第8話 虜
「――がっ! ぎいいいやあっぁああぁあっ!!」
「……特攻。圧倒的さを見せつけられて逃げないのは偉い、っていいたいけど……逃げない奴はもう意思がないってことなんだろうな」
立ちすくんでいた大量のバーサークコボルトは逃げる個体と攻撃を仕掛けてくる2パターンではっきりと分かれていた。
最初は仲間を逃がすために命を張って向かってきている個体がいるのかと思っていたが、これが殺してみるとじゅるじゅるとさっきと同じブロンズスライムらしきモンスターが飛び出してくる。
つまり襲ってきているバーサークコボルトに関してはジェネラルコボルト同じでその身体をブロンズスライム? が寄生しているようなのだ。
おそらくは新しく生まれたレアボスがジェネラルコボルトやバーサークコボルトを完全に支配、もっと言えばこのダンジョンを牛耳り作り替えようとしているのだろう。
そうなってしまったや、そもそもレアボスが生まれる要因はまだ分かってはいないがこれだけは分かる。
「かなりヤバい奴が現れちまったって……。バーサークコボルトがより美味しいモンスターになったことが!!」
このスライムが人間に寄生すれば……そんな最悪の展開が頭を過るもそれと同時に俺はこいつらを殺すことに興奮していた。
だってなかなか現れないブロンズスライム? がバーサークコボルトの皮をかぶってガンガン襲ってきてくれているんだから。
1体辺りの経験値は40000。ホーンウルフの10倍以上。
あれからちょっと戦っただけで俺のレベルは既に47。
40レベルからはレベルが上がりにくくなるってのが探索者の常識だってのに、もう50手前って異常だぞ。
握力の値こそ変わらないものの、アナウンス曰く新しくスキルを取得したりもしているらしいし……ドラミングのスキルレベルは2になっているらしい。
「その証拠にドラミングの効果で……」
「が、あっ!!」
「お前らの牙が全く効かねえよ!!」
バーサークコボルトの牙は俺の皮膚に食い込むだけで絶対に肉まで届かない。
だから俺はただこいつらが必死に噛みついてくるところを見ながらそっと手を差し出して……。
パン。
少し強めの力でその頭ごとスライム潰してやるだけでいい。
なんて簡単な作業。今までの苦労が嘘みたいに楽なんだが。
「強すぎて引くレベルだろ、こんなの。ただ、圧倒的なのって暇なんだよな。だからそろそろこっちからやるか?」
パン。
「が、ああ……」
ごぼぼ。
「逃げて、いる? はは。金属スライム、しかも寄生して安全を確保しているから大丈夫って考えが破綻したらしいな」
脅すように後方から攻撃のタイミングを窺っていたバーサークコボルトたちを睨みながらとりあえず近場のバーサークコボルトを潰した。
するとそんなバーサークコボルトたちの口から次々とブロンズスライム? が飛びだし、どいつもこいつも階段まっしぐら。
表情は見えないけど、こいつら俺に怯えてやがるんだ。
「「ぐあああああああああっ!!!」」
「折角の経験値。逃がすわけねえだろ。だから、お前らは退け!!」
パン。パン。パン……。
ようやく解放されたバーサークコボルトを俺はブロンズスライム? を追いかけるためだけに次々に潰す。
力みからか、もう骨が砕ける音は聞こえずただ弾けたということだけを知らせる破裂音が上がる。
緩衝材のプチプチを潰すような快感が癖になりそうだが、どうしても満足がいかない。
だって俺はもうブロンズスライム? の経験値量の虜になってしまっているんだから。
「――ふふふ……。この道が俺の初ダンジョン踏破、それでもってレベル50への道だって思うと笑いが零れてしょうがないな」
邪魔なバーサークコボルトをあらかた殺すと俺はコツコツと音を立てて最後の階段を下った。
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