第21話 【別視点】仕方なかった

「――ぶもぉ……」


「くそっ! なんでこいつこんなにしぶといんだよ! 『あの女』の影響を受けてるのは50階層のボスだけじゃなかったのか!?」


「多分だけど、あの子のスキルは良くも悪くも出きるんじゃないかしら。だから50階層、それとたまに湧いた強い個体たちは強化済み、反対に普通に戦っていたモンスターたちは弱体化されていた、とか」


「マジかよ……。だとしたらレアなモンスターとの遭遇率が高かったのも……」


「あの子が影響していたのかもしれないわね」


「だったらそうって言ってくれれば……」


「デメリットまで知られるのが怖かったのかもしれないね。なんかおどおどしてる時多かったから、私たちのところ以外で何かトラブルがあった――」



「ぶもぉおおおっ!」



「いいから全員俺の後ろに!!次で決めるぞ!!」


「「「了解」」」



 リーダーとしてあの女『神林静(かんばやししずか)』を追放したことがここにきて仇になるかもしれないなんて……。



 そんなこと誰が思うかよ。



 あいつは俺たちが必死に戦ってゴールドランクまで上がってるってのにそれでも足掻こうとする素振りがなかった。


 1人だけブロンズのままで、そのくせ中級ダンジョンに侵入はしたいのかパーティーに居残ろうとして……結果足手まとい。パーティーに険悪な雰囲気が漂った。


 しかも洗脳だかなんだかわけの分からないスキルが暴発しただのなんだのでボスがあり得ない強さになって、俺たちはしばらくの間怪我でまともに探索ができなかった。




 そうなれば、追放するのは当たり前じゃないか。




「俺は、悪くない。仕方なかった。……そうやって正当化するために、お前は大人しく仲間たちに殺されてくれ『硬化』、『ダメージ減衰身体』、『防具一体化』」



 皮膚を硬く黒く変化させて防御力を高めた後、一撃で受けるダメージを一定量から減らすことのできる状態異常を付与、さらにはそれらの効果を手持ちの盾に反映するスキルを発動。


 デコイという職業はソロでは力を発揮しにくいが、習得できるスキルは強力。


 相手が本来の力を取り戻したとはいえ、10階層のボスなら、力量の差が50階層のボスほどじゃないのなら、突破されることはな――



「ぶもおおおおおおおおおおお!!!」


「なに!?」



 10階層にいるダンジョンの中ボス、ミノタウロス【赤】は 他の色の個体と比べて特徴が少ないのがある意味で特徴とされている。


 だから探索者で共有されているこいつの脅威は比較的高い攻撃力と防御力だけ。


 でもまさかその攻撃力と防御力が素の状態からくるものだけじゃなんて思わなかった……。



 ――黒い角……それ、俺と同じ『硬化』じゃないか?




 ドン。




「マジかよ……」


「ぶもふふふぅ……」



 ミノタウロスの突進。


 それによって鈍い音と共に衝撃が襲い……盾にその角が突き刺さった。


 ダメージ減衰のスキルがあったからなんとか持ちこたえはしているものの、ミノタウロスの硬化スキルは俺よりも間違いなく上。


 このダンジョン、このボスの適正レベルは……えーっと、40くらいだったか?


 思えばダンジョンを踏破してる数とクエスト達成数が多いだけなゴールドランクの俺たちにとってこいつが楽勝なんてわけなかった。


 調べもポーションもスクロールも体力も、全部が足りない。



「舐めてた……。全員今のうちに引け――」


「ぶもぉっ!!」



 パキ。



「は?」



 全員に撤退の命令を下そうとした時、ミノタウロスは盾に食い込む自分の角を身体を捩ることで折った。


 そしてミノタウロスはその巨大な拳を振り上げて刺さったままの角に殴りかかった。



「ぐ、ううぅ、ま、ずい……」



 俺のダメージ減衰はあくまで『一撃』のダメージを一定量以降大きく減らすことができるというもの。


 例えば100ダメージなら50ダメージまでは通常で受け、残り50ダメージは10で抑えることができる、そんなスキルだ。



 どの攻撃に対しても優秀なスキルだが、完全にダメージをカットできるわけじゃない。



 つまりは『連続』で攻撃を食らえばその100ダメージ中の50ダメージは何度も負うことになる。



 だから今こうして刺さった角を何度も何度も連続でしかも素早く叩かれればスキルは、俺はもろい。



「リーダー!!」


「ファイアボール!!」


「雷剣断!!」



 みんなもそれに気付いて必死に攻撃してくれているけど、硬化が身体のあちこちに施されて、しかも……。



「ぶもぉ……おおおっ!!」


「こいつ俺しか見てねえ」



 ミノタウロスは視界が狭くて集中的に攻撃する習性があるらしいが……はは、それもこんなに極端だったのかよ。



「死に、たくねえよ……」



 恐怖で涙が溢れるだけじゃない。


 盾を持つ手は痺れで感覚がもうほとんどない。



 駄目だ、もうもたない――



「――10分だ!! 悪いがそいつは俺がもらう!!」



 走馬灯を待つだけの俺。


 そんなやつ耳に救世主にしてはやけに切羽詰まった声が 確かに聞こえたのだった。

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