で、どう筋を通します?

「さ、どうやって筋を通します?」

「普通では利益の何割ですかね……?」

「まぁ2,3割ですね、まぁ利益が大きいからそこまでうるさくいいたいわけではないですが……」

「じゃあ三分の一の金貨100枚でいいでしょうか?」

「思い切りがいいですね……」

「侯爵家にケチって目をつけられたらギャンブルのチップが命になりますからね、それを賭けるほど私は狂ってはいません、150枚だとそれはそれで話が出たときに面倒になるでしょう?」


 侯爵家が半分も持っていけば酒場で気軽に賭けもできなくなる、この話が表に出れば貴族たちはプッシュオーバー公爵家よりギャンカス侯爵家を責めるほうに転じるだろう。それだけ負けた貴族、元貴族たちが多かったのだ。


「そう……思い切りと気遣いの良さに免じてサービスしてあげましょう」

「サービス?」

「今日の授業は中止、家に帰ったほうがいいですよ?」

「クラスの確認は……」

「入学資格を失った方が多いからクラスはまた変わります、無駄ですね……貴族じゃなくなった方が多いですし……それに教師陣も教師の職を失った方が多いので……職員室は大混乱だと思いますよ?」

「全員というわけでは……」

「新入生の担当する1年教師は全員失職が決まってますよ?職務を賭けたんですから、今後の定年までの年収換算で賭けと言ったので乗って差し上げたまで。本来はこんな換算はやらないのですが……負ける方に賭けてくれるならこちらにとってはいい話ですからね、爵位も次代、三代、子孫までの年収換算をしてきましたが……それは流石に無理なので当代のみの60歳までの年収換算で手を打ちました。平均引退年齢の50代でも良かったのですが……わざわざ負ける方に賭けて爵位をいただけるのですから乗って差し上げないと」

「勝つとわかって胴元をやっていたのですか?」

「もちろん、主催者で胴元、自分の婚約破棄に全財産と自分自身を賭けました、それでも勝った方に1000倍近く支払う必要がありましたけどね。それでも皆様はしないに賭けたのですから八百長ではないですよ?パーフェクト予想が私だけなのでほぼ総取りですね」

「……何処で思いついたんですか?」

「婚約が決まってすぐに不服そうですしたからね、歩み寄りを拒絶したので王命とはいえ婚約破棄は出来るか確認を取って行動に出たのですよ」

「それが……」

「ええ、合法な範囲での使い込みです、3割位で反応がおかしいので確信を持ちました。そこでこのギャンブルでひと稼ぎしてやろうと思ったんですよ」


 普通はしないだろうと思うエドワードだが、普通はそれを賭けの対象にもしないので2人揃っておかしい。


「普通はそこでギャンブルにはしないでしょう」

「あの男は器が小さいのですよ、賭けにして婚約破棄しないにかけた人間がどう出ると思いますか?何度も私の話題を出され婚約破棄できない、王命だと伝えれば余計に反感を持つでしょう、5割ほど使ったと思ったところで反応がないのでもう一押しと思って使い込んでいきました」

「ちなみに何に使い込んだのですか?」

「服とか私物、あとは婚約破棄するに賭けたお金にしましたよ」

「ちなみに最後の決め手は何だったのですか?」

「婚約破棄は可能であることをそれとなく平民が聞き耳を立ててるところで囁いただけです、どうせ平民には難しい話はわからないので都合の良いことを言ったのです。家の運営にまで支障をきたせば婚約破棄される、まだ侯爵家の財産は大丈夫らしいと。後は勝手に恋い焦がれる公爵子息に告げ口をすると思ったんですよ。まぁあの感じだと恋い焦がれてたかはわかりませんが……正義感で伝えたかもしれませんね。この手の女性は貴族も平民も参加資格もないのに出しゃばってさぞ婚約者のように振る舞うものですから」


