第24話【別視点】女子トーク

「――づがれだぁぁあぁ……」


「……ランク1位の探索者様がわざわざ自分を見てくれる。そんな機会がこれからもあるか分からないんだから当然人は殺到するって。まったく、自分から提案したんだからその辺も折り込み済みなんだと思ってたのに……。あんたってお堅そうな見た目とランクのわりに抜けてるよね」


「涼香は見た目通りクールよね。彼氏がいないのも納得よ」


「いるわよ」


「え!?」


「アダマンタイトクラスになってメディア露出も増えたし、交流も増えた。黙ってたっていい男は寄ってくるじゃない 。言わないだけでアイドルと付き合ってる探索者も少なくないよ」


「そ、そうだったの?」


「恋は盲目ってよく言ったもんだわ。あの探索者ランク1位の姫川がまさかこんなだなんて、世間は想像さえしてないんだろうなぁ」


「それそれ、勝手なイメージをつけられて困ってるのよ。もう認定探索のときも私に萎縮しちゃってさぁ、どの子もガッチガチ。そのせいで認定証渡せてる人が少なくて……」


「へぇ。でも意外だったよ。あんたが下を鍛えるような提案をわざわざ探索者協会にするなんて」


「そ、そりゃあ私だって対したことのないクエストを押し付けられるのは嫌だから」


「……。そういえば稲井君が私のところの認定探索に来たわよ」


「え!? な、なんでよりにもよって涼香のところに!? なんで来たとき私に言ってくれないのよ! というかきたんだ、稲井君」


「……嘘。きてない。それにきててもあんたに報告なんてするわけないでしょ。はぁ……。やっぱりそっちが目的だったか……」


「な!? そ、そんなわけ! ……あるけど」


「自分から婚約破棄しておいて、なにまだ乙女なことしてるんの……。いい歳して回りくどいなぁ。まぁ向こうも向こうでもうちょいガッツ見せろよ、とも思うけど」


「耳が痛いです……」


「痛くしてんの。私からしてみれば初級、中級ダンジョンにいる探索者より腑抜け顔のあんたの方が深刻だからね。……近い内にランクを追い越されたりして」


「それは流石に……」


「……これ見てもそれ言える?2日前からバズってるんだけど……彼、相当な逸材よ」



 探索者協会備え付けの食堂で同期の涼香が見せてきたの動画。

 再生数はもう100万回を超えている。


 最近探索者の間でダンジョンに挑戦する様子を投稿するのが流行ってるのは知ってるけど……昨日の今日でこれは伸びすぎ。



「なになに、『謎のシルバープレート探索者認定探索で驚異の爆伸び!!』 って釣りでしょこんなの――」



 大袈裟なタイトルと派手なサムネイル。


 それ以上にシンプルだけど豪快な戦闘内容に目を奪われ、積もっていたフラストレーションを晴らしてくれる。


 そしてその謎の探索者の姿はまた大分様子が違うけど多分あの時の……。


 それに、この顔は……。



「稲井、君?」


「いやいやいやいや。まさかここまで恋の病に犯されてるとは思わなかった。ま、似てるとは思うけど全然違うわ。こんな短期間でこの体型はあり得ないでしょ」


「そ、そうよね。あはは、そんなわけないわよね。それに強さだって……全部一握り、か」


「攻撃力に依存しない戦闘スタイルって考察があるみたい。だからレベルが低くても防御力の高いモンスターが倒せるとか」


「なるほどね」



 そういえばあの時、アグリゲーションスライムとの戦闘でも硬いものを破壊してたっけ。



「この人が新ダンジョンに挑戦すればあっという間に攻略されるかもしれないね」


「そうかもね。まだちゃんと侵入したわけじゃないけど、ボスは相当硬いって噂でしょ?どこから出た噂かは知らないけど」


「ブロンズで怪我した2人から、らしいよ。確か職業は盗賊とマジシャンだったかな」


「え……」


「なに? 知ってる人だったりするの?」


「それ女の人が一緒だったりしてなかったかしら?」


「2人だけって聞いてるけど? それがどうかしたの?」


「嫌な予感がする……。私、一旦その2人と会ってく――」




「――回復スキル持ちの派遣を! 回復ポーションもできるだけ持っていってあげて! もう! 新ダンジョンだからって無理しすぎじゃない?」




 少し前に出会った3人、とくに洗脳者の女の子の姿が脳裏をよぎると、近くで食事をしていた職員がスマホ越しに声を荒げた。


 どうやら急いだ方が良さそうね。



「私はすぐ2人のところに向かうわ。涼香は新ダンジョンの様子を見に行って」


「……かなりまずい感じ?」


「ええ。早くしないと面倒なことになりかねないわ」


「そう、分かったわ。でもこれはあくまであんたの頼み、だから貸し1つね」


「本当にちゃっかりしてるわね。でもこんなに頼りになる人もいないわ。頼んだわね」


「了解」



 そうして私たちは女子トークに花を咲かせながらの楽しい昼食を切り上げて仕事に向かうのだった。

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