第3話 乙女の牙の研ぎ方

 セルフレイティングを残虐表現ありから暴力表現ありに変更しました。


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 原作ではヴァルツキラキラ第三王子とイリーシア公爵令嬢は婚約関係にあり、そこに主人公が入ったことで話が進んでいく…はずだったんだけど、なんかおかしい。すごく和やかだ。

 まあ、私としても目をつけられないほうが嬉しいんだけど


「そういえば私の方こそ自己紹介をしていませんでしたね、ブライマンハッター公爵家の長女、イリーシアと申します。以後お見知りおきを。」

「は、はいぃ。鍛冶屋ゴーンズの娘カレットです。」


「よろしくお願いしますね。」


 優雅に挨拶するイリーシア様に恐縮しきりに返答する私、それを楽しそうにイリーシア様は笑っている。


「そろそろ時間だ。席につこう」


 キラキラ王子が促してきたので、私も空いている席に着く。少しすると教室にメガネが入ってきた。いや違うメガネが入ってきたんじゃない、入学式の講師紹介で見覚えのあったメガネが入ってきたんだ。じゃあやっぱりメガネが入ってきたのであってるのか?どっちでもいい、確か攻略対象の一人だったはず。


 メガネが教壇に立って挨拶を始める。


「君達、ごきげんよう。今年一年君達の担任をするレイナード・マイヤーだ。よろしく頼むよ。

 私は書類上では君達のことは知っているがそれ以上は知らないし、君達の間でもよく知らない子がいることだろう。

 なので、まずは自己紹介から始めよう。名前と出身、得意な属性、それと一言アピールがあればいいかな。まずはそっちの君から。」


 レイナードメガネ先生に当てれた子から順番に自己紹介をしていく、わかっちゃいたけどみんな貴族の子供だ。


「ヴァルツ・ニコラウス・フィルグレン、得意な属性は光属性です。皆とともに魔術を学びたいと思っている、気軽に声をかけてくれると嬉しい。よろしく頼む。」


 ヴァルツ王子が自己紹介をするがすごくキラキラしている、やっぱり属性が関係しているのかな。みんなも見とれている。その間も自己紹介は続いていく。


「ブライマンハッター公爵家、イリーシアです。得意な属性は無属性です。皆様とは魔術について語り合いたいと思っております。よろしくお願いします。」


 あれ、イリーシア様って風属性じゃなかったっけ?そんなことを考えていたらついに私の番が回ってきた。


「ベルヘンリッター男爵領ローディン町出身の鍛冶師ゴーンズの娘カレットです。得意な属性は水と土。地元でのアダ名は『ゴーンズの狂犬』です。よろしくお願いします!」


 そう、これが今の私だ。訓練するうちに成長した余りある魔力で身体強化し、肉弾戦と魔術を併用しながら戦うスタイルを確立した。そしてこんなアダ名が付いたのは理由がある。


 ウチのお父ちゃんは日用品を作る鍛冶職人だ、日ごろ使う釘や鍋、包丁あるいは鉈や斧といったモノ、そして素材を問わずに作っている。ウチの銅鍋なんか料理人に評判がいい。


 ある時、近くで武器職人をしている鍛冶師が「おまえんとこはいつもショボクレてるなぁ、ロクな腕してねぇから鍋なんて打ってんだろ」と舐め腐ってきやがった。

 その日にそいつの店に行き、商品の武器という武器を全部へし折って回った。その鍛冶師はやめてくれと泣き叫んできたが職人というのはナメられたらダメだ。ウチのお父ちゃんをナメたやつを許すわけにはいかない。お前は小娘にへし折られる程度の武器しか打てない腐れ鍛冶師だ、思い知れと言ってやった。ちなみに工房の方へは一切手出ししていない。


 後日鍛冶師ギルドからの呼び出しがあり、何故こんなことをしたのかと問われたけど、武器を打ってるというだけでウチのお父ちゃんを舐め腐りやがったからやった、ガキに折られる程度の腕しか無い鍛冶師だと思い知らせてやっただけだと素直に答えたらやりすぎだと怒られた。


