起源にして、元凶

 フォンイ。と名乗る存在がひたすら手を動かせ。と運命共同体の脳に共通言語で伝える。


 それは蘇り続けた彼が自我に目覚め、他人格からの侵食を受けた瞬間。


 真っ暗な闇の中で、名前無き存在は言われたとおりに、とりあえずよくわからないまま行動する。


 酸素、栄養欠乏で死に、生き返るたびに手をガムシャラに動かすという奇行。


 当然、土が爪に入り、それでも動かせば当然ハゲる。

 が、特異体質故に再生。


 失敗作として捨てられるまで短時間の同調しか出来なかった。


 その好ましきと最悪な二つの結果が、非常に生前の記憶が薄いフォンイですら、初めて見ると確信する程の異能。


 だからこそ、何度も幾度も期待して励まし続けた。


 己の身体に潰れて貰う事を期待する馬鹿等いないであろう。


 妄執たる宿願を前にして努力できない人間はいなく。


 仮にいたとするならば、そこまでの熱意を持っていない勘違い野郎であろう。


 気付けば痛みを消す手段すら直感で身につけた存在に対して、彼の身体に潜む先祖はますます己の身体にふさわしいと確信を持つ。


 そんな状況下一匹の生物とバッタリ鉢合わせ。

 それは土竜であった。

 その姿は言わずもがな穴を掘るのに向いている。


 瞬間、名前無き存在の身体が変形。

 えぇ?それはチョット予想外なんだけどどっから持ってきたの?ウチの中にそんな形質のヤツいたかな?と脳に伝えられた情報を無視し、穴掘りに向いた箇所を全力で動かす。


 長い時が経ち、五本爪つきシャベル風前脚が土の重さを穿ちきった。


 降り注ぐ太陽の光という熱にたえるため、彼は元の姿に戻り始める。

 

 異常な光景を前に、少年と少女に見える双子は顔を見合わせた。


 土の下から出てきたモグラが、急激に人の形へと変貌すれば、誰でもそんな反応を見せるであろう。


 それもどこか己達に似た雰囲気を纏う全裸の存在が、不思議そうにコチラを見て首をかしげているのだから。


「えっ、えっ、何で?何墓参り中に敵襲?ゾンビ?蘇り?今絶対変身したよね?」

「いや、いや姉上。見た限り子ど……何故か同調が始まりだした?ま、マズイ凄まじい情報量が!」


 二次性徴を成長障害によって、親がかけたのろいによって潰されたおおとりの姓を持つ二人の前で、名も無き存在は脳に記憶を無理やり詰め込まれていく。


 本来なら年齢を考えれば壊れる程の膨大な量……無論脳が壊れるたびに再生し完璧に乗り越えた。


 取り戻した記憶によって、フォンイの人格は濃くなり、これからもよろしくな。と脳内で同じ見た目の少年に笑いかける。

 

 姉上これは厄ネタかもしれませんよ。という一翔の言葉に、コソコソと禁忌に手を染めていた事もあり気まずそうな女。

 フェネクスの肉体を使った際に思い当たるフシがあった事もあり笑った。


「君の名前はつばさ。おおと……はご先祖様と全く同じ字になっちゃうから名字は雛子にしよう。」

 

 記憶の同調によって、共通言語を完璧に習得した事もあり、名前を貰った存在は話を理解。

 それと同時に、数多の人生がもたらす常識や世間体も習得。


「そっか、僕の名は雛子翼ひなこつばさなんだ。」(あぁ、鳳翼おおとりつばさだと私が生前の名である鳳翼フォンイと書く字が被るしな。……あれ後々肉体乗っ取るならそのままの方が便利かも。とりあえず主導権がどれだけあるか確認を……)


 鳳翼が凄く話しかけてくるし、何か身体を勝手に動かそうとする。と脳内の景色をそのまま発言する少年に、まぁ慣れるまで練習あるのみだ。と、先祖と仲がいい洗脳済み個体は訳わからない事を口にした。



 懐かしい夢を見た……でもどうせならディアナとの淫夢が見たかったな。幸せで温かな真夏の夢。一生忘れないであろう夜を。と口にするつばさの視界には、自分の分までコーヒーを入れている叔父。 


「随分、お疲れだったみたいだね。何で従軍している私より疲労してい……ここから先は童貞煽りをされるだけだから黙っておこう。」


 歴史的に問題を突っ込まれるシーンだが、誰も気にしない。

 だから素通し、そもそもゴムの薄さを語っている場面すらあった。


「同調するたびに思うのは、味覚も考え方もどんどん鳳翼になっていく事、実際に一翔さんが入れるコーヒーを上手いと思う様になったし……失礼、謝ったから睨まないでください。ハッキリ言います断りきれずノイローゼになる人間もいます。一翔さんはイビルディア帝国を内部から破壊するつもりですか?」


