第6章 するべきこと

居酒屋『麒麟』

古びた居酒屋の座敷席に和士とリコッタが胡坐をかいて座っていた。

「………さぁ、食べるのじゃ。」

リコッタは卓袱台の上に置いてある、刺身の盛り合わせや焼き鳥などの居酒屋料理を和士に差し出した

「……あぁ、悪いな。」

和士は箸で刺身の中トロを摘まんだ。

今から一時間前、多護に頼まれた『爛漫(らんまん)』でテイクアウトした料理を運ぶ途中にリコッタが現れた。

リコッタは和士と飲みに行かないかと誘った。

和士は仕事を終えた後ならいいと、承諾し、一時間後、外で話すのもあれだし食事でもしながら和士は居酒屋『麒麟』に引っ張って、今に至るのだった。

「……それにしても、いい店じゃな。」

リコッタは錆びれた店の店内を見渡した。

居酒屋『麒麟』はボロイ居酒屋ではない、創業30年も誇る、歌舞鬼町きっての古参の居酒屋で、鉄火組がシマにするほどの有名店である。

「……一度だけ、親っさんに連れて来られたんだ、当然だ。」

和士はそう言い、コップに入った水を飲み干した。

「……それで、俺に一体何の用だ。」

和士は本題に入った。

「あぁ、ちょっとお主に頼みたいことがあってな。」

リコッタは深刻そうな表情で呟いた。


「シャーロット様を国に帰省するように説得してほしいのじゃ。」


リコッタは自分の本気の思いを和士に伝え

「頼むこの通りじゃ!」

深々と頭を下げ懇願した。

「……虫が良すぎるのは承知の上じゃ。」

リコッタは顔を挙げず、決して引かぬ姿勢だった。

「……。」モグモグ

和士はリコッタを目視しながら、口にたこわさを食べていた。

「……おぃ、クソネズミ。」

和士は低い声で呟いた。

「お前、シャーロットと出会って何年になる。」

そして、急に変な質問をした。

「…えっ、6年じゃが。」

リコッタは顔を上げて答えた。


「……悪いがお前の頼みは聞いてやれない。」


和士は険しい表情で呟いた。

「……お前は自分がすべきことを間違えている。」

「えっ⁉」

リコッタは訳が分からず、戸惑った。

「あんたが今やることは、シャーロットを母国に帰すことじゃない、シャーロットにした罪を償うべきことだ。」

「……。」

リコッタは何も言えず、固まった。

「……シャーロットに帰って欲しいなら、俺に懇願するんじゃなく、自分で連れて帰れ、そうするために自分の罪をしっかりと償って許してもらえ。」

和士は手を伸ばしリコッタの頭を指で小突いた。

「……和士。」

リコッタは情けなさそうに顔を俯いた。

「……自分のことは自分でしろよ。」

和士は立ち上がりテーブルに5千円札を置き、『ごちになるぞ』と言い残し、去っていった。

「……。」

暫く、リコッタは黙り込み

「……極道も悪くないかもしれいな。」

と独り言を呟き、残った料理を口に運んだ。




鉄火組総本部 正門

コンコン

「……和士いるか。」

今日も月村達が訪問してきた。

正門の扉をノックしていた。

「……和士、話があるんだ?」

月村はそう言い、また、扉をノックした。

「留守か?」

「温泉旅行にでもいったんじゃないか?」

「俺もそう思う。」

月村の後ろには、沢辺と山口、玄蔵が立っていた。

ガラッ

「……おい、うるさいぞ、てめぇら!」

正門の扉が開くとともに、矢島が怒鳴り声を上げた。

「やっ、矢島さん⁉」

月村は矢島の名を呼んだ。

「……なっ、月村、沢辺に中嶋、山口かよ。」

矢島は月村達を見て、ため息をついた。

「今日も日坂に会いに来たのか?」

矢島は和士に会いに来たと察した。

「まぁ、そんなとこです。」

月村はよそよそしく、呟いた。

「悪いがあいつは出掛けているぞ。」

矢島は頭をかきながら、答えた。

「親父を車で運んで、アタナシアの本部に行てる。」

「シャーロットもですか。」

「あぁ、あいつも一緒だから、お陰で掃除の仕事が俺達にも回って来たんだ。」

矢島は嫌そうにため息をついた。

「……そうか、なら俺達はこれで。」

月村は軽く会釈し、沢辺達を引き連れて帰ろうとした。

「ちょい、待ち。」

矢島が呼び止めた。

「……折角来たんだし、遊んでけよ。」

矢島はそう言い、無理やり月村達の首根っこを掴み、敷地に入れた。




アタナシア総本部

提督室

城崎と和士、そしてシャーロットの目の前にアルテミス提督が自席に座っていた。

「………よく来たな、龍狐、屑鉄仮面、そしてシャーロットちゃん。」

アルテミス提督は高飛車な態度で呟いた。

