第23話 スーパーウルトラハイパーミラクルロマンチック -2

「え、冬華と一緒のベッドに?」


「うん。もし嫌だったら、今からでも空いてる部屋を手配してもらって──」


「寝る」


「え?」


「寝るよ。冬華と一緒に寝る。だってほら、今から部屋手配してもらうとか大変そうだし? もう消灯時間だしね?」


にやけそうなのを悟られないように必死で取り繕いながら、私は早口でそう告げる。すると冬華は目をぱちくりとさせてから頷いた。


「そっか。確かにそうだよね? じゃあ私……先にシャワー浴びてくるね?」


冬華はそう言い残し、脱衣所へと消えていってしまった。取り残された私はその場にしゃがみこんで頭を抱える。


え、どうしよう。

今から私、冬華と一緒に寝るの? 同じ布団で? そういうのはまだ早すぎない?

いや、でも冬華のあのサラリとした感じ、女同士で一緒の布団で寝るのって割と普通のことなのかも? 今まで友達が出来たことがないから分からないけど。


でも、友達としてって意味だとしても、う、う……嬉しすぎるーっ!!!!


一人で声を押し殺しながら散々バタバタした後、冬華と交代で私もシャワーを浴び、脱衣所に用意されていためちゃくちゃいい匂いのする少し小さめのパジャマを着て、意気揚々と脱衣所を出る。


冬華はソファに座って、リラックスした表情で温かい紅茶を飲んでいた。ふわふわした素材の白いパジャマを着て、銀色の長い髪を下ろしている。


すっぴんあんまり変わらないんだな。肌めちゃくちゃ綺麗……それにパジャマのふわもこ素材が似合いすぎてる。か、かわいい……。


「あの、お風呂……出ました」


緊張しながらそう声を掛けると、冬華は緩く微笑んでこちらを見上げ、自分の隣をポンポンと叩いた。


「ほら、おいで」


「う、うん……」


ぎこちなく歩いていって隣に座ると、ふわりと温かいシャンプーの香りがして、なぜか胸の奥がぎゅっと苦しくなった。


「紅茶、アイちゃんも飲む?」と聞かれたけど「寝る前だから止めとく」と断った。


私、すごく浮かれちゃってたけど、冬華は私と一緒に寝るの……大丈夫なのかな?

広いベッドとはいえ、今日会ったばかりの他人と寝るのって、抵抗あるんじゃ。


「あ、あの、冬華っ。私……本当に一緒に寝ていいの? あれだったら私、ソファでもいいし、何なら床でもいいんだけど……」


「こら。そんなんじゃ疲れ取れないでしょ? ちゃんとベッドで寝なさい」


「あ……ハイ」


珍しくぴしゃりと言われ、私はそう返事するしかなかった。


「今日色々あって疲れたでしょ? 大変だったのに……本当によく頑張ったね?」


そう言いながら頭をよしよしされる。途端に顔がにやけて、頭の中に花が咲き乱れて止まらなくなった。


いや、実際死にかけるほどめちゃくちゃ大変だったんけど、こうやって冬華によしよしして貰えるならまあ、別にいいかな?

……あれ?


ふと冬華のパジャマを見て、胸のラインがゆったりとしてることに気付く。


「冬華、もしかしてブラしてない?」


「ああうん、そうなの。寝る時はつけてると落ち着かなくて」


「へえ……私は逆にずっと着けてないと落ち着かないや」


胸、私より絶対あるよなぁ。まあ、私が小さすぎるのもあるけど……。

サイズどのくらいだろう? ブラ無しでこの膨らみなら、DかEくらいは確実にありそうな気がする。


「揉んでみる?」


「ふぇっ!?」


「冗談だよ。なんだかすごく熱心に胸を見てたから……じゃあそろそろ寝よっか」


「う、うん……」


私達は寝室へと移動する。冬華が大きなベッドに寝転がり、私も少し距離を空けて転がった。

ふあ、と無邪気な顔で口元を押さえて冬華があくびをする。


こんな時間まで働いてるんだもん。そりゃ眠いよね。毎日こんな遅くまで働いてるのかな? だとしたら、ちょっと心配……。


「もう電気消しちゃうね?」


「うん」


冬華がベッドボードにあるリモコンをピッと押すと、部屋の照明が消えた。


「明日、楽しみだね?」


「うんっ!」


冬華とのデート、すっごく楽しみ!


そう口が滑りそうになったのを既(すんで)のところで堪えた。


人と一緒に寝るのなんて初めてだな。なんか、すごく安心する。

相手が冬華だからなのかな?


「アイちゃん。おやすみ」


「うん。冬華……おやすみ」


就寝のあいさつを交わし、私達は目を閉じた。

冬華の隣なんて緊張して寝れないんじゃないかと思ったけど、疲れてたのと、ふかふかのベッドが心地よすぎて、目を瞑るのと同時に寝てしまった。


翌朝私達は一緒に起きて、朝の支度と朝食を済ませて、私の新居へ向かうためのバスへ乗った。


隊員さんが「車で送りましょうか?」と言ってくれたけど、これからここにバスで通うことを考えて、敢えてバス移動することにした。

二人で並んで座席に座る。バスに乗るのなんて久し振りだなぁ。


「まずはアイちゃんの新居に行こうか。鍵もらってるからもう部屋入れるよ。それから街に出て、必要なもの色々買いに行こ」


「う、うん……」


隣に座っている冬華からはふわりと上品な香水の香りがして、私はドキドキしていた。

冬華は髪を緩く巻いて、ウエストベルトのついた紺色のカシュクールワンピースに、ヒールのあるパンプス。いわゆる大人のお姉さんというスタイルだ。


片や私は学校指定の制服にすっぴん。

髪だけはオイル塗ったりして整えたけど……なんか私、冬華の隣にいるの場違いじゃないかな? 


「アイちゃん。今日行ってみたいところとかある?」


「へ? 行ってみたいとこ? うーん……私ずっとド田舎に住んでたから、東京に何があるかよくわかんないや」


窓の向こうで流れていく景色は、私が住んでいたところよりもずっと都会だ。ビルや家や飲食店。常に途絶えること無く何かが目に入る。

都会って、こんなに色々なものがひしめき合ってるものなんだなぁ。


「それもそうだよね。じゃあ近くにある大きめのショッピングモールに行って、色々見てみようか?」


「うんっ」



それから揺られること一時間。私達はバスを降りた。

冬華と一緒にスマホの地図アプリを頼りに歩くこと十分。冬華があそこだよと指さした。

正面玄関にオートロックのついている、真新しい感じの綺麗な単身者用のアパートだった。


「はえ~……すごくいい感じのところだね?」


「でしょ? ここ女性専用のアパートだから、安心して住めると思うよ」


冬華が革製のショルダーバッグからカードキーを取り出してかざす。

自動ドアが開いて廊下を歩く冬華についていくと、106号室の前で立ち止まった。


「ここがアイちゃんのお部屋です」


冬華がにこりと微笑んで私にカードキーを差し出す。

それを受け取ってかざすと、ガチャとロックが解除される音がする。私はドキドキしながらドアを開いた。

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