第4章 怪人の日々


翌日

朝日の眩しい光が東から上り、歌舞鬼町を照らした

「……んっ、ここって?」

気が付いたシャーロットは、瞼を開けて起き上がった。

「………これって。」

シャーロットは周囲の光景を見て、困惑した。

なぜか、自分は布団の中にいて、台所では和士が朝食を作っていた。

「………起きたか。」

シャーロットが起床したことに気づき、駆け寄り、昨日のことを説明した。

あの日、和士の懐で泣きじゃくったシャーロットは、泣き終わると疲れたのか寝てしまった。その後、和士は部屋に布団を敷き、シャーロットを横に寝かせ掛布団を掛け、就寝させた。

「……。」

シャーロットは急に顔を赤くした。

「色々と迷惑をかけて、ごめんなさい。」

シャーロットは深々と頭を下げ謝った。

「気にしてないよ。」

和士はそう言い、優しくシャーロットの頭を撫でた。

「それより、ご飯食べよう。」

和士は台所に戻り、調理を続けた。

シャーロットは布団から出て、洗面器で顔を洗った。

「………ごはん、出来たぞ。」

和士は出来た朝食を部屋の卓袱台に置いた。

「は~い。」

シャーロットは元気な声で返事をした。




数分後

「「ご馳走様。」」

二人は手を合わせ、朝食を食べ終えた。

「……今日はちょっと外に出かけるから、準備しろよ。」

和士は食器を台所に運びながら、呟いた。

「……外ですか。」

シャーロットは首を傾げた。

「……あぁ、この街を案内する。」

「案内ですか。」

「…あぁ、この街で暮らすんだから当然だ9時になったら、出掛ける。」

和士はそう言い、食器をスポンジで洗った。



同時刻

広瀬達、魔法少女達が和士を探していた。

新宿西駅前交番付近の歩道

「‥神社に和士君、いないね。」

「…この人込みの中から見つけるのは大変だよ。」

城戸と広瀬は雑踏する町の周囲を見渡した。

「……まぁ、大変だねこりゃ~。」

「…和士君、どこにいるんだろう。」

「はぁ、こんな時にリコッタさん達がいれば百人力なんだけどな。」

城戸は深く呼吸し、頭を抱えた。

「仕方ないよ、昨日あんなことがあったんだから。」

広瀬はそう言い、空を見上げた。

昨日の午前3時頃、リコッタの率いる近衛部隊は警察に補導され、警視庁で現在取り調べを受けている。

理由は、リコッタ率いる近衛部隊は、ある壁の前で全員一列になって、立ち連れションをしたからだ。

「……今は和士君を探そう、シャーロットはきっと和士君と一緒にいるはずだよ。」

広瀬は強く拳を握りしめた。

「うん、そうだね、頑張って探しだそう。」

城戸が優しく、広瀬の拳を両手で包み込んだ。

すると

「……お~い。」

中嶋が手を振って、広瀬達に駆け寄ってきた。

「恵、何か分かったの。」

「…うん、いい情報が入ったよ!」

「本当!」

広瀬は笑みを浮かべた。

「……さっき交番に聞いたら、日坂君がイナリ荘っていうアパートに住んでいるみたい。」

「………イナリ荘。」

広瀬はボソリと呟いた。

「さっき、警察の人に場所を教えてもらったから、案内するね。」

中嶋はそう言い、二人を引き連れてイナリ荘へと向かった。



そして、その一方では

警察庁 牢屋

「……なんで、こんなことに。」

リコッタは目の前の鉄格子を見つめながら、呟いた。

警察に補導され、警視庁で職質されたリコッタ達近衛部隊は、長く続く取り調べに我慢できず暴れてしまい、公務執行妨害で逮捕された。

現在、牢屋で裁判の判決をまっていた。

「……どうするんですか。」

「このまま、無期懲役は嫌ですよ。」

バリアントとソロがリコッタに話しかけてきた。

「それは、分からないのじゃ。」

リコッタは俯いた。

「はぁ、大佐が立ち連れションしようだなんていうから。」

「それは、ソロ伍長が先に言い出したのじゃ。」

リコッタソロを指さした。

「俺、そんなの言ってませんよ!」

ソロは反論した。

「このスケベ、ネズミ!」

「誰がスケベネズミだ、このエロ犬!」

「犬じゃない、狼だ!」

「ちょっ、やめろ二人とも、牢屋の中で喧嘩は。」

バリアントが止めようとしたが

「「うっさい、バツ三の嫁に逃げられた負け猫が!」」

「なっ、なんだともう一回いってみろや!」

二人にドロップキックを食らわせ、喧嘩は殴り合いへと変貌したのだった。

その後、巡回にきていた看守に見り牢屋で騒いだ3匹は、罰として畳3畳の牢屋に移されたのだった。




とんかつ屋『梅のや』

「ごちそうさん。」

「うまかったな。」

カツ丼を食い終えた、矢島と天沢が手を合わせた。

「やっぱり、ここのかつ丼は最高だな。」

「そんなこと言えた、立場かよ、本部のトイレ掃除2週間の刑で済んでよかったな。」

リコッタに負けた矢島と若衆達は罰として、2週間、総本部のトイレを全て毎日掃除する処分を受けたのだった。

更に、おつかいとして和士を本部に連れてくるよう言い渡されたのだった。

「まぁ、メシも食ったし、そろそろ日坂をしょっぴくぞ。」

矢島が話題を変えた。

「あのバカ、早く見つけねぇとまたバカをやらかしかねんからな。」

「まったくだ、挨拶代わりに一発、拳骨でも食らわすか。」

「それなら、コブラツイストの方がいいな。」

「はは、それはいいな。」

二人は楽しそうに語り合い、レジで会計を済ませた。

「あいつ今、何してんだろうな。」

「ナンパでもしてんじゃねぇのか。」

二人は肩を並べながら、日坂のいるイナリ荘へと歩いて行った。




数十分後

釣り堀『ベンケイ』

釣り堀場でシャーロットと和士はバケツと竿を手に持ち、釣りを行っていた。

「釣りって簡単に見えて難しいんですね。」

「あぁ、俺も全然釣れなくて自棄になって全財産をエサにつぎ込んだものさ。」

和士はシャーロットに歌舞鬼町を案内するがてら、普段から通っている店の一つ、釣り堀で釣りを教えていた。

「竿を軽く上下に振って、エサが生きているようにすると魚がエサにかかるぞ。」

和士はそう言い、手に持っている竿を軽く上下に振った。

「………はっ、はい、分かりました。」

シャーロットも軽く竿を上下に振った。

二人が釣りを楽しんでいるとある人影が歩み寄ってきた。


「見つけたぞ、シャーロット・シェリンフォード!」


突然、叫び声が聞こえた。

振り向くとそこには

「……赤きプラズマの戦士、レッドライトニング参上!」

身長が高くガタイのいい赤いボディスーツに身を包んだ、ヒーローが立っていた。

「………なんのようだ。」

和士は冷めた目でレッドライトニングを見つめた。

「………覚悟!」

