[第六話、イケメンっていつもそうですね]

4月11日


「よし、準備完了!行ってきまーす!」


誰もいない部屋にそう声をかけ、扉を閉める。朝の静けさが漂う寮の廊下を歩きながら、少し眠たげな目を擦った。今日は、いよいよ本格的な授業が始まる日だ。


まさか、もう一度高校生をやることになるとはな……


階段を降りる足取りは慎重に。転んで初日から恥をかくのはゴメンだ。男子寮を出ると、玄関前でジョンが待っていた。


「おはよう、ジョン」


「おはよう、ユウマ!」


軽く手を上げて挨拶を交わし、他愛もない会話をしながら学校へ向かう。石畳の道を歩くたびに、少しずつ朝の空気が肌を撫で、眠気を吹き飛ばしてくれる。


目の前に見えてきたのは、荘厳な校舎エンチャントレルム魔法学校。だが、一部の建築を除けば、俺の元いた世界の学校と大差ない。広々とした校庭には、サッカーをしている生徒や、ベンチで談笑するグループの姿がある。


唯一の違いといえば…


空を飛ぶ生徒たちの姿だ。


箒にまたがり、風を切って旋回する魔法使いの姿が、校庭の上空を自在に行き交う。その光景は、まるで映画のワンシーンのようだが、ここでは当たり前の日常らしい。


「俺もいつか、あんな風に空を飛びながら登校したいな〜」


羨望の眼差しで箒乗りの生徒たちを見上げる俺に、ジョンが肩をすくめる。


「確かに楽しそうだけど、箒って結構高いから、僕は別にいらないかな」


「おいおい、夢がないこと言うなよ! 魔法使いといえば箒で空を飛ぶだろ!」


軽くバシッと背中を叩くと、ジョンは「痛いって!」と抗議しながら苦笑した。


「それに、1年生はまだ箒に乗れないんじゃないかな? 学生の間は、学校の外で乗るには免許が必要なんだ」


「なんだよ、それ……この世界にも免許制度があるのか……」


そんな話をしていると、突然、目の前に女子たちの群れができていた。


まるで芸能人の登場を待ち構えるファンのように、歓声と共に揺れ動く女子たちの中心には――


神に選ばれたかのような完璧なイケメンがいた。


金髪、長身、端整な顔立ちその姿は、まさに貴族の血を引く王子様のようだ。


「あのイケメン、誰だ?」


「あの人は3年生のレオ・デュークさん。魔法界の三代魔法使い、『デューク・シルバークロウ』の子孫だよ。あとここの創立者でさらに、サンクチュアリのメンバーであり、魔法遺産調査団の隊長でもある。学年トップの実力者で、歴代最多のファンクラブを持つ、まさに王子様って呼ぶにふさわしい人さ」


「チートキャラじゃねぇか……」


俺が呆れたように呟く間もなく、レオは女子たちに囲まれながら、余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。


