ちなみに私は公爵になりました(お金ドサッ)

「ど、どういうことでしょう?」

「ああ、ご安心ください。貴族が馬車がないと格好がつかないのでノミ新男爵用に手を付けずにおいてあります、屋敷は……改めて下賜があるかと、色々複雑な事情があるので……御者はこちらの人間を使ってください。御領地の男爵領は賭けられてないので困窮することはないかと。お急ぎを」


 正直なぜ男爵になるのかは全くわからない。父は爵位は賭けてなさそうなのだが……借金の支払いで持ってかれたような感じだ。差し押さえられた爵位が俺のもとに来る理由はよくわからない。


 それに領地は爵位とセットだったりするのだが……この手の賭け事だと特殊な事例があるので爵位はないが領土を統治するみたいないびつなものがあったりする。平民が領主ではやりづらいと思うのだが

 どちらにせよ俺が男爵になるのはおかしいのだが……


「ああ、申し訳ない。服を用意させます。謁見用の服は……仕方ない、差し押さえた服を……」

「終わったら返せばいいのでしょうか?」

「いえ、今後も使うでしょうし……大した金額でもないので、被害者のその後のサポートも我々の仕事です。おい!男爵家当主としての運営に必要なものは戻せ!大した金額ではないから当主の方の借金に回せ!」


 急な展開についていけないのは彼の家族の3人も同じで唖然としていた。だが理解すると笑顔を浮かべ。


「よかったなぁ……エド」

「頑張るのよ、エド」

「本当に良かったよ、エド」


 その家族の本心からの優しい言葉にエドワードはいたたまれなくなり、どう返していいかわからなくなってしまった。


「貴方がたはもうこちらへ。ノミ新男爵、最後に挨拶はございますか?」

「……お元気で!とにかくお元気で!」


 こんな場ではいつも言葉が出てこなくなると嫌気が差すエドワードとそれを知っている家族たちはニッコリと微笑んで。


「お前も元気でな!」

「体に気をつけるのよ!」

「私達のいる場所に噂が来るぐらい頑張れよ!」


 笑顔でそう言いながら、黒服に導かれるままに出ていった。

 エドワードはそれを扉が閉じるまでのわずかな間、ただただじっと見つめ続けた。


「それでは王城へ行きましょう」

「……はい」




 自分以外誰もいない馬車の中、振動に揺られながらエドワードはなぜ男爵になるのかを考え続けたが、答えは出ることがなく……王城へと到着した。


「どうぞ、こちらにお進みください」


 言われるがままに王城に入り、案内された待機場所のようなところで待ち続ける。見渡せば数人の貴族がいるが顔は真っ青だったり喜色をあらわにする人物もいる。

 声をかけようか、どうしようかと思っていると王宮の侍従が自分の名前を呼ぶ。

 着いたばかりでもう呼ばれるのかと思ったのは自分だけでは内容で周りも驚きや不思議な目をしてこちらを見てくる。

 しかし、どうでも良くなったのかすぐに目をそらしてまたそれぞれやっていたことに戻る。会話や、真っ青な顔に戻り床を眺める動作に……。


 謁見お作法も知らないエドワードはどうしようかどうしようかと頭を悩ませながらとうとう謁見の間に着いてしまった。


「こちらです、国王陛下がお待ちですのでどうぞ……ノミ男爵ご入場!」


 その言葉に緊張が頂点を越えたエドワードはぎこちなく歩いていき、彼は知らなかっただろうが本来の停止位置の三歩は前であろう場所で膝をついた。


「えー…………この度はノミ男爵就任を認めていただき……ありがたく、ありがとうございます……感謝に耐えません」

「面を上げよ」


 エドワードが顔を上げると先程の部屋にいたような真っ青な顔の国王が座っており、軽く手を震わせてノミ家男爵就任を認めると震える声で伝えた。


「よくいらしたね、ノミ男爵。国王陛下は少し疲れているのです。そうでしょう?ギャンカス公爵」


 王妃陛下の少しだけ機嫌の良さそうな声に緊張の糸を少しだけたわませながら、ギャンカス家って公爵だったかと軽く考える。

 ちらりと視線を向けるとそこには数時間前に婚約破棄で莫大な財産を築いたギャンカス家の令嬢が端に立っていた。


「ええ、大変だったみたいですね、しかし賭けは絶対ですから」

「ええ、わかっているわ。そうだ、ノミ男爵!ギャンカス公爵は王家の財政顧問になったのよ。ほかにも相談役とかいろいろな役職について頂いたの!ああそうだったわね、ギャンカス家は陞爵したの、あと今日になって追加で公爵位を2つ、侯爵位を4つ、伯爵位を23、子爵男爵は数え切れないわ。そこで巻き込まれた方にだけは下位の爵位は継承させることにしたの、伯爵以上は駄目だけどね。あなたの男爵就任は彼女が推薦したのよ」