レッドライトニングは猛スピードで突っ込んで拳を大きく振りかざした。

拳はシャーロットに目がけて降ってくるのかと思いきや



数十分後

「…………。」ピクピク

レッドライトニングは和士に叩きのめされ、床に倒れた。

「まったく、なんなんだこいつは。」

和士は殴った時に汚れた手をハンカチで拭った。

「………ここを出よう、店に迷惑はかけられない………行くぞ。」

和士は店員に竿とバケツを強引に渡し、少し速足で店を出て行った。

「……ちょっ、待ってください。」

シャーロットは竿とバケツを置いて慌てて、後を追った。




イナリ荘 

アパートの隅になる和士の部屋の前はなんだか、騒いでいた。

「えっ、出掛けている!」

「しかも、金髪少女と一緒だと!」

和士が住んでいるイナリ荘にきた、矢島と天沢は驚きの声を上げた。

「………えぇ、シャーロットに歌舞鬼町を案内するって、二人で出掛けていきました。」

月村は二人に色々と説明した。

「………マジか。」

「……組長の勘が当たった。」

二人はボソボソ何か呟いていた。

「………どうしたんですか。」

月村はボソボソ呟く、二人に質問した。

「いいや、何でもない。」

矢島が誤魔化した。

「………とにかく、和士を探すぞ。」

天沢はメガネのフレームを上げた。

「……まぁ、歌舞鬼町にいるのは幸いだ。」

矢島は頭をかいた。

「……行くぞ、天沢。」

「……あぁ、急いで探そう。」

二人は少し速足でその場を去っていった。

「……こりゃ~、ヤバいな。」

月村は深く考え悩み込んだ。



ハンバーガー店『ワクドナルド』

二人は出入口近くの席でハンバーガーを食べていた。

「……美味しい。」

シャーロットは美味しそうに微笑んだ。

「……俺の行きつけの店だから、当然だ。」

和士はそう言い、コーラを飲み干した。

「……それにしても、今日は大変な日だな。」

和士は少し皮肉を込めて呟いた。

『ベンケイ』を出た後も、あの後数人のヒーローと和士は応戦した。

当然、全員和士が倒した。

「………色々お騒がせしてすみません。」

申し訳なさそうに謝った時だった

プルルルル プルルルル

和士のスマホに着信音が鳴り響いた。

和士「誰だ、一体。」

和士はスマホを耳に当てて電話に出た。

和士「………はい、もしもし。」

和士は10分近く電話の相手をしたのだった。




数十分後

食事を食べ終えたシャーロットは和士の指示で、とある建物の人気がいない日陰に連れてこられた。

「………どうしてこの場所に。」

シャーロットは和士に言い寄った。

和士はそう言うと、ポケットから黒い腕輪を取りだし、左腕にはめた。

これはチェンジリング(変身腕輪)という人間が怪人に変身する道具である。

「変身!」

和士の言葉とともにチェンジリングは光の帯を発した。

光の帯は和士を包み込み

「……変身完了。」

一瞬にして和士は怪人、屑鉄仮面へと変身した。

「…和士さん………屑鉄仮面だったの⁉」

シャーロットは目を丸くし、驚愕した。

「知っているの、俺を!」

「うん、結衣さん達から色々聞いています。」

結衣とは広瀬のことである。

「……困った人を助けてくれる優しい変わった怪人だって、いつも、言っていました。」

「そうか、あいつが。」

屑鉄仮面は少し照れ臭そうに呟いた

「……とにかく、出掛けよう。」

屑鉄仮面は、一歩前に出て


「トランスチェンジ!」


屑鉄仮面の叫びとともに体が一瞬で変形し


「…………チェンジ完了。」


赤いワーゲンのビートル(車)に変身した。

「乗れ。」

ビートルのフロントドアが開いた。

「わっ、分かりました。」

シャーロットは和士の指示に従い、車のフロントシートに座り、シートベルトをした。

「じゃぁ、出るぞ。」

車のドアを閉め、ゆっくりと発進した。



とある歩道

「目撃情報だとこの辺りにいるみたいだな。」

「そうらしいな。」

矢島と天沢が街の周辺を見渡した。

そして、後ろから

「あった、ここにいるって目撃情報が出た。」

「まったく、手間を取らせるわね。」

「取り敢えず、探そう。」

広瀬達3人がやってきた。

ブオオオン

矢島と天沢の前を一台の赤い車が現れた。

「…………。」

赤い車はゆっくりと車道を進み、矢島や広瀬達とすれ違った。

そして

「………えっ!」

「あの子は確か⁉」

「……シャーロット!」

「なんでここに⁉」

「……車に乗っているの。」

車に乗るシャーロットを見て5人は驚愕し、固まったのだった。

ブオオオン

そして、車は急にスピードを上げて走り去ったのだった。




数十分後

シャーロットを乗せたビートルは国道を進んでいた。

「……あのかず、屑鉄仮面さん。」

シャーロットが屑鉄仮面に話かけた。

「……和士でいいよ、でも、他に人がいる時は屑鉄仮面って呼んでくれ。」

和士は呼称を指摘した。

「すみません、それで今からどこに行くんですか。」

「………それは。」

和士が言おうとした時だった。

ピーポー ピーポー

突然、パトカーのサイレンがビートルの後ろから鳴り響いた。


「見つけたのじゃ!」


ビートルの後ろでは、サイレンを鳴らしたパトカーが数台走っていて、リコッタの率いる近衛部隊が乗っていた。

理由は簡単である、リコッタ達は警視庁を脱出し、パトカーを数台拝借し、逃走したのだった。

逃走する際中、ビートルに乗るシャーロットを偶然発見し追跡したのだった。

「大人しく泊まるのじゃ!」

箱乗りしながらリコッタは叫んだ。

パトカーはスピードを上げ、距離を詰めてくる。

「どうしよう、追いかけてくる。」

シャーロットは動揺した。

「……しっかり、捕まっていろ!」

屑鉄仮面は低い声で呟くと、ビートルはもうスピードを上げた。

しかし、そこに


「…おい、そこの車止まれ!」


今度は、車に乗った矢島と天沢が追いかけてきた。

そして、さらに

「……あっ、いた!」

更に今度はタクシーに乗った広瀬達が叫んだ。


「……あいつら、何やってんだ。」


屑鉄仮面はやれやれと頭を抱えた。

「………ちょっと、危ないがあの手でいくか。」

「あの手。」

シャーロットは首を傾げた。

「……行くぞ。」

屑鉄仮面は車のスピ―ドを上げ、リコッタ達を追い越した。




数十分後

その後、シャーロットを乗せたビートルこと屑鉄仮面はレインボーブリッジを渡った。

「……いい加減観念するのじゃ。」

「止まれ、クソガキ!」

「止まりなさい!」

後ろからしつこく、リコッタ達が追いかけてくる、そして距離がみるみると縮まった時だった。


(……今だ!)