「これから会議なんだけど、朝からこんな可愛い子ちゃん達に囲まれちまうなんて……困っちゃうな〜」


「レオ様〜♡ 放課後は空いてますか〜?」


「私たち、レオ様のファンクラブでお茶会を開くんですけど、ぜひご一緒したいです!」


「うーん、ぜひとも! そう言いたいところだけど、今日はちょっと忙しくてね」


「えぇ〜、いつも忙しいじゃないですか〜!」


「ははっ、ごめんごめん。でも、君たちのその気持ちはしっかり受け取ったよ」


そう言って、レオがとびっきりのキラースマイルを向けると、女子たちの黄色い悲鳴が校庭中に響き渡った。


「……イケメンも大変そうだな」


俺が呟いたその時


ズカズカと女子軍団の間に割って入る、一人の水色の髪色にミディアムヘアの少女。


知的なメガネをかけた彼女は、鋭い目つきで一同を睨みつける。


「先輩は忙しいんですよ! いつまでも邪魔ばっかりしてないで、さっさと教室に入りなさい!」


その一言で、さっきまでレオに群がっていた女子たちは蜘蛛の子を散らすように解散した。


「……な、なんだあの人?」


「ルーシー・ノーザンライト先輩。2年生で、レオ先輩と同じくサンクチュアリのメンバーであり、魔法遺産調査団の副隊長を務めている」


「なるほど……見るからに気難しそうな人だな」


こういうタイプに目をつけられたら厄介そうだ。俺はそそくさと教室へ向かうことにした。



---


教室に足を踏み入れると、黒板には席順が書かれていた。視線を走らせると、ジョンと席が近いのを確認し、思わずガッツポーズを決める。


「やったな、ジョン! 斜め前だなんて、ついてるぜ!」


「本当だね! これなら話しやすい!」


軽くジョンの肩に手を回し、満面の笑みを浮かべる。こんなふうに、誰かと学校生活を楽しめる日が来るとは思ってもみなかった。


次々とクラスメイトが教室に入ってくる中、ある意味で予想していた最悪の展開が訪れた。


「ちょっと、嘘でしょ……なんでアンタが隣なのよ」


レイラの不満げな声が耳に突き刺さる。


それはこっちのセリフだ


心の中で愚痴りながら、苦笑いを浮かべた。


「すみませんね〜、俺が隣で」


「マジで最悪……! こんな変態が隣だなんて、考えただけで鳥肌が立つわ。アンタ! 絶対に服とか脱がないでよ!」


「はぁ? 脱ぐわけねぇだろ! あれはたまたまだったんだよ!」


「まぁまぁ、二人とも喧嘩はやめようよ」


「そうね。少しは静かにしてくれないかしら?」


チクリと釘を刺すような口調で席についたのは、俺を助けてくれたリンだった。彼女の席はジョンの隣。俺は昨日のことを思い出しながら、彼女に声をかけた。


「おはよう、リン。昨日は途中で帰って悪かった」


「……」


(え? 無視っすか?)


彼女は俺の方を見もせず、まるで俺の存在が空気であるかのように振る舞う。


「無視されてやんの(笑) 嫌われてんじゃないのー?」


隣からレイラがニヤニヤしながら茶々を入れる。イライラしそうになったが、百倍になって返ってきそうなので、ここはスルーするのが賢明だろう。


「もしもーし? リンさーん?」


「……」


なんか俺、怒らせたぁぁ!? 女子ってホント意味わからん!


そんな俺の混乱をよそに、またしても問題児が登場する。


「フン、なんだこの陰気臭い教室は」


声の主はミケロスだった。見下すような目つきで教室全体を見回し、まるでそこにいる全員が自分より格下であるかのような態度を取る。


「兄様、そんなこと言ってはダメです」


隣に立つミシェルが、控えめな声で兄をたしなめるが、ミケロスは鼻で笑う。


「俺は常に一番である人間なんだ。こんな奴らになにを言っても、俺が許されるんだよ」


その傲慢な態度に、周囲の生徒たちがあからさまに眉をひそめた。


そして、そのタイミングを逃さず


「朝から元気がいいわねぇ? ミケロス君、さぁ、席について。もう授業が始まるわよ」


教室の入り口に現れたのは、俺たちの担任であるホシノ・オリビア先生だった。優雅な微笑みを浮かべてはいるが、その目には確かな怒りが宿っている。


「チッ……誰に向かって指図してんだよ」


ミケロスは小さく舌打ちしながらも、しぶしぶ席についた。



---


「それでは授業を始めます♪」


ホシノ先生が明るい声でクラスに呼びかける。


「とはいっても、まずは自己紹介から始めましょうか! まずは先生からね」


そう言って、彼女は黒板に大きく名前を記し、笑顔で挨拶した。


「ホシノ・オリビアと申します。3年間、あなたたちの担任になります。どうぞよろしくお願いします!」


教室中から盛大な拍手が送られ、先生も嬉しそうに微笑む。


「では、一人ずつ自己紹介していきましょう!」


次々と自己紹介が進み、ついに俺の番が回ってきた。


「では、次の人お願いします」


俺は立ち上がり、軽く咳払いをしてから話し始める。


「はい! えーっと、ハヤシ・ユウマです。好きなものはビール……じゃなかった、卵焼きです! えー、それと、俺は得意な魔法がなくて……というか、そもそも魔法が使えません! なので最近習い始めたボクシングだけが唯一の武器になります。よろしくお願いします!」


その瞬間、教室がざわついた。


「え? 魔法が使えない?」


「どういうこと?」


クラスメイトたちがヒソヒソと囁き合い、何とも言えない空気が広がる。


(あぁ……この雰囲気、知ってる)


