第25話 嫉妬
「レベルが75。ボーナスとして体力、HP、状態異常が回復。怒気のスキルレベルが4、ドラミングのスキルレベルが5。スキルの進化ルートを自動選定を開始……これはよくわからないけど、とにかく、だ。……どうだ、俺はまだ、まだいけるぞ!」
「はぁはぁはぁ……ちっ。ちょ、調子に乗るんじゃねえ、よ。途中で嬉しそうな面をするなんてのは雑魚がやることだ、ぜ」
「途中って言っても、次でもう50階層になるんだけどなあ」
20階層のミノタウロス【炎】、30階層のミノタウロス【水】、40階層のミノタウロス【風】。
それぞれ名前通りの属性武器、そして今までは使ってこなかった魔法の数々を披露してくれたが、こいつは10階層のミノタウロスのときと同じようにして頭を簡単に握り潰してしまった。
だからボスにほぼ足止めをされることなく突っ走ってきた俺たちはたった2日という短い時間でもうここまでこれた、と。
気に食わねえ。
大量に貯まったクエストを消化できる探索者が増える、そんな予感に喜んでいいはずだってのに……イライラが治まんねえ。
睡眠をとってないから? 食事がおざなりだから? 排泄をする余裕があまりないから?
違う。
こんな短時間でここまで成長したこいつが気に食わねえから……自分が焦燥感に駆られてるからだ。
稲井とかいう全く成長しない上にあの姫川と付き合ってた男、あれを見てた時とは違う苛立ち。
俺は柄にも姫川という女に好かれたかった。
あの強さに憧れ、おそらく恋心さえ持った。
そんでもってその横に立てるのは俺くらいしかいねえって本当に思ってた。
だけど俺はダイヤモンドクラスで足踏み。
姫川はどんどん遠くにいっちまって……口では強がってるが、内心俺は勝手に諦めてしまってた。
俺には才能がねえ。
だけど稲井ほど弱くはねえ。そうしてほどほどの強さな俺はプライドだけ残ってしまった。
その結果が自分より下のランクを心内で批判、俺より才能がねえ奴を見て次第に苛立ちと別に心地よさも覚えていた。
クエストの消化については嘘じゃねえがそれ以上に俺はこいつを鍛える……いや、いびって普通でしかないってことを自覚させてやれると思って気持ちを高ぶらせていたんだ。
今までも自覚がなかったわけじゃねえ。気付いてないふりして、しまい込んでた。
でも今回の件で掘り起こされて……。
自分が稲井と同じ、いや、姫川に好かれてない分それ以下だってことを直視させられた。
くそ。なんでこいつばっかり才能があって、伸びて、しかも俺なんかよりもよっぽど神経が図太くて……どんだけ疲れても諦めやしねえんだよ。
嫉妬、自分に対する苛立ち……。
あぁ、もう全部が全部ストレスになりやがる。
「それじゃあ、俺は先に行きますから」
「あ゛?」
くそ。
俺の追いかけるスピード、血人形の鈍りに気づいてやがる。
舐められている。
シルバーランクなんぞにこの俺が。
追い抜かれる。また俺は後れをとる。
「そんなことあっていいわけがねえ……。そうだ、50階層のボスは今までと比べ物にならない強さだったはず、ってまた俺は……」
マウンティングしたいがためにモンスターに期待をする自分に吐き気を覚える。
噛みしめすぎて唇から血が出る。
血の味が口の中に広がっていく。
俺はそんな不快感と戦いながら、醜い願いを抑え込めないまま後を追い階段を下った。
――パン。
「は?」
「あんまり変わらないですね。50階層のボスも」
50階層のボスの姿はいつもよりデカく、顔つきやオーラが違っていた。
鑑定スキルによって開示されているモンスターランクもB-で通常よりも高かったのに、こいつは当たり前のようにワンパン。
認めるしかねえ。
こいつは俺なんかよりよっぽどすげえ探索者になるって。
「……もう、止めだ。認定証はやるからもう俺の目の前には――」
「血原さんあれ!!」
『緑玉鹿【一角】、モンスターランクA-』
認定証を差し出そうとした俺の、俺たちの目の前にあり得ないランクのモンスターが現れたのだった。
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