第9話 初の最終階層
「ここで最終階層ってやつか。……人伝いに知ってはいたけど、人が作ったとしか思えない構造だな」
階段を降り切ると照明代わりにぶら下がる大きな魔光石が階層全体を明るく照らしていた。
床は凹凸がなく舗装されたばかりの道路よりも歩きやすい。
どういった用途があるのか分からない支柱が数本に、奥にはこのダンジョンを維持するためと言われている赤茶色のオーブが壁に埋まっている。
ボスを倒した者、それに貢献した者があれに触れることでダンジョンを踏破したことになるらしい。
なんでも踏破報酬やなんかもそれを感知して付与されるんだとか。
「初のダンジョン踏破……。まさか俺なんかがここまで来れる日があるなんて、誰も思わなかっただろうな。これを知ったら母さんも喜んで……くれたかはちょっと分からないか」
「ぷ、きゅきゅ……」
「……。大丈夫、少し浸ってただけさ。お前は絶対殺すから安心しろ。それよりも……こっちに向かったお仲間が見えないのはどういうことなんだ? 教えてくれると嬉しいんだが」
「きゅ、あぁっが!」
「人を模しても喋れるわけじゃないと……。ということは強さも俺には到底及ばなそうだな」
辺りを見回す俺の気を引こうとしたのか、そいつはきっとモンスター同士でしか理解できない鳴き声で話しかけてきた。
今までのどのブロンズスライムよりも光沢があって迫力もある。
細かい人型の造形はおそらく俺を模そうとしたんだろう、大胸筋や太ももの部位が大きめに表現されている。
つまりこいつにとっての強い者のイメージは俺。
その意識からしてこいつが俺に敵うことはないのだろう。
「レアボスがこんなことまでできるモンスターだなんて驚いたし、緊張もしたんだけどな。残念だよ」
「きっ……きゅあっ!!」
人間型のブロンズスライム。レアボスの正体は相手をできるだけ模倣するモンスターだった。
証拠はその見た目と……。
ドンドンドンドン。
ドラミング。
こいつの前では使っていないスキルのはずなのにそれをするということは、きっと逃げてきたブロンズスライムはこいつに取り込まれ、持っていた情報をも吸収されたのだろう。
とすると寄生するという行動も誰かを模倣しようとした結果なのかもしれないが……そんなスキルとか職業なんて俺と同じくらいチートって呼んでいい性能じゃないか?
「すぅ……。ききっ!!」
どこか落ち着かない様子だった人間型のブロンズスライムはドラミングの効果なのか、冷静な表情に変わると人間らしい走り方で突っ込み、そして次の攻撃にを放つためなのかそのまま高めに飛んだ。
レアボスだからもっと変わった攻撃方法をとってくると思ったが、腕を振り上げる素振りをするということは結局のところメインは素殴りってわけらしい。
見た目は強そうでもやっぱり初級ダンジョンのモンスター――
「――ききっ!!」
「の、伸びた!?」
人型のブロンズスライムが勢いそのままに腕を振り下ろすとその腕は俺を射程圏内に収められる長さまで伸び、まるで鞭のようにしなりながら襲ってきた。
咄嗟に俺はその攻撃を左に回避。
すると俺の元いた場所にはそれを床に叩きつけたことで深い溝が生まれた。
見るからに威力は高い。
致命傷に至ることはないだろうけど、あれを真正面から受け止めるのはやめておいた方がよさそうだ。
「ききっ!!」
「……速いな。しかも器用だ。これは腕を掴み握りつぶしてやるのは難しいかな。なら……いきなりその頭を潰してやる」
伸びた腕が右に左に、縦横無尽に暴れ出したから俺はそれを掻い潜って前進。
なかなか攻撃が当たらないせいなのか、それとも俺が迫ってきていることからの焦りなのか、人型のブロンズスライムは少しだけ後ろに下がって残った腕を顔の前で構えた。
「無駄なことを――」
「きぃ……」
ぴゅっ!!
早くも守りの耐性に入ってしまった人型のブロンズスライムに少しだけ残念な気持ちを抱いていると、なにかが風を切った。
ドラミングの効果動体視力も向上しているから、俺はなんとかその弾丸にも似た何かの残像だけを視認。
咄嗟にそれをキャッチして正体を確認する。
「これは……ブロンズスライム? 破片とかじゃない。お前……なるほど仲間を吸収したんだとてっきり思っていたが、元々お前は1つの個体で、複数のモンスターが合体した姿。時にはまとまった1つに、時には分離して別の個体にすることもできるってわけだ」
寄生効果を持つ自分自身を自在に吐き出すのは脅威。
だけど、こうして別の個体になれるってことは……。
パン。
『経験値を40000取得しました。レベルが48に上がりました』
その分俺が経験値を取得できる機会が増えるということ。
「き!?」
「お前……最高のボスだな。レアボスって言葉が途端に好きになってきたくらいだ」
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