誰が言ったかが支配する現世。
「綺麗。本当に!こんなに大切なモノならば当たり前を大切にしていたかった!そうでしょ!愛する人に合わせる顔が無いんだもの!本当に欲しかったモノはすぐ側にあった。一緒に隣でゆっくりと年をとりたかっ……ハハハ翼は不老不死だから、最初からソレは無理な願いか。」
老婆の慟哭は途中から小さくなっていく……まるで醜態をたった一人、惚れた男にだけは絶対に見せなくない。と墓場まで持って行く覚悟を決めたかのように……
だが、それでも愛した男の勇姿だから見てしまう。
優秀な雄が奏でるであろう、強者の調べを脳に焼けつけたくなってしまう。
グレテン動乱の場に舞い降りるは不死鳥。
今は無き相棒の意思を継ぎ、猛禽のごとき目を開いた鳳翼が冠する二つ名は色濃く歴史に刻まれた。
物語の主役を彩るファッションが、とある女の好み百%とである事は言うまでもない。
「良かった。城はまだ落ちていないようだな。」
目的の場所付近に来たこともあり、不死鳥は相棒との約束を果たせたと勘違い。
その瞬間、まるで全てを圧倒的するような覇気が愛した男と同じ外見から。
かの存在が両の手を拡げ、人外の域に達した魔力を大放出。
勝ちの目が見えない程の差を感じ取ったモノ達は速やかに投降を始めた。
ただ一人、老いて醜くなった顔を見せないために目をそらす……名残惜しそうにチラ見するヒロイン以外は、赤き羽や紅の翼を思わしモノを背中から展開するナニかに、ただ視線を完全に持っていかれてしまう。
──グレテン騒乱を終わらすは不死鳥。
騒乱鎮圧後の彼は当たり前だが人の歴史に刻まれていない。──
脳のリミッターを完璧に躊躇なく外し、両目から残光をほとばしらせる絶対強者。
肩付近が魔力に変換されては再生を繰り返し、決着の準備は着々と進められる。
「久しぶりだね。この騒乱が終わり真実の王が玉座に戻る。……君はいい客だったよ。我らが矛を交えるのはイビルディア帝国とグレテン王国が雌雄を決する最終戦争で良くないか?」
知った顔に挨拶と牽制をするのは場の空気を完全に支配されたにも関わらず、カリバーンを片手に勝ち誇る無能極まりないコンスタンティン。
──彼は自分を龍だと思いこんでしまったミミズだったのかも知れない。
もし一生花屋を経営していれば、輝きを求めず土をいじっていればこんな惨めな最期にならなかっただろうとは後世の談。──
風の声か、不死鳥の息吹か、そんなモノは誰も評することができない鳳翼がこれからする行い。
それは永き研鑽と特異なる才が無尽蔵なエネルギーを生み出し、ただ一定の場所だけに叩き込み続けられた。
「えっ……な」
(ほ、本剣は何も悪くないのにーーー!!!)
敵役と得物が最期に見た景色は圧倒的なエネルギーによって、ただ互いの肉体が崩壊する様。
いつヤられるという覚悟を決める余裕も、どこまでをヤられるという視覚的な予想も与えられな
いまま迎えるは惨たらしい死。
不死鳥に睨まれたミミズに与えられたのは、チリ一つ残すこと無く消滅させてやる。という強靭な意思の具現化。
それはただ相手が死ぬまでエネルギーをぶつける。というシンプルさ。
当然無効化術式等、法の前では無力……というよりもここまでくると、雷の高電圧に耐えられない焼き切られたゴムと同じ。
おまけにその魔法は術式。という過程が無く……ただ滅びるまで魔力をぶつけたという結果だけが、現世に残されていた。
──主役と悪役の戦いは、結果が分かっている歴史好きから見てもアッサリと終わった。
そして苦情のお手紙を書き込むのであった……ここまで出来るなら厄災の時理想郷から帰って来れるだろう。と──
何が起こったかは分からない。
普通の人間には、ここまでの出力大きすぎて測れないのだから当然の反応。
だが、規格外の何かを成した存在が目の前にいるという恐怖。
圧倒的な力を前にした、弱者が行うは平伏か逃走、もしくは視線を外せず立ち尽くす。
ただ一人を除いては……
「おい?そこの老婆。さっきから横目でチラチラと、怪しい!何かを隠しているな。まずはその剣から手を離せ!私の聞きたい事は一つだ。……うん?待て待て理解が追いつかない。でもこの感覚は?目に写り、脳が叩き出した遺伝子の配列は!」
醜く年老いたディアナは愛する人に顔を直接、完全に見せたくなかった。
昨日までならスッピンだろうと自信満々に……むしろ見せつける程だったのに。
そんな醜く浅ましい精神性だからこそ、どんな理由を並べようと、姿形が変わった程度で愛する男が自分に気づかない事実が……絶対に許せない!
薄っぺらいモノを真実の愛と思い込んだ自分を、ヒロインは本気で恥じた。
それ故に、エクスカリバーの願いを叶える事すなわち約定の優先。
そんな下らない事に、残りの命を使う事にした。
女としてのプライドが全てを上回ったが故の行動。
(命よりも大事だって言ってくれたのに大嘘つき。大嫌い!あれ凄く違和感が……だって私っておかしいよね。どう考えても……)
「待って!最期に聞きた……」
「待て!どうしても聞きたい事が!」
人ならざるモノが待つ場所へ、大粒の涙を隠すこと無く人の領域からディアナは消えた。
確認すべきだったと後悔の念を残して……
それを思っているのが、不死鳥の方もだったのがエピローグへと繋がっていく。
──男の本懐等、女にとってはどうでもいいことなのだから……人の領域で真実が理解される事は無く。
乱世の歴史から二つの人名が、グレテン騒乱を機に生きたまま消える。──
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