第4話 クビキちゃんは納得できない
屋上を後にし、三人で校舎の階段を下りていく。
僕は、前を歩く
「先輩、アイドル好きなんですね」
「うん。……いや、そんなことより。私が『典型的な転生者』ってどういうこと?」
昇降口には人影がいくらかあったので、僕らはいったん口をつぐんだ。
校庭から校門までの間は、他の生徒たちと距離を取ることができる。そこをゆっくり歩きながら、僕はクビキちゃんに水を向けた。
「クビキちゃんの! 異世界ものしり講座~! ぱちぱちぱち!」
「何それ」
「何それ」
「異世界博士のクビキちゃんに、先輩の前世の景色についての見解を語ってもらいたいと思います! というわけでね、はい。
「ええ……、
「あたしも初耳です。アドリブで行きますね……」
クビキちゃんは左手でツインテールの毛先をいじっている。これは彼女が考えをまとめている時の癖だ。
数歩その状態で歩いたところで、クビキちゃんの指先からするりと毛束が離れた。
そしてクビキちゃんは語り出す。
「えっと。二つの可能性を考えました。一つは、前世の暁先輩は何らかの理由で視力を失っていた。ただ、先輩の前世の記憶はけっこう鮮明なようなので、だとすると『視力を失った』ということを覚えていてもよさそうなんですよね。だからこれは却下。で、もう一つは、もともと視覚のない生物だったという可能性」
「前世の私は目が見えなかったってこと?」
「そうだと思います。というか目に相当する器官がなかったんじゃないかと。前世ではそれが当たり前だったから、視覚情報の欠落した記憶しかない。一方、現世の
「でも私、前世で手がなかったってことは認識してるけど……」
「何か触角とか触手とか鞭毛みたいなものがあったんじゃありませんか?」
「ああ、そうだね。なんというか、モジャモジャ? したもの? があって、それで動いたり触ったりしてたんだよね。体を寄せあったきょうだいの感触とか、よく覚えてるよ」
「対応する器官があったから、前世との違いを認識できていたんだと思います」
「そうなんだ……!」
「前世の体がヒューマノイドタイプじゃない場合に起こりがちな混乱ですね。転生管理局の問い合わせフォームから相談することもできますよ。そっち系に対応できる心療内科に繋いてくれたりするみたいです。だから、あたしからも言わせてください。
二人が真剣に言葉を交わしている間、すっかり歩みが止まってしまっていた。校庭の真ん中で突然立ち尽くした僕たち三人は目立っていたようで、わざわざ教員が駆け寄ってきた。それを適当にあしらって、僕たちは学校を後にする。
再び僕とクビキちゃんは二人になり、帰路につく。
* * *
帰りの地下鉄はとても混んでいた。乗車から降車まで僕たちは無言で互いの体温を感じながら過ごし、自宅までの道のりは手をつないで歩いた。手を差し出すのはいつもクビキちゃんの方だ。
もう空は薄暗い。一軒家の建ち並ぶ住宅街を歩く。クビキちゃんは少しうつ向いて、進行方向の安全確認を完全に僕に任せきっていた。
「あのさ。レイジはさ、
「僕としては納得のいく理由だったよ」
「あたしはね、理解はできたけど、納得できないよ」
「どの部分?」
「影響されて死んだ子たちは自己責任、みたいなとこ」
「それこそ、転生者が陥りがちな思考だと思うんだけど。前世の記憶が鮮明な人ほど、前世の規範や倫理を引きずってしまうっていう」
「でもでも、それって、覚醒者の脳波型が
「
クビキちゃんの顔は曇ったままだ。
どれ、まぜっ返してやるか。
「クビキちゃんが覚醒した時は、そういう混乱なかったの?」
「え、あ、あたし!? ほら、あ、あたしは先天的な覚醒者だからさ! ママとパパが大事に育ててくれたし!」
「…………」
「え、何その
「クビキちゃん、なんでそんなに転生者になりたいの?」
「はあ? 何言ってんの! あたしは転生者なの!」
結んでいた手を放して、クビキちゃんは僕の背中を叩いた。
照れ隠しの姿がかわいかったので、僕はクビキちゃんを抱きしめる。
「もー! おうちの前で恥ずかしいでしょ!」
「はいはい。じゃあね。また明日」
僕とクビキちゃんは、隣同士の家にそれぞれ帰っていった。
~Dの転生者・暁ヨアケ編 終~
〜廃田スタリ編へつづく〜
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