貴方が胴元ですか?
エドワード・ノミ男爵子息は阿鼻叫喚の中で家族のいる席を見た。
父であるコック・ノミ男爵は頭を抱えている。兄であるフルフラ・ノミは呆然としているのが新入生席からでもよく分かる。
友人のマッタ・マケタンカーも客席を見てため息を付いている。周りを見渡せば今日は家族の葬式なのかと言わんばかりの感じでこちらをちらりと見てため息をつく。
「さぁさ、ベルット子爵大森林の権利書を持ってきてますよね!?」
「はい、どうぞ……」
「ハイ確かに、きちんと支払っていただいて大変助かります、払わず逃げる方もいりゃっしゃいますので、ねぇツーカ・イッコミー伯爵!」
「いや、ちょっと……トイレに……」
「皆様!イッコミー伯爵は先程おっしゃったように爵位を賭けました、皆様がちゃんと負け分を支払い、賭けの代償を渡しているなか逃げようとする方をどう思いますか?」
殺せ!客席からの大合唱である、自分たちが負けて失ったのに同じく負けたやつが失わず逃げるなど許されない、勝った側も伯爵位の価値の金銭が乗れば支払額が上がるのだ、逃がすわけがない。
「イッコミー伯!私は全財産賭けて離婚危機なのに逃げる気か!爵位と家と領地は賭けても国の役職は賭けてないぞ!ただでは済まさんぞ!」
それどころではないだろう公爵の怒りに飲まれてイッコミー伯爵はゆっくり壇上に向かう。
「はい、こちらが譲渡契約書です、持ち込んでない方もいらっしゃるでしょうからこちらで用意しておきました。さぁさ、サインをお願いしますわ!」
「はい……」
ツーカ・イッコミー伯爵改めツーカ・イッコミー氏になった男はしょんぼりと出ていった、家族はいないか来てないようだ。帰ってからが大変だろう、領地は失ってないが今後部下の男爵や子爵にどう接するかを考えたら気が重くなるだろう。
続々と集まり目録を渡したりサインをしたりでトボトボ帰っていく、ギャンブルが終わった後によく見る光景だ。
「それでは勝った皆様!負けて支払った後に帰っていらっしゃらない保護者の方もいらっしゃいますが、現金化までしばしお待ちおくださいませ!今支払える方はリスクテイカー王妃!大金貨5枚と金貨800枚!(5億8000万)」
どうやら婚約破棄するにかけて支払われる倍率は1160倍らしい。
読み上げられていくものの大金貨10枚100枚が舞い散る高配当ギャンブル、勝って当然の戦いに大きく賭けたのがこうもいれば、賭けた額が少なくても倍率を考えればそんなものである。買った側も確証がないので金額を抑えたが、まさか王命の婚約を破棄するとは思っておらずまさかの大勝である。
一方負けた人間は王命だぞ、覚えておけよとリスクテイカー公爵家を逆恨みである。もっとも爵位を失って合う機会はないかもしれないが。
続々と支払われる金額に度肝を抜く中でロッティの出番である。
「ロッティ第1王女!大金貨1392枚!(1392億)ツクシータ女伯爵大金貨1553枚!(1553億)」
家族の見る目が変わった気がしたがどうでも良いとロッティは金銭を取りに行く、取りに行かせる?勝った金は自分で取りに行くからいいんでしょうに。重ければ台車を引いてでも運ぶ、それが勝者を敗者に見せつけるということ!
「以上です、土地を担保にした方がいらっしゃいますので、現金化まで待つか他の人が賭けたもので選べるのならここでお願いします。
「王城!」
その一言で大幅にざわついた、まさか国王陛下は王城を賭けたのか?と。よくよく考えると婚約破棄にかけて勝った際にの目録にあったような気もする。
「ガルバッツ公爵、何処まで買いますか、宝物庫まで買うとさすがにオーバーですけど」
「じゃあ宝物庫以外全部買う!」
「まず先に確認が必要ですわ、国王陛下?買い戻せますか?」
「あ、宝物庫を開ければ……」
「宝物庫の中身も賭けの対象金ですわ、ですから跳ね上がったんです」
「離宮のものを売れば……王城はいくらになる?」
「宝物庫の中身を入れて白金貨2枚と大金貨5498枚に金貨936枚(2兆5498億9360万)です」
「宝物庫の中身を抜いたら……?」
「大金貨526枚です」
「買い戻せる!ギャンカス令嬢、フベン離宮のもの買い取れるか?」
「もちろん、離宮の資産価値が立地が悪いので250枚くらいですが、宝物庫次第ですね」
「これで家に帰れますね、あ・な・た?」
底冷えする王妃の声にビビりながら国王は精一杯の威厳を保ちながら頷く。
「じゃあ宝物庫にあるガルバッツ初代の大剣で引いといて、5代前に献上させられて返してほしかったんだ」
「えーとガルバッツ聖剣の価値は……建国神話にもでてますし……数々の逸話、おとぎ話、他国が領土を差し出して欲しがった話が当時換算でも大金貨6000枚でしたし……今では大金貨8000枚ですかね」
「勝った文に自腹足しても良いの!?買い取れるのか?」
「構いません」
「買った!」
その途端、勝った集団が献上させられた品の名前を上げ始めどんどん勝ち分を吐き出していった。
