第11話 初踏破

 巨大なブロンズスライムが弾けて衝撃が最終階層中を駆け抜けた。


 それによって人型のブロンズスライムと俺は各方向に飛んだ。



 おかげで人型のブロンズスライムの腕は脚から離れ、ついに拘束が解かれた。



 すると人型のブロンズスライムはもう腕を伸ばすことさえも危険と感じたらしく両手を弾の吐き出し口に変えて、より多くのブロンズを撃ってきた。


 でもさっきまでと違って俺に焦りはない。


 だって弾の速度がさっきよりも遅く見えてしょうがないから。



「……」


「ぎがあっ!! あっ! あっ! あっ! あ……」



『計800000の経験値を取得しました。レベルが55に上がりました』



「おお、もうレベル53か。こんな速くレベルアップできるならもっともっと戦っていたいけど……残念弾切れか」



 人型のブロンズスライムの撃つブロンズスライム、そのすべてを俺は握りつぶしてその前に立った。


 もう弾がないのか吐き出し口からは空気が漏れるだけ、見れば人型のブロンズスライムの身体は半分にまで減っていた。



 撃てる弾がなくなった、つまりそれは分裂できるだけのものがない、自分を構成できる限界すれすれに達したということなんだろう。



「き、いいっ!!」


「……。もう腕を伸ばすことができない、いやそれ以上にまともに攻撃することすらままならないらしいな」



 大きな声とは反対に人型のブロンズスライムのパンチはヘロヘロで、さらに膨らんだ俺の筋肉はそれを簡単に弾く。



 どうやら俺の勝ちで勝負は決まったようだ。



「き、きき……」


「……最後の悪あがきってわけか。硬さは……なるほど。多分他の冒険者ならここで詰みなんだろうさ」




『――アグリゲーションスライム【ブロンズ】・ランクC-・状態異常:球体硬化(防御力20000で固定)・生命力:低』




 殺されることだけは回避しようと小さく丸まってしまった人型のブロンズスライムの硬さを確かめようと手を近づけると、触れるよりも先にモンスターのステータスが一部映し出された。



 こんなスキルは今まで備わっていなかったし、システムとしてもなかったからレベルアップ時に新しくこういった効果のあるスキルが付与され自動で発動されたのだろう。



 そしてそんな自動発動されたスキルによればこいつの防御力は20000でモンスターのランクはC-。


 初級ダンジョンにいていい存在じゃないことは明らかだが、攻撃力に依存しない俺の握力なら多分……。



「ふ、んっ!!」



 丸くなった人型のブロンズスライム、もといアグリゲーションスライムを両手で掴み上げると、俺はガチャガチャのカプセルを開けるように両端から力を加える。


 これは確かに硬い。硬いけど、その分弾性がなくて潰しやすい。



 パンッ!!



「うおっ!!」



 筋肉が膨らんだことを感じたかと思えば、次の瞬間風船が破裂した時のような音と共にアグリゲーションスライムは弾け飛んだ。



 あれだけ厄介だったってのに、最後の最後があっさりすぎて少しがっかりかもな。



『経験値を200000取得しました。レベルが56に上がりました。特定のモンスターを討伐したことでダンジョンのモンスターの湧き状況が変化しました。ブロンズスライム及び金属スライムの出現が無期限で0となりました。これはダンジョン侵入者全体に周知されます』



「……まじ?」



 もしかしこのダンジョンで生まれるはずだった分のブロンズスライムまで今回のレアボス出現という異常で根こそぎ殺したから?


 まずい。


 これをしたのが俺だってバレたらブロンズスライム狙いだった探索者や企業に叩かれる。



「これをしたのが俺ってのは黙っとくか。……ああもう、折角いい気分だったのに。まあいいか、さっさとダンジョンの踏破を記録をして帰還しよう」



 突然噴き出した変な汗を拭いながら俺は最終階層の奥に進んだ。


 そして赤茶色のオーブにそっと手を翳す。



『コングラチュレーション!! ダンジョンを踏破したこと確認したぜ!! 報酬とその証を送るぜ!! 今後もどんどん既存のダンジョンを攻略してくれよな!! にしてもゴリラとかおもろ!!』



 ……いつもとアナウンス違い過ぎないか? なんかちゃらちゃらしてて苦手なんだが。



『おもろいから特別だ!! すぐに帰還もできるがどうする? あ、他のダンジョンにこのまま飛ばすこともできるぜ!! ただし1階層限定だけどな!!』



「……帰ります」



「了解したぜ!! これからも【俺たち】のために頑張ってくれよな!!」



「はい。……ん? 俺たち?」



「戻るだけならこっちだな……【リバース】!!」



 チャラチャラしたそのやけに人らしさがあるアナウンス言葉に引っ掛かりを感じてすぐに質問を投げかけようとしたが、途端に俺の目の前は歪み始め……。



「――んっ……。……。……。本当に、戻ってきたのか。スクロールもなしで」



 初級ダンジョンの入口となる扉の前に俺は立っていた。


 なんだか長い間戦っていた気がしたけど……こうして帰ってくると一瞬だったような、夢だったような不思議な感覚がある。



「……本当に踏破できたんだよな。俺。……ステータスオープン」



『――踏破ダンジョン:【指揮官とお馬鹿な戦闘狂たち(難易度E)】』



 確かめようと開いたステータスのその欄にはいつもの【なし】ではなくダンジョンの名前があった。


 メルヘンでおふざけにも見える名前となんてことのない難易度。



「ふ、へへ……。やった……。諦めなかったら、本当に……」



 それでも熱いものが込み上げて、俺はその場で情けなく瞳を潤ませてしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る