[第四十五話、|阿離我拓《ありがとう》風華国]
最低だ俺って..
「荷物をまとめたら全員庭まで出てきてくれ」
レイヴンはそう言うと一番に階段を降りていった。
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合宿最終日
「悠馬実は昨日ルナ先輩に」
「悪いジョン今はお前の話しを聞いてあげられる余裕がないです」
「昨日なにがあったの?凛と一緒に花火見たんじゃなかったの?」
「いや、それが……あっ!凛」
凛は俺をチラッと見るだけでなんの言葉も発さず無言で下に降りていく
あぁ……ほんと俺って最低の男だ..
と落ち込んでいると隣でレオさんも同じように撃沈している。
「よぉ、悠馬も昨日の花火最悪だったのか」
「最悪というか自業自得というか」
「一緒に撃沈してる俺が言うのもなんだが時間が解決してくれるさ」
そう俺の肩をポンポンと叩きクソデカため息をつきながら帰る準備を始めた。
「ねぇ、凛アンタ悠馬となんかあったの?」
「どうして?」
「だって朝から2人ともまぁそれ以外のメンツも何人か顔が死んでるけど、とにかくなんかあったのかなって思って」
悠馬と花火を見ることは誰にも言ってなかった凛は誤魔化すようにレイラに言葉を紡いだ
「ホントになにもないよ..私は一人で花火見てただけだから」
「そぅ……ならいいけど」
ジュリアも昨日のことを皆にバレてはならないと思い、いつもなら手より口が動くはずが今日に限っては手がよく動くそんな気持ちで荷物をまとめていると横にフェイが座り問いかける。
「昨日どこおったん」
「き、昨日はえっとー」
「悠馬とおったんやろ」
「実は..足を捻っちゃって看病してもらってたの」
「はぁ…」
「どうかしたの?」
「アンタ悠馬が凛と花火見る約束してたん知らんかったん?」
「誰かと約束してるって凛ちゃんの事だったんだ..全然知らなかった」
「凛、何時間も待ってたみたいやで」
「それは悪いことしちゃったな」
えへへと笑うジュリアに少しイラつきを感じたフェイは
「可愛かったらなにやっても許されると思ってたらアカンで正直今回は見損なったわ悠馬のこと好きなん知ってるけどほんまに好きなら正々堂々と戦わなアカンやろ」
「フェイちゃん…」
「ちょっとは反省したほうがいいとちゃうか」
フェイはそう言うとジュリアの頭を軽く叩き自分の星獣に声をかけ階段を降りていった。
ようやく全員が揃ったのを確認したレイヴンが誠司に「では、お願いします」と声をかけると誠司は蔵を開け中に入り一枚だけ色が違う床を足で押す、すると地下に続く階段が現れた。
「この下に魔王の身体が封印されてるとの事だ男連中だけでいい一緒に地下に来てくれ」
レイヴンに続き男達は地下へと下っていく
地下はすこしひんやりとしていて、なんだが怖い感じがする。
「お化けとかでないですよね...」
「男の幽霊なら俺様が食ってやる」
俺の言葉にシルベスターさんは髪をかきあげながら恐ろしい事を口にした。
男の幽霊がここにいるなら出てこないほうがいいぞムチで縛られたら最後だからな……
先頭でライトを照らし辺りを見渡している凛のお父さんがなにかを見つけたのか「あっ!」と一言だけ声を漏らした
「レイヴンもしかしてあれ?」
レオさんが若干引き気味に指をさすのも無理はない
そこにあったのは中箱程の大きさの箱に鎖が何重にも巻き付けられており箱の周りには札がベタベタと貼り付けられている、虫一匹も入れるつもりなどないと言わんばかりに刀が地面にいくつも突き刺さっていた。
こんなの初見で見たらネズミも逃げだすだろうよ……
「やはり正解でしたね」
「まさか家にホントにあったとは」
「ヨシ、これを運んでほしいとりあえず外に出そう」
レイヴンさんの指示で外に持ち運ぼうとしたが結界がバチバチと音を立て外部からの接触を拒否しているようだ
聞こえますか?小十郎さん貴方はきっと用心深い性格だったのでしょう、しっかり1000年もの間こうして守り抜けてます。凄いです、感心しますこれでゴキブリを家に寄せ付けない商品を作ればヒット間違いないと思います。
だがな!用心深すぎて誰も入れねぇんだわ!どうすんだよこれ!
