第2話

リュカと別れパシィはキクリを肩に乗せひとり、石積みでできた城の階段を上っていく。

日が落ちてきたせいか、太陽と同じ位置まで来た。旅に出て二日は経っただろうか、父の呪いは進んでいるだろう。魔術師は本当に父の呪いとパシィの癒しの力を解いてくれるだろうかとそんなことを考えてしまう、本当はリュカにも付いて来て欲しかった。

そんなことを考えているのを察したようにキクリがキュイとパシィの肩で鳴く。「そうね、キクリ、父さんはきっと助かるわね。こんなこと考えても仕方ないわ!」パシィは足を速めた。

石段を登りきると城の入り口は開いていた。

(パシィ様お通りください)とどこからともなく声が聞こえたと思ったと同時にパシィの額が光った。

額の石が声に反応したようだった。

パシィは驚いたがそうするしかないので声の言われるがままに城の中に入った、勝手に扉が閉まる。

城は真っ暗だった暫くすると一つの明かりがともってパシィに近づいてきた。そこには顔が炎に包まれた背の高い男が立っていた、パシィは叫びそうになった「王の印をお見せなさい」と炎がささやいたパシィはかすかに震える手で父の黄金の小刀を見せた。「お嬢様お待ちしておりました。」と炎の頭の男は頭を下げる、その紳士的な態度にパシィは少し落ち着いた。

男は「私めはルシードと申します。この城の執事を受けたまっております。お見知りおきを、今国王は眠っております故暗がりでの中でのご挨拶お許しください。」

パシィは「ルシードさんこんにちは。私はお嬢様じゃなくてパシィよ、よろしくね。」

ルシードは「作用でございますか、では。パシィ様とお呼びさせていただきます。わたくしめはルシードとお呼びくださいませ。」

パシィはくすぐったい様子で「様はいらないわ、パシィって呼んでくださいな。」

ルシードはお辞儀をしながら「恐れながら、そのようにはお呼びできかねません。お許しを。本日は長旅お疲れでしょう、ご休憩の控室へご案内いたします。」

パシィは慣れない対応に少しため息をついた。

ルシードの言う主とは魔術師の事だろうか、「あなたの主って魔法師の事?」

「左様でございます。」早く会って話がしたいと思い「ルシード、あなたの主とすぐに話がしたいの。」と強く言った。

「はい、ですが主に丁重にご案内しろと命を使っております。ルシードめにお任せくださいませ、さすれば我が主にお目道理願えます。」

パシィは逸る気持ちを抑えて「分かったわ。」と言い、ルシードのこちらへと案内する炎の明かりを頼りに暗がりの王宮の中を進む。

「足元をお気を付けください」螺旋階段を上っていくとある部屋の前に辿り着いた。

ルシードが扉を開けるとそこはガラスの屈折で光り輝く明かりに赤い布地でできた金の椅子、机、白いベールで包まれた大きなベットがあった。

「パシィ様少しの間ですがこちらの客間へとおつくろぎくださいませ。バスルーム、お飲み物、軽食もございますのでご自由にご利用ください。またお迎えに伺います、では。」

ルシードの頭の炎がフッと消えて姿、形もそこには無くなっていた。

パシィは早く魔術師に会いたい気持ちがあり焦ったがルシードの言っている通りにしなければ会えない言葉通りにするしかないと思った。

にしても豪華絢爛なこの部屋で落ち着こうにもなかなか慣れそうになかった。

金の机を見るとそこには美味しそうな果実と焼き菓子が沢山置いてあった、とりあえず空腹を満たしておこうそう思って、いただきます。と言って果物を頂いた。

歯ごたえの言い優しい甘みもあるさっぱりとしたものだった、次に焼き菓子に手を伸ばすと「いらっしゃいまし、パシィ様。椅子に腰かけてくださいな。」とどこからともなく声が聞こえた。

次は何の魔法?!と思いパシィは辺りを見回した、「こちらでございます。」声を頼りに振り向くとそこには小さな羽の生えた小さな人の形をした者がいた。それはとても愛らしい姿だった。

「あなたはいったい何?」とパシィは興味深々で食い入るように見た。

「ゴホンッ、私は召使のバージニアでございます。バージとお呼びください、パシィ様の身のお世話をさせて頂きたいと存じます。よろしくお願いいたします。」きらきらと輝く羽を羽ばたかせてバージニアはパシィにお辞儀をする。

