第3章:量子の迷宮

 翌日、美咲は自身の研究所で詳細な調査を開始した。彼女のチームは、攻撃を受けたシステムの徹底的な解析を行っていた。


「佐藤さん、こちらを見てください」


 助手の田中が、モニターを指さした。そこには、通常のデータフローとは明らかに異なる奇妙なパターンが表示されていた。


「これは……」


 美咲は目を見開いた。


「量子もつれの状態が、人為的に操作されている痕跡よ」


 理論上、量子もつれの状態を外部から操作することは不可能なはずだった。しかし、目の前のデータは、その常識を覆していた。


「でも、どうやって?」


 田中が首を傾げる。


 美咲は黙って考え込んだ。そして、ふと閃いた。


「もしかして……量子テレポーテーション?」


 量子テレポーテーションは、量子情報を瞬時に転送する技術だ。しかし、それを大規模に、しかも暗号システムに対して使用するのは、現在の技術では不可能なはずだった。


 美咲は急いで玲子に連絡を入れた。


「玲子、重大な発見があったわ。犯人は量子テレポーテーション技術を使っている可能性が高いの」

「量子テレポーテーション?でも、それならば……」

「そう、犯人の技術レベルは、私たちの想像をはるかに超えているわ」


 玲子は一瞬沈黙した後、


「分かった。すぐに特別捜査本部を設置する。美咲、君にも来てもらえないか?」


 美咲は承諾し、急いで警視庁に向かった。


 特別捜査本部では、各分野の専門家が集められていた。美咲は、自身の発見を詳細に説明した。


「つまり、犯人は量子レベルでのハッキングを行っているということですね」


 ある専門家が口を挟んだ。


 美咲は頷いた。


「はい。そして、それを可能にする技術は、現在の最先端をはるかに超えています」

「国家レベルの犯行の可能性は?」


 別の専門家が尋ねた。


「否定はできません。しかし、これほどの技術を持つ国家があるとは考えにくいです」


 美咲は慎重に答えた。


 会議室に重苦しい空気が流れる中、美咲の携帯が鳴った。研究所からだった。


「佐藤さん、大変です! システムに何者かが侵入しています!」


 美咲は血の気が引くのを感じた。


「今すぐシャットダウンして!」


 しかし、その指示は遅すぎた。電話の向こうで、けたたましい警報音が鳴り響いた。


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