ビートルは急に左に曲がった。

ドン

そして、橋の柵を破り

バシャ

ビートルは海に落下した。

それを見た、リコッタ達は車を止め、外に出て破った柵に駆け寄った。

「…………。」

「……。」

「…。」

リコッタ達は下の海を見つめた。

「……死んだのか。」

「……その可能性が高いな。」

「………この高さから、落ちたんだ、無事じゃすまねぇよ。」

「……こんな最期を迎えるなんて。」

皆、口々に呟くと車に戻り去っていった。




海中

「…………。」ブオオオン

海に落ちて行く、ビートルがエンジン音をならした。

「……トランスチェンジ。」

屑鉄仮面は能力を発動し、ビートルが変形した。

ビートルのタイヤが収納され、代わりにリアバンパーの左右下からスクリューが2つ現れた。

ビートルは一瞬にして、スパイ映画に出てきそうな車の潜水艦へと変貌した。

「……すごい。」

シャーロットは窓の景色から見える海の景色を眺めた。

海中には多くの魚達が群れをなして泳いでいた。

「……発進するぞ。」

スクリューが回転し、ビートルが発進した。




数十分後

レインボーブリッジ近くの車道

その中で、天沢と矢島が乗る車がビートルが落ちた、場所をうろついていた。

「…………矢島、どう思う、あのビートル。」

天沢が矢島に問いかけた。

「…あぁ、あの落ちたビートルは恐らく、日坂だ。」

矢島は確信したかのように答えた。

鉄火組のごく一部(アタナシアの隠密諜報部隊)の者たちは、和士が屑鉄仮面であることを知っていた。

「……あいつのことだ、潜水艦に化けて行方をくらまして、どこかの岸で車に戻るつもりだな。」

矢島はそう言い、橋の下から見える海を見つめた。

「……探索するか。」

「増援を呼んだ方がいいな。」

矢島はそう言い、スマホを手に取った。




とある警察の護送車 車内

「…………。」

「…………。」

「…………。」

リコッタ達は牢屋を無断で出て、警察のパトカーを盗んだため、また、警察に逮捕され護送車に箱ばれていた。

「……まったく、君達みたいな囚人を相手にするのは、始めてだよ。」

一人の年配の警察官が呟いた。

「……お手数おかけして、すまないのじゃ。」

近衛部隊の代表として、リコッタが深く頭を下げたのだった。




そして、広瀬達はと言うと

「「「えぇ、5万円!」」」

シャーロットの乗ったビートルを追跡するために乗ったタクシーの料金を払っていた。

3人は財布から有り金を全部出し、ギリギリ支払えたのだった。

「………くっ、まさかここまで、苦しめられるとは。」

「いたしかたない。」

「……正義には代償がつきものだよ。」

「でも、今月のお小遣いがなくなっちゃったよ。」

中嶋が涙目になりながら、呟いた。

「……くっ、明日はデートだったのに。」

城戸は強く拳を握りしめた

「……映画見たかったな。」

広瀬はしぼんだ声で呟いた。

3人は深く肩を落としながら、歩道を歩いて帰っていった。

そして、海に落ちた二人はどうしているかというと





2時間後

アタナシア総本部

「…………。」

変身を解いた和士は、巨大な真暗で部屋のど真ん中に立っていた。

シャーロットは別の部屋で取り調べを受けていた。

ピカッ

突然、スポットライトがついた。

アルテミス提督「久しぶりだな、屑鉄仮面。」

スポットライトに照らされた場所には、軍服に身を包んだ銀色がかった白髪のショートヘアをなびかせた中学生くらいの少女が高飛車に豪華な椅子にこしかけていた。

彼女は和士が所属する悪の秘密結社『アタナシア』の権力者、アルテミス提督である。

この部屋はアタナシア総本部の会議室である。

和士がシャーロットを連れてきたのは自分の上司、アルテミス提督からの命令だったからである。

命令はさっきの電話からだった。

「はい、お久しぶりです提督。」

和士は深々と頭を下げた。

「まったく、昨日も随分とやってくれたな。」

アルテミスは肩を落とした。

「……魔法少女との決闘、そして、謎の少女の保護、なぜ、命令しなかったのだ。」

アルテミスは和士を睨みつけた。

「それは、報告するほどのことではないと思ったからです。」

「……まったく、相変わらずの言い訳だな。」

アルテミスは深くため息をついた。

「………どうして、ここに呼ばれたか分かるか?」

アルテミスは険しい表情になった。

「……はい、分かっております。」

「分かっているのなら、話は早い。」

アルテミスは和士に指を刺し

「日坂和士、お前を我がアタナシアから追放する!」

解雇を宣言した。

和士、いや、屑鉄仮面はアタナシアの怪人でありながら、色々な問題行動を起こしていた。

人助けをすること 31件

無断で敵対する悪の組織を壊滅すること 40件

他の悪の組織の企てを潰したこと19件

悪徳ヒーローを締め上げること 9件 

等と色々な問題を起こしていた。

そして、昨日、生身の身体で魔法少女と戦ったため、とうとう100件を超えた。

「…明日までに部屋の荷物をまとめて、出て行くように後、退職金はあとで月村から貰え、それとチェンジリングは現物支給でくれてやる。」

アルテミスはそう言い、深く帽子を被った。

「……はい、今までお世話になりました。」

和士はまた、深々と頭を下げ部屋を出て行った。

アタナシアをクビになり、無職の怪人となったのだった。




イナリ荘

山口の部屋

今日も部屋には、山口を覗いた松田、中嶋、影崎、月村の4人が集結していた。

「えっ、それ本当か!」

松田が突然、叫んだ。


「………あぁ、さっき上からの連絡で今日、和士が解雇された。」


月村が低い声で呟いた。

「なんで、和士だよ。」

「どうして、日坂が⁉」

中嶋と影崎が月村に詰め寄った。

「そうだよ、月村!」

今度は山口が月村に問いかけた。

「……だから、今日で和士ともお別れだ。」

和士はそう言い、目を泳がせた。

「……最後の夜だ、あいつの送別会をするから、全員にこのことを伝えろ。」

「お前、本気で言っているのか!」

頭に血が上った松田は、月村の胸倉を掴んだ。

「……仕方ないだろう。」

月村は抵抗せず、少し低い声で呟いた。

「……俺達にはどうすることもできない。」

手から血が出るくらい拳を握りしめた。

松田は月村の拳を見て、察した。

「……すまない。」

松田は掴んでいた手を放し、少し距離を取った。

「……俺は、大家さんにこのことを伝えるから、お前らも早くこのことを伝えろ。」

月村はそう言い残し、部屋を出て行った。

「……ちっ、行くぞ、お前ら!」

松田は舌打ちをし、中嶋達を引き連れて、イナリ荘の他の住民達に和士のことを伝えたのだった。




とある国道

ブオオオン

アタナシア総本部を出て行った和士はまたまた屑鉄仮面に変身し、体を赤い高級フェラーリに変換させ、シャーロットを助手席に乗せて国道を走り、イナリ荘に帰る途中だった。

「…………。」

本部を出てからシャーロットはずっと黙っていた。

「………あの~くずてっ、和士さん。」

シャーロットがフェラーリの運転席に呼びかけた。

「………なんだ。」

「……すみません、私のせいで、辞める翼目になってしまって。」

シャーロットは運転席に向かって深々と頭を下げた。

「いいんだ、元々俺は問題児だから、当然の結果だ。」

和士が励ました。

「……でも。」

シャーロットが言いかけたが

「……それにあの組織を丁度やめよと思っていたところだ。」

和士が優しく励ました。

しかし、次の瞬間

「止まれ!」

どこからか誰かの叫び声が聞こえた。

「なっ。」