「どうして私の名を知っているの?」とパシィ。

「風のうわさでございますよ、パシィ様。」人差し指を口に当ててバージはパシィに軽くウインクをした。

「よろしく。バージ。」様と呼ばれるのは慣れてきてここでは仕方がないと思うようにした。

「立って食べるなんてはしたない」と小声を言いながら「パシィ様お食事なさるのであれば、お掛けになってくださいな。美味しい紅茶もご用意いたしますよ。」と椅子が勝手に動いて引いた。

「ありがとう。」とパシィは素直にバージの言うとおりにして椅子に腰かけた瞬間、椅子が机の方に動いてパシィは座った。

バージニアが手をふわふわ空中に回すといろんな食べ物が星が瞬くように光って浮遊していた、「タルト、マフィン、クッキー、フィナンシェなんでも好きなものを仰ってくださいな。お食事もよろしければお出ししますよ。」

「じゃあ、コクリコのクッキー。」とパシィは小さな声で言った。

「コクリコ、そのようなものでよろしいのですか?」とバージは少し残念そうに言った。

「ええ、美味しいもの!私の好物なの。」とパシィは何だか田舎者だと思われたと感じ少し頬を赤らめたがはっきり言った。

「では、お召し上がりを」カランという音とともに金の模様で施されたお皿の上にコリノコのクッキーが並んだ。それは父さんと一緒に作ったコリノコのクッキーそのものだった。

パシィは懐かしくて嬉しくて目を丸くしながら眺めていると、ポットが勝手に動いて暖かいお茶がそれは美しいカップに注がれた。

パシィは頂きますとクッキーを一口食べた。

美味しい。とても美味しい、上品な甘さもあり、香り高く、口の中でほどけた。しかしそれは父と一緒に作ったものと比べ物にならないくらい味気のないものと感じた。

「パシィ様いかがですか?お茶もお飲みになってくださいな。」バージニアが嬉しそうに言ってくれたのでお茶を飲んだ、それも美味しく喉を潤おしたがパシィの心は父を思い心を痛めていた。

「バージありがとう。とっても美味しいわ。」とパシィは笑顔で返した。

「それはようございました!たんとお召し上がりくださいな。」と羽をパタパタと動かしてバージニアは喜びでいっぱいの様だった。

コリノコのクッキーを食べていくうちに父を思い出したパシィはまた涙が出てきた。かわいそうな父さん、早く助けなきゃいけないのに私こんなところで何しているの?父の事を思う気持ちが込み上がってきた。

自分がこんなでは父を助けられない!涙をぐっとこらえた。

「バージご馳走様。おかげで休めたわ、そろそろ魔法師に会わせて下さい。」パシィは真剣な面持ちで言った。

「まあまあ、そんなに急がなくとも魔術師様はお逃げになりませんよ。パシィ様の父上様のご病気も承知の上でのことですよ。」バージは落ち着いて答えた。

「父さんのことを知っているの?!」とパシィは立ち上がった。

「お掛けなさいな、父上様の呪いを解く方法をお知りになりたくて参ったのでしょう。パシィ様は父上様の事を何も分かっておりませんよ。」どうゆうこと?とパシィは不思議そうな顔をした。バージは小さな椅子に座って話した。

「単刀直入に言いますが、あなたの父上様は西の王国の王子であったのです。そしてあなたは直国王の孫でありただ唯一の跡継ぎの姫様でございます。」

「そんなハズないわ、父さんはシイの森を守る森家守よ、、」パシィ父が国と国との戦いで人を殺め国を出てシイの森に辿り着いたと言うことを思い出した。

そんなパシィを見たバージは「心当たりがおありのご様子で、眉を動かすしぐさも父上様にそっくりでございますよ。」

パシィはどきりとした「バージあなたは父さんとどうゆう繋がりがあるの?」と恐る恐る言った。

「おくばせながら私は父上様のお世話係を務めておりました。こうして姫様にもお給仕ができるとは光栄でございます。」とバージは言い会釈をした。

「小さい頃の父さんを知っているのね!聞かせて!」パシィは急に嬉しくなった。

「ええ、父上様、グエル様はお小さい頃はパシィ様のように頬が明るくとてもはつらつとしていらっしゃいましたよ、私にも信頼を置いて下さり懐いて下さいました。ご成長になるにつれ、薬学や天文学など本に夢中になられ私たちも困るほどに書籍に籠りっきりのでしたわ。」バージは初めは頬に手をついて思い出を噛みしめながらそして少しため息をついて答えた。

「そうなの!父さんは本をたくさん持ってて何でも知っているわ!父さんは国との戦いがあって国を出たと」とパシィは興奮した。

「父上様は王位継承のお年頃、一九の歳の頃この王国からお逃げになられました。王にはならない学者になりたいそう仰っておられました。」とバージは淡々と答えた。

「でもこうしてお世継ぎのパシィ様が来てくださいました。あなたのおじい様は病で意識のない状態です。王が動けない今あなた様がお探しになっている魔法師が指揮を務めております。」とバージは真剣に言った。

