ラットマン

第1話仮

 ———予玖土町 蒼葉邸 地下フロア グレンの部屋にて


「あー……」


 グレンは悩んでいた。

 つうのも研究が行き詰まっていたからだ。

 ショゴス由来の万能細胞、その改造と医療への転用計画……考えついたはいいが問題が多すぎる。

 万能細胞の移植成功例は知っている。

 しかし、動物実験をしてみたら細胞に喰われるのがほとんどだ。

 条件が全くわからない。

 或いはまだ見ぬ条件が……


「へーい、グレン。暇? 暇っしょ! 遊びなさいよ!」


 俺の思考を崩す様にドアが開けられ、一人の少女……紅い悪魔、ケイトが現れる。


「俺ぁ今研究中だ、他当たれ」


 そう言ってケイトをあしらう。

 と言うか研究が煮詰まって若干イラついちまってる。

 良くないな。


「あら? 随分ひどい言い様ね? ケイトちゃん泣いちゃう」


 わかりやすい嘘泣きをケイトはする。


「そんなんでなくタマじゃないだろ」


 ケイトコイツはそんなタマじゃない。

 十万殺しの獣、紅い獣、裏社会じゃ知らない奴はまずいない超危険人物。

 表社会にも太いツテがある怪物それがケイト・リードと言う女だ。


「ぶぅ、つまんないわね? レディを無碍にするのは良くないわよ」


「レディなんざここにゃいねぇよ」


「そろそろ関節技あたり決めた方がいいかしら?」


 そう言ってケイトは伸びをする。

 しばらくしてケイトは俺のベッドに横たわった。


「何で俺のベッドで横んなってるの?」


「そこにあったから。アタシに構うまでここは占拠してやるわ」


「そうかい、ご勝手に」


 そう言って俺は研究に戻る。

 ショゴスの万能細胞が医療に使える様になれば多くの命が救える。

 そうすれば少しでも悲しみが消えていく。

 その為にも俺は命削ってでも結果を出さなきゃならない。


「……馬鹿らしい」


 不意にケイトが呟く

 その言葉はイラついてた俺には聞き捨てならなかった。


「あ゛? なんだと?」


「馬鹿らしい、って言ったのよ。アンタが今研究してるのショゴス細胞みたいだけどそんなの調べて何になるの……まぁ、アンタのことだから医療にでも使うんでしょうけど」


「その通りだよ! それで少しでも救える命を増やす! その為に———


「それって無意味じゃない?」


 は? 

 こいつ今なんて言った? 


「どうせ人は死ぬしそれを変えるなんて無駄よ無駄。と言うかアンタの研究が現実したら殺し屋こっちは商売上がったりなのよねぇ」


 思わずケイトの首根っこを掴み上げる。


「あら? 暴力? アンタらしくないわね?」


「〜〜〜!!! ……はぁ」


 掴んでいた自分の手を離す。


「悪かった。冷静さを欠いていた」


「そうね。あんた後ちょっとで死んでたかもしれないわよ? 相手は十万殺しのケイト様よ? アタシの気分次第でアンタは死ぬし、生きることもできるの。弁えなさいな」


「……なぁ、なら何で俺を殺さない? お前の商売敵だぞ?」


「強いて言えばアンタは使えるから。アタシが死にかけたら治療をしてくれるしゲームの遊び相手にはちょうどいいからね」


「そうかよ」


「そうよ、てことでそんな無駄な研究やめてアタシと遊びなさいよ」


「嫌だね、俺は研究を続ける。居たけりゃ勝手にしろ」


 そう言って再び研究を開始する。

 ケイトはつまらなそうに俺のベッドで横たわってスマホを見始めた。

 そうして数時間ほど研究に没頭した。

 どうにか動物実験は安定し始めたがまだ五分五分と言ったところだ。

 もっと良い結果を出さなきゃ……




「んぁ?」


 どうやら俺は寝ていたらしい。

 ケイトは既に部屋からいなくなっていた。

 研究資料には見覚えのない箇所書きが追加されていた。

 寝ぼけながら書いたのか? 

 にしては微妙に字体が違う様な……

 とにかく一旦息抜きに散歩にでも出よう。

 今は午前の九時か……だいぶ寝ちまったなぁ。

 とりあえず着替えて館を出る。

 そういやここ最近スマホ碌に見てなかったな。

 そう思いスマホの電源をつけてニュースサイトを見る。

 何でも某国の反政府勢力が一夜にして全滅したらしい。

 ……間違いなくケイトの仕業だ。

 …………コイツらにも生きる権利くらいはあったはずなんだ。

 アイツはそれを摘み取った。

 けど国からしたら良いことなんだろう。

 ……おおかた国からの依頼で殺したんだろう。

 国からしたら脅威でしかないから、多くの命が危険にさらされるから、そんなことはわかってるつもりだ。

 だけど、だからって殺すのは本当に正しいのか? 

 わからない。

 命救うのが俺の役目だとしたらこれは肯定できない。

 けど、理論としては至極真っ当だ。

 ……救えない命もあると割り切るのが普通なんだろうな、きっと。




 ———市街地


 街は相変わらず静かだが活気に満ちている。

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ラットマン @GOLDRAT444

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