第13話 【別視点】諦めない

「な、なにあれ?」



『――アグリゲーションスライム【ブロンズ】・ランクC-』



 最終階層に到着すると、そこには人型のブロンズスライムが笑っていた。



 こんなモンスターは見たことがない。


 人間が干渉したことでブロンズスライムがイレギュラーな進化を遂げたのかしら?



「だとしても初級ダンジョンでC-は強すぎるわよ。中級ダンジョンの最終階層ボスに出てきたっておかしくないレベルだなんて。ここに派遣されたのが私で良かっ……」



 アグリゲーションスライム【ブロンズ】の姿に釘付けになり過ぎていたから……私はたった今、人が倒れていることにようやく気付いて、この状況が危険だってことを知った。



 だって突きつけられたアグリゲーションスライム【ブロンズ】の腕、というか銃口? が倒れている人に向けられているんだもの。



 後ろからだから顔は見えないけど、その人の膨れた筋肉なら耐えられる……わけない!



 早く助けないと死んでしまうわ! だってこんなところにくる探索者なんて絶対低ランク、よく見れば傷だらけなんだもの!



「ききっ!!」



 脚を動かし始めた途端アグリゲーションスライム【ブロンズ】の腕が瞬時に膨らんでその銃口から巨大な弾、ブロンズスライムが勢いよく放たれた。



 こんなのどうあがいても間に合わない。



 仕方ない。負担は大きいけど、これはアレを使う場面。きっとこのために私はこのスキルを取得した――



「へ、へへ……」


「え?」



 笑った。


 こんな状況なのに……確かに今、あの人は笑った。



 諦めた感じじゃない。だってその右手はもう弾を、ブロンズスライムを受け止められるかもしれない場所まで移動しているもの。



「可能性、あるかな……」


「あっ……」



 ぼそりと呟いたその人の声にあの人、稲井君の声を重ねてしまった。


 稲井君はあんな体つきじゃなかった、絶対に違う人なのに。


 この諦めない姿勢、藻掻く様は、なんだか懐かしくて愛おしい。



『が、頑張って。きっとやれるから』



 弾を受け止めたその人の手はまずい方向に反り始めた。


 でも弾を受け止めている、それにその指はだんだんと食い込んでいって……。



 パンッ!!



 弾けた。



「う、そ……」


「は、はは……俺もだけど、お前はそれ以上に舐めてたみたいだな。俺の握力は1000を優に超えるんだぞ?」



 舐めていたのは私も同じだった。


 絶対死ぬって、だから『リセット』してしまおうって、現状から目を背けて、私の意思だけを優先して勝手をしようとした。



 こっちの都合でそれがいいって判断して婚約を破棄して、なかったことにして勝手に前に進んだ気になっていたあの時……いえ、今の自分を、その言葉は否定したように感じた。



「……」



 さっきまで死にそうだったその人の身体の怪我が治っていく。


 多分今のでレベルが50以上になったんだと思う。



 そしてそのレベルに達してしまうと鑑定をしたことがバレる。


 だから今この人を鑑定することはできなくなった。



 それはとっても残念なこと。だって、私はこの人よりもレベルが高いのだろうけど志は低すぎて……。



「正直、話すのが恥ずかしい。……でも、いつか直接感謝をしたいわね」



 諦めない姿を、稲井君の諦めない性格を、私はまた信じたいって思えた。



 あんなことがあったばかりだからいきなりは無理だけど、稲井君のことをまたサポートしてあげたい。私も諦めたくない、そう思えた。



「ぎがあ!!」


「……もう、大丈夫そうね。だから私は先に探索者協会に報告に行かせてもらうわ。ありがとう、名前も知らない探索者さん」



 がむしゃらに攻撃を始めたアグリゲーションスライム【ブロンズ】を見て私は筋肉質で大きな逞しい背を持つ男性探索者さんの価値を確信すると、一足先にダンジョンを後にしたのだった。

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