自分に祖父がいることも聞いていなかったし突然の言葉にパシィは姿勢を正して「ごめんなさい。私も王国のお姫さまだなんて考えられないし、なりたいとも思いません。ただ父さんと森で暮らしていきたい、いなくなった母さんも探したいそれだけなの、だから魔法師に会わせて下さい。」と頭を下げて断った。

「分かりました、私もグエル様、パシィ様が可愛い故、無理維持はしたくありません、、、しかしながら魔法師の魔術によってになりこの国の中は民たちは操られたように朗らかで安全です、四季が無く同じ気候、同じ温度、農作物も良く取れます。ですが代償に国の外は荒れてた土地ばかりで賊が多くなり飢えている子供、孤児もおります。」

パシィはうつむいたマントを握りしめ「でも!」と答えた時バージが「リュカも孤児でございますよ。」と言った。

「リュカは外の貧しい村の孤児院で暮らしています、そしてたまにこの国に来て自分より小さい子供たちの為に外の情報と引き換えに食料や衣類などを少しばかりですが調達しにきているのです。」バージは声を落として言った。

確かにリュカは妹がいると言っていたがその事を言っていたのか。とパシィは思った。

パシィはゆっくりと「王に、祖父に会わせて。」とただ言った。

「パシィ様国王様にお会いしたいお気持ちは分かりますが魔術師でも分からない病でございます。万が一パシィ様にご病気がお移りになるか、」バージは戸惑った様子で羽をパタパタ震わせた。

「私は大丈夫。会わせてちょうだい。」とバージの手に触れる、バージはパシィの暖かい手に触れられやさしさと心強さを感じ取り頭を垂れ、承知いたしましたと言った。

「王様にお会いするにはお体を清潔にしていただかないと」とバージは軽い調子に戻って何やら小さな瓶を取り出した。その瓶の蓋を空けパシィの周りに軽く撒いた。

すると見る見るうちにパシィの体の汚れは取れていった、「すごいわ!バージ!」とパシィ。

バージは鼻高々で更に「御召し物はこちらのものを」とバージが金細工でできた戸棚を空けると緑色のと金糸で模様を施した美しいドレスと繊細なティアラを取り出した。

パシィは「きれい、」とパシィは見たこともないドレスに見惚れてしまった。

それにバージは自分の鱗粉を少しかけさらにドレスはキラキラと輝いた「これを着れば王様にもお会いになれますし、魔術師からも威厳を持たれます。」とバージがドレスをパシィに差し出すと「わかったわ。」とパシィはそれを受け取って着替えた。

小柄なパシィには大きく見えたドレスだったがパシィにぴったりと合いティアラはパシィの額の石も隠してくれた。

「とてもお美しいですよ!」と大鏡を持ってきてパシィを映してくれた。

自分の姿を見てなぜだか会ったことのない母さんを思い浮かべたパシィは、自信がついて勇気が湧いてきた。パシィの洋服に隠れていたキクリくるくる回って喜んでいた。

バージはそんなキクリを見て笑っていた。そんなひと時の間をパシィは味わった。

パシィは扉の前で「バージ、王様と魔術師はどこに?」

バージは「国王はこの部屋を出て奥で眠っておられます。」と悩ましく言い「魔術師はこの上の階の奥の王国の間にいます、パシィ様がお越しになるのも予言していたようでして、はい。」と忌々しそうに言った。