屑鉄仮面ことフェラーリはブレーキをかけ、車が止まった。

フェラーリの前には、矢島が手を広げて立っていた。

「やっ、矢島さん、なんでここに!」

屑鉄仮面は驚きの声を上げた。

「……ちょうどいい所に来てくれたな。」

近くの歩道から天沢が現れた。

「まぁ、とにかくだ。」

矢島はそう言うとフェラーリに近づき、運転席のドア開け

「……よいしょ。」

フェラーリの運転席に座り、シートベルトをした。

「ちょっ、何やっているんですか。」

和士は焦りながら、矢島に問いかけた。

「何って、お前に乗っているんだ。」

矢島はそう言い、ハンドルを握った。

「お前の能力は本当、便利だな」

今度は天沢が後部座席に座った。

「……どうして、俺に乗るんですか。」

「実は数分前に俺達車がエンストを起こしてな。」

天沢が答えた。

「……それで、何か代わりの車を探していたところだったんだ、いや~、まさかここでお前に会うとは、運がついているな。」

矢島はそう言い、ハンドルにもたれかかった。

「俺はタクシーじゃないですよ。」

「……まぁ、細かい事は気にするな。」

矢島はそう言い、シフトレバーを降ろし、車を発進させた。

「………はぁ、なんでこんなことに。」

和士はやれやれとため息をついた。



数十分後

3人を乗せたフェラーリはあっという間に歌舞鬼町付近まで来ていた。

「……なぁ、日坂。」

矢島がハンドルに向かって、呟いた。

「なんですか。」

「……その女の子はどうするつもりだ。」

矢島は助手席に座っているシャーロットを見つめた。

「……この子は、俺が面倒をみるつもりです。」

「無職でもか?」

後部座席に座った、天沢が言った。

「………なんで、それを。」

「……さっき、多護さんがメールで知らせてくれたんだ。」

「……あのアゴヒゲ。」

和士は唇を噛み締めたような口調で呟いた。

「……なぁ、日坂。」

矢島が真顔になった。

「お前、うちにこないか?」

「……。」

和士は何も言わず黙り込んだ。

「……丁度組長の命令でお前のことを探していたんだよ昨日の件のことでな…………でもよ、こうなった以上、親父は文句なんて言わないと思うぜ。」

「だったら、ウチに来いよ、日坂…………俺や、天沢、多護さんはお前のことを認めているんだぜ。」

「あぁ、それ陣川さん達、幹部連中の一部もお前に組に入ってほしいと思っている、行くところがないならウチに来いよ、その子と一緒に住めるよう頼んでみる。」

天沢はそう言い、シャーロットの方を向いた。

「……矢島さん、天沢さん、この話すみません、その話受け入れられません。」

和士はきっぱりと断った。

「どうしてだ、ウチに入るのがお前の夢じゃないのか⁉」

矢島が動揺した。

「矢島さん達が認めても、親っさんが認めないんじゃ、俺は組に入りません。」

「……組長か。」

矢島がボソリと呟いた。

「安心しろ、親父には俺達からうまくいっておく。」

天沢がメガネのフレームを上げた。

「…………。」

和士はまた、黙り込んだ。

「……分かった、日坂もういい。」

矢島は納得した口調で呟いた。

「……組長がお前を認めるまではこの話は保留だ。」

矢島はそう言い、ハンドルを切った。

「……ありがとうございます。」

和士は小声でお礼を言った。

「……それでいいか、天沢。」

矢島は天沢に話を振った。

「……たくっ、相変わらず頑固な奴だな、お前は。」

天沢は深くため息をついた。

「………一体何の話だろう。」

シャーロットは深く首を傾げ、考え込んだ。

「まぁ、頑張れよ。」

矢島はそう言い、ハンドルを右に切った。

その後、和士は矢島と天沢を鉄火組総本部の前まで送り、シャーロットを乗せてイナリ荘へと帰っていった。




そして、同時刻、月村達はと言うと

歌舞鬼町

ひょうたん広場

歌舞鬼町にある一番大きな広場で多くの人達がスポーツなど体を動かすために使われる、時々、和士や松田達はサッカーや野球をするために使っている場所である。

「……はぁはぁ。」

月村こと水晶騎士は膝をついて、立ち上がった。

ボロボロの身体を無理に起こして

水晶騎士の目の前には

「終わりだ、水晶騎士!」

水晶騎士を身構えるのは、獣装戦隊のレッドライオンだった。

「………。」

「……うっ。」

レッドライオンの周りには、松田達数人の怪人達が倒れていた。

今から数十分前、上からの命令でひょうたん広場をパトロールしている、レッドライオを始末するよう命令され、月村達は怪人に変身し、ひょうたん広場にやってきた。

しかし、レッドライオンがあまりにも強く、月村以外のメンバーは全員敗れて失神しているのである。

「まだだ!」

水晶騎士は剣を握り、刃をレッドライオンに突き立てた。

「……まだ、勝負はついていない。」

「いいだろう。」

レッドライオンは手に持っていた剣を握りしめた。

「お前の覚悟を認め、全身全力で勝負しよう。」

強く宣言し、剣を水晶騎士に向けて突き立てた。

「……ふぅ。」

「……ふぅ。」

二人は深呼吸し、心を落ち着かせ、そして、

「「勝負!」」

水晶騎士とレッドライオンは同時に突撃し、剣を振りかざした。




一方その頃、矢島達は

鉄火組総本部の坪庭

「………というこです。」

矢島と天沢がさっきまで、和士のことを説明した。

「……ほう、外でそんなことが。」

城崎は坪庭にある池に住んでいる鯉達にエサを上げていた。

「まさか、あの少女が日坂と一緒とはな。」

城崎は笑みを浮かべながら、笑った。

「笑い事じゃありませんよ。」

矢島は不機嫌そうに呟いた。

「日坂を追いかけるために使った本部長の車、エンストさせたせいで、中本さんにどやされたんですよ。」

矢島はそう言い、中本に殴られた腹部を握りしめた。

中本に許可なく、車を使ったのだから当然である。

「痛っ。」

中本に殴られてはれた頬を天沢は優しく撫でた。

「はは、自業自得だな。」

城崎はそう言い、池から顔を出した鯉にエサをばらまいた。

すると

「……組長大変です!」

矢島の舎弟、押田が慌てながらやってきた。

「どうした、押田⁉」

矢島顔色が悪い押田を心配し、問いかけた。


「……また、魔法少女が歌舞鬼町に現れました。」


押田は顔を真青にして、怯えながら語ったのだった。




数時間後

和士の部屋

「そっち終わったか。」

和士はそう言い、捨てる新聞雑誌をまとめ、縄で縛った。

「はい、ある程度は。」

シャーロットはそう言い、服やズボンをカバンに入れた。

和士とシャーロットはイナリ荘を出て行くための荷造りをしていた。

準備は着々と進んでいき、時刻は17時になった。

「……一息、入れるためにどこか食べに行かないか。」

和士は背を伸ばしながら呟いた。

「いいですね。」

シャーロットはそう言い、ニッコリと微笑んだ。

「じゃぁ、今やっている作業を終わらせて、夕食を食べに行こう。」

「うん。」

シャーロットはコクリと頷いた。

そして、二人は着々と今ある作業を無事に終わらせ出掛けたのだった。



そして、その頃

ラーメン屋『武藤』

イナリ荘の隣に立っている、レトロな雰囲気を臭わせるラーメン屋で和士や月村達が時々、食べにくる店である。

その日は、お客が多かった。

「やっぱりここのラーメンはうまいな。」

「すみません、炒飯追加でお代は山口が払うんで。」

「ちょっ、なんですか⁉」

「大将、俺は替え玉追加で山口が払います。」

「なら、俺も。」

レッドライオンに敗れた松田、山口、沢辺、吉村、五十嵐はカウンターに一列に座って、ラーメンをすすっていた。

ただ、一人を除いて

「いっ…まだ、痛むな。」