 またある時は冒険者二人がウチの店に来たと思ったら、「ここは剣置いてないのかよ、外れだな」とか言いやがった。そいつ等をぶん殴って気絶させて冒険者ギルド前まで引き摺っていき、その頃にはある程度モノになっていた土魔術で首まで地面に埋めてから目を覚まさせて、そいつ等の得物を顔面に向けてぶん投げてやる、勿論当てる気はない。「おい、お前らハズレ冒険者か?当たり冒険者っていうなら、次は当ててやる。」 って言ったら「俺達はハズレ冒険者です!」って曰うから、夕暮れまで叫ばせたところ翌日からそいつ等は見なくなった。


 後日冒険者ギルドから呼び出しがあり、何故こんなことをしたのかと問われたけど、無いものは無いで仕方ないがアイツラは外れとウチの店を舐め腐りやがった、冒険者ってのはナメられたら終わりだろう。

 職人だって同じだ。それとも冒険者ギルドってのは職人を舐め腐ってもいいと公言してるのか?舐められた以上は叩き潰すと答えたところ手加減を覚えろと言われた。きちんと手加減してかすり傷程度に抑えたこともきちんと伝えたんだけど、理解してもらえなかった。


 そんなことを繰り返していたら『ゴーンズの狂犬』などという不名誉なあだ名で呼ばれるようになった、言っておくけど私は自分から喧嘩を売ったつもりは一度もない、売られた喧嘩を買っていたら何故か私がいつも怒られただけ。


 勿論原作にそんな設定なんて無くって何処で違ったんだろうかと疑問は浮かぶけど、きっと原作のカレットもお父ちゃんの店を守るために一生懸命になっていたと思うから、私は間違っていない。


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 自己紹介やレクリエーションも終わり初日の課程は終了した。


 原作だと、この後に中庭で王子と衝突イベントやイリーシア様の悪役令嬢イベントが発生するはずなのだけど、どうにも全体的に状況がおかしい。行くべきか行かざるべきかとウンウン唸りながらも、脚は自然と中庭の方へ向かっていく。


「む~、向かわなくても変に修正が入りそうだし一応向かってみたほうがいいのかなぁ。」


 思い出すのは今朝のこと、イリーシア様とのイベントを回避しようとしたのだが、結局出会うことになった。

 それを思えば変に逃げ回るより体当たりでぶつかって行ったほうがいいのかもしれない。


 とりあえず向かってみるかと覚悟を決めたところで、意識は王子とイリーシア様へ向かう、なんだろう親しくはあるけど親密ではないそんな感じがする。

 まあ親から言われた許嫁なんてそんなもんかもしれないけど、今まで許嫁そんなものがいなかった私にはよくわからない。


 やっぱりウンウン唸りながら、中庭にあるガゼボへ向かう。あそこにイリーシア様がいたはずだ。


 ドン


 体に衝撃が伝わる、誰かとぶつかってしまったらしい。私は謝ろうと相手の方を向く


「きさ…!」


 殺気を感じ瞬時に私の中のスイッチが切り替わり全身に魔力がみなぎる。ぶつかってしまった人物の私から見て右後ろに護衛と思われる人が剣に手を伸ばし掛けている。

 私を大きく右足を踏み出して間合いを詰める、左足を引き寄せて相手の懐に入る、相手はようやく剣に手がかかったところだ。

 私は渾身の右フックを放つ。ここからならば相手に抜かれたとしても、腹を少々斬られる程度で、私のほうが先に相手を撃ち抜く!


