ユメユメ望むな。

マネキ・猫二郎

ユメユメ望むな。

 好きな女性の夢を見た。イチャイチャして僕も君も凄く幸せそうな夢だった。


 だから目が覚めて薄暗い部屋に目をやると、えも言われぬ気怠さを感じた。気分を変えようとカーテンを開け、日光を取り入れる。


 太陽は煌びやかで、青空は綺麗で雲は自由で、木々の緑は生き生きしていて、朝ご飯のヨーグルトは美味しいけど、どの瞬間も僕には物足りなくて。


 身支度をして近くの公園へ出かけた。



 公園のベンチに座って日向ぼっこをしていると、子供が木に風船を引っ掛けて泣いている。かなり高い所に引っ掛かったようで、隣にいるお母さんも困り顔である。


 僕は立ち上がり、その親子に近づいて「こんにちは」と挨拶を交わす。


 「風船、引っ掛けちゃったんですか?」

 「はい…」

 苦笑しながら子供の母は言う。


 「よろしければ僕が取りましょう」

 「いえいえ、あんな高い所危険ですから」

 「ご心配なさらず。木登りは得意なんです」


 子供は泣き止まない。

 「では、お願いしてもらっていいでしょうか」

 「ええ。少し待っててください」


 僕は勢いよく木を登った。次はこっち、次はこっちと、慣れた手つきと足取りで素早く。すぐに風船の所まで辿り着いた僕は、風船の紐をしっかり握って木から降りる。


 「はい、どうぞ」


 風船を手渡すと、子供は笑顔になった。

 「おじさん、ありがとう!」

 「どおいたしまして」

 「すみません、ありがとうございました」

 彼女はぺこりと頭を下げ「何かお礼を…」と言いかけた所で、僕は「礼には及びません」と笑顔で答えた。


 ──満足した僕は家に帰った。



 あの親子は二年前からよくこの公園に遊びに来る。僕自身は五年ほど前からその公園でしょっちゅう日向ぼっこをしていた。


 あの女性を見た時、僕は運命を感じた。

 一目惚れだったんだ。


 あと十数年もすれば、僕も彼女と結婚出来る。夢の景色が現実になる。

 泣き顔も、笑顔も、可愛くて無邪気なあの子を、僕の物に。


 でも、十数年も我慢できるかなぁ。

 想像するだけでニヤニヤが止まらない。


 隠し撮った彼女の写真が数十枚。それを並べて今日を充実させる。


 一枚一枚を脳に染み付くほど、舐め回すように見つめて、今日も夢に貼り付ける。


 ──夢はできる

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ユメユメ望むな。 マネキ・猫二郎 @ave_gokigenyo

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