「キースこの結界を破れる魔法具なんか持ってきてるか?」
「一応結界を解く魔法具はありますけど多分このレベルの結界には対応してないかと」
シルベスターさんとキース先輩がどうしよかと悩んでいると階段を降りる音が聞こえてくる
「お父さん私ならこの結界解けると思います」
そう言いながらヤマトマルを引き連れて凛がこちらに歩いてきた
「凛はこの結界を見たことがあるのか?」
「ないけどお父さんが小さい頃に話してくれたことあったでしょ?」
「あれはただの物語さ」
「物語かも知れないけどやってみる価値はあるんじゃない?」
「凛、その物語とこの結界にはなんの関係が?」
レイヴンさんの問に凛は小さい頃に聞かされた物語を話してくれた。
剣崎の血を引くものに宿る星獣は、代々天空を駆ける鳥の姿をしていてその中でも小十郎の最初の子として産まれた子が宿した星獣が父親と同じ燕だったそうだ、その子は父を超える最強の魔法使いとして名をはせたらしい、だがその後の子孫達が宿す星獣は燕ではなく、鷹や鷲などの星獣が宿ったんだって鷹とかのほうがカッコいいじゃん!俺はそう思ったよ!だけどそういう問題じゃないんだってさ、それと凛がなんで関係してるかって?
その最強の魔法使いが従えていた燕の星獣と同じ燕がここにいるだろ?こんな『ござる』とか『ッス』とか言ってる変な燕だけどな
「オレっちが最強の星獣だってことわかっただろ!オレっちはこの話しが大好きなんスよ!」
「ヤマトマル言葉遣い…」
「つまりはヤマトマルにこの結界を開けてもらうということか」
「そういうことになりますね」
「お任せあれでござるよ!なんたってその最強の燕パイセン以降からは燕の星獣が現れなかったみたいでござるから!オレっちはエリート星獣ッス!ちがった…ござる!」
「じゃあヤマトマル結界の解除お願いね」
………………
「どうやって解除するでござるか..」
だろうな!
結局振り出しに戻ってしまいみんなでどうしよかと考えていると
「それはなにが入ってる箱ルー?」
入るなって言われたのに本当に言うこと聞けない星獣だなうちの星獣は
「ホッパー勝手に入ってきたらダメだろ」
「だってお外暑いルー」
「じゃあ家に入れてもらって涼めよ」
「なんかいっぱい刀が刺さってるルー!近くで見たいルー」
「あっ!ちょ!」
刀を近くで見たいからそんな理由でガチガチの結界の中になんの躊躇もなく突っ込んでいくホッパー
ダメだ!ホッパー!結界に触れたらもしかしたらお前は消滅するかもしれん!早まるなぁぁ!ホッパーぁぁぁぁぁぁぁ……あれ?
「ルー?」
「結界を貫通してやがる…」
「嘘でしょ」
なんでそんな簡単に中に入れたんだお前は?
「ホッパーお前大丈夫なのか?」
「うん!なんにも感じなかったルー」
「この結界もしかして…」
レイヴンさんはそう言うと結界に触れた。
あれ?普通に貫通してる?
「これフェイクですね」
「だな(笑)」
キース先輩のフェイク発言に続くようにシルベスターさんは肩を震わせ笑っている。
結局昔話はどうだのとか全て考えすぎていたという結果になり大人しく箱を引き上げることした。
そして俺達は予定通りにシルフィード行きの列車に乗り込む
改札口では凛がお父さんやお母さんと別れの挨拶をしている。
「元気でねちゃんと食べるのよ」
「わかってるよ」
「お母さんはいつでも凛の味方だからね」
「お母さん浴衣着付けてくれてありがとう..なのに私..」
母の言葉に涙が溢れいまにも溢れそうな凛を見て
「凛、すぐに泣いちゃダメ...剣崎の女なら強く逞しくなりなさい」
凛とした表情で聖子は娘に言葉をかける、凛もその言葉を受け止め「はい」と力強く返事をした。
「なにかあったらお父さんに連絡しなさいすぐに駆けつけてやるからな、寂しくなったらすぐに帰っておいでお父さんはいつでもまってるから」
「ありがとうすぐに連絡するね」
母と違い、いざというときは弱々な父の姿を見て気持ちが綻ぶ
「航は?」
「航君にも声かけたんだけどね」
「どうせ泣きっ面を見せたくないから来ないんでしょ(笑)半年前も大泣きしてたもんね」
「凛そろそろ出発だ」
「はい、じゃあ行ってくるね」
「「いってらっしゃい」」
「長い間泊めていただきありがとうございました、私から代表してお礼をさせてください」
レイヴンが深々と頭を下げる。
「いいのよ!またみんなで遊びにきてちょうだい、あの子のことよろしくね」
