それぞれの思惑
伯爵狙いの第二王子は、執事に調子を狂わされる
がたごとと馬車は走る。
この揺れはいつまでたっても慣れることはない。
自分の体の余分な肉が揺れるたびにたぷたぷと余計に揺れることに、痩せてやろうとも思わせる。
以前、ほぼほぼ揺れない馬車というものがあると聞いた。モロニック王国に数台あるそうだ。一つは王家、それも王太子の婚約者である『傾国令嬢』の所有物であるらしい。それはさすがに王国を滅ぼさない限り手に入れることはできないだろう。それであればもう一台、どこぞの『テンシャク』なる聞いたことのない爵位を持った女が持っているとも聞いた。そちらのほうがまだ騙して絆して潰してと、いくらでも手を使って手に入れられそうだ。その女がいい女であれば、そのまま囲ってやるのも悪くない。
そう思い自然とにやける顔に、くすりと小さく笑う声が聞こえて、顔を引き締める。
「――で? あれでよかったのか?」
わたしことカシムール・フィルア・ジ・インテンスは、馬車の同乗者に、侮蔑のこもった声を放つ。
「概ねは」
「ふんっ。お前はこれで何ができたのか、私にはさっぱりだがな」
目の前の男――アルヴィス・アイーダという男の考えることはさっぱりわからん。
私に会わせないための緘口令であったのではないかと思うのだが、伯爵邸で他の従業員が頑なにマリーニャの行方を喋らないくせに、こいつだけは庭園にいるということを簡単にゲロった。
しかもおまけに、私と喧嘩するように仕向けてほしい等とも言う。
その喧嘩の茶番に、マリーニャが姿を現したのだから、それはそれでいいのだが。
「これで、少しは印象付けができたでしょう」
思わず窓際についていた肘をずるりと落としてしまう。
印象付け? マリーニャに?
なぜ? どこが?
「私がこれからマリーニャを手に入れるには、衝撃的な印象が必要でした。殿下と奪い合い、そして彼女のためなら帝国の王子さえも敵に回すと言うことを印象付けさせることに成功した。本当は、その王子から助ける役もすることでマリーニャを手に入れる計画は確定したであろうけども、それはフィンバルクに奪われた。そこだけが心残りですが、それでも概ね成功だといえましょう」
「……そ、そうか……」
聞いても、そこまで印象付けられたのかと問われると、答えづらい。
現に今も私に不敬だったと言われて帝都に連れていかれているわけだから。私の一声で死ぬのだが……。
それと、今その計画、私をダシにして自分をよく見せようとしていた、ということを暴露しているが、言われたこちらとしてはいい気分ではないぞ?
というか、兄上は私と同じ王子なのだが。
よくその弟の前で呼び捨てにできるなこいつ。
「ふん。……お前にマリーニャを渡すわけにはいかない。私がマリーニャを得ることで、帝国は一つとなるのだからな」
「それは難しいでしょう」
「なに?」
マリーニャの居所を伝え、そして私がマリーニャへ婚姻の打診を行うことができた功績に許してやろうと思ったが、流石に今のは不敬である。
「私はマリーニャを手に入れる必要がある。今回のように、殿下は私のようにマリーニャの心に入りこめてはいないでしょう。殿下はまだ、私と同じ土俵にもたてていないということです」
……いや。どう考えても、私の方が十分にマリーニャにインパクトを与えたと思うのだが……。
「ふん。まあ、お前に負けることもないのだから、どうでもいいことだが」
「私は、マリアベルのために、マリーニャを手に入れる必要がある。そのためには、本当に帝国さえも敵に回すことも吝かではない」
「何も力を持たない男が、どうやって帝国を敵に回そうと?」
「マリーニャを手に入れるだけで、マリアベルの傍にいられるのであれば、それくらいできましょう?」
……ん?
マリアベル?
それは誰の事かは知らないが、マリーニャを手に入れることが出来れば、必然とランページが自分のものとなる。ランページという強大な力を手に入れるためには、マリーニャを手に入れることが必要不可欠だということは私もわかる。
だが、マリーニャを手に入れるためには帝国さえも敵に回すというのはよくわからない。その帝国と対抗するためにマリーニャが必要なんだよな??
マリアベルという女を手に入れるためにマリーニャが必要?……どういうことだ?
「……まあ、うまくいくといいな」
この男が何を言いたいのかわからなくなった私は、調子が狂わされたのか、思わずそんなことを言ってしまった。
なんにせよ、こいつは功績はあれど不敬でもあることから、帝都の牢屋に入れてしばらく軟禁しよう。私の敵にもならないだろうが、この妙な自信は警戒すべきだ。
その間に私がマリーニャを手に入れればそれでいいのだから。
こいつがいかにマリーニャの興味をひこうが、最後に私がマリーニャを手に入れればそれでいい。帝都に帰ったらランページ不可侵法やらを即刻撤廃させて、ランページを手に入れる。そしてドッペルゲンガーを使って兄上も姉上、エルトも亡きものにして。勢力を一つにし、帝国すべてを私のものとしてやろうではないか。
そしてやっと。
モロニック王国を我が手中に治めることができる。
何十年と帝国ができなかった悲願を、私が行うのだ。
「忙しくなるな」
まだ見えてこない帝都。
少しずつ見えてきた自分の未来を思い、私はくすりと笑う。
とりあえず、このよくわからない面白い男は生かしておくか。先のインパクトやらのために、今度は私のインパクトのために使わせてもらおうではないか。
―――――――――
後全然関係ない話ですが、全然関係ないクリスマスのお絵描きしたのでよかったらどうぞ
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