「あぁ!なんだと!!!誰だそんなクソみたいな噂を立てたやつは!殺す。誰が何と言おうと私のいれるコーヒーは美味いんだ!まぁ当たり前の真実はおいといて、我等が先祖と己の人格を完全に切り離すのは無理だからね。父親……つばさ君にとっての祖父から的確な同調を受けていた私ですらたまに境界が曖昧になるし、何よりも大半の親族は自我のあるまま乗っ取られるか、無理やり先祖の人格を消そうとして、皮肉なもんで両方とも自分を鳳翼だと言い張るだけの精神異常者になってしまうからな……あんな失敗作を同一人物だとは思いたくないな。」

 

 新たな体は欲しい。でもパッとしない身体では失敗作の人生になる。何よりも二度目の死を体験したくない。という意味不明な狂人のジレンマ。

 

 老いたく無い、死にたく無い、という無い無い病を拗らせた存在は、子孫にとんでもない負債を押し付ける。

 それは不死身と不老不死の探求。


 答えが見えない問題に対して、子孫は違う方向に進化する事で先祖の魂を慰めようとした。

 強く、速く……他の分野でもただ優れている事。

 

 優勢学という禁忌が、現世の真実がもたらすは一族の繁栄。

 だがその行動は……妥協は弱者がする事、強者は我慢等しない。という誠の真実から目を逸らす愚行。


 鳳翼が求めるのは老いず、死なずを満たした肉体。


 それだけで良かった存在は子孫を甘やかした事を後悔し、より厳しく記憶の引き継ぎ……だけで無く死の恐怖すらも見せつけ、全てを失う瞬間を追体験させる事を徹底し洗脳した。


 多くの男を張り倒し土地や財産を奪い取ることで贅沢を極め、数多の女を抱きそれ以上の子供が産まれても……幼少期の夢を忘れる事ができずに、死んでも満足できなかった欲深い存在。

 

 それは不死身と不老不死を求め続けた鳳翼の肖像。

 

 秘術によって子孫の身体に入り込み、代償として自我を失う。

 その踏み倒しを狙ったかの様に、子孫に常識という建前で生前の記憶を植え付ける洗脳を施した。


 鳳翼の記憶を的確に引き継がせ同じ様なモノを作り上げ、違う個体同士が同調する事で新たな道を模索し理想への到達を目指す。

 

 それは先祖と同じように考え、行動する事を義務づけられた哀れな一族の伝承。


 だが、永遠に終わらなかったであろう探求は今代で終わる。

 翼の前には、同じ字ながらも読みが違う存在たるつばさ


 不死身と不老不死だけでも垂涎モノなのに、何か知らないが馬鹿デカイおまけまでついている。

 ぶっちゃけ怖いがあって損無し!と判断。


(問題は死になれてるせいか恐怖では縛れないこと、何よりも愚かしい母親みつる?が失敗作だと思って捨てたせいで、我が思想に赤子の時から染める事ができ無かった事か……というよりコイツ自身は遺伝子遺伝子煩いし、なのに選んだ女は顔一点で言動がブレブレだし!そっちの道はもういいんだよ。不老不死と不死身以外は興味ないの!だから身体の主導権をよこせ!自我の消失までは求めないから!!!)「おい、全部聞こえているからな。言っとくけど身体を明け渡す気は無いし、ディアナとの間に産まれた子供には鳳翼を入れないからな。遺伝子調整もグレテン式しかしないからな!もう東の伝承と鳳の風習はイラナイ!」


 そ、そんな。と口にするは洗脳されている叔父と元凶たる脳内のそっくりさんに対して、同字の先祖が吹き込んだイカレタ思想よりも、妥協案である禁忌の方に取り憑かれながらも……弱い雌を伴侶に選ぼうとするつばさは掟破りを平然と口にした。


 これでディアナがクソブスの醜女なら、他人から見ても真実の愛なのだが……

 

 それなりの時間が経ち、元帥が持てる全てを手放してまで求めた鳳凰は……何とか甥っ子が間違った思想と性欲から解放される様に説得。


 一翔が格下相手なら一瞬で己と同じ思考に染め上げるテクニックを披露。


(いくらウチが分家筋だからってイビルディア帝国に降ったのはマズイだろ。そんな事をした人が一族のためだとか言ってもね……でもあの子泣きジジイ本当に財産と領土全部譲ったしな。どんだけ一翔さんを側に置きたかったんだよ。)

 

 格の問題か鳳雛は涼しい顔で、何なら過去を思い出しつつ受け流している時……ドアの外が騒がしくなる。

 そんな中伝者がノックし名乗り、許可をえて一人入室。


「一翔殿、喜ばしいニュースです。グレテンで反乱なのか?ととにかく騒乱と言っても過言で無い状態になっているみたいです。ベルゼブブ元帥からの指示は待機だそうです。」


 ほお、とイビルディア帝国による統一国家樹立が見えた事もあり、名前を呼ばれた存在は顎に手をやり得心。

 それは安定を手に入れて進化を辞めた脇役の行動である。


「翼君。我等がおおとりの家は勝馬に乗っている……当主として言わせてくれ。余計な事をするな!!!甥の分際で私に逆らうか!同一個体なら分かるだろ?ここは静だ。劣悪遺伝子の集合体に対して惚れたはれた等気の迷いにすぎない。」