「レイヴンさんこの世界を守ってください」
「凛に謝るタイミング完全に逃した..どうしよう..」
「なにブツブツ言ってるの?それよりさ悠馬聞いてよー僕今度ルナ先輩とーー」
「発車します」という車内アナウンスが淡々と響き、ドアが閉まる音が小さくカチリと響いた。車輪がレールを噛む音が徐々に重なり、列車はスムーズに加速しながら、ホームを離れていく。
凛は名残惜しそうに風景を見つめる、すると見覚えのある人物が田んぼ道から泣きながら手を振っている。
(やっぱり泣いてる、昔から変わらず泣き虫なんだから)
凛は笑顔で航に手を振り返し「行ってきます」と口を動かした。
俺の夏休みこれからどうなるんだろう……
--その頃、オブキュラスでは--
「では開けますわよ」
ダミアナが箱を開けるその中にはお久しぶりの魔王イクノシアの頭が入っていた。
「魔王様のお顔だコン」
自分のことのように大粒の涙を流しているダミアナと雛音を見て魔王は
「グハハハ!何を泣くことがある?我の頭が戻ってきたぐらいで泣いていては悪がつとまらんぞ」
「だってー」
「こんなの嬉し泣きしてしまいますわー」
「全くもう泣き止め、でないと我もうわぁぁぁん!」
一緒になって泣き始める魔王をアラビア三姉妹は冷めた目で見ている。
その視線を感じたのか魔王は泣き止み
「さぁ!早くこのダンボールで、できた頭部を外し付け替えるのだ!」
作業員ゴブリン達が手際よく『おいっちに、おいっちに』と頭部を差し替える工程を行なう
10分ほど時間がすぎ一匹のゴブリンがじゃじゃーん!と赤い布をまくると端正な顔立ちの魔王が姿を見せる。
「キャー!魔王様ですわー!」
「まだ胴体はダンボールだけどね」
「お黙りなさい、アリヤさん!」
「あとは残すところ足と胴体だけコン!」
「足ならここにあるよーん」
ナディアの衝撃発言に一同が口を揃え「は?」と言葉を放つ
「ナ、ナディアちゃんいつからあったの?」
「結構前かな!なんだみんな知ってると思ってたよ〜」
「「「「知らんわい!!」」」」
「今度からちゃんと報連相しましょうね」と魔王は言った。
[おまけ]
「待って待ってよー凛」
「はーやーくー」
「置いていくッスよー」
「ガルガルー!」
ぬかるんだ田んぼ道を走りにくそうに小さな足で一生懸命、幼い頃の凛に着いていくのは同じく幼い頃の航
「凛様これはどこに向かってるでござるか?」
「凛と航の秘密基地だよ」
木々の間を縫うように進み、緑が濃くなるにつれ、辺りはしんと静まり返っていった。鳥のさえずりがかすかに響く中、遠くに洞窟の黒い入口が見えてきた。
「ハァ..ハァ..やっと追いついた足早すぎだよ」
「航が遅いんでしょうー」
「この洞窟が2人の秘密基地ガル?」
「そうだよ、ここねそんなに奥深くないし天井も低いから秘密基地にピッタリでしょ!」
洞窟の中は、二人の手で少しずつ整えられていた。壁際には拾い集めた石や、秘密基地らしく積み上げられた小さな木の枝。中央には、古びた毛布が敷かれ、その上にはいつかの遠足で使ったお弁当箱や、絵を描いたノートが広げられている。
「持ってきたお弁当食べよう!」と凛が言いながら、毛布の上に座り込む。天井は低いけれど、その狭さが逆に安心感を与えていた。外の世界から完全に切り離された、この小さな空間。二人にとっては、まさに特別な場所だった。
お弁当を食べながら航はこう言った
「凛はいつかエンチャントレルム魔法学校に行くんだよな」
「うん!そこで立派な魔法使いになるの!」
「凛が立派な魔法使いなら俺は凛を守る最強の従者になる」
「そんなこと言うのは凛に1回でも居合で勝ってから言ってよね」
「そんなイジワルなこと言うなよー」
アハハと笑い合う2人、すると航が鞄からなにかを取り出した
「これ凛にあげる」
「なにーこれ?」
「盾島が剣崎に忠誠心を誓う時に相手に渡すお守り」
「綺麗な翡翠色の勾玉」
「母ちゃんとか他の大人が言ってる結婚とかよくわかんないけど凛のことずっと大切に思ってる」
「航」
「お守りを渡すの気が早いって思うかもだけど俺の気持ちは変わらないってこと証明しようと思って!」
照れくさそうに頭をポリポリとかく航を見て
「恋愛漫画の見すぎだよ、航」
「プッ振られてやんのでござる」
「ガルガル」
次回![第四十六話、君が俺を夢中にさせたんだ]
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