幼き故の純愛!

崔 梨遙(再)

1話完結:1900字

 藤田平助は、小学5年生。その日も、体育の授業を見学していた。平助に話しかける者は誰はいない。平助は友達がいなかったのだ。身体が弱くて、みんなと同じように遊べないからだ。だが、その日は、そんな平助に話しかける者がいた。


「平助君、体調でも悪いの?」


 話しかけてきたのは、3日前に転校してきた女子、水瀬成美だった。平助が成美と話をするのは、この時が初めてだった。初めて話をするのに“平助”と下の名前で呼ばれたことに違和感をおぼえたが、平助はこだわらずに流した。


「水瀬さんは? 体操着がまだ届いてないんか?」

「ううん、私は身体が弱いの。激しい運動をしちゃいけないのよ」

「ふーん、僕と一緒やねんなぁ」

「平助君、今日、夏祭りがあるんでしょう?」

「うん、あるで」

「誰と行くの?」

「行かへんよ。家にいるつもり」

「どうして?」

「僕、友達がいてへんからなぁ」

「私も転校したばっかりで友達がいないんだよね」

「水瀬さん、人気者やんか。転校初日からクラスメイトに囲まれてたし。一緒に夏祭りに行ける人くらいおるやろ?」

「私は、平助君と行きたいの」

「なんで?」

「理由なんてどうだっていいじゃない、私がそう思ってるだけのことだから」

「でも、水瀬さんってモテモテやんか。女子でも男子でも、水瀬さんと一緒に祭りに行きたいっていう人は多いやろ?」

「私は、平助君を誘ってるの。行くの? 行かないの? どっち?」

「わかった、行くわ。僕も本当は夏祭りに行きたかったから」

「じゃあ、夕方になったら迎えに行くから」

「僕の家、知ってるの?」

「うん、だって、同じマンションだから」



 ピンポーン。


「はい、はーい」


 成美は青い浴衣姿だった。


「平助君は浴衣じゃないの?」

「甚兵衛で妥協してくれ」

「カメラは?」

「持って行くんか?」

「当たり前じゃん、浴衣姿を撮ってもらわないと」

「わかった、持って行くわ。……って、携帯のカメラやったらアカンの?」

「ダメ、ちゃんと撮ってほしいの」

「わかった」


「平助君って、いろいろ奢ってくれるんだね」

「まあ、小遣いもらっても本しか買わんからお金には余裕があるねん」

「写真、沢山撮ったね」

「うん、画像はデータで渡すから」

「お願いね、あ、金魚、ありがとう」

「金魚すくいは僕の数少ない特技の1つやからな」

「でも、1番嬉しかったのは平助君と祭りに来れたことだよ」

「そうか、僕も楽しかった。来て良かった。でも、同級生に会ったね」

「会ったね。でも、別にいいじゃん」

「自覚してないの? 多分、明日はこのニュースで盛り上がるで」

「どうして?」

「気付いてへんの? 水瀬さんってクラスで1番かわいいんやで。そんなかわいい子が僕みたいな男と祭りに来てたってなったら、そりゃあ、ニュースになるやろ?」

「でも、私は気にしないけど」

「まあ、僕も気にせえへんけど。水瀬さんが、それでええんやったら」

「じゃあ、いいじゃない」



 ピンポーン。


 それから、毎日、成美が遊びに来るようになった。部屋でゲームしたり、たまには外にでかけたりする。平助も、成美のことを“成美”と呼ぶようになっていた。


 だが、秋になって、成美が学校に来なくなった。平助の家にも遊びに来ない。先生に聞いたら、持病が原因だと知らされた。



 或る日、携帯が鳴った。成美からだった。


「成美? 今どこや? 家か? 病院か?」

「今、家。明日から入院」

「どこが悪いんや」

「たいしたことないよ、多分、手術したら治るから」

「僕、面会に行かれへんの?」

「まだお見舞いには来ないで。私、だいぶんやつれたから」

「そんなこと、僕は気にせえへんで。会いたいんや」

「あのね、お願いがあるんだけど」

「何? 何や?」

「明日から入院だから、今夜は寝落ちするまで話相手になってくれへん?」

「ええよ、そのくらい。なんでも話してくれたら聞くで」

「私ね、平助君が好き」

「僕も、成美のことが好きやで」

「休み時間に読書してる平助君が好き」

「そうなんや」

「体育を見学してる時の平助君が好き」

「そうなんや」

「金魚すくいの上手い平助君が好き」

「そうなんや……」

「それから……それから……」



 翌日から、成美がいなくなった。死んだのではない。みんなの記憶から消えているのだ。マンションの成美の家は無くなっていて、学校で成美の存在をおぼえているのは平助だけだった。季節は秋に変わったのに、成美は夏に取り残されたのだろうか?



 平助は思う。また成美に会いたい。成美がいないのが寂しい。もう会えないのだろうか? でも、もしかしたら……。



 ピンポーン。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼き故の純愛! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画