「レグナント初代の元帥杖、大金貨6000枚!」
「大金貨500追加で出すから買い戻せる!王国最盛期の我が先祖の数少ない遺品!10代も前に王家に巻き上げられた品が返ってくる!」
「大軍師ブックメーカー子爵の書籍一万冊分脚注あり直筆!大金貨3000枚」
「買った!差額は大金貨で払ってくれ!先祖の書籍が戻ってきたぞ!やった!やった!」
そうして緊急オークションをするうちに宝物庫の財宝は消えていき残ったのは初代国王の儀礼剣のみになった。
王家は今までどれだけ巻き上げていたのか……。
「初代国王の儀礼剣、金貨500枚」
「じゃあ一応余ってるし買っておこうかな、入札」
「あー一応プラス金貨5枚」
「やめとく」
ドラゴンを倒した伝説を筆頭に様々な逸話にまみれ初代皇帝が欲したものの拒否された初代ガルバッツ公爵が愛用したガルバッツ聖剣、一番大きな戦いでは100倍差を打ち破り、勝つ度に高価な宝石が埋め込まれていき、高価な芸術品と化したレグナント元帥の元帥杖、名作家にしてレグナント元帥の軍師だったブックメーカー子爵の直筆の本や脚注付きの本一万冊以上。
それと比べるとこれと行って逸話もなければ素晴らしい知識の息吹もなく歴史くらいしかない初代国王の儀礼剣は国宝としては普通の値段だった。それでも高いことは高いのだが。
比較的少額である金貨数十枚の宝石などはツクシータ女伯爵が落札し続けて大金貨10枚くらいの買い物をしており、他の参加貴族も家と関係があるものは優先的に落札権があるので買い求め、無関係な文化的なツボなどを次々とオークションで買い占めていく。なぜならギャンブルで大勝ちした上に宝物庫が開かれることは今後ないか、多分今日で空になるから。
昔の国王が他家から巻き上げた財宝のほうが価値があった事を知った国王はとうとう儀剣まで失った、しかも賭けの対象なのでこれで城は買い戻せない。次代のときに使うこともできない。
これにて歴代国王が溜め込んだ宝物庫は殻になった。王族の財布や金庫は流石に賭け対象にはならない別会計なので問題はないが。それでもここまで無くなるとは思っていなかった。
「とりあえず離宮を売って欲しい、宝物庫もセットで目録はあるはずだ」
「そういうと思って取り寄せておきました、フベン離宮大金貨256枚」
「半額か、まぁ仕方ないな……」
「いませんね、じゃあ私が買い取ります。宝物庫、歴代国王愛妾のドレス、まずベル……」
「買った!全部買う!ファンなんだ!全買いで!」
「えーベルドナ嬢のドレスですがよろしいですか?」
「全部買う!」
「おおよそ1万着以上、戴冠式で来たものもあり歴史的な価値があります、全部で大金貨500枚はかかりますが……」
「買う!」
「では購入で、一応ここで王城は買い戻せますが……フベン離宮を買い戻すまで続けますか?」
「いや、いい……離宮の宝物庫のものを王城に運んでくれ」
「はい、輸送費はいただきますね。もう私の離宮ですから」
「……もう数品売ってくれ」
新入生と在校生を放置して進んだオークションは終わりを迎え、新入生代表の挨拶も在校生挨拶もカットされ即解散となった。
さてと、俺は気合を入れ立ち上がりクラスへ向かうこととした。最も教師も負けた額を支払いに行ってるので今日授業があるかは疑わしい。教師の地位賭けてそうなやつがいるだろうし。
「そこのあなた、お名前は?」
「えっ、あっ……エドワード・ノミです、ノミ男爵の次男です……」
「ふぅん、他の家族は負けたのに貴方は勝ったんですね」
「えっ、いや、そんなことはないです、私はギャンカス令嬢の賭けには参加してませんし……」
「ええ確かに、新入生で賭けに参加しているのはもう爵位をついだ方くらいですわね、親から巻き上げたかもしれませんが。私が言いたいのは新入生相手に婚約破棄で賭けをして貴方がボロ勝ちしたことですわ。貴方のお隣のご友人が落ち込みながらも何かを渡すのは見えてましたし、他にも前から渡していったり、混乱に乗じて何かを渡すのが見えました、それに立ち上がる時すごく大変そうだったでしょう?両替いりますか?」
「…………お願いします」
大量の小銭を両替してもらい俺はギャンカスレ以上と対峙した。
「流石に大金貨まではいきませんでしたね、まぁ考えてみれば新入生の貴族をかき集めても大金貨1枚は搾り取れないでしょうね、それでも金貨300枚総取りは大したものですよ」
「ありがとうございます……それで何でしょうか」
「請求ですよ、私の婚約破棄にかけたんでしょう?その分の請求です」
「賭け事で勝った後で買った人間に対象が請求してきた事例がないですよ」
「ええ、買った人にはそうですけど……あなた新入生相手に私の婚約破棄の賭け事を斡旋してましたよね?胴元なら直営で本人がやってる胴元に通さなければいけない筋があると思いませんか?」
ぐうの音も出ない正論だった。
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