レッドライオンを打ち負かす代償として、肩にケガを負った月村は一人テーブル席でケガをした方を握りしめ、炒飯を口に運んだ。

そう、月村こと水晶騎士はあの後、なんとか、レッドライオンを破り、気絶した松田達を全員、おんぶしてここまで逃げてきたのだ。

その後、闇医者が経営する病院でケガを治療してもらったのだ。

「そういえば、武田達はどうだった。」

「あぁ、そういえば、電話してこなかったな。」

「敗れたのか?」

武田、影崎、中嶋、降谷の4人は、別の場所で戦闘を行っていた。

歌舞鬼町にある山猫公園は50人近くのホームレスが自分達の家を作って居座っている公園である。

そんな、山猫公園に一匹の怪人がやってきた。

悪の軍団『鼻毛の穴団』の怪人ノーズ仮面がやってきた。

ノーズ仮面はホームレス達を公園から追い出し山猫公園を『鼻毛の穴団』の拠点にしようとしたのだった。

その話を聞きつけた、武田達4人は怪人に変身し、ノーズ仮面と戦ったのだった。

「……あいつらのことだ、大丈夫だと思うぞ。」

月村はそう言い、追加で頼んだ餃子を口に運んだ。

「………そういえば、和士の奴はどうしてんだろうな。」

月村が話題を変えた。

「もう、イナリ荘に帰っているんじゃないのか。」

松田はそう言い、カウンターに置いてあるテレビのニュースを視聴した。


ニュースキャスター『ニュースです、今日、午前10時頃、レインボーブリッジの橋から一台の車が落ちて海に沈没しました………。』


テレビの映像でレインボーブリッジから海に落ちる赤いビートルの映像が流れた。

「……あいつ、又何かやらかしたな。」

月村は察し、肩を落とした。



鍋屋『十兵衛』

ちゃんこ鍋、すき焼き、しゃぶしゃぶ、牡丹鍋などの鍋料理専門の店である。

その店の屋内に影崎達の姿があった。

影崎、中嶋、降谷、武田の4人は座敷席に座って、テーブルに乗っているすき焼きを食べていた。

「……すき焼きうまいな。」

中嶋はすき焼きの肉を口に運んだ。

「野菜もしっかりくっとけよ。」

降谷は中嶋の取り皿に白菜を入れた。

「…影崎、うどんが入ってないのが残念だな。」

影崎は焼き豆腐を口に入れた。

「あぁ、そうだな。」

武田は残念そうに、肩を落とした。

「なぁ、日坂はどうなると思う。」

武田が話題を変えた。

「……アタナシアをクビになって、どうやって生活すると思う?」

武田は話を影崎達に振った。

「あいつのことだ、アルバイトしながらどこか安いアパートで生活するんじゃないか。」

中嶋はそう言い、卵をといた。

「……俺もそう思う。」

影崎はお茶を飲み、賛成した。




歌舞鬼町

とんかつ屋『梅のや』 屋内

和士とシャーロットのテーブル席に座っていた。

「「いただきます。」」

二人は手を合わせ、テーブルに置いてある、カツ丼を口に運んだ。

「美味しい。」

シャーロットは満足そうに微笑んだ。

「………ここは、歌舞鬼町最高のとんかつ屋だからな。」

和士はそう言い、お新香を口に入れた。

「……なぁ、シャーロット、ちょっといいか。」

和士は険しい顔になった。

「……次の住処なんだが、実は一つ心当たりがあってな……。」

「……えっ、もう決まったんですか⁉」

「あぁ、実は少し前から引っ越しを考えていてな、ずっとまえから目をつけていた場所があるんだ、明日、不動産にいって許可を貰ってくる。」

和士はそう言い、優しく微笑んだ。

「これで、住処にはもう困らない……新しい仕事はなんとか、探す。」

「………はい、分かりました。」

シャーロットはニッコリと微笑んだ。

「さぁ、とっとと夕食を済ませて、引っ越す準備をすませるぞ。」

和士はガツガツとカツ丼を口に入れた。

「………了解です。」

シャーロットは微笑み、ガツガツとカツ丼を平らげた。

その後、二人は部屋に戻り、引っ越しの荷造りを済ませたのだった。






さらに、翌日

その日は、少し雲が多い日だった。

太陽の日差しを遮り、今にも雨を降らしそうな嫌な天気だった。

「「いただきます。」」

二人は合掌し、朝食を取った。

朝食のメニューはフレンチトーストと牛乳だった。

「おいしい。」

「早く、食えよ。」

和士はコップに入った、お茶を飲んだ。

「……食べ終えたら、ここに大家さんがくるんだ。」

「……大家さん?」

「……俺が住んでいる部屋の持ち主だよ。」

和士は、トーストをかじった。

「引っ越しの手続きがあるから、早く食べろよ。」

「……朝から大変ですね?」

「…とにかく、メシ食って力つけとけよ………ご馳走様。」

素早くトーストを食べ終えた和士が、食器を運ぼうとした時だった。

ガラッ

玄関の扉が開き

「和士、おはよう。」

「おはよう、日坂。」

松田と中嶋が部屋に入ってきた。

「邪魔するぞ。」

松田と中嶋はズカズカと部屋に入ってきた。

「………えっ、この人たちは?」

突然の来客にシャーロットは戸惑った。

「大丈夫だ、この寮の住人だ…お前のことを士郎が宗助達に説明している。」

イナリ荘には既にシャーロットの存在を、一昨日の晩に月村が説明していた。

「宗助に玄蔵、どうしたんだ、急に。」

和士は顔を松田達の方に向けた。

「そんなの決まってんだろう。」

「シャーロットちゃんのことだよ。」

「シャーロットがどうかしたのか。」

「………あぁ、ちょっとまずいことになった。」

「………まずいこと。」

「あぁ、全国で指名手配されている。」

松田はそう言い、二人にスマホの画像を見せた。

『凶悪指名犯 魔王軍の幹部 シャーロット・シェリンフォード 逃走中 見かけて人は110にお電話を………。』

「考えたな。」

和士は冷や汗をかいた。

「………あぁ、警察もかなり総力をあげている。」

中嶋は冷や汗をかいた。

「……おまけに、今、歌舞鬼町の周辺を警察のパトカーが巡回している。」

松田はこっそりと窓を見た。

外にはパトカーのサイレン音が聞こえた。

「………驚くのは、まだ、これだけじゃない。」

「まだ、あるのか。」

「……一昨日の晩、鉄火組の総裁が拳銃で撃たれて亡くなったらしい。」

「……なんだって、塚本さんが⁉」

和士は中嶋に食いついた。

「……おっ、落ち着けって………。」

中嶋は和士を落ち着かせ、話を戻した。

一昨日の晩の午前2時頃、鉄火組の総裁、塚本恭司が稲田組の鉄砲玉に襲われて、病院にはこばれたが先日、病室で息を止めた。


「……それで、親っさんはどうなったんだ⁉」


中嶋は和士に質問した。

「………それは。」

和士が言おうとした時だった。

また、玄関の扉が開いた、そして、ある人物が部屋に入ってきた。

その人物は誰もが予想もしない人物だった。

「……久しぶりだな、和士。」

城崎が立っていた。

後ろには二人の黒服スーツの男達3人立っていた。

恐らく、鉄火組の構成員だろう。

「……あんたは鉄火組の⁉」

「……城崎兵五郎、なんでここに⁉」

「えっ、組長?」

突然、入ってきた城崎達に松田と中嶋、シャーロットは戸惑った。

「おっ、親っさん⁉」

ただ一人、和士は違った。


「「親っさん⁉」」


中嶋と松田の声がはもった。

「知り合い何ですか?」

シャーロットが質問した。

「あぁ、俺の憧れた………いや、惚れた漢だ。」

「……えっ、惚れた!」

シャーロットは驚きの声を上げた。

「………どういうことだよ、和士⁉」

「……そうだ、説明しろ、日坂!」

松田と中嶋が和士を問い詰めた。

「………お久しぶりです、親っさん。」

和士は無視し、城崎に向かって深々と頭を下げた。

「相変わらず、変わらねぇな、和士。」

城崎はそう言い、笑みを浮かべた。

