第28話 リアル

「きぃ……?」



 あっという間に生まれた10体の血人形。


 大量の血を使ったおかげか身体の幅は広くて派手。


 だがそのクオリティは低く、動きは遅い。


 だからか一本角の群れは自分たちに対するなんらかの攻撃が開始されたと気付いてもまずそれを警戒、様子見して一歩後ずさるだけ。


 当然背後で血人形たちの僅かな間から覗き見ている俺たちには意識は向いていない。


 しかも一本角たちは食事と幻覚スキルによる慢心で出足が遅かった。



「これなら……【血茨】」



 となれば俺はともかく血原は攻撃の範囲まで距離を詰めることが可能だった。



「きっ!」



 血原は俺にくいっと顎をあげるような仕草を見せたあとスキルを発動。


 血人形たちの腹からは長い長いしなりのある棘が生まれた。



 そしてそれは一本角たちのほとんどを上から襲い、捕らえようとする。



 だが流石の素早さで後方に飛ぶ一本角たち。



 ただ1匹を除いては。



「きっ!?」


「まず、1匹」



 たった1匹、その足元だけに這わせた棘。


 それを回避しようとした一本角だけが上に飛んだ。



 仲間との距離は遠い。


 咄嗟のことでまとまった行動、それを重んじる判断がこいつも仲間もできなかったのだろう。




 完全に分断できた。これで助けが入ることはないし空中であればそのスピードも殺される。




 さっきの血原の合図を信じて血人形の影から飛んだのが活きた。


 目の前には慌てて俺を見ようとする一本角。



 ランクのせいで強い強いとばかり思っていたけど、蓋を開ければ大したことは……。



 ――ひゅん。



「きっ……」


「なっ!?」



 手を伸ばして角を掴もうとした時、その角がゆっくりと伸びていることに気づいた。


 あまりに意外な攻撃方法に俺は咄嗟に手でそれを防ごうとする。



「おい!それは、幻覚だ!」



 下を見るとさっきよりも一本角たちは強くその斑点を光らせていた。


 どうやら集団での幻覚スキルは本当にあったようだ。


 しかも、こいつらはどいつもこいつもこの幻覚で俺を撃墜させようと、その角をミサイルみたいに発射させている。



 実際の攻撃ならこんなに危機的な状況はないが、幻覚と分かっていれば――



「ぐあっ!」


「な、んだと……」



 再び伸ばした手を掻い潜って伸びた角は俺の頬を切り裂いた。


 だから俺は慌てて掴めた角を握ったが、雲を掴むようにそれは消えてしまった。



 こいつらは幻覚をその瞬間だけ現実、現物にすることができる。


 いや、今までのことを考えれば数週間、数か月、下手をすれば数年先まで効果を持続することが可能なのかもしれない……。



「侮ってた……。これじゃあ1匹どころか……」



 一本角に頭を背けられながら地面に落ちる。


 その最中血原に視線を向けると俺に攻撃が届かないようにか血人形、さらには自分の身体でそれを受け止めてくれている光景が映った。



 あんなに悪態をついていたあの血原がここまでしてくれてるってのに……。



 俺はなんでただ地面に落ちるのを待ってるんだ!



 必死に手を伸ばせ角じゃなくてもいい。


 脚でも尻尾でも、とにかく掴まないと……。



「と、届け……届けっ!!」



 ――ひゅん。



「ちっ! まずい!」



 その時血原の血人形を突破した威力の落ちた一本角による角のミサイルが俺の正面に割って入り……俺はそれを力一杯握り込んだ。



 痛い。



 威力が落ちていたとはいえ、攻撃は死んではいなかった。


 手の肉に食い込み、拳の中が血で満たされる。



 だけど、俺の握り込む力も死んじゃいない。



 角はブロンズスライムよりも硬い、硬いが……。



 ――パキ。



 割れた。


 角は俺の手を貫くことなく血と一緒に流れ……。




『高ランクモンスターの特殊部位を破壊。経験値を1500000取得しました。レベルが80に上がりました。身体が回復します。レベルアップの質の理解を確認。そのため今回のレベルアップにおける効果をお伝えします。身体能力の向上。皮膚の強度アップ。また……理解すること及び握り殺したモンスターの数が一定を越えた、という条件を満たしたため特殊スキルを取得しました』




 頭の中ではいつもより長めのアナウンスが流れた。

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