第4話 異変

「――あれ以来ブロンズスライムの姿が見えない、けど……」



 パキ。



「こいつらが狩りやすくなっちまっただけでレベルアップが止まらないぞ」



 早々に5階層を後にした俺は寄り道もせずそのまま9階層まで駆けおりていた。



 すると1階層から5階層に比べて当然モンスターの質は上がり、ビッグスライムやソードコボルトのような通常種の強化派生個体がも湧くようになっていた。



 中でも最近新たに湧くようになったバーサークコボルトは好戦的で痛みを無視して無理矢理にでも強力な一撃を放ってくることから新米探索者は遭遇次第逃げろと言われているほど強力なモンスターで、確かに他よりも注意が必要だと感じていた。

 ただ今の俺の力であればむしろこちらから仕掛ける手間が省ける分楽に経験値が稼げる都合のいいモンスター、そしてそのドロップ品の価値からいい金策モンスターと言えないこともなく……。


「お蔭でレベルは……25。それにドロップ品もこれだけあれば……。他の探索者からすれば地獄でも俺からしてみれば天国だぞ。ただ……」



 パキ。



「バーサークコボルトの数とブロンズスライムの数の比率、これどうなってるんだ? 情報とは大分違う、違い過ぎる」



 バーサークコボルトがボス階層の取り巻き以外で出現することは稀で、それ故にこの初級ダンジョンでの怪我や死亡の事例は少ないという見解がある。


 でも今日に限っては既に10匹以上のバーサークコボルトと通常階層で遭遇している。



「これってつまりは……」




「――よし! ここなら帰還のスクロールが使える!」


「はぁはぁ……。まさかあんなことになるなんて……。運がいいのか悪いのか……。お前がパーティーに加わってからこんなことばっかだな」


「その、すみません」


「……なんでお前が謝るんだ? お前のスキルはボスに影響ない、『ないということ』になっているだろ? それよりいいからさっさと……。……っておい、そこの探索者! 今はボスに挑戦するのはやめておいた方がいいぞ。あれはお前程度の手に負える存在じゃない。まぁあれじゃなくてもお前みたいな万年ブロンズランクの探索者がたった1人で攻略なんて無理だと思うがな」




 10階層に続く階段まで到達した時、ちょうど入れ替わりで他の探索者たちがその階段から姿を現した。


 名前は知らないがどいつも探索者協会やこのダンジョンで見かけたことがある顔だ。



 特にこの失礼なリーダーであろう探索者は俺を見るなり、というか俺の首にぶら下げてある最低ランクを表す銅色のプレートを見るなり、人を馬鹿にするように笑ってくる嫌な奴で、その顔は忘れようとしてもなかなか忘れられない存在。



 今だって俺を見るなりこの態度って……お前ももう何か月もこのダンジョンに入り浸っている同ランクじゃないか。


 仲間だって対して強そうに見えないのになんでこんな強気になれるんだ?



「忠告ありがとうな。でも、多分大丈夫だと思う」


「……。大分体を鍛えたようだが結局強さはステータスが全て。死んだって引き留めきれなかった俺を恨んでくれるなよ」


「分かってるさ、そんなこと」


「……けっ。雑魚の癖に態度はいっちょ前かよ」




「――リーダー! モンスターが襲ってくる前にスクロール使いますよ! こっちに寄ってください!」




「おう分かった!」


「……。……。……。ごめんなさい、お気を付けて」



 最後まで嫌味な態度をとったパーティーのリーダーは仲間に急かされるとすぐにこの場を後にした。



 まったく、帰還のスクロールはかなり高級なアイテムだってのに躊躇いなく使えるなんて羨ましい限りだよ。親が金持ちなのか?



「……。それはいいとして、あの子。なんであんなパーティーにいるんだろう? ……。いや、そんなこと気にしてる場合じゃないな。だってさ、今のでボスと戦うのが余計に楽しみでしょうがなくなっちまったんだから」



 もし俺がこの先のボス、『レアボス』を倒したらあいつらはどんな顔をするのか。


 それを考えるとどうしようもなく胸が高まってうずうずが止まらなくなってしまう。



 だってこれいわゆるざまあ展開、そのフラグがたったってことだもんな?



「早速ボスに……いいや、その前にスキルチェックでもしようかな。レアだってなら戦闘自体も思いっ切り楽しみたいし。……『ステータスオープン』」

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