城崎「……悪いが二人きりにしてくれないか。」

城崎はそう言い、手下の黒服たちに指示を出し。

「はい、組長。」

黒服達は、承認しシャーロット、松田、中嶋を部屋に追い出した。

結果、部屋には城崎と和士の二人だけになった。

「よいしょっと。」

城崎は部屋にあった、座布団に座った。

「……親っさん、お茶入れましょうか。」

「いや、結構だ、それより、お前も座れ。」

城崎はそう言い、近くにあった座布団と叩いた。

「あっ、はい。」

和士は座布団に座った。

「……なぁ、和士。」

城崎は少し険しい顔になった。

「…お前、一昨日神社で魔法少女とやりあったそうだな。」

「………はい、少し無茶しました。」

和士は素直に答えた。

「……なんで、そんなことをしたんだ。」

「……はい、実はですね………。」

和士は城崎に事情を話し始めた。





その一方で

和士の部屋の玄関外では

「………和士さん、大丈夫かな。」

「…………分からねぇよ。」

「…………あぁ、そうだな。」

外に追い出された松田、中嶋、シャーロットが和士の部屋のドアの前で囁き合っていた。

「…………。」

「…………。」

「…………。」

和士の部屋のドアの前には、3人の黒服の部下が手を後ろに組んでドアの前で立ちはだかった。

恐らく、誰も部屋に入れないようにするためのガードだろう。

「……おい、松田、どうやって、部屋に入る。」

「……そんなの決まってんだろう、やっちまうか。」

松田と中嶋が強行手段で部屋に入ろうと作戦を練っていた時だった。

「………そこで、何やってんだお前ら。」

月村が呆れた顔でやってきた。

「……士郎。」

「…月村と言え。」

月村はそう言い、松田の頭に手刀をかました。

「……それより、どうして、和士の部屋に黒服が立っているんだ。」

月村は頭をうずめて膝を曲げた松田を無視し、中嶋に質問した。

「………それは。」

中嶋が説明しようとした時だった。


「……もしかして、松田君と月村君?」


どこからか、松田と月村の名を呼ぶ声がした。

声がした方に顔を向けると、なんと、そこには

「お前は広瀬!」

「……広瀬、なんでここに。」

「……やっぱり、松田君と月村君だ。」

広瀬結衣が立っていた。

「……知り合いか?」

中嶋が二人に訪ねた。

「……あぁ、中学時代の同級生だ。」

月村がボソリと答えた。

「……俺も広瀬とは中学の時の部活仲間だ。」

松田も月村の隣に立ち答えた。

「……なんで、ここに?」

広瀬は首を傾げた時だった。

「………どうしたの、結衣。」

「……ナンパでもされたのか。」

広瀬の背後から中嶋恵と城戸祥子がやってきた。

「………あっ、姉貴⁉」

中嶋が驚愕し、驚きの声を上げた。

「……久しぶりね、玄蔵。」

中嶋恵は中嶋に手を振った。

実は、中嶋恵と中嶋玄蔵は姉弟で、玄蔵は恵の弟である。

「………それとシャーロットもお元気そうで。」

城戸は冷めた目でシャーロットを見つめた。

「……まさか、生きていたなんて、悪運悪いわね。」

恵はゴミを見る目で、シャーロットを睨みつけた。

「……はい、こちらこそ。」

シャーロットは深々と頭を下げた。

広瀬達が魔法少女だということをシャーロットは知っていた。

「………まさか、こんなところで再開するなんてね。」

広瀬は低い声で呟き、強く拳を握りしめた。

「…………。」

恵は黙ったまま、殺意のこもった目でシャーロットを見ていた。

3人は魔法少女に変身する『マジック・ブローチ』を握りしめ、今にも、シャーロットに襲い掛かるかのように身がまえた。

「……おいおい、なんだなんだ。」

「いじめか。」

その場の空気に察したのか、松田と中嶋がシャーロットの前に立ち、背中で隠した。

「……どういうつもりか、知らねぇが喧嘩してぇなら、とっとと出て行け。」

月村も察し広瀬達を睨みつけた。

実は月村達は、和士から広瀬が魔法少女であることを聞かされていた。

月村の言う通り、月村やヤクザの黒服達の一般の人の前で、魔法少女に変身できない、つまり、今の広瀬達には何もできないということだ。

「…ところで、広瀬達はなんでここにいるんだ。」

月村が本題に入った。

「……和士君に会いにきたの。」

「……和士にだと?」

月村がピタリと動きを止めた。

「………うん。」

広瀬はコクリと頷いた。

「……それで、和士君の住所を見つけて、ここまで来たの。」

広瀬はそう言い、和士の部屋のドアを見つめた。

「……でも、どして、こんなことに。」

広瀬は少し浮かない顔でドアの前に立つ、黒服スーツ達をジッと見つめた。

「……一匹何があったの?」

広瀬は月村に問いかけた。

「………それは俺が話す。」

松田が広瀬の前に一歩出た。

「……松田君。」

「……実は、和士は今、部屋の中で鉄火組の組長と話しているんだ。」


「……えっ、えぇぇぇぇぇぇ!」


広瀬は驚きの声を上げた。

「……鉄火組の組長って⁉」

「……歌舞鬼町の番人と謳われたヤクザの親分じゃない。」

恵と城戸もくいついた。

「……どうして、和士君がヤクザなんかと。」

広瀬は月村に詰め寄り、また、質問した。

「俺にも、分からない。」

月村は首を横に振った。

「むしろ、こっちが聞きたいくらいだ。」

松田が話に割り込んだ。

「…和士君、昔、ヒーローになるのが夢だって、言っていたのに。」

広瀬は寂しい声で呟き、俯いた。

すると、そこに


「……えっ、広瀬なんでここに。」


今度は、影崎がやってきた。

「……影崎君。」

広瀬は影崎の方を向いた。

すると、影崎の後ろから、沢辺と五十嵐、武田がいた。

「たくっ、朝っぱらから何の騒ぎだ。」

「……なんだ、喧嘩か。」

「……喧嘩なら、手を貸すぞ。」

沢辺達は口々に呟いた。

「はぁ、これはややこしくなるな。」

月村はため息をし、頭を抱えた。




そして、当の和士達はというと

「はははっ、それで魔法少女をぶちのめしたのか。」

事情を聞いた、城崎は笑った。

「……あいも、変わらずお前らしいな。」

城崎は、手に持っていたキセルをふかした。

「…また、無茶したじゃねぇだろうな。」

城崎は険しい顔で和士の頬の小さい傷を見つめた。

その傷は、一昨日、魔法少女との戦闘で出来た傷である。

「……はぁ、なぁ和士。」

城崎は煙を吐いた。


「実は、お前を組に入れろと騒ぐ、奴が多くてな。」


「………俺を組にですか?」

和士は氷りついた。

「……あぁ、法治や松人がお前を組に入れてやってくれって、うるさくてな。」

城崎は耳たぶを触りながら呟いた。

「……どうやら、お前のことを本気で認めているみたいだ。」

「……俺のことを、本当に?」

「……本当じゃなかったら、この話はしねぇよ。」

城崎は懐から灰皿を取り出し、中にキセルの灰を出した。

「……お前は、組に入りたいために、色々と努力したのは知っている。」

城崎はそう言い、和士の目をジッと見つめた。

「ウチに弓を引く奴らの情報を流したり、シマを荒すバカをボコして、挙句にアタナシアになんか入りやがって。」

「親っさんの組に入るためなら、なんだってしますよ。」

和士はそう言い、真剣な顔で答えた。

「まったく、これじゃぁ、カタギに戻すのも苦労するぜ。」

城崎は頭をかき、肩を落とした。

「………………お前にここまで覚悟を見せられたんじゃ、承諾するしかあるめぇ。」

「………えっ、それってもしかして。」

和士はすごい勢いで食いついた。


「……あぁ、はれてお前と盃を交わしてやる。」


簡単に言うと、子分にしてやるという意味だ。

「………。」