「お久しぶりです、提督。」

和士は深々と頭を下げた。

「こんにちは。」

シャーロットも頭を下げた。

「おうおう、苦しゅうないぞ。」

アルテミス提督はニヤリと笑った。

「俺に話と言うのは一体、何なんですか?」

和士は率直に質問した。

「あぁ、実はな、君が面倒を見ているお姫様についてだ。」

アルテミスはそう言い、シャーロットを指さした。


「昨日、うちに彼女の母国の使者が訪ねてきたんだ。」


アルテミスはそう言い険しい表情になった。

「……使者は君に500万ポトル(日本だと500億円)を謝礼金として払うから、シャーロットを返してほしいと言ってきたんだ。」

アルテミスは和士の方を向いた。

「……お断りします。」

和士は即決に答えた。

「……ほう、相変わらず即断な奴だな。」

アルテミスはまたニヤリと笑った。

「……まぁいい、話を戻すがこの件には鉄火組にも謝礼金を払うと言っている。」

アルテミスは城崎の方を向いた。

「……ほう、手回しいい奴らだな。」

城崎はキセルを吸った。

「……鉄火組には8000万ポトル(8000億円)を払うと言ってきた。」

「ほぅ、随分とふっかけてくるな。」

城崎はニヤリと笑った。

「まぁ、俺は買わねぇがな。」

城崎も率直に答えた。

「……お前も相変わらずの決断力だな。」

アルテミスもヘラヘラと笑った。

「……おっと、そうだ、使者から一つ伝言を請け負ったんだった。」

「伝言ですか?」

和士は首を傾げた。


「………もし、姫君を返さないなら明日の晩、鉄火組総本部に総攻撃を仕掛け奪い取ると。」


アルテミスは真顔で語った。

「……ほう、力づくで奪うのか。」

城崎はニヤリと笑った。

「ウチに喧嘩を売る奴がいるなんて、いい度胸だな。」

「まぁ、私としては彼女を渡す事を進めるがな。」

アルテミスはそう言い、二人に忠告した。

「……話はそれだけですか。」

和士がアルテミスに問いかけた。

「…そうだが。」

アルテミスは答えた。

「……なら、私達はこれで失礼します。」

和士は軽くアルテミスに会釈した。

「行くぞ、シャーロット。」

和士はシャーロットの手を握り、引っ張って少し速足で部屋を出て行った。

「まったく、手のかかる奴らだな。」

城崎もアルテミスに軽く頭を下げ、和士の後を追った。

「……まったく、困った奴らだな。」

アルテミスはやれやれと肩を落とした。




数十分後

ケーキ屋『アミューズ』

その日の鉄火組総本部の監視は近衛兵達がやっていた。

そして、恵と城戸はソロに休憩室に呼び出されていた。

休憩室


「「えぇぇぇぇ、鉄火組総本部を潰す!」」


突然の話に恵と城戸は驚きの声を上げハモった。

「あぁ、さっき着た上の命令だ」

ソロは少し険しい顔で呟いた。

「明日の午後12時頃に鉄火組本部に総攻撃を仕掛けるから、お前らもその作戦に参加しろとの命令だ。」

「……そんなぁ。」

「……鉄火組総本部を襲うなんて納得できません。」

二人は作戦に反論した。

「私達は抜けさせてもらいます。」

「……私も。」

二人はソロを睨みつけた。

「……好きにしろ。」

ソロは目を二人から逸らした。

「行こう恵。」

「………うん。」

城戸と恵はそう言い残し、部屋を出て行った。




とある人気のない裏路地

「……本当にいいのか?」

リコッタは壁にもたれて呟いた。

「……リコッタさん、私やります。」

腕や頭に包帯を巻いた広瀬は呟いた。

「明日の襲撃に参加します。」

広瀬は明日の作戦に同意した。

「……日坂と戦うかもしれないんだぞ。」

「構いません。」

広瀬は拳を握りしめた。


「……一戦を交える覚悟はできています。」


広瀬は低い声で呟いた。

どうやら、覚悟は決めているようだ。

「……分かったのじゃ。」

リコッタは広瀬の肩に手を置いた。

「……無理そうなら休ませるからな。」

「……はい。」

広瀬はコクリと頷いた。




鉄火組総本部

旧家の畳200畳の大広間の会場は温泉旅館の宴会が出来るほどの広さであり、鉄火組の幹部の会合に使われる場所でもある。

そんな場所の真ん中で、和士と城崎が向かい合うように正座していた。

二人の周りには100人近くの組員達が胡坐をかいていた。

そして、その中に陣川や矢島、天沢達の姿もあった。

「……親っさん、俺に大事な話とは一体なんなんですか。」

和士は真顔で質問した。

