第18話 HALF-1
「えーと永月って……どの永月?」
「? 私の知り合いで永月くんは、さっきの子一人だけど」
「え、私あいつと組むの? ……しかも初手から?」
「まあ、アイちゃんにとっては、永月くんが初めての任務かつ初めてのバディの相手になるだろうね」
「…………」
「アイちゃん?」
固まってしまった私を、冬華が不思議そうに覗き込む。
どうしよう。初めての任務でただでさえ自信が無いのに、余計に自信が無くなってきちゃった。
あいつと協力とか絶対したくないんですけど……。
でも今更「無理です」なんて絶対言えないよ。冬華をがっかりさせちゃうだろうし……。
「アイちゃん、なんだか顔色悪いね? 初めての任務で緊張してる?」
「う、うんまあ……そんな所かな? あはは」
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ。永月くんは6課で最年少の子だけど、他のベテラン勢に引けを取らない実力者だから。初めての任務のバディとしては、とても頼りになるくらいだよ」
「そうなんだ? いや、まあ……冬華の為に、頑張ります」
やっぱり嫌なんて絶対言えない。なんか冬華……すごく期待した目で私のこと見てるしっ!
「それで、今回の任務はどんな感じなの?」
「簡単に言うと、これからアイちゃんには高校に潜入してもらって、『わるい宇宙人』を探し出してやっつけてもらいます」
「高校に……潜入?」
予想外の言葉に私は思わず復唱する。なにそれ。漫画とかラノベみたい。
「私立
「え、あ……そうだったんだ」
改めて自分の着ている制服を眺める。白いカッターシャツに青いリボン。紺のブレザーにグレーのプリーツスカート。
目が覚めた時になんで制服着てるんだろうっておもってたけど、そうか、任務の為だったんだ。
「高校なんかに宇宙人がいるの?」
「ほら、さっき『宇宙人は知能が高い』って言ったでしょ? そういう学校にはね、宇宙人がよく紛れ込んでるんだ。『いい宇宙人』から『わるい宇宙人』まで、多種多様にね」
「そうなんだ……でも私、勉強とか全然駄目なんだけど、大丈夫かな?」
「大丈夫。そこの根回しは、上の人達がちゃんとやってくれてるから。アイちゃんは書類上は『ただの転校生』として学校には処理される予定だよ」
「そうなんだ……」
学校かぁ。全然いい思い出が無いや。死ぬ前に通ってた学校ではずっと虐められてたし……まあ、冬華に言われたから、ちゃんとやるんだけどね。
複雑な気持ちのまま、私は冬華の話を聞いていた。
「最近『曼荼羅高校の生徒が突然失踪する』という相談が相次いでるって話が、6課からこっちに上がってきたんだ。先月から昨日までに掛けて既に5人。学年も性別もバラバラ。家庭に問題を抱えてるとか、交友関係で悩んでいるとか、そういう問題を一切抱えてない子ばかりね。そこで私達スリーシックスと6課は、『これはきっと宇宙人の仕業だろう』と目星をつけて、捜査を始めたの」
「? なんでそれだけで、宇宙人の仕業ってことになるの?」
「守秘義務があるから詳しくは話せないんだけど。失踪するまでの経緯と状況を聞いていると、今までわるい宇宙人が引き起こした誘拐事件に酷似している点がたくさんあったの。宇宙人──特に『わるい宇宙人』は地球人を巧みに洗脳して、自分の惑星に連れて帰ってしまう事があるからね」
「連れて帰るって、一体何のために?」
「人体実験だよ」
突然飛び出してきたグロテスクな言葉に私はぎくりとし、口をつけようとしていたカップを思わず止めた。
「宇宙人は知的好奇心が旺盛なの。自分達と地球人の身体の違いを理解するために、様々な人種の地球人を連れ去っては隅々まで解剖し、その骨や臓器の構造を調べたり、脳に特殊なチップを埋め込んで、永続的に働く奴隷として飼ってみたり……私達には到底想像もつかなほどに人権を無視した、色々な使い方をしてるみたい」
確かに昔テレビで人間がUFOに連れ去られちゃう話とか見たことあるけど……あれ、本当にあることだったんだ。
「それで、その誘拐事件の犯人が、曼荼羅高校の中にいるかもしれないってこと?」
「そう。生徒に紛れているか、教師として働いているかは定かじゃないんだけど、校内にいることだけは確かだよ」
なんせ私の『女の勘』が、そう言ってるからね。
涼しい顔でそう告げて、冬華は優雅な所作で紅茶を一口飲む。
「う~ん。潜入捜査なんて、聞けば聞くほど難しそうな任務なんだけど……本当に私で大丈夫なのかな?」
「大丈夫。私が潜入するよりは、アイちゃんの方が犯人を見つけ出す可能性は限りなく高いよ」
「どうして?」
「宇宙人と宇宙人は自然と引かれ合うものなの。きっと色々な宇宙人が寄ってくるはずだよ。今回の事件の犯人も、きっと何かしらのアクションを起こしてくると思う」
「じゃあ私のバディもホルダーの方がいいんじゃないの? ホルダーは全員地球人と宇宙人のハーフなんでしょ? なんで永月なの? あいつ人間じゃん」
「あれ、聞いてない? 永月くんはアイちゃんと同じ──半分人間半分宇宙人の『ハーフ』だよ?」
「え、そうなの?」
「うん」
「…………」
「どうしたのアイちゃん?」
「ううん、なんでもない……じゃあ私、明日から高校に通うんだね」
「今はまだ春休み期間だから、4日後からだね。曼荼羅高校はここからバスで一時間掛かっちゃうから、アイちゃんの通学事情を考慮して、高校の近くにアパートを借りてるんだ。急なことになっちゃったし、明日から3日間は、新生活の準備に当てていいよ」
「……うん。分かった」
一人暮らしか。実は密かに憧れてたけど、今はそんなの全然嬉しくないよ。
だって、せっかくこれから冬華とずっと一緒にいられると思ったのに……離れ離れじゃん。
意気消沈して、シュンとしながら俯いていると、ふいに白く滑らかな手が私の手をそっと包む。
顔を上げると、冬華が口元に笑みを称えて私を見ていた。
「実は私、明日有給取ってるんだ」
「え……有給?」
「良かったら明日ね。アイちゃんの新生活の準備……私も手伝ってもいいかな?」
手を握ったまま、冬華が首を傾げてにこりと微笑む。
その言葉を聞いた瞬間、私の下がりっぱなしだった見えない尻尾が、ぴこんと上を向いた。
有給ってあれだよね? 社会人がお休み取るってやつ。つまり明日、冬華は休み。そして一緒に新生活の準備をしたいと。
それってつまり──デートじゃん!?
私は勢いよく立ち上がり、冬華の手を握り返す。そして驚いて目を丸くしている冬華へと顔を近づけ、見えない尻尾をぶんぶんと振り回しながら言った。
「手伝ってくれるの!? 冬華が!? もちろんオッケーだよ!? うん! 明日一緒にデ……新生活の準備しようっ! うわ~! 急にやる気湧いてきちゃったー!! 頑張るぞお~!」
有頂天になり、握った冬華の手をぶんぶんと振ってはしゃいでいると、突然執務室の扉がバアンと音を立てて開いた。
手を握りあったまま冬華と二人で扉の方を見る。すると開いた扉がドカンと音を立てて、カーペットの上に倒れてしまった。
部屋を遮る扉が完全に撤去されてしまい、風通しの良くなった執務室に、誰かが踏み込んでくる。
そこに立っていたのは──金髪碧眼で鋭い目つきをした、ポニーテールの外国人美女だった。
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