城崎の言葉で和士は一瞬で驚愕し、固まった。

「ここまで、しつこく粘られたんじゃ、参っちまったぜ。」

城崎はそう言い、ニヤリと笑みを浮かべ、和士の頭を撫でた。

「………はい!」

和士は拳を握り締め、今にも出そうな涙を堪え、元気な声で返事をした。

「…喜んで盃を頂かせてもらいます。」

和士はそう言うと、涙を流し、深々と城崎に土下座した。




そして、外では

「……という訳だ。」

月村が影崎達に事情を全て話した。

「………なるほどな。」

「でも、日坂がヤクザと知り合いなんて、予想外だ。」

「………お前、知ってたか。」

五十嵐が松田に質問した。

「……いいや。」

松田は首を横に振った。

「……つーか、なんで、ヤクザと仲いいんだ、あいつ。」

五十嵐が変な話を始めた。

「……そんなの、俺が聞きたいくらいだ。」

困惑する月村や、広瀬達を見て、ある人物が口を動かした。

「……兄貴、一ついいですか。」

それは和士の部屋のドアの前に立ち塞がった、黒服だった。

わざわざ、月村達に聞こえるように大きな声で呟いた。

「どうした、古賀。」

すると、今度は隣にいたオールバックの顎鬚を生やした黒服が答えた。

恐らく、古賀の先輩だろう。

「………日坂っていうガキ、どうして、あぁまで、親父に好かれているんですか?」

「……そうか、お前は新人だから、日坂のことを知らないんだな。」

先輩黒服はそう言い、月村達の方を向いた。

「……日坂は、あいつは元々この歌舞鬼町でいきがるごろつきだったんだ。」

「…えっ、和士がごろつき!」

「……和士君がごろつき。」

「……あいつが。」

その話を聞いた、月村達は口々に声を漏らした。

「………3年くらい前のことだ、あの頃のあいつは歌舞鬼町のチンピラや不良と喧嘩して、ぶっとばしてかつあげして、ネットカフェで生活する、悪ガキだった。」

「……あいつにそんな過去が。」

話を聞いた月村が驚愕し、呟いた。

「………それでよ、あまりにも町で喧嘩して目に映るあまり、等々ウチに目をつけられたってわけだ。」

先輩黒服はそう言い、懐かしそうに語り出した。

「……日坂を討伐しに、何人か刺客を差し向けたんだが、全員、返り討ちに会ってよ………それで、親父自らが動いて、日坂に引導を渡したらしい。」

「……えっ、組長が直々に。」

古賀は驚きのあまり、声を上げた。

「あぁ、それで親父にぶちのめした、日坂を本部にしょっ引いて、縛りあげて色々と尋問したんだ、その時に、親父が『どうして、こんなことをしたんだ』って日坂に聞いたんだ、すると、日坂は、潔く語ったんだ。」

黒服先輩はそう言うと少し悲しそうな声で語り始めた。




3年前

鉄火組総本部 地下室

窓一つない地下室には、城崎にボコボコにされ縄で拘束され正座する和士と鉄火組の組長城崎と黒服先輩こと、当時、組長補佐の壁島力也が立っていた。

「……おい、ガキ、どうして、こんなことをしたんだ。」

城崎は低い声で質問した。

「…………もう、無いんだ。」

和士は枯れた声で答えた。

「……もう俺には何もないんだ。」

和士は涙を流しながら、理由を全て話した。

和士は小さい頃からヒーローに憧れていた。

皆から信頼し、尊敬され、いつか、誰かの役立てる人間になるのが夢だった。

強くなるため空手を通い、家族や友達、そして、周囲の人間に愛想よく接した。

世界最強のヒーローになろうと精一杯努力した。

しかし、その夢は一瞬にして砕け散った。

切れ目となったのは、和士の両親が事故で亡くなったことがきっかけだった。

孤児となった和士は養護施設で暮らすことになった

更にそこに和士に悲劇が襲った、広瀬や和士の親しかった人達が次から次へとヒーローにスカウト、または、試験に合格していき、当の和士はスカウトの声もかけられず何度も試験に落第した。

いつの日か、和士は仲のいい友達からヒーローになれないことを嘲笑うようになった。

それでも和士は、いつか努力は報われると思い、前に進み続けた。

そして、その努力は一切報われず、更には信じていた友達から『才能がない』と嘲笑われるようになり、等々和士の心は砕け散った。

中学2年生のとき、和士は養護施設をこっそり出て行った。

現実に耐え切れなくなった現実逃避し、この街に流れついた。

その町で、和士は習っていた空手で不良やゴロツキなどと喧嘩し、金を巻き上げてその日、その日を凌いでネットカフェで暮らす、ずさんな日常を送っていた。




「…………。」

「………。」

和士から理由を全て聞いた、壁島と城崎は憐れんだ目で涙を流して語る和士を見つめた。

「……こうなったのは現実逃避した全部、俺の自業自得だ。」

和士の涙は止まり、落ち着いた。

「……ヤクザの組長さんよ。」

和士は城崎を見つめ

「……もう俺を殺してくれ。」

和士は霞んだ声で呟いた。

「……堕ちるところまで落ちて散々悪い事をしたんだ同情なんていらない、エンコだの、海に沈めるだの、山に埋めるだの、好きにしてくれ………俺のことを心配してくれる奴なんていねぇよ。」

和士はそう言い、深く俯いた。

「……ほう、言ったな。」

城崎はニヤリと笑い、しゃがみ込み和士の頭を掴んだ。

「なら、ケジメでも取ってもらおうか。」

城崎はそう言い、壁島の方を向いた。

「力也、明日、こいつをコイボリに放り込め。」

「……分かりました、親父。」

壁島は頭を深く下げて返事をし、和士をある場所へ連れて行った。

その場所は和士の予想できなかった場所だった。




翌日

「…………これは一体。」

目の前の光景に和士は驚愕した。

「今日から、お前はこの養護施設『コイボリ』で一年間、住み込みでタダ働きをしてもらう。」

壁島はそう言い、和士を養護施設に放り込んだ。

和士が壁島に放り込まれたのは、『コイボリ』という名の養護施設だった。

この施設は鉄火組の息のかかったシマである。

城崎の命令で和士はそこで一年間養護施設のバイトとして、衣食住ありの住み込みのタダ働きをするはめになった。

身寄りのない孤児や虐待されている児童の世話、洗濯、料理、買い出し、掃除など色々な仕事を毎日、気を緩めず取り組んだ。

そして、仕事をしていくうちに、仕事にやりがいを感じるようになった。

月日は流れ、養護施設での労働で9カ月を過ぎた時のことである。

その日は、いつも通り、児童達の服を選択竿に干していたときだった。

「……よう、クソガキ。」

『コイボリ』に城崎がやってきたのだ。

ここに来たのは、和士の様子を見に来たのだ。

『コイボリ』に来た城崎が和士に話しかけた。

「……よう、働いているか。」

右手でキセルを振り回しながら城崎は、和士に問いかけた。

「……えぇ、まぁまぁですかな。」

和士は汗を拭った。

「……どうして、俺を『コイボリ』に入れたんですか。」

和士は殴られることを覚悟して、質問した。

「理由を教えてください!」

和士は恐れる事なく、詰め寄った。

「ふぅ~。」

城崎は深くキセルを吸い


「……ヤクザとして当たり前のことをしただけだ。」


ボソリと答えた。

「………当たり前のこと。」

和士は首を傾げた。

「……任侠ってしっているか?」

城崎が急に話題を変えた。

「…いいえ、知りません?」


「……弱きを助け強きをくじき、仁義を尽くすことだ。」


城崎は空を見上げ、険しい顔で語った。

「……まるで、ヒーローみたいですね。」

「……まぁ、そう見えるな。」

城崎はまた、キセルを吸った。

「……でも、最近のヤクザは麻薬の密売だの、詐欺だの、地上げなど、くだらないことばかりしやがる、まったく、最近の奴はヤクザのヤの字も分ってない青二才な奴、ばっかりだ。」

