[第四十三話、ずっと友達でいるのか?もっと特別になるのか?]


小さな風が吹き抜け、木々の葉がさらさらと音を立てていた。庭の隅には撫子の細長い茎が揺れ、小さなピンク色の花びらが光を受けてきらめく。遠くから聞こえてくる子供たちの声、近くの家から洩れ聞こえる人々の話し声が、夏の夕暮れの静けさに溶け込んでいた。


その静かな空気の中で、凛はふと目を閉じて、深呼吸をした。少し緊張している自分の気持ちを落ち着かせるように。これから始まる特別な夜に思いを馳せながら、そっと浴衣の袖に手を伸ばし、櫛を何度も髪に通す


「凛、そろそろ着付けを始めるわよ。」


聖子の声が彼女の思考を現実へと引き戻した。


凛は浴衣の帯をギュッと握りしめながら、鏡に映る自分を見つめていた。いつもより少し大人びて見える。普段はあまり気にしないけれど、今日は特別な日。彼と一緒に花火を見に行くのだから。


「緊張してるの?」


聖子が微笑みながら問いかける。帯をきゅっと締めながら、優しく後ろで結んでいる。


「うん…少しだけ。」


凛は正直に答えた。嘘ではない。実際、心臓がドキドキしている。


「大丈夫よ、とても綺麗だし、きっと楽しい夜になるわ。」


聖子はそう言って、帯の形を整えた。ふんわりと結ばれた帯が、浴衣の翡翠色と相まって、凛をより華やかに見せている。凛は自分の姿をもう一度鏡で確かめた。確かに、思ったよりも悪くないかも、と思えた。


「今年もてっきり航くんと花火見るもんだと思ってたから、びっくりしちゃった」


「だよね…ホント自分でもびっくり...」


ふと窓の外に目を向けた。庭の隅に、細長い茎の先に可憐なピンクの花を咲かせた撫子が揺れている。夏の夕暮れの柔らかな光を受けて、小さな花びらが風にそよぎ、どこか儚げな雰囲気を漂わせていた。


「凛、覚えてる?あの撫子、航くんと一緒に植えたのよね。」聖子が穏やかな声で話し始める。


「うん、覚えてるよ。」凛は小さく頷いた。思い出すのは、半年前の中学の卒業式の日。2人で手を汚しながら、一生懸命に撫子の種を土に植えた日のことだ。二人でお揃いのスコップを手に、まだ小さかった撫子が、今ではすっかり立派に育っている。


「遠くに行く前、二人でこれからも毎年一緒に撫子の花を見ようって約束したんでしょ?」


母親は帯の結び目を優しく調整しながら、柔らかい表情で凛を見つめた。


「それからずっと、航くんはこの撫子を見守ってくれてるのよ。」


「航が…ずっと?」


凛は驚いたように目を見開いた。胸がどこかちくりと痛む。新しい生活に慣れるのに精一杯だったあの頃、だけど航はずっとここにいて、二人で植えた撫子の成長を見守り続けていたのだ。


「そう。雨の日も風の日も、毎日ここに来て、ちゃんと育ってるかどうか見ていたわ。まるで凛が帰ってくるのを待っているみたいにね。」


母親は窓の外の撫子を眺めながら、静かに続けた。


「最初は、小さな花がいくつか咲くくらいだったけれど、凛が帰ってくるほんのちょっと前だったかしら?本当に見事だったのよ。綺麗なピンク色の花が咲いて、まるで航くんの気持ちがそのまま表れているみたいにね。」


凛は無言で庭の撫子を見つめた。自分がいない間も、彼はずっとこの庭に立ち寄って、撫子を見守り続けてくれていた。


「航くんね、きっと凛が戻ってきたときに、また一緒にこの花を見ようと思ってたと思うのよだから、どんな天気の日でも来てたわ、あの子なりに、ずっと約束を守っていたんじゃないかしら。」


航のことを思い出すと、胸の奥に温かいものが広がると同時に、どこか申し訳ない気持ちも湧き上がってくる。自分が遠くの学校に行ってしまったことで、航と過ごす時間が減り、その存在を少しずつ遠くに感じてしまっていた。それでも彼は、自分との約束を守り続け、ずっと待っていてくれたのだ。


聖子がこんなことを口にした。


「悠馬くんのこと好きなんでしょ?」


「バレてたか…」


「そりゃあ凛のお母さんだもん」


「だけど許されるわけないよね..私は剣崎凛だもん...」


剣崎という名の重み悠馬を好きにならなければこんな気持ちも芽生えることはなかったのにな..とただ下を向き寂しげな凛に

 