頭の奥に、かつての記憶が蘇る。



---


「林 悠馬です。よろしくお願いします」


「なんでアイツ、髪の色銀なん?」


「調子乗りすぎだろ、陰キャのくせにww」



---


そうそう……俺は、昔もこんなふうに見られてたっけ


暗い記憶が過去の痛みを呼び起こす前に、先生の優しい声が響いた。


「ハヤシ・ユウマ君?」


「は、はい!」


「もう席についていいわよ♪」


俺はホッとしながら椅子に腰を下ろした。


しかし、隣のレイラが小声で話しかけてきた。


「ねぇ、アンタ」


「……なに?」


「魔法が使えないってどういうこと?」


「後で説明するよ」


「なによそれ! 今説明しなさいよ!」


「今は授業中だろ! 無理だって!」


「いいから説明しなさいってば! このバカ!」


なぜか唐突に声を荒げるレイラ。次の瞬間


「二人とも〜? 廊下に立ってなさい」


……ホシノ先生の、穏やかだけど底冷えするような声が響いた。


「「はい……」」


気づけば、俺とレイラは授業初日から廊下に立たされるという異例のスタートを切っていた。



---


「で、さっきの話、説明してよ」


「まだ言ってんのかよ、その話」


俺は仕方なく、しぶしぶ異世界転生のことを簡単に説明した。


「えぇぇえ!? 異世界転生!? なにそれ! 意味わかんない!」


「それはこっちのセリフだよ……」


「じゃあなに? ただの一般ピーポーなのにこの学校に入れたの? ある意味才能ね、アンタ」


「うるさいなー。おとなしくしろよ、じゃないとまたホシノ先生に――」


「二人とも〜?」


後ろを振り返ると、そこには鬼の形相のホシノ先生が。


「静かにせんかーい!!」


こうして、ホシノ先生を怒らせるとマジでヤバいという伝説が生まれたのだった。


---


「はい、自己紹介ありがとう。それじゃあ、さっそく授業に入りましょうか」


ホシノ先生の優しい声が教室に響く。彼女の授業は、魔法の知識がゼロの俺でも理解しやすいように工夫されていて、わかりやすい。


「では、教科書の次のページを開いてください。皆さん、『魔力供給』という言葉を聞いたことがありますか?」


「はい、先生!」


挙手したのはミケロスだった。先生が指名すると、彼は得意げに答える。


「魔力供給とは、他者の魔力を借りることで自身の魔力を増幅させる技術のことです。さらに、星獣を神獣へと進化させるためにも欠かせないものです」


「よくできました。簡単に言えば、一時的にパワーアップするための儀式ですね」


先生は黒板に「魔力供給=一時的な魔力増幅」と書きながら説明を続けた。


「さて、魔力供給には二種類あります。それは何でしょう?……リンさん、答えてもらえますか?」


指名されたリンは落ち着いた声で答える。


「はい。魔力供給には『仮契約』と『真契約』の二種類があります。仮契約は一時的なもので、契約を結んだ日から1年間の猶予が与えられます。この期間内に真契約を結ばない場合、その相手とは二度と契約を結ぶことができなくなります。仮契約は、魔力供給の適性や相性を確認するためのものです。そして真契約は、仮契約期間中に正式に結ばれるべきものであり、これを結ぶことで契約者同士の絆が強まり、魔力供給の効果を最大限に引き出せるようになります」


「その通り! 仮契約と真契約、どちらも非常に重要です。契約というのは**『1人』としか結べません**。もし新たに違う人と契約を結びたい場合は、最低でも1年後になります。だからこそ、慎重に相手を選ぶことが大切です」


先生の説明が終わると、俺は素朴な疑問を投げかけた。


「先生、契約はどうやって結ぶんですか?」


「いい質問ですね。契約を結ぶ際には、3つの儀式を行います」


先生は黒板に「契約の手順」と書き、1つずつ説明していく。


「1つ目は、お互いの魔力で魔法陣を呼び出すこと。2つ目は、契約に必要な呪文を唱えること。そして3つ目は……お互いの体や顔にキスをすることです」


「キス……だと……?」


教室の空気が一気に変わった。


「先生、具体的にはどこにするんですか?」


ナイス!クラスの誰かが俺の代わりに質問してくれた。


「んー、一般的なのは口や耳ですね。もちろん、契約を結ぶ相手が嫌がる場所は避けるべきですが、仮契約の相手とは常に一緒にいることが多くなるので、心地よい相手と結ぶことが大切です」


「では、今日の授業はここまでにしましょう」


チャイムが鳴り、ホシノ先生は黒板を消すと、「また次の授業でね」と笑顔で教室を後にした。


---


授業が終わると、俺はジョンに興味津々で話しかけた。


「なぁ、ジョン。魔力供給ってことは、俺とお前でも契約できるってことだよな?」


「理論上はそうだけど、絶対イヤだよ! 僕は好きな人と契約するんだから!」


「……そんな人いるのかよ?」


「いないから探すんじゃないか!」


俺たちがくだらない会話をしていると、リンがぼそりと独り言のように呟いた。


「ホント、男ってくだらない」


「なんだよリン、そんな可愛げのないこと言ってると、誰も契約してくれないぞ〜?」


「大きなお世話よ。それよりも魔法のひとつでも使えるようになったら?」


ズバッと正論をぶつけると、リンは颯爽と教室を後にした。


俺のHPはもう0ですよ……リンさん……そこまで冷たくする必要ないじゃあないですか……


「アンタって、ほんと史上最強のバカね……」


「なんだよ! レイラ、なんでそんな呆れた顔してんだよ!」


「別に〜。アタシも帰るわ」


「僕も研究所に行かなきゃ! じゃあね、ユウマ!」


「おい! 待ってくれよ!」


俺の言葉を無視し、みんな忙しそうに去っていく。なんか忘れてる気がするけど……あっ! 園芸委員だ!



