第31話 面倒な奴ら

「――だあああああああああああああ!」



「きっ!?」



 スキル『咆哮』は敵を驚かせて硬直させる単純なもの。


 だがこれが遠距離から握り潰せるようになった俺と組合わさると中々な威力を発揮してくれる。



 だから……。



「やらせてやるかよ!! うらああああああああああああ――」


「きっ……」


『レベルが91に上がりました。緑玉鹿【一本角】から幼角がドロップしました』



「はぁはぁはぁ、んっ……。はぁ……。へ、へへ。俺の方が早かったですよね?」


「いいや、俺の方が先に攻撃してた、だろ? ……でもまぁ俺相手によく戦ったんじゃないか? これなら地上に戻るまでには認定証を渡せるだけの実力がついてるかもしれない。あ、勿論、帰りもどっちが早いか勝負するからな」


「……。はぁ、まったくどの口が言ってるんやら……。しかも2回戦で終わりじゃなかったのかよ……」


「な、なんか言ったか?」


「いいえ。なんでもない、です……。それより俺、ダンジョンの踏破もしたくて……」


「あ、ああ。待っててやるからさっさと、してこい」


「待ってるって……。ただ疲れて座りたいだけじゃ……」


「うるせえ! いいからさっさと行ってこい!」



 血原との角折り対決、からの討伐対決。


 結果は明らかに俺の勝ちだった。



 だけど血原のやつが負けず嫌いを発動してるせいで認定証がいつまでももらえない。



 実力は認めてくれていて最初に比べれば対応も声色も大分柔らかくはなっているとはいえ……これはこれで面倒だ。



「――っと、あったあった。今回は何がもらえるかな?」



 初級ダンジョンよりも広いボス階層を進むと、このダンジョンを表現しているような緑色のオーブが台座の上に置かれていた。


 ボスは一本角が倒してしまっていたけれど、その一本角を倒したからかオーブは光輝き、踏破の知らせを受け入れる状態になっている。



 思いがけない2つ目のダンジョン踏破。


 俺は喜びを噛み締めながらオーブに触れた。



「はは、調子が良すぎて怖いくらいだな」



『――コングラッチュレーション!! またまたダンジョン踏破を確認したぜ! ゴリラ君!報 酬とその証を送るぜ!』



 ゴリラ君……。


 やけに調子のいいアナウンスだと思ってはいたけどその呼び方はどうなのさ……。



『いやいや、イレギュラーばっかりでもう【運営側】は大変で仕方ないよ!本当にサンキューな!』


「運営?」


『そうそう! 俺たちも大変なのよ! できればゴリラ君にはこっちが都合いいように頑張って欲しいなぁ……なんて。ちらっ』


「『ちらっ』て、擬音語はあんまり自分で言うもんじゃないんじゃ?」


『あはは!! 手厳しいねえ!! なぁに冗談だから適当に聞き流しておくれ!それでどうする帰還する? それともゴリラ君みたいな人間用に準備した新ダンジョンにでも飛ばすかい?』


「人間のために用意……あのさっきから――」


『あー! ここからは言っちゃダメなやつだから! それで、どうする? って……まーたイレギュラー対応かぁ』


「イレギュラー? 一体どうしたんですか?」


『新ダンジョンで知らないモンスター反応。これに伴ってシステムアナウンスをそれように適応させないと……。最悪の場合オーブの移動とかボスとのリンク作業とかまでしないといけないよぉ……』


「へぇ。あなたはそんなことまで担当してるんですね」


『あっ。で、でもでも別にダンジョンを作ったとかそんな凄いあれではないから!ど悪党ってわけじゃないよ!』


「……。一体あなたたちは――」


「おい。心配してきてみりゃ、なにぶつぶつ1人で喋ってんだ? 急激なレベルアップで頭がおかしくなったか? さっさと白黒つけようぜ」



 変わったアナウンスと会話をしていると血原がわざわざ俺を心配してきてくれたらしく、大事なところで割って入ってきた。


 こういうところ、実はそこまで悪いやつじゃないんだろうなって思わせてくれるのはいいんだけど……今じゃないって。



『……白黒つける。それなら新ダンジョンだよね! イレギュラーの排除勝負! うん! それがいい! ってことで、新ダンジョンの入り口までご案内しまーす!』


「あ、勝手に――」


「な、なんだ! 一体なんだってんだよ!」



 有無を言わせないまま、俺は、俺たちは無理矢理ダンジョン【角獣の森】をあとにさせられたのだったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る