第30話 13500000

 俺の背中を叩くと血原は戦闘中とは思えない嬉しそうな顔で一本角の群れの元へ駆けていった。


 その速さは今の俺、さっきまでの血原と比べても異常な速度。


 角を折ったことで血原にも経験値が入ってレベル200の大台に乗ったようだけど……ここまで変わるものなのか。


 高レベルになればなるほど1レベルあたりのステータスの伸びは大きくなると言われているけど、この速さに関しては血原も言っていた質の部分が関与している。



 つまりこれはこれまでの奴の努力の結晶。



 どうやらここにきて一皮剥けたようだ。



「再利用、増幅……血動鎖鋸(ブラッドチェーンソー)」



 あっという間に一本角の群れに追いついた血原は自身の手に着いていた血にふっと息を吹きかけた。


 すると血は泡のように膨れ、あっという間に剣……ではなくチェーンソーの形に。



 そしてそれを見た一本角たちは身体の斑点を光らせながらぴょんぴょんと跳ねて血原の攻撃が急所に当たらないよう幻覚スキルを発動させようとする。



「させねぇよ!」



 だが乱暴に雑に躊躇なく振り回されるチェーンソーはその大きさとは反対に素早く、2匹の一本角の身体をとらえた。



「き、ききぃぃいぃい!」


「やっぱ大味なスキルは広い範囲な分火力低めか……。だが、これで幻覚は使えねえだろ?」



 チェーンソーの刃が回って高く広く吹き上がる血は一本角たちの身体に付着。


 斑点の光を遮った。



 一本角たちは必死に幻覚スキルを使おうとするも、発動できず困惑。


 ついにモンスターの基本であるシンプルな突進攻撃を仕掛けてきた。



 だがそれさえも……。



 ――パキ。パキ。パキ。



 血原のおかげで幻覚による攻撃の心配も、逃げられる心配もなく、安心して範囲内を維持することができるようになった俺の手にかかれば簡単に止められる。



『13500000の経験値を取得しました。レベルが89に上がりました』



 血を吹き出している2匹、さらに他の一本角7匹、既に死んでいる一本角1匹、全部で10匹の角を俺は折ることに成功。


 最近では5レベルごとにレベルアップに必要な経験値が増しているが、それでもこいつらとの戦闘だけでもう89とか……想像以上の成果で引くレベルだわ。



「こうなりゃあとは……モンスターの血から形成、血人形【強武器】10体」



 弱った一本角たちを殺すために血原は再び血人形を作り出した。


 しかも今度の血人形は色までも人のそれで、クオリティが跳ね上がっていて……って、どいつもこいつも見覚えがある顔だな。



 とくにあの血人形は……



「姫、川?」


「……。同期のくせに俺よりも強くて……勝手に諦めてた、雲の上だと思ってた奴ら。だけど追いつくイメージができたから俺のスキルでそんな奴らを模した形にすることもできるようになった、か……。まったく、こんなところで……シルバーのやつなんかのおかげでここまで希望が持てるようになるなんざ誰が思ったよ」




 血原の決して大きくない独り言。



 あの血原でも俺と同じように劣等感を抱いていたと知ると、途端に情が湧いてしまうのだから不思議だ。




「いけ。新しい門出を派手に彩れ!!」




 血原の作り出した血の人形……いや、血の探索者たちはそれぞれ違った武器を手に痛がる一本角たちの元へ。



「きっ――」


「……」



 そして命乞いをする余裕も与えぬまま左胸を突く。



 突いて突いて突いて突いて突いて……。



『レベルが90に上がりました。身体が回復しました。握力の値が【U】に上昇しました。新しくスキル【咆哮】取得しました』



 そこかしらで血が舞う、綺麗で不気味な光景の中、俺は90レベルに到達。


 ふっと息を吐き……自分の視界が歪み始めたことを確認した。



「――きき……」


「ちっ。また幻覚か……。しかも結構遠そうだが……俺の血人形から逃げられるとでも――」


「最後は俺だけで倒す、倒せるので血原さんは下がっててください。新しいスキルと今の身体能力があれば

あんなのはもう楽勝です」


「いいや、あれは俺が倒す。どうやら経験値は共闘したとしても止めを刺した方に経験値が多く入るらしいからな」


「血原さんはもうレベル高いですよね? それに、これってそもそも俺の訓練で――」


「お前は強い。伸び代もある。だから認定証はくれてやるつもりさ。だけど……今の俺はレベルアップに恐ろしく貪欲なんだ」


「それは俺もです。ってこの流れ……もしかして勝負ってことですか?」


「……。面白い。前言撤回だ。お前が俺よりあいつの角を先に折ることができたら認定証をくれてやる。追いついてみろよ、この俺に!追いつけるもんならな!」



 無茶苦茶なルール変更を言い出した血原は笑いながら血人形と共に走り出したのだった。

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