 だが、物語の主人公にはそんな行動許されない。


「惚れた女が苦しんてるかもしれないのに待つ?フザケるなよ。こんな下賎な行為に優勢を目指し続けた血族、すなわち鳳の誇りがどこにある?ボンクラな雄だろうとここは行く!そもそもイビルディア帝国に付き従うと口にするのなら!進矢が選ぶ程の純真たる女神様に、この行動に胸をはれるのか?俺は否、断じて否!失礼熱くなりました。ディアナを護るついでに孕むまで抱いてきます。」


 性欲を否定はしないが、抑える事を覚えなさい。と口にするは禁忌の到達点。

 事実替え等いくらでもいるであろう美しいだけの雌。


 一族の女連中全てが見下し、馬鹿にしながらツバをはきかけるであろう存在。

 そんな外面以外に取り柄が無い者に固執するのは期待以上の成長を見せた甥。


 それは、天に唾すると評しても間違いにならない程の愚行。

 見苦しい翼を躾けるために、一翔が立ち上がり脳が身体にかけた枷を外していく。

 現世はどんな理屈を並べようと暴力を軸に廻る。


(で?どっちの方が私として優れているなんて、真実から目を逸らさなきゃ同一個体だし分かるだろ?)

(はぁ強いだけの不老不死よりは、多少劣っても不死身がある分ソッチがマシなのは事実だな。私としては一翔が限界点だと思っていたが……まぁ上振れはありがたいしな。さらに先を見てみたいし)


 それは同調……否一方的な拒絶と諦めによって阻まれる。


 先祖たる鳳翼フォンイが選んだのは成長限界が見えた鳳凰では無く、あまりにも底が見えない鳳雛の方であった。


 実力では無く、努力で埋めることはできない天賦、ソレによって自分が凡人であったと理解させられた時……己が優れていると過信した敗者はどんな顔をしているのだろうか?


 ただ適正があっただけの勝者はどんな顔をしているのだろうか?


 同族同士の戦い程虚しいものは無い。

 事実鳳翼の呪縛によって身体が言う事を聞かない叔父の頭上に……甥はいつも通り、他人にする様に足を置くことができなかった。


 身内への情が深くなる程に溢れんばかりの才を与えられた事もあり、優秀な肉体を育んでもらった恩は余りにも巨大。


 父親変わりと言わんばかりに!雄の真理とそこで生きるための武術を教えてくれた人へ、貨幣制度という人の領域で、我慢を覚えることなく幸せになって欲しい。と多くの資産を譲ってくれた人へ……毒や害悪なんて思う事は許されない!


「美鶴さんに伝えてださい。美しい妻と可愛い孫を連れて、一族の長となる優秀な息子は貴方の元に凱旋すると。……一翔さん本当にお世話になりました。俺独り立ちします。結婚式は盛大にする予定なので絶対に来てくださいよ。……子泣きジジイにもわざわざ呼んで父親席に座らせてやるんだから感謝しろ。と伝えてくださいね。」


 世間でいうところの毒親の様に資産も実績も持たず!己のボンクラさを受け継いだ子供に、世間体で擦り切れたストレスを八つ当たり。

 

 そんな日々が一つたりとも無い故、他者と違う産まれ方をしたにも関わらず……つばさが伝えるは心からの感謝と敬意。


 禁忌を超えた存在は頭をおさえる叔父に対し感謝と、母への伝言を託すと戦いの舞台へ向かう。


 鳳雛が行くは愛の巣。


 そこに届かず、親しい人間との離別など、己が消滅する未来など知らぬ故……つばさは雄々しく空へ飛び立った。


 同族同士の戦い程嬉しいものも無い。


(本当は殴り合いで勝ちたかったけど……そんな余裕は無かったしな。ディアナ待っててくれすぐ向かう。)


 納得できない形とは言え、形式上超えた方には少しだけの達成感……の後にあぁ!でも一度くらいは殴り合いでシッカリ勝ちたいな。と克己!


(ったく、私が鳳翼に成れていれば君は開放されるだろうに……まぁ死ぬより酷い目にあうだろうけど。はぁ損な役回りは独り身が演るもんだ……ご先祖様も急にハシゴを外しやがって、まさか私すらも失敗作だったとはね。少し傲慢になっていたかな。)


 そもそも土俵に上がれず超えられた方には不思議な充実感があった。


 双方の心に利がある決着等……そうそうあるモノではないのだから。

 だからこそ文句は言わない。

 そもそも……もう二度と二人が会うことはないのだから。

 

 

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