 心底どうでも良さそうにつぶやくエレノアはそんな女性ばっかなのかとドン引きするエドワードに気づかなかった。


「まぁ貴族のバランスは完全に崩壊しましたし、早めに家に帰ったほうがいいですよ?」

「やはり賭けてましたか……あの感じは負けたのでしょうね」

「ええ、夫婦親子揃って……あなたは違いましたね。まぁ……やはり家に戻ったほうがいいですよ。今生の別れになるかもしれませんし」

「えぇ……わかりました……失礼します」


 去っていくエドワードを見つめながらなかなか面白いやつがいるものだと思ったエレノアは聞く耳を持たずに全財産を失った自分の両親に冷めた目を向け処理を指示した。






「ただいま戻りまし……た……」


 エドワードが見たのは差し押さえ、生まれて初めて見る差し押さえ中の現場だった。


「すみません、これは」

「あなたは?ノミ家の方ですか?申し訳ないがあなたが持ってるものも差し押さえさせていただきますよ」

「……何があったんですか?」

「未払ですよ、賭ける金もないのに賭けたんです、爵位を金銭換算してもでも返せないからこうして我々が……」


 ショックを受けるエドワードに一番偉いのだろうと思われる上等な服を着て座っていた紳士が立ち上がり、こちらに歩きながら話しかけてくる。


「失礼?ノミ家のエドワード令息ですか?」

「ええ、そうです……」

「お前たち、この人はいい、無関係だ。財産を没収したら違法だ!失礼、部下の教育がなっていませんでした。まずは確認だと言ったのに、ご令息の部屋はどちらですか?屋敷は接収しますがご令息の部屋のものは手を付けないようにしておきますので、引っ越しなどはこっちが請け負います。無関係の人間に被害を与えるのは取り立て人として失格ですからね」

「私の部屋は2階の一番手前の部屋です」

「そこのもの運び出してないな!よし!……しばらく騒がしいですがごゆっくり、ご両親たちは食堂にいらっしゃいますよ」

「……ありがとうございます」


 絵画を外され、ソファを運び出され、引っ越しであってほしいと思いたくなるような惨状に目をそらし食堂へ向かうエドワード。

 扉を開けてみた光景はまさに負け犬の墓であった。


 食堂備え付けの長机はすでに無く、それに合わせた椅子もなく、適当に引っ張ってきた統一されていない椅子に三人が座っていた。


「ああ、エド……今日のを見ただろう?爵位と館を取られてしまった……それでもは……払えなかった……オークションでは金貨が飛び交い、大金貨ですら1000枚単位で飛び交ったのに……もはや我が家にはなにもない」

「私も全財産を賭けたのよ、エド。そこで二重賭けになってたから屋敷2つ分になっててね、払えなかったの……」

「屋敷3つ分だよ、俺は継承権も賭けちまったけど……この分じゃ賭けなくても意味がなかったな……」


 それぞれが個人の財産と合わせて屋敷を賭けたせいで金額が膨れ上がり破産してしまったというまさかの展開に呆れたが、ギャンカス侯爵令嬢が”負ける方に賭けてくれるならこちらにとってはいい話ですからね”といったことはこういうところか、勝ったらそれぞれが屋敷1つ分の賭け金ありきの金額を請求したのだから負ければ3つ分請求が来るのも道理だ、負けても払うと言っていたことで信頼があるのだ、賭けた側からも反論もなかった、逆は絶対に取るだろう。


「これからどうなるのでしょう?」

「私は平民だな、斡旋先で稼いで借金を返す……子供に払わせないように代理返済は不可だそうだ」

「私も実家に帰れないし、針子でもして稼ぐしかないわね……どんな斡旋かまではわからないけど……」

「俺もだな、エドは賭けなかったのか?」


 ただの胴元やってましたとは言えず、言ったところで金貨300枚では焼け石に水、代理返済もできないのでなんの意味もない。


「ギャンカス侯爵令嬢を見たのは今日が初めてだったしね」

「なら、エドは大丈夫だな、最悪の場合何処かに住む場所を提供してもらえるだろう。ギャンブルの被害者の扱いだからな」

「唯一の救いね、勝てると思ってやるギャンブルは絶対失敗するわ、気をつけなさい」

「ギャンブルは自己責任、俺達の負け分でエドが働かされなくてよかったよ……じゃあね、会えるかわかんないけど……」

「お話は終わりましたか?査定が出ました」


 先程の紳士が食堂に入ってきてそう告げる。


「賭け金の不足は屋敷2つ分、総じて売り払ったところで到底届きませんこの屋敷が約大金貨3枚、屋敷を接収してなお大金貨6枚たりません、屋敷のものを売り払っても大金貨1枚にはほどお遠いですね、それでは残りの人生で頑張って大金貨6枚を稼いでください、ギャンブルも可ですよ」


 無一文の三人に酷なことをいい紳士はエドワードに向き合った。


「それでは事情が変わりましたので……エドワード様、あなたがノミ男爵になることが決まりました。王城へ向かって下さい」

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