---


15分ほど歩くと、大きな温室にたどり着いた。


ここが園芸委員の活動場所か


ガラス張りの天井からはたっぷりの陽光が差し込み、温室内には青々とした植物が生い茂っていた。湿度が心地よく保たれ、花や木々が生命力に満ちた空間だ。


俺は扉を開け、声をかける。


「すみませーん! 1年のハヤシ・ユウマです! ガイ先生いらっしゃいますかー?」


……応答なし。


「誰かいませんかー!」


「こっちで作業してまーす。こっちに来てください」


声のする方へ向かうと、そこには奇妙な形の木が生えていた。


「あのー? どこですか?」


「こっちです」


声がした瞬間、木の枝が俺の体に絡みついた。木の根が口のように開き、俺を飲み込もうとする。


「待て待て待て! 俺、マズいぞ! 食べないで!」


必死で抵抗していると、静かな声が響いた。


「木よ、眠りにつきなさい」


その言葉とともに、暴れていた木がピタリと大人しくなる。俺はようやく解放され、地面に転がった。


「この木はサイレンセダーといって、人の声を真似する植物なの」


優しい声に顔を上げると、エメラルドグリーンの髪を持つ美女が立っていた。包み込むような微笑みは、まるで聖母のようだった。


「俺、死にかけたんですけど……?」


「フフ、大丈夫よ。この子、本当に人間を食べたりしないもの。食べてみてマズかったら、すぐに吐き出すから」


「それ、全然大丈夫じゃねぇ!」


「ふふっ、冗談よ。ところで、あなたはここに何の用があって来たの?」


「ガイ先生に会いたくて」


「あぁ、ライラ先生が言ってた子ね。ユウマ君でしょ? ガイ先生ならあっちにいるわよ。私はメリファ・ウッドロー。よろしくね」


「お願いします!」


なんて優しい人なんだ


俺は、メリファさんの後ろ姿を見ながらしみじみとそう思った。

 

クラスには気の強い女子ばかりが目立つが、彼女みたいな穏やかで包み込むような雰囲気の人もいるんだな〜と。


温室内は驚くほど広く、天井のガラス越しに差し込む光が、まるで生命の息吹そのもののように植物を照らしている。

 

どこからか甘い花の香りが漂い、湿った土の匂いと混ざり合う。静かで穏やか、それでいて生命力に満ちた空間だ。


そんな中、一人の男が黙々と植物に水をやっていた。

 

黒髪に無精ひげ、落ち着いた雰囲気をまとい、まるでこの温室の空気と一体化しているかのような存在感。

 

その手つきは丁寧で、ゆったりとした動作でジョウロを傾ける様子からも、植物に対する深い愛情が感じ取れた。


メリファさんが微笑みながら口を開く。


「ガイ先生、新しいお手伝いの子を連れてきたわ」


それを聞いて、ガイ先生は、ジョウロを置いてこちらを振り返った。


「おー、君がユウマか」


「はい! 1年のハヤシ・ユウマです! 遅れてすみません!」


俺が元気よく名乗ると、ガイ先生は「まあまあ」と手を振りながら、気楽な口調で答えた。


「気にすんな。ライラちゃんから聞いてるよ。仕事を探してるんだろ?」


「はい! なんでもやります!」


俺は気合を入れて返事をするが――


「うーん……悪いな。ちょうど今、君に頼める仕事がないんだ」


「……は?」


思わず耳を疑った。

せっかくここまで来たのに、まさかの仕事なし。

これじゃ今日の飯代が手に入らないじゃないか……。


「マジか……今日の俺のご飯、どうしよう……」


呆然と立ち尽くす俺。

期待していた分、ダメージがデカい。

このままじゃ異世界転生して早々、空腹で干からびる未来しか見えない。


と、その時――。


突然、温室の扉が勢いよく開いた。


「学校の近くの森で魔物が現れた!」


荒い息を吐きながら、慌てた様子で駆け込んできたのは、生徒会長のレイヴンさんだった。

 

