第23話 雑魚
「な、なんでそのことを……。お前あの女、神林と知り合いなのか? あ……。それで俺たちに復讐しようとしてこのミノタウロスは……。そうか、弱体化してたのが元に戻って、それで強く獰猛になったわけじゃなく――」
「いんや、ミノタウロスの気性は元々こんなもんだし、状態異常を付与されてる様子もねえよ。ただ……このスキルは初めて見たが」
探索者の男と話しているとミノタウロスなんかよりもよっぽど禍々しい雰囲気を纏った血人形を引き連れた血原が10階層まで下りてきてしまった。
あの時の女の人、神林という探索者からは一瞬すれ違っただけだけど悪いそれを感じなかった。
それなのに悉く悪いことに絡まってしまっていて、仲間にも恵まれているとは思えなくて……すれ違った時のあの顔を思い出して心配が募ってしまう。
頑張りが実らない辛さ、ついていこうと必死になる大変さは当然同じではないけど俺も分かる気がするから。
だからこそもう少し話を聞きたい気持ちがあった。
さっきは女の人、神林さんの言葉の意味とあそこにいたレアボスとの関係についての俺なりの考えを明白にするためだったけど……次の質問ができていたなら神林さんがここにいない、仲間から外れた理由を聞いて今度あったときできる限り神林さん側の味方になれるようにしておきたかった。
でも血原が来たらもうそれどころじゃない。
きっとまたすぐに攻撃してくるんだろ――
「おい! 中ボスの様子がおかしいから念のためお前は下がれ!」
「……え? 下が、れ?」
「ちっ。わざわざこんなやつのために俺が動いてやるはめになるなんてよ。こっちはこれでも疲れて――」
「――ぶ、も……」
『レベルが60に上がりました。レベルアップボーナスとしてHPや状態異常の回復を行います』
柄にもなく『下がれ』なんて拍子抜けな言葉を発した血原。
単純な優しさなのかもしれないけど、それが俺のことをなめている発言にも聞こえてしまったから、俺は注意を無視して怪我をしてなおこちらを睨むミノタウロスの元に駆けよってしまった。
そしてとっさに硬化スキルを使われたのが分かってか、それとも血原に対して再び若干の苛立ちを覚えたからか、この状態になった身体は勝手に多めの力を込めて……脳天を割った。
そうして吹き出た血の温かさを少しだけ心地よく感じてしまうのはスキルのせいなのだろうか?
「問題ないです。いえ、問題なかったです。気に掛けてもらってありがとうございます。その、なんならこのまま休憩をとらせてもらえると――」
「……。はぁ? まだまだ始まったばっかでそんなもんとらせるわけねえだろうが!余裕があんなら続きをするぞ!」
「……ははっ」
周りにいた探索者たちだけじゃなく、血原の顔にも驚きの様子が見えた。
同時に笑いが込み上げると昂っていた気持ちはすうっと下がり、俺の視界は元に戻った。
ただそれでも内在するエネルギーの滾りが以前よりも高まっているような、そんな感覚は途切れない。
レベルアップの影響か?
それにしても今までとは違う、違いすぎる。
「いけ!あいつを戦闘不能にしろ!」
「……」
新しい血人形には顔があった。
常に剣のような血の塊を握っているし、筋肉ははっきりとしていて……今までより動きが素早い。
その太刀筋も人のように単調ではなく練磨されているような気配を感じる。
それでも、かわしきれないわけじゃない。
身体が……軽い。
「……レベルアップしたか。しかも、今度のレベルアップは今までとは質が違ったんだろ?」
「質?」
「答えはこの訓練が終わったあとだ。それよりアップグレードした血人形は敵に応じて変化できるんだぜ?」
くねくねと揺れる血人形。
それはゆっくりと分かれて……2つになった。
「おいおいおい……」
「第2ラウンドといこうか」
「さっきの雑魚……ボスの方が数十、数百倍マシだって……」
面倒な状況に陥ったと理解した俺はさっさと10階層を抜けるため、男性探索者の『シルバーでボスを雑魚呼びって……伸び代の化け物かよ』という呟きを聞きながらまた逃走を始めたのだった。
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