第22話 女?

『――立ち入り禁止、残り30秒』




「はぁはぁはぁはぁ……。は、ははは。まだ……まだまだぁあっ!」


「……再構成。アップグレード。ちっ。面倒な変化しやがって。発動に精神力を消費するタイプのスキルはどうしてか、厄介なのが多いな」



 探索者たちを守りつつ、血人形の相手もしつつ、襲ってくるモンスターを殺し続けること数分。


 昂った気持ちが段々と落ち着き始め、がむしゃらに止めどなく動いていた身体が若干鈍くなり始めた。


 この状態に入ってから疲れという感覚が薄れてはいるものの、それに合わせて呼吸は荒くなる。



 知らないうちに自分の身体が疲弊していく、そんな恐怖心が生まれ、焦燥感も込み上げる。



 俺はそんな自分の身体を奮い立たせるように吠え、さらにモンスターを殺す。



 10階層階段前に浮かぶアラートは黄色い文字で残り30秒。


 俺のレベルは58から進まない。



 パン!



「経験値が、モンスターが足りない。早く……早くボスを殺さないと……」



 襲いくるモンスターは最早敵ではなかった。


 どれだけ素早く動かれようが、四方八方から攻撃をされようが俺が手を伸ばして握りつぶす方が早いから。



「す、すげぇ……」


「ちょっと、怖いくらいね……。あのシルバープレート……どう考えても過小評価でしょ」



 地味な攻撃方法ではあるものの、血飛沫が戦闘……いや、この蹂躙を彩る。


 そのせいもあってか、探索者たちはポカンと口を開けてこの光景を俺の実力……レベル以上に評価してくれ始めたようだ。



 撮影する手も止まってないし、ちょっとした英雄気分。


 ただその映像はグロテスク過ぎて使えないだろうけど。




「再構築準備完了。ははは! 今度の血人形はさっきまでとわけが違うぞ!まだまだ追い込んでやっからもっともっと暴れ――」



 ピィィイイィイィイッ!!



 血原の元で再び血人形が形成を始めた時、9階層中に甲高い笛の音が轟いた。



「これって……」



 進路を塞ぐモンスターを雑に派手に両手を使って粉砕、粉砕、粉砕。



「やっとか……」



『――侵入可能時間となりました』



 アラートが消え、嬉しい案内がそこには書かれていた。



 そして俺はついに侵入可能になった10階層へと血人形がまた襲ってくるよりも早く駆けて駆けて駆けて……。




「――ぶもぉ……おおおっ!!」



 ようやく10階層のボスであるミノタウロスと対面。


 その容姿は初級ダンジョンの中ボスであるホーンウルフの比ではないくらいデカく、猛々しい。


 所謂誰もが想像しうるボスの姿。


 前に入った探索者たちがどこか苦戦している様子なのも、ボス戦らしい独特な緊張感を醸し出している。



 でも……。



「10分だ!! 悪いがそいつは俺がもらう!!」



 俺はそんな彼らと熱く共闘する気も倒すまで待ってやるつもりもない。


 こうなるのは10分の制限以内に倒せなかったこの探索者たちが悪いんだ。



「ぶも!?」


「まずはその右手から潰す。それと……一応それも潰しとくか」



 全力で接近して探索者とミノタウロスの間に割って入る。



 パキ。



 そして俺は探索者の1人が持つ盾に刺さった角、それとミノタウロスの突き出していた右手を両手いっぱいに広げて一気に握り潰した。



「ぶもおおおおおおおおお!!」


「う、そだろ? あ、あんたまさかプラチナ……いや、ダイヤモンドクラスの探索者か?ミノタウロスの硬化された角がこんなに簡単に……ってシルバープレート?」


「そっちはゴールド、俺はシルバー。格下が言うのもなんだけど……早く逃げた方がいい。どうやったか知らないけどメッキのゴールドじゃあ無理な相手だろ?」


「……。はは、メッキか。全くうまいこと言う探索者じゃないか。助けてもらったことには礼を言うが、『あの女』もお前も俺たちを助けてくれる存在はどうしてこう、癇に触るのが多いんだろうな?」


「女? もしかしてお前らがゴールドになったのは……」


「そう。その女の……。と、話してる場合じゃないな。俺たちは逃げ――」



 パキ。



「ぶ、も゛ぉ……」


「とっさに後ろに飛んだか……。だが片脚は潰せた。……とまぁ時間が少しできたから質問させてもらうが……その女、もしかして洗脳スキルとか持ってなかったか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る