ピザを食った後、ホテルに行った。この前電話で、飯だけ、と言った手前、断って帰るか、と思わなくもなかったのだけれど、今はアパートに帰りたくなかった。健吾がいない、一人の部屋。それに、今日セックスをしなかったからって、これまでのおっさんとのセックスがなかったことになるわけでもない。だから、当然みたいにホテルに向かうおっさんの背中に、惰性みたいな感じでついて行った。ホテルもバイト先のある繁華街の中なので、人に知られたくないなら違う場所にするべきなのだろう、と思ったりもするのだけれど、すぐに面倒くさくなって思考をかき消す。いっそなにもかも露見して、めちゃくちゃになってしまえばいい。その発想が、どうしても消えない。

 「うち、来る?」

 ホテルに入る一瞬前、おっさんが振り返りもせずに、単純な提案、という感じで言った。思考を読まれたみたいで、なんとなくむっとして、首を横に振った。深入りしたくない。セックスまでしといてなに言ってんだ、という感じだけど、彬はおっさんの名前も知らないし、それでいいというか、それがいいと思う。

 おっさんは、深入りしたいのだろうか。女は家に入れないとか普通に言いそうな、女の匂いが絡みついているくせに非情な感じのする男だ。彬にはそれが都合がよかった。非情な男相手なら、こっちも非情になっても罪悪感がない。

 ホテルの部屋に入ってすぐ、突き飛ばすみたいにベッドに倒された。

 「シャワー、」

 「いいよ。」

 よくねぇよ。

 思ったけれど、言わなかった。繊細とか思われるのがなんとなく嫌で、意地を張った。健吾のことが頭を過ぎった。セックスの前にシャワーを浴びるとか、浴びさせるとか、そういう発想からして欠落してそうな男。多分あいつは、シャワーとかどうでもいいよ、と女を抱く。あいつが女を抱いたことがあるのかどうか、彬は知らないけれど。

 「……なに、考えてる?」

 彬のシャツのボタンを器用に外しながら、おっさんがぼそりと言葉を吐きだした。

 「……別に、なにも。」

 嘘をつく。相手が相手なので、罪悪感なんてない。なのに、胸の奥に皺が寄るみたいな、変な不快感があった。

 「そう。」

 おっさんの声は、いつもと同じように平静で。でも、なぜだかその日、おっさんの手は妙に切実だった。彬の肌を離したがらなくて、快楽の欠片をかき集めるみたいに、いつまでもいじくっていた。

 「……しつこい。」

 「もう少しだけ。」

 おっさんとの行為に、快楽はあった。いつも。だからここまで、ずるずる関係を続けてきた。でも、と彬は思う。でも、もう潮時かもしれない。だって、こんなに切実になられたら、どうしていいのか分からなくなる。

 




 

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