その一言で、温室内の空気が一気に張り詰める。


「生徒は避難させたけど、このままじゃ街に下りそうだ! メリファ、私と来い!」


「わかったわ!」


メリファさんは即座に頷き、俺の方を振り返る。


「またね、ユウマ君」


そう言い残し、彼女はレイヴンさんと共に温室を飛び出していった。

 

二人の後ろ姿を見送りながら、俺はただ圧倒される。


「……すげぇな、あの人たち」


生徒会長としての風格だけじゃなく、実際に前線に立って戦う実力もある。

 

それを支えるメリファさんもまた、相当な人なんだろう。

 

俺との格の違いをまざまざと見せつけられた気がする。


そんな俺の隣で、ガイ先生が腕を組みながら何かを考え込んでいた。


「……ふむ」


「……?」


何かを思案しているような顔つき。

 

そして、次の瞬間、ポンと手を打ち、俺の方をじっと見た。


「俺の個人的な仕事を手伝ってくれないか?」


「……は?」


思わぬ提案に、俺は思わず目を瞬かせる。

 

個人的な仕事?

 

いったい、何をさせられるんだ……?



[おまけ]


「……ったく、なんで魔力供給の授業でこのアタシに一つも質問を振らなかったのよ!! あの女教師!!」


レイラがドンッと机を叩き、苛立ちをあらわにする。

あまりの勢いに、隣にいたフレイアがビクッと小さな身体を跳ねさせた。


「そ、そんなカリカリしても仕方ないピィ! わ、ワタシが代わりに聞いてあげるから、魔力供給について詳しく教えてほしいピィ!」


「何よそのお情けみたいな言い方は……」

 

レイラはジト目でフレイアを見下ろすが、フレイアは懇願するように羽をぱたぱたと揺らしている。


「……で、でもまあ、そこまで言うなら特別に! アタシがしっかりと教えてあげなくもないわ!」


「わーい楽しみだピィ!」


フレイアが無邪気に喜ぶと、レイラは「フフン」と得意げに胸を張る。

 

どこからともなく黒板が出現し、それを勢いよく**バンッ!**と叩いた。


「よーく聞きなさいよ! 今日の講義は、『魔力供給の実際の効果』について!! 授業の内容は割愛するから、重要な部分だけ教えてあげるわ!」


フレイアは真剣な眼差しでレイラを見つめ、小さく頷いた。


魔力供給とは


① 魔力の増幅

「魔力供給を行うことで、他者の魔力を一時的に借りることが可能になるわ。

つまり、通常の状態よりも遥かに強力な魔法を発動させることができるの!例えば、普段は火の玉しか出せない魔法使いが、魔力供給によって一時的に大爆発級の火炎魔法を放つこともできるってわけ!」


「ふむふむ!」 


② 星獣の進化

「これは特に重要! 星獣を神獣に進化させるためには、魔力供給が不可欠なの!星獣が神獣に進化すると、その力は飛躍的に向上するわ。でも注意して! これはあくまで一時的な進化だからね!」


「なるほど… ふぁ〜」


③ 契約時の呪文

「魔力供給には契約が必要よ! 契約の際には、以下の呪文を唱えることで正式に契約が成立するわ!」


レイラは黒板に大きく呪文を書き記した。


> 我が魂と汝の魂を繋ぎ、共に歩む力を授けよ。

この契約により、我らの魔力は一つとなり、限りなき力を発揮せん。


「これを唱えてからキスをすることで、契約は完了するの!」


「ピ…ピィ...」


「契約をした後、魔力供給を行うたびに呪文を唱えなきゃならないの! それがこれ!」


> 我が魔力よ汝の力と共鳴せよ。


「これを唱えながら、キスを交わすことで、契約が成立し、魔力供給がスムーズに行えるようになるってわけ! まぁ! 結局のところ、魔力供給は魔法使いにとって必要不可欠な技術ってこと! ただし、契約には慎重にならなきゃダメよ!だって、一度仮契約を結んだら、その相手と1年間は他の人と契約できなくなるんだから!」


「なるほどピィ……魔力供給って、ただの魔法の強化じゃなくて、信頼関係が大切な技術なんだピィ!」


「……ムニャムニャ……グーグー……」


「……って、寝とんじゃぁぁぁ!!!!」


フレイアは、レイラの長々とした講義の途中で、完全に夢の中に入っていた。


「ご、ごめんピィ……説明が、ちょっと難しくて……」


「帰ったら皿洗いさせるからね!! 覚悟しなさい!!」


「ワ、ワタシ……指じゃなくて翼だから洗えないピィ……」


「うるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」


レイラの怒声が教室全体に響き渡った。


次回![第七話、これが愛の力] 

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