「そう、ありがとう!バージ!いってくるわ。」とパシィはバージに手を振ってその場を後にし王の寝室に向かった。

パシィは広間の螺旋階段を上って奥の簡素な扉に突き当たった王様がここにいるのかしら、パシィは疑問に思ったが扉を開けた。

扉の中は冷たい空気が流れていた、息も心なしか白く感じた。白いベールが何十二も重なっていたのでそこをくぐっていった、すると「誰だ」とか細い声が聞こえた。

ベールをめくり終わるとそこには金の施しをした寝具器具、その中に白い老人が眠っていた、いや死んだように倒れていたとでも言うような弱りきっていた。

「こんにちは、初めまして、私はパシィです。」とパシィは丁寧にあいさつした。

老人は「近くに寄ってくれ」と弱った声で言った。

パシィは老人に近づいた、老人は薄目を開けた、その目はヒスイ色で生気は無かった視力は無くなっているようだ、そして震える手でパシィを探した「パシィ、、」と鳴く。

パシィは老人の手を取り「ここにいます」と冷たく老人の枯れているが大きな手を包み込むように握った。

「暖かい、、」と老人は微かに微笑んだ、その顔はパシィの父、グエルを思い浮かべた。

「王様、どうしてこのような病にふけってしまったのです?」悲しそうに聞いた。

「そうさな、戦争で飢えていた頃突然、魔術師が来て王国は豊かになった。私はこの様な姿になったが民を思えば惜しい命ではない。」と静かに答えた。

魔術師が事の発端かとパシィは思った。「この国の民は潤っていますが、外の世は大地は枯れ農作物は取れず、盗賊や孤児で溢れております。魔術師にこの陰鬱な状態を解くよう命をください!」

「私の息子グエルがいない今この国を治めることは出来ぬ。」と息を吐くように言った。

「彼方の息子は生きております、、、。」震える手でパシィは言った。老人は「今なんと、、?」とか細くなった目を見開き始めた。

「私はグエルの娘です。私の父は森の呪いで芳しくない状態です、魔術師から呪いを解く方法を聞きにここに来ました。」とますっぐにパシィは王を見つめ、額のティアラをとった。

「なんとゆうことだ、グエル私の息子が生きていた、しかも孫が目の前にいるだと、、!」王は涙しパシィの顔を触る。

「分かるぞ、この顔はグエルの子供の時の顔だ。こんな日が来るとは思わなんだ、あきらめていたのだ、王の座も何もかも、、」嬉しそうに涙を流す。

パシィは王の力を取り戻してほしいと願った「森の神様、私に力を下さい、、」とパシィの額が光った、すると老人に緑のオーラが纏い輝いた。

緑の輝きが消え、老人は黒い目を取り戻し白いひげ髪も輝く由々しき王の姿であった「見える、パシィ、私は目が見える。」と寝台から起き上がり「パシィお前の力なのか?」とパシィに聞くとパシィは息苦しそう床に倒れこんでいた。宿木としての力の負荷がかかったのだ。

パシィは薄目を開け「良かった。おじい様、、」とだけ呟くと力尽きたようにした、王は寝台から這い出てパシィを急ぎ抱きかかえたとても力強いものだった。

王は「バージニア!」と呼んだ。すると小さな煙からバージニアがすぐさま現れた。

「王様!その雄々たるお姿は!」とバージニアは嬉しくて羽をバタバタさせた。

「バージよ!我が孫にどうにかできないか?」王は必死になった。

バージは「これは魂を蝕むもの、まだ心は残っております。一時的には良くなります、さあこれをお飲ませてください!」とバージは鞄から小さな蝶の羽のついた小瓶を取り出した。

王はゆっくりとそれをぐたりとしたパシィの口に注いだ、ごくりと一滴でも喉に通ったようでパシィの顔色が良くなった。

王は大事そうにパシィを自分の寝台に寝かせた、すると咳をしたパシィは黒い煙を出し意識を取り戻した。

「パシィ!」「パシィ様!」と王とバージが嬉しそうに言いパシィに抱き着いた「苦しいい」とパシィは一言、だがほっとしたようだ。

皆落ち着いたようでパシィが王とバージに宿木の力を受けていて王を癒したことを話した「パシィ、私は愚かだ、王としてすべてをあきらめてしまったことでお前にそのような力を使わせてしまった。すまない。」とパシィの小さな手を握り締めて言った。

その手をパシィは握り返して「すまないとお思いですかおじい様。」

「ああ思っているとも」と涙ぐましく王は言った。

「では王の命で魔術師を説き伏せ王の使命を取り返してください。私も一緒に行きます、父の呪いを解く方法を教えて頂きます。」

「グエルの呪いを解く方法は聞きに行こう、だが私は、、」

「王よ!パシィ様がここまでしていただいたのにあなたは無に帰す気ですか!そのような王のもとでお使いするなど恥でございます!このバージニアお暇させて頂きます!」ふんと後ろを振り向いてバージが部屋から出て行こうとした。

「おじい様!国が良ければいいのですか、外のものは苦しんでいます。どうか!」パシィも強く説得する。

「そうだな、お前たちにそこまで言われてしまってはこのままではいかんな、王として失格だ。私も長らくふけっていてなまけ癖が付いたようだ。」と軽い笑みを漏らし立ち上がった、大きな体でパシィを持ち上げた。

「ありがとう!パシィ目がさめたよ。私が魔術師に指示を出し国を再び治める、そしてお前の父さんの呪いを解く方法を聞きに行こう!」と豪快に笑みをこぼした。

「はい!おじい様!」とパシィも涙ぐみながら笑た。

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