 ぽすん


 そんな擬音がきこえるような優しい感触で、私の拳が止められた。相手の剣も同様に私の体の前で止まっている。


「そこまでよ。」


 イリーシア様の声がして私は相手から離れて警戒を解く、ちなみに相手には私の右が止められた瞬間に切り替えして左のリバーブローを叩き込んでおいたので、今はゲロ吐きそうになっているが私の知ったことじゃない。無闇に人に殺気を向けるやつが悪いのだ。


「カレットさん、わたしは止めましたよね。」


「はい、イリーシア様。ですのでお止めの声がかかってからは拳を振るっていません。お声がかかる前に一発入れてやりました。」


 イリーシア様が困った顔をしている。止めた後なら面子を無視したことで問題になるが、止める前であれば問題にはならない、それに相手も抜刀している。

 だが、貴族の護衛が特待生相手とはいえ、市井の民に容易く殴り倒されるのはそれはそれで問題なのだ。


 まあそれはそれとして、私はぶつかってしまった相手に謝罪をしてない無いことを思い出して、ペコペコと頭を下げる。


「大変申し訳ありません、考え事をしていたとはいえ。ぶつかってしまい失礼をいたしました。」


「ああ、うん、そこまで気にしないでくれ。」


 そこにはヴァルツ王子が立っていました。あれ?衝突イベントやって武力衝突だったっけ?


 ************************


「まあ、いいわ。少しお茶にしないかしら?」


 イリーシア様の言葉で、改めてイリーシア様、ヴァルツ王子、ゲロの人、私でガゼボへ向かう。流石に王子様、お姫様に護衛を抱えさせるわけには行かないので私が抱えている。すっごい睨まれてるけど。


 席に着くと、イリーシア様手ずからお茶を入れて回って下さる。大変申し訳なくて声をかけてしまう。


「あの…私が…」

「あら、貴女お茶をいれることが出来るの?」

「いえ、…出来ません」

「ふふ、じゃあ大人しく座ってなさい」


 正直、生まれ変わってからお茶なぞ、ロクに飲んだことがない。大体エールか湯冷まし、祝い事があればピケットが飲めるくらいだった。

 水魔法があるじゃないかって?バカにしちゃいけないコップ一杯どころか、樽いっぱいの水生成が昔は制御できなかったのだ、今だって怪しい。

 とりあえず神父様経由で領主様にお願いして適当なところに土魔法でため池を作らせてもらって、そこに水魔法ブッパしに通ったのを憶えている。


「さて、何から話しましょうか。」


 お茶を配り終えて席についたイリーシア様が促してくる。カップを持つ姿がとても優雅だ。


「ふむ、そうだな。カレットは何故こちらに来たんだ?」


 王子が乗っかって、私に訪ねてきた。


「えっと、学園を知るために散策してみようとしていたのと、少し考え事をしていたら自然とこちらへ」


「そうか、ちなみに何を考えていたんだ?」


「今日の晩ご飯のことです、朝昼と出て夜は何が出るんだろうと。一応の礼法は学びましたが食べ方に困るものじゃなければいいなぁと」


 とっさに適当な嘘をついたけど、別の時に思っていたことは本当だ。


「コイツは傑作だ。おい、へルグよ。お前は夕飯に負けたそうだ。」


 ヘルグと呼ばれた護衛の人は、悔しそうに睨んでくる。だから私のせいじゃないってば。


「そもそも、その者は何者ですか。並の身のこなしではありませんでしたよ。」


「すいません、殺気を感じたのでつい」


「ついの範疇の力ではなかったが?」


「そちらも剣を抜いたのでお相子かと。」


 ヘルグは因縁をつけてくるが、こちらとてただで斬られてやるわけにはいかないし、そのことを伝えるしか無い。


「それで、殿下は何故こちらに?」


 これ以上は埒が明かないと思ったのかイリーシア様が会話を流してくれた。


「ふむ、私の方も特に用がなくてな、なにか面白いものはないかと散策していたのだ。」


 あれ?ここで婚約者同士の二人が会いに来ていたんじゃないの?


「まあ、存外に面白いものは見つかったさ」


 王子がこちらに視線を向けてくる。


「さて、イリーシア嬢は何故こちらに?」


 イリーシア様は持っていたカップをテーブルにおいて静かにおっしゃられた。


「私は…ここで婚約者を待っておりました。」



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 乙女ゲーってこんな感じで良かったんだっけ








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