「アンタはアンタの好きなように生きなさい、誰かを好きになってもいいのこんな変な風習なんかクソ喰らえよ」


「お母さん、ダメだよそんな汚い言葉使ったら」


「仕方ないじゃないのよ、嫁として嫁いできたんだからそれに実はね...」


凛の耳元でコソコソと秘密を打ち明ける


「えぇ!お母さんってヤンキーだったの!?」


「しぃー!レディースって呼んで!」


「だってお父さんがお母さんとはお見合いでって」


「その話しはまた今度ゆっくり聞かせてあげる♪さぁ、これで仕上がりね」

            

母親は手を軽く叩いて、最後に襟元を整えた。


「悠馬君もびっくりしちゃうんじゃない?こんなに素敵な凛を見たら。」


凛はその言葉に顔が少し赤くなった。

 

「そんなことないよ」


恥ずかしそうに視線をそらしながらも、心の中で期待する自分がいた。彼がこの浴衣姿を見て、どんな表情をするだろう。きっと、嬉しそうに笑ってくれるだろうか。


「でも…そうだったらいいな。」


小さな声で呟いて、凛は気持ちを落ち着かせるように深呼吸をした。ゆっくりと息を吐き出し、緊張を解く。


「もうすぐ時間よ。忘れ物ないようにね。」


聖子の声に、凛はハッとした。


「うん!行ってくる!ありがとうお母さん!」


少し急いで家を出ようとすると、聖子が後ろから声をかけた。


「凛、楽しんでね。何かあったらすぐ連絡するのよ。」


優しい声に凛は頷き、少し強くなった気持ちで玄関の扉を開けた。

 


ルーシー[レオ先輩どこにいますか?]PM17:05


ルーシー[レオ先輩返事してください]PM17:42


既読がつかない画面を眺めハァ…と深くため息をつく


「どしたんルーシー?まだレオ先輩既読つかへんの?」


「はい、どこに行ったんでしょうか」


「プレイボーイのことだからそのうちひょっこりと戻ってくるとは思うんだけれど……アロハ~!いらっしゃいませー!焼きそばいかがー!」


陽気に店の前に立つお客さんを呼び止め無理矢理焼きそばを買わそうとするローザ


「エドワードなにかレオ先輩から聞いていませんか?」


ルーシーの言葉にエドワードは「なにも聞いてないでごわす」と自分の星獣にもなにも言わず姿を消すレオにルーシーはフツフツと腹が立ってきてはいるがもしかしたら事件に...いやそれよりもあの女と..これ以上は考えたくはないが考えずにはいられない



「どっか思い当たる場所はないと?」


「ないですね」


「そこまでしてあの男のどこがええと?」


空のダンボール箱の上で寝っ転がりながらルーシーに問うのはシルベスターの星獣リーナだ


「そんなこと僕の勝手です」


「連絡を無視すっということは、あんたに興味もないってことわからんと?」


「リーナ!ルーシーになんてこと言うロン!謝れー!」


ペンドルトンは小さな杖を出しリーナに向かって謝るよう要求するがリーナは「ホントのことやけん」と開き直る。


「なになにー?戦いゴッコルー?」


「はいはいアンタが来たらややこしなるからウチとこっち行っとこなー」


これ以上問題は勘弁としたフェイはホッパーを抱きかかえ少し遠くに移動した。


「僕だって相手にされてないことぐらいわかってますよ..だけど……だけど……」


拳をぎゅっと握りしめ。涙が溢れそうだった。唇を噛み締め、何とか涙をこらえようとする、ルーシーに深くため息をつくとリーナはこう言った。


「レオにその気持ちぶつけたことあん?あんた、いつもレオの後ろで静かに見よるだけやん。今まで何か行動の一つでもしたことあんと?そげん泣くぐらい好きなら、自分の気持ちちゃんと伝えんと!」


「リーナ..」


「昨日レオの鞄に手紙が入っとったけん、多分刹那からのやろう。あの女にレオを盗まれる前に、自分のもんにしな!さっさと行けじゃなかったら、もうすぐ花火始まるばい!」


服の袖でゴシゴシと涙を拭いリーナに一言ありがとうと言うとルーシーは手紙に書かれている天翔神社へと走って行った。


ルーシーの走る姿を眺め、我ながらいい仕事したわと満足そうにしているとセレがボソッと一言


「流石オババ猫ちゃろ」


「もういっぺん言ってみろ!」


「オババ猫〜♪」


セレの一言で黒猫同士のバトルがまた始まった...