「………ふぅ~……あぁ、実はな………。」

城崎はキセルを吸い、口を動かした。


「………和士、お前を鉄火組の若頭の座につけ。」


「…………。」

それを聞いた、和士は驚愕した。

「………冗談はやめてください。」

和士は受け流した。

「冗談でこんなことは言わねぇよ。」

城崎はキセルを懐にしまった。

「……お前の実力は、ここにいる奴、全員が認めている………お前は若頭になることに反発する奴はいねぇよ。」

城崎はそう言い、周囲を見渡した。

周囲の組員達は納得するかのように、コクリと頷いた。

「お前が若頭なら、文句は言わねぇぜ。」

「私も組長に賛成だ。」

「適材適所だな。」

天沢、矢島、更には副組長の陣川も了承していた。

「……つ~、わけだ。」

城崎は立ち上がり


「日坂和士、お前を鉄火組若頭に任命する」


城崎は強引に宣言した。

「……ちょっ、俺はまだ、了承していませんって。」

和士は意義を唱えたが

「……親の言うことは絶対だ。」

と言い跳ねのけた。

「……まぁ、えぇじゃないか。」

隣に座っていた陣川が和士の肩に手を置いた。

「……陣川さんも何か言ってやってください。」

和士は陣川に泣きついた。

「……こうなったら、もう、大人しく席に座りな。」

陣川は歯を見せて笑った。

「……お前になら、鉄火組を指揮させても誰も文句は言わんよ。」

「………陣川さん。」

「………頼むぞ、若頭。」

矢島はわざとらしく言った。

「よし、お前ら今日は宴だ、法治、花道やナガタに出前を取れ100人分だ!」

「分かりやした、親父!」

「松人、お前は麒麟から、酒をありったけ注文しろ!」

「畏まりました。」

こうして、和士の若頭就任の宴は夜の2時まで続いた。




同時刻

ケーキ屋『アミューズ』

「……魔法少女、ヒーロー合わせて20人程度、集まりましたのじゃ。」

リコッタは受話器に耳を当てて、誰かと会話をしていた。

「はい、そちらの言う通り、奇襲の準備は着々と進んでいるのじゃ。」

リコッタは自慢げに言った。

鉄火組総本部を奇襲するためにリコッタは戦力を集めていた、東京のあちこちにいる優秀な魔法少女や戦隊ヒーローなどに声をかけて、20人程度が集まった。

「………他にも日坂和士が鉄火組の若頭に就任されたそうです。」

「……若頭だと⁉」

「……えぇ、今その若頭の就任の宴会が開かれています、その証拠に色々な出前が総本部に集っています。」

「……そうか、引き続き監視を頼む。」

「……はい、準備は万端じゃ。」

リコッタはそう言い、電話を切った。

「……一応、住民の避難も考慮した方がいいのじゃ。」

リコッタは歌舞鬼町に住んでいる住民を抗争に巻き込まないように、住民を避難するようにソロ達に指示を出した。




数時間後

大広間に100人近くの組員や幹部、組長が酒で酔いつぶれて、寝ていた。

「…………。」ぐか~

「…………。」すぴ~

宴会が終了し、現在深夜3時頃。

終焉した宴会に綺麗な月明かりに照らされていた。

「………ふぅ。」

シャーロットは縁側に座って、月を眺めていた。

「………綺麗な月だな。」

シャーロットはボソリと呟いた。

「……よう、シャーロット。」

そこに和士がやってきた。

「……よっと。」

和士さんはシャーロットの隣に座った。

「………眠れないのか。」

「………はい。」

シャーロットはコクリと頷いた。

「………広瀬達のことか。」

「………はい。」

また、コクリと頷いた。

「………少し寂しいです。」

「………寂しい?」

和士は首を傾げた。

「………今までずっと、一緒にいたのに決別するとすごく胸が痛いです。」

シャーロットは自分の胸を鷲掴みにした。

「……はぁ。」

和士は深く深呼吸をした。


「だったら、帰ったらどうだ。」


「………えっ。」

シャーロットは驚愕した。


「…………どうしたいかは自分で決めろ。」


和士はそう言い、シャーロットの頭を撫でた。

「………自己判断、自己責任、これは鉄火組のルールだ。」

「………ルールですか。」

「………自分の道は、自分で切り開く、俺もそうしてきた。」

和士はそう言い、無邪気に笑った。

「はい、分かりました。」

シャーロットも釣られて、笑った。

「………ふっ、やるじゃないか。」

襖の影で城崎はニヤリと笑った。



つづく

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