 エドワードは津波のような情報量に混乱したもののどうやらこの状況はギャンカス『公爵』令嬢が仕組んだもののようだった。

 しかしよく思えば王妃陛下は令嬢を付けてられなかったような……。


「ああ、説明がまだでした。両親も及び母の実家は破産し私にすべてを差し押さえられました、なので私が当主です。陞爵理由は王家への貢献ですね大金貨を2枚ほど献上しまして……どうせ公爵位も私個人なら元を含めていくつかあるのでそちらでもよかたのですが……」

「どうせなら実家の方をあげたほうがいいでしょ?」

「大金貨2枚で陞爵できるならやすいものです、付属の領地を下賜されるわけでもありませんし……」


 ああ、負けすぎて爵位を売ったんだ、陞爵を売ると表現するかは微妙だが宝物庫が空だから大金貨2枚を捻出できない状況なんだな……。

 宝物庫の金貨をオークションにかけてもよほど珍しい金貨でもない限りは値段も額面通りだろうしな……。


「ノミ子爵になりたいなら今なら金貨250枚で子爵に陞爵させるけど……?」

「いえ、男爵家の領地運用にお金がかかるでしょうから……小さい領土のまま爵位が上がっても面倒事に巻き込まれるので……」

「ね、王妃陛下、賢いでしょう?私の婚約破棄で稼いだんですよ」

「あら、なかなかやるじゃない!やっぱり賢い人って勝ってるのね?そう思わない国王陛下?」

「ああ……」

「しかも胴元になって私の婚約破棄で稼いだんですよ?」

「あら、命知らずね!でも勝てる人間てそう言う人よね、常識とかそう言うものを考えて賭け事をやるならそもそもやらないほうがいいんだし、大きく勝つことを知ってるのはいいわ」

「おそらく胴元をやりつつ私の婚約破棄にかけてますね、胴元なので婚約破棄に少しずつ資金を投入してバランスを取っていったのではないでしょうか?賭けていた人数を考えると払い戻しした形跡はあまり見られなかったので胴元力と賭けに勝った金額でしょう」

「保険を貼るのはいいことよ、胴元利益と賭けた金額は?」

「間違いなく賭けた金額のほうが少ないと思いますが……最初は払い戻しが嫌だったからまっ先に婚約破棄に賭けたのかもしれませんし、噂を聞いて軽い賭けにしたのかもしれません。結果ほぼ総取りですからなかなかやりますね」

「あらあら、じゃあ優先謁見の対象にしておこうかしら」

「良いご判断です、いいですね陛下?」

「うむ……」


 置物と化した国王をよそに2人の会話は続いていき、真っ青だった国王が自分に向ける表情を驚愕に変え、最後に同情に変えた時に謁見は終わった。


「ではノミ男爵、これからギャンカス公爵を支えるように。頑張ってね」

「はっ!全身全霊をかけて支えさせていただきます!」


 こう言われたときってこんな感じでいいんだっけ?とあやふやになった知識を総動員し返事をしたエドワードはニヤニヤした王妃と珍しく驚いているギャンカス公爵の顔を見そびれていた。


「あら?いいんじゃない?」

「…………そう言う意図ではないでしょう、前のよりはるかにマシなのは認めますが……ノミ男爵、謁見は終わりだ」

「はっ、下がらせていただきます!」




「実際どうなの?」

「正直良く知りませんからね、ちょっと公爵家でこき使って判断してみようかと」

「あらあら!青春ね!」


 会話に入れない置物国王は心の底からノミ新男爵に同情をしていた。

 そしてこの後来る爵位を継がせられた人間や、陞爵のためにやってきた貴族を眺めながら国王は現実逃避を続けた。


 2人の王子どうしよう……

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