第12話 【別視点】一体……
「……これで10匹ね。やっぱりバーサークコボルトの数が異常。レアボスのスキル? だったら狭い範囲で限定的に仲間を呼んだり増やすジェネラルコボルトの上、ハイジェネラルとかがレアボスで現れたのかしら?」
やっと初級ダンジョンに侵入した私は焦りを感じてこともあってもったいないけど【転移のスクロール】を使って6階層まで移動していた。
初級ダンジョンでバーサークコボルトが湧くのは6階層以降だから上層はもう無視でいいって判断。
それで他の探索者が困らないよう早速バーサークコボルトを狩ってるわけなんだけど、感じてる異変は数が多いってことを含めて3つ。
元々バーサークコボルトは攻撃的なモンスターで、すかさず人を襲ってくるんだけど……それにしても躊躇が無さすぎる。これが2つ目。
どんなモンスターであってもレベル差があり過ぎると野生の勘からかびびって焦ったりするはずなのになぁ。
そして3つ目。
バーサークコボルトは襲いはしてくるものの、大した殺気を感じないのよね。
「――が、あっ!!」
「うん。やっぱり。急所を狙ってはこない」
しつこいくらいに湧くバーサークコボルトがまた1匹涎を流しながら寄って来た。
でもその攻撃は腕や脚ばかりで決して頭や腹を狙ってこない。
鑑定スキルで見れる情報だと状態異常はなしってなっているけど、どれを見てもなにかされているのは明らかなのよね。
「――が、あ……」
「ふう。これで11匹目。……簡単に倒せすぎるわ」
多分だけどさっきの女の子の探索者はレアボスを洗脳して数を増やし、倒しやすいようにバーサークコボルトを操作させている。
バーサークコボルトの素材はその個体が危険ということあって買取額が高い、それを狙ってバーサークコボルトだけを乱獲していたのだろう。
「頭のいいやり方。でもいくら急所を狙ってこないからっていってもこの数のバーサークコボルトはやっぱり危険よね。それにこいつら、フラストレーションでも溜まってるのかしら、他のモンスターも襲っちゃってるじゃない」
移動しているとバーサークコボルトがスライムや他のコボルトを攻撃している現場に遭遇した。
これじゃあその素材が欲しい人やスライムとかでレベル上げをしている人は困るでしょうに。
「まったく、本当に面倒なことするわね。でもレアボスさえ倒せば正常化するのは分かったわ。速度、上げさせてもらうわ。【戦姫:瞬殺光戦】」
私のメインのスキルはあらゆる戦況に合わせて攻撃形態を変更というもの。
この形態で全体に階層が広くない初級ダンジョンなら、最終階層まで10分も掛からないかもね。
「目一杯飛ばすわよ」
スキルで光を纏った身体は合図とともに光速で動き始め、周りの世界が一気に流れ始めた。
◇
――ぐに。
「ん? 何、今の感覚」
光速で移動を開始してしばらく、あっという間に9階層に辿り着いた私の足裏に突然柔らかい感触が。
流石に違和感が強かったから、私はスキルを解いて足を止めた。
そしてその姿に自分の考えがどこか間違っていたと知ってしまった。
だってこれって、ジェネラルコボルトの死体じゃない。
「さっきバーサークコボルトが一斉に襲ってきたのはこいつが殺されて……何かに怯えて逃げてきたから? でも……あのバーサークコボルトが?」
――パキ。
嫌な予感が頭をよぎり、死体を簡単にまさぐっていると硬いなにかを掴み壊した。
これはブロンズスライムの破片……。そういえばここに来るまで奴らの姿がなかったわね……。
……。増えたバーサークコボルトから逃げるようにブロンズスライムはここまで逃げてきた。
そしてその結果洗脳されてここまで引っ張り出されたジェネラルコボルトに、こいつらは憑りついて……ボスの権限をもぎ取った?
それであの探索者たちはそうして新しく生まれたレアボスまで洗脳しようとしたけど……。
「どうにもならなくて撤退ってとこかしら? うん。それだと話の辻褄が合うわね。ただ分からないのは……このジェネラルコボルトを殺した存在。憑りついた後にブロンズスライムがこいつを殺すしたっていうにしては内部破壊でも毒でもなさそうで、どうも他の、物理攻撃力の高い何かがいるとしか思えない……」
ブロンズスライムがレアボスとして覚醒したっていうだけでも異例だっていうのに……この先に一体何がいるっていうのよ。
「……。考えていても仕方ないわね。いきましょう」
そうして私は初級ダンジョンとは思えないほど注意深く、緊張感を高めて最終階層へと向かった。
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