城崎は不機嫌そうに吐き捨てた。

「…じゃぁ、なんで、俺を助けたんだよ。」

和士が低い声で呟いた。

「……人に迷惑かけて、喧嘩して金を踏んだくる奴なんかに、助ける価値の無い俺に⁉」

和士はすごい、勢いで城崎に言い寄った。

「………。」

城崎は黙り込み、キセルをふかした。


「……人を助けることに、良いも悪いねぇよ。」


城崎はそう言い、軽く笑みを浮かべ

「ここを出たら、カタギにもどってまっとうに生きろ。」

背中を向けて去っていった。

「…………っ。」

それを聞いた和士は固まった。

あの日から、進むべき道を無くした和士は見つけた、決して曲がらないまっすぐな漢の背中に伸びていく、自分が進むべき新たな道へと成った。




現在

「そして、あの日から日坂は親父の子分になるという新しい道を見つけたんだ。」

壁島はそう言い、少しニッコリと微笑んだ。

「………和士君にそんなことがあったなんて。」

「……そりゃ~、惚れるわけだ。」

「……そんな過去があったなんてな。」

広瀬達が口々に呟いた。

「………その後、日坂はなんとか一年間での養護施設の労働を終わらせ施設を出て行ったんだ。出て行ってからはもう悪さをしなくなったが、毎日、鉄火組の本部の玄関の前にやってきて、子分にしてほしい頭を下げて懇願してきたんだ。」

壁島は、話を再開した。

「……何度、追い返してもまた、前に現れ、何度痛めつけても、這い上がってくる…………本当、しつこい奴だったよ。」

壁島は懐かしそうに語った。

「……あいつ、ウチに入るがためにヤバいことも平気でやったんだ。」

「……ヤバい事?」

月村が食いついた。

「ウチの組のシマを荒すゴロツキを締めあげたり、組に潜っているサツの情報をこっそりとウチに密告したりして、色々と無茶しやがったんだ。」

「……どうして、そんな危ない事を⁉」

今度は広瀬が食いついた。

「……大方、親父に気に入られて組に入れてほしかったんだろうな………だが、それがあだになったんだ。」

壁島は急に険しい顔になった。

「……あいつ、広島の蓮華会っていう抗争相手のヤクザの機密情報を親父にチクったことがバレて、蓮華会に拉致され拷問され報復を受けたんだ。」

「……えっ。」

「……なっ。」

「ごっ、拷問⁉」

月村達はその場の空気が氷りつき、顔が青ざめた。

「……あぁ、知らせを聞いた俺は、歌舞鬼町にある蓮華会の事務所に突撃したら………生爪をはがされ、刺した腹の傷を火であぶられたり、武闘派極道蓮華会の大好きな拷問を受けて苦しむ日坂の姿があったんだ。」

「…………。」

「…………。」

その話を聞いた、

月村達は血の気を失い戦慄が走り、黙り込んだ。

「俺はあいつのそんな姿を見ていられず蓮華会の組員達を銃で跳ねのけ、日坂を保護し歌舞伎町に知り合いの闇医者の病院に入院させた………あと、一歩遅れていたら、あいつは死んでいた。」

壁島は強く拳を握りしめた。

「……日坂を病院に入院させた後、俺は蓮華会の組員達を尋問した………そしてら、アイツら口々に言い放ったんだ………四時間かけて拷問しても、あいつは鉄火組の情報を何もしゃべらなかったんだ、俺が助けるまで時間、あいつはずっと黙秘を続けていたんだ………それで、蓮華会の奴らアイツの口が堅さに驚いていたぜ。」

壁島はそう言い、自慢げに話し始めた。

「……その話を聞いた俺は、あいつは親父に憧れるバカガキじゃねぇ、本気で親父に仁義を尽くす覚悟を持っている漢だと知り、あいつを認めたんだ………俺だけじゃねぇ、あの日から中本さんや矢島、天沢も、鉄火組の殆どの奴が日坂のことを認めていたんだ。」

「……和士にそんな覚悟があるなんて。」

「……やるな、アイツ。」

松田と影崎が声を溢した。

「……それで俺は、親父を説得し日坂を雑用でもいいから、入れるよう説得したんだ………でも、親父はそれを許可しなかったんだ。」

壁島はそう言い、後ろのドアを見つめた。

「……どうしようかと、迷った時だった、知り合いの闇医者から電話がかかってきたんだ。あいつはある程度ケガが治ると分かるとこっそりと病院を出て行って姿をくらましたんだ……その一年後に、あいつはひょっこり現れ、イナリ荘に暮らしている。」

全て、話を終えると壁島は深く息を深呼吸した。

「…そういうことだったのか。」

「……だから、あいつはこの町に。」

松田と月村、そして、ここにいるイナリ荘の住民達はもう一つのあることに納得した。

和士が秘密結社『アタナシア』に入ったのは、同じ『アタナシア』に所属する城崎に認めてもらいたかったのだと悟った。

「……和士君。」

和士の過去を知った、広瀬は呆然とした時だった。

ガラッ

「おう、力也。」

扉が開き、城崎が現れた。

「親父。」

壁島が城崎の方を向いた。

「…帰るぞ、車を回せ。」

城崎はそう言い、壁島の前を横切った。

「……はい、承知いたしました。」

壁島はそう言い、深々と頭を下げた。

「………行くぞ、和士。」


「はい、親っさん!」


城崎の後ろから和士がついてきた。

「……えっ、親父?」

壁島は顔を上げた。

「……今日から、こいつらはウチの子分になるから、分からないことはお前が色々と教えてやれ。」

「…そうか、やっとですか。」

壁島は僅かだが微笑んだ。

「……んっ、こいつら………。」

壁島はあることに気づき、首を傾げた。

城崎は『こいつら』と言った、『こいつ』とは言わずに

「お前もこい、シャーロット。」

城崎はそう言い、シャーロットの方を向いた。

「えっ、私ですか⁉」

シャーロットは戸惑いながら、声を上げた。

「……お前の事情は和士から聞いた、行く当てがないなら、ウチに来い、丁度、もう一人、人手がほしかったところだ。」

城崎はシャーロットに詰め寄り。

「……俺がお前の親になってやる。」

シャーロットの頭を優しく撫でた。

「行こう、シャーロット。」

横から和士が声を掛けた。

「……一緒に暮らそう。」

そして、手を差し出した。

「……うん。」

シャーロットはコクリと頷き、和士の手を握った。

「じゃぁ、行くぞ。」

城崎はニッコリと微笑むと和士とシャーロット、そして部下たちを連れて、本部に帰ろうとした時だった


「………待って!」


広瀬が叫んで呼び止めた。




一方その頃

東京のとある刑務所

「…………なんで、こんなことに。」

「…パトカーを借りたのがいけなかったんじゃないですか。」

「……俺もそれに一票。」

リコッタ達がまたまた、牢屋にぶち込まれていた。

理由は、言わなくとも分かる通り、刑務所を脱走し、更にはパトカーを盗み無免許で運転したのだった。

「……まぁ、過ぎたことはいいじゃないか。」

ソロはそう言い、床に寝ころんだ。

「ここの刑務所のメシ、うまいしゆっくりして行こうよ。」

ソロはそう言い、のんびりしながらあくびをした。

「……確かに、ここのカレー、とんかつがついていて、悪くないな。」

バリアントもソロの隣で寝転がった。

「……風呂も気持ちいし、漫画も読めるし、最高だよ。」

バリアントはそう言い、刑務所に置いてあった『週刊誌』を手に取り、ページを開いた。

「おっ、今日のTWO・PIECE(トゥ―ピース)はいいな。」

バリアントが漫画を読んで笑っていた。

「……はぁ、こいつらときたら。」

リコッタは深く頭を抱えた。

「………仕方ないな、脱出は頃合いを見てからにするか。」

リコッタは新聞を手に取り、時間を潰した。

「おっ、阪神が巨人をうちまかしてるな。」

リコッタはワクワクしながら新聞を読んだ。






つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る