真白 『異世界』にて ⑤

 壊れた心を、魔法で、取り戻す。もしくは修復する。

 そんなこと言われても、なにをどうすればいいかなんて、わからない。

 心を治すなら……お医者さんに診てもらうほうがいいと思うんだけど……。パンダさんの世界には、そういうお医者さんっていないのだろうか?

 それとも、もう診てもらっていて、それでも治らないから、パンダさんがいろんな人からきれいな心を集めたりしているんだろうか?

 聞いてみても良いのかな?

 わからない。

 なにもかもわからない……というよりも、なにをどう聞けばいいのかもわからない。ただ、わたし、魔法を学んでみたい。

 自分の希望優先みたいだけど……。でも、学ぶことで、こんな私でも、何かできるのなら。

「……やれるかどうかわからないけれど。魔法、教えてもらってもいいですか?」

 こんな答えじゃ、ダメかなと思いつつ、言った。

「かまわないよ。正直に言えば、心を治すなんて、あたしもパンダもどうすればいいのかわからないのさ。可能性のありそうなことを試して、ダメなら次の手段を考える。その手段の一つとして、真白、アンタの魔法に期待する……という感じかね」

 わたし、だけじゃなくて。ラケーレさんにもわからないのか……。

 でも、わからないからって、諦めないで、いろいろ考えてやってみる感じなのかな?

 そもそもパンダさんやラケーレさんの世界の魔法って、どんなものなんだろう?

 桃花お姉ちゃんが、友達から借りて読んでいる漫画には、ええと、戦いのときの使う攻撃魔法とか防御魔法。怪我をしたときとか、疲れをいやすとかの回復魔法とか。それから……どんなのがあったっけ? あんまりよく覚えていない。

 そういうのと、パンダさんの魔法は違う……よね?

 異世界に行ったり、その異世界からわたしを連れてきたり。看板に書かれていたパンダの姿に変わったり。それから……きれいな感情を、取ってしまうことができる。

 ラケーレさんに教えてもらって、わたし、ドライヤーみたいな風を出したり、葉っぱを出したりはできた。……まあ、それをしたら、倒れてしまったけど。

 ええと、ナトゥーラお嬢様の心を治すというのなら、回復魔法とかいうやつなのかな?

 それとも、閉ざした心に直接語り掛けるようにする……ええと、テレパシーとかができるようになればいいのかな? あ、テレパシーは魔法じゃなくて、超能力?

 うーん、正直に言えば魔法とか超能力の区別もわたしにはよくわからない。

 ナトゥーラお嬢様の心を治すのにぴったりな魔法を、わたしが使えるようになるとは限らない。

 だけど、それでいいって。なにをどうすればいいのかわからないから、思いついたことをやってみるしかないのかな?

 そんなテキトウさじゃあ、魔法でナトゥーラお嬢様の心を治すことなんて、できないんじゃないかな。

 例えば、風邪をひいている人には風邪薬が必要でしょ? なのに、湿布をしているような感じで、ちぐはぐな治療になってしまうんじゃないのかなあ……。

 そんなことしていたら、心なんて直せないよねえ。

 ……治せない場合は、わたしのきれいな心をパンダさんに渡して、それで代価にしてもらえばいいのかな? そもそも感情を一つ渡すからって、パンダさんの世界に連れてきてもらったんだし。

 うーん、とにかくやってみるしかない。

 とにかく、魔法というものを意識して、それを体に巡らせてみるというのをやってみる。魔力を右の手から左の手に移す。

 ええと、イメージっていうのが大事とか、ファンタジー系の漫画には書いてあったかな……。ええと、どこかの本で読んだかな……。

 魔女修行というのともまた違う?

 なんて考えながら、ぐるぐると体の中に魔力を通す。

 心を治すために、なにがいる? 

 どんな魔法が必要?

 ふいに、ふっと、心に浮かんだのが千羽鶴。

 心を治すのと、病気を治すのではちょっと違うだろうけど。

 治ってほしいという願いを込めるのは……病気でも心を治すのも一緒かなあって。

 あ、あと、ヒーリングミュージックっていうの? セロト……ニン? なんか、よくわからないけど、脳内の物質に働きかけるなんとかとか? そういう音楽もあるって、図書室の本で読んだ記憶がある。あまりよく覚えてはいないけど。

 あ、心の休養をとるとか、そういうのもあったかなあ……?

 心の休養ってなんだろう?

 よくわからない。

 テレビとか、桃花お姉ちゃんの読んでいる漫画とか、そういうものからの知識程度じゃ、治し方とか本当はよくわからないんだけど。

 例えば初詣とかの時、神社に行って、神様にお願いするみたいにすれば、その願いが届くかな?

 神様、ナトゥーラお嬢様の心が治りますように。

 その願いを、折り紙で包んで、その折り紙で折り鶴を作るイメージを浮かべる。作った折り鶴の羽を広げて、ナトゥーラお嬢様に届け……って、送り出してみる。

 パンダさんが、ナトゥーラお嬢様のことを心配しているよ。

 その言葉を、同じように折り紙で包んで、次の折り鶴を作る。

 ラケーレさんも心配しているよ。

 ナトゥーラお嬢様のこと、大事に思っている人がいるよ。

 思いついた言葉を、気持ちを、折り鶴に乗せて、飛ばす。

 魔力切れを起こす、ぎりぎりまで。何度も、何羽も。

 届くかな?

 わからない。

 離れていていたら、ダメかな?

 だったら……ナトゥーラお嬢様の近くで、折り鶴の願いを飛ばしてみればいいのかな。

 わたしは、わからないながらも、ただひたすらに、願いを飛ばし続けてみた。






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