緩やかな坂道に座るシルベスター、空を眺め周囲のざわめきに耳を傾けていた。


「おまたせしました、シルベスターさん!」と、少し息を切らせながらキースが戻ってきた。手にはりんご飴と焼きそばが入った袋がぶら下がり、顔には満足そうな笑みが浮かんでいる。キースは浴衣姿で、少し恥ずかしそうに頭をかきながらシルベスターの隣に座った。


「また沢山買ってきたんだな」


シルベスターは、キースが差し出す焼きそばを受け取る


「凛のお父さんが焼きそば屋やっててローザ先輩とフェイがお店を手伝ってたよ、あとあっちでりんご飴っていう不思議なスイーツも」


キースはりんご飴を持ち上げ、目を輝かせた。シルベスターは彼のその姿に思わず笑みをこぼす。


「二人で花火が見れてよかった」


「いきなりなに言い出すんですか//なんか今日のシルベスターさんいつもと違いますよ…」


りんご飴をチロチロと小さな舌で舐めながら、りんご飴と同じくらい顔を真っ赤にさせるキース


するとシルベスターがキースが舐めている反対方向を舐めながらこう言った。


「いつもと違うのは俺様だけではないはずだが?ん?違うか?」


「シルベスターさんの言うとおりです..俺もシルベスターさんの甚平姿見てドキドキしてます」


「どっちが先に飴を舐めきって中身のりんごを出し切れるか勝負しよう…勝ったほうが今日の夜の主導権を握ると言うことで♡」


「今夜は俺がシルベスターさんを泣かせてみせます」



「おい、メリファ」


「はーい♡」


「これは一体どういうことだ…」


レイヴンがそういうのも仕方ない、レイヴンのプランでは二人で濃密に花火を見ようと考えていたのに二人どころかこれではまるで


「家族だ」


「いいじゃないのたまには星獣達と一緒にでも♪ねぇ〜マヤ〜」


「マヤ一緒にメリファ達と花火見れて嬉しいでち♪」


「みんなー!今だけはレイヴンのことパパって呼んであげてね♪」


メリファの悪ノリに星獣達は目を輝かせみんなで一斉にパパコールが始まる。


「やめろやめろ!私はパパではない!」


「じゃあ何ピィ?」


「レイヴンだ!」


「違うルー!パパだルー!」


パーパ!パーパ!

 

なにをそんなに楽しいのか全く理解ができないレイヴン、ここで怒りの雷を落としてやろうかと思ったとき


「レイヴンと一緒に花火が見れてよかっただぎゃ」


「リュカ…」


「もうレイヴンといれるのも半年を切っただぎゃ…まぁ仕方ないことだぎゃね」


「リュカ、それってどういう意味だルー?」


なんにも知らない赤ちゃんみたいなホッパーにモナークは説明をしてくれる


「そっかホッパーはみんなより遅く星獣として呼び出されたから知らないココ、ボク達星獣は魔法使いが18の歳になるとき星獣としての役割を果たし空に帰っていくココ」


「お空に?じゃあホパは死んじゃうってことルー?」


「違うでござるよ、基本的に星獣は魔法使いのサポートをする役割なのは知ってるッスよね?」


「うん!」



「魔法の才能が目覚めるのは、16歳からが一般的でござる。16歳なんてまだまだ子供でござるから、その子供たちが立派な魔法使いになるために、オレ達星獣がお世話されたり、時には悩み事の相談相手になったりすることで、責任感を育て、心もちゃんとした大人になるようにと、魔法学校を世界で初めて設立したデューク・シルバークロウが決めた決まり事みたいなもんッスね。」


「じゃあホパは後3年も悠馬といれないってことルー!?イヤだイヤだ!ずっと一緒がいいのー!」


「悠馬はとくに才能が目覚めるのが遅かったから仕方ないピィね」


うぇぇぇんと泣くホッパーにエドワードが寄り添い


「寂しいのはみんな同じでごわす...おいどんなんかレオと10年以上一緒にいるから寂しくて寂しくて…」


おーおいおいと一緒に泣き喚くエドワード


「凛様とかレイラも、小さい頃から魔法の才能があって、早くオレっち達、星獣を呼び出せた身としては、長く一緒にいられるのは嬉しいでござるが、その分お別れの時が来ることを思うと、胸が張り裂けそうになるでござるよ…。ぴぇぇぇん!。」


