第8話 お父さんの転生語り
「で、スタリはどこなんだよ」
そんなこと言われても僕にも級長にもわからない。そこに、クビキちゃんからの返信が届いた。
『お父さんの転生語りが始まったら呼んで! あたしだけ行く』
『はじまってる』
『どこ』
『昇降口』
サムズアップの絵文字が返ってきて、すぐにトイレからクビキちゃんが現れた。
「ああ? 俺はスタリを呼んでるんだよ。なんだこのお子様は」
「初めまして! 異世界のお話を聞けるとうかがって、飛んできました!」
「スタリはどこだ」
「お手洗いに籠ってます」
「ちっ。嘘ばっかりうまくなりやがって。やっぱり
クビキちゃんは明るい声と笑顔を保っているが、ツインテールがぷるぷると震えている。僕はクビキちゃんの背中にそっと手を添えた。
「スターリーのお父さんは異世界に詳しいんですか?」
「俺は転生者よ。Cの世界の転生者だ」
「え!? お父さんがCで、その娘がB?」
クビキちゃんはわざとらしい声で驚いてみせた。
B(
親父さんは、いかに
曰く――。
Bの世界の地球人類は、栄華と繁栄を極め、Bの宇宙で恒星間航行を実現しただけではなく、異世界に干渉する術も手にしていた。
無数に存在する世界同士の間では、相互に影響を及ぼし合うことがない。唯一、世界と世界の間を超えるのが
Bの人類は、魂を凝縮して他の世界へめがけて放つ兵器を作り出し、いくつかの異世界を滅ぼした。そしてBの人類の魂は、外の世界への植民を開始する。意図的に集団で異世界転生を起こしたということだ。
調子に乗っていたBは、後に、とある別の世界から返り討ちにあって衰退の一途をたどる。言ってみれば、悪者が成敗されたようなものだが、Bに蹂躙された他の世界は元には戻らない。その一つがC――
僕たちの世界の地球人類がBの世界を認識した時には、すでにBは壊滅状態だったので、これらの経緯から
――というのが、親父さんの語りだった。
内容におかしなところはない。
単なる知識の披露に付き合わされたようだ。
そして親父さんは鼻息荒く、付け加える。
「だからあいつは侵略者なんだよ! 野放しにしちゃいけないんだ!」
え、そう飛ぶの?
僕と級長がどうしたものかと困っていると、クビキちゃんが話し始めた。
「スターリーのお父さん、Cの世界でご苦労なさったんですね。大変でしたよね」
「おうよ。おまえら
「あたしは転生者ですけどね」
「クビキちゃん、今それ関係ないから言わなくていいよ」
僕がクビキちゃんの脱線を修正すると、クビキちゃんは
「さきほどは、Bの世界についてご説明くださってありがとうございました。勉強になりました」
「若い子には大人がちゃんと教えてやらないとな」
気持ち悪いほどへりくだるクビキちゃんの態度に、親父さんは気分が良くなったらしい。彼の表情がだらしなく緩んだ。
「お父様はCの世界のことをはっきりと覚えていらっしゃるのですか?」
「おう。
「村を……焼かれたんですか……」
クビキちゃんは悲しそうに目を伏せた。
「そうだ。スタリが俺の娘に生まれてきたのは俺に償いをするためなんだよ。だからあいつが俺に従うのは当然なんだ!」
「きっとお父様は、村で幸せに暮らしていたんですね……」
「そうだ。俺は冒険者ギルドで金バッチだったんだぜ!」
親父さんはは得意げにガハハと笑う。
するとクビキちゃんがいぶかしげな表情で疑問を呈した。
「金バッチ?」
「そうだ! 俺の一声で舎弟どもが世界を駆けずり回ってたもんよ」
「冒険者ギルドで……舎弟? ナーロッパ世界といったら
クビキちゃんが相手の発言のほころびを突いた。
すると親父さんは態度を急変させる。
「あ、あー、うるせえな。えーと、あれだ! Cの世界にもギルド制度はあったんだよ! 別におかしくねえだろ!?」
親父さんは明らかに焦っている。
そこへクビキちゃんは畳みかけた。
「それに、滅ぼされる前のCを支配していたのは海棲知性体のはずですけど……」
「かいせい?」
きょとんとする親父さん。
クビキちゃんの丁寧な解説が追い討ちをかける。
「Cの住人は水の中で生きていたってことです。村、燃えないですよね」
ぽかんとする親父さんに対して、クビキちゃんの大きな声がとどめを刺す。
「こいつ嘘ついてる!」
「はあ? 大人に向かって舐めた口きいてんじゃねえぞ! ゴラァ!」
大の大人が、がなり立てながら拳を振り上げ、高校生を威嚇する。
拳が振り下ろされたその時、
「お父さん、やめてください!」
拳は
彼女の悲鳴に続いて、僕らの周りで成り行きを見守っていた者たちの間にどよめきが広がる。
しゃがみこんだ
すぐさま僕は警察と児相に電話をかけた。こんな時のためのスマホ二台持ちだ。
「おいちょっと待て!」
親父さんが僕の胸ぐらを掴んだ
すぐに級長の丸太のように太い腕が親父さんの肘を掴み、僕から引きはがす。
そして複数の男性職員が群がってきて、親父さんを制止した。彼がついに手を出してきたことで、遠巻きに見守っていた職員たちも動く口実を得たようだった。
暴漢のごつい手から解放された僕は、通報のついでに厚生省転生管理局の相談フォームにも情報を送っておく。
僕がほっとして体を弛緩させたその時、職員と級長の大声が聞こえた。
「お前! 逃げるな!」
「
振り返ると、職員の制止を振り切った
僕の両手からスマホをひったくり、革靴の底で踏みつけて、あっという間に破壊してしまった。
証拠を隠滅したつもりだろうか。
馬鹿め。もう送信済みだ。
五名の職員がその背を追っているが、出口付近にいた生徒や客は身を守るために方々へ散ってしまい、進路ががら空きだ。
その時、昇降口を塞ぐ人影が現れた。
逆光で顔が見えにくい。細身の男子生徒だ。胸を張って立ち、さすまたを構えるシルエットが美しい。
梁にぶつからない角度にさすまたを傾け、校舎の中へ突進してきた。
あれは
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