ホッパーが泣き始めたのをキッカケにいつしか星獣達みんなが声を出して泣き始めた


それを見たレイヴンは星獣達を呼び寄せると


「もう泣くな泣いたってなんにも始まらない今日は一緒に花火を見よう、みんな円になれ抱きしめてやる」


レイヴンが手を広げ星獣達を包み込むように抱きしめメリファもまたレイヴンと同じように抱きしめ二人で星獣達を包み込む。



その頃悠馬は焦っていた。時間を確認するともうすでに18時を超えている。


花火があがるのが18時30分からと聞いていたが長くレイラといすぎたなと思いながら全速力で走っている。


ここから天翔神社まで向かうとなると着いた頃には花火が始まってる…


あぁ!もうなんでもっと早く行動ができない!俺のバカ!


ソサマのナビを開き近道までのルートを検索する。画面に検索結果が表示され、このルートならなんとか花火までには間に合いそうな時間だ…


俺は道を左に曲がり林の中に入っていく。


待っててくれよ、凛 



[おまけ]


凛を送り出した聖子は、つい昔の話を娘にしてしまい、気恥ずかしくなってしまった。


「絶対に言うなって誠司さんに言われたのに言っちゃった♡」


聖子は久しぶりに押し入れから昔のアルバムを取り出し、眺めながら思い出に浸った。ページをめくるたびに、若き日の自分が写っている。金髪に真っ赤な口紅、派手な服装。あの頃は元レディースのリーダーとして、風華の街を闊歩していた。


「お父さん、ダサ(笑)」


誠司は剣崎家の長男として生まれ、家業を背負う存在であったが学生時代の誠司は気弱で大人しくクラスの端っこにいるのがお似合いの人物、そんな混じり合うことのない二人がどうして結婚したのかここではそんな甘酸っぱい二人の愛の物語を少しだけお見せしよう


時は遡り30年前、まだ発展途上国だった風華国そんな風華の街を昼夜問わずバイクで走り回っている人物がいた。


走り屋『翡翠の風』そのリーダーとして束ねていたのが凛の母、聖子


いつものように聖子はゴテゴテにカスタマイズされたバイクに跨り風華の街を走っていた。


「聖子さん!今日は風が気持ちいいっすね」


「おうよ!風はいつもアタイ達の味方さ!」


仲間と親しげに話しながら走行している、すると不良達に絡まれてる1人の男の子が目に入る


まぁいつもの事だろうと普段は気にもとめない聖子だったが、どうしても気になるそんな思いがフツフツと沸き起こる。


そしてバイクを勢いよくUターンさせ仲間達には便所!とだけ言いその男の子までバイクを飛ばす。



「お前剣崎のとこの坊っちゃんだろ?」


「俺らそこのゲームセンターに行きたいんだけど金貸してくんねぇ?」


不良に脅され産まれたての子鹿のように足をガクガクさせ誠司はこう言った。


「お、お、お金なんてありません!そ、それに喝上げはよ、よよ、よくないです」


「はぁ!?てめぇ誰に口きいてんだよ」


「さっさと金だせや!」


1人の不良が誠司を殴ろうと拳を突き出し顔面目掛けてパンチを繰り出す。


「おい!てめぇら!ダセェことしてんじゃねぇよ!」


「誰だてめぇ!」


「アタイのこと知らないで不良やってんの?」


聖子はガムをクチャクチャさせ首に下げている翡翠色のネックレスを不良に見せつける。


「お、お前!翡翠の風の聖子か!」


「そうだよ」


「す、す、すみませんでした!」


聖子のネックレスを見るなりピューンと不良の二人は逃げ出してしまう


「逃げんなら最初からすんなよ、ダセェ」


ペ!っとガムを道端に捨て去ろうとすると


「ガムのポイ捨てはいけませんよ!」


「あっ?誰に口きいてんだよ」


「貴女にです!ガムのポイ捨てはダメです拾ってください」


「チッ!わぁったよ拾えばいいんだろ拾えば」


「助けてくれてありがとう!僕は剣崎誠司と言います、貴女の名は?」


「アタイは聖子、走り屋翡翠の風リーダーの聖子」


続くよー


  

次回![第四十四話、夏の星座にぶら下がらないし上から花火も見下さない]

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