第3章 歌舞鬼町の番人


歌舞鬼町にある鉄火組の総本部は武家屋敷のような外見で築地塀の向こうには、4階建ての6階建てのビルや旧家の家が立ち並んでいた。

庭には池や倉庫、小さな神社もあった。

鉄火組の構成員数は2万5千人、総本部に在籍している組員数は少なくとも500人近くはいる。

東京23区の内、13個の地区に鉄火組の事務所が建っている、日本の首都東京は完全に鉄火組の手中にあるともいえる。

そんな鉄火組は、ざわめいていた。



鉄火組総本部の事務所、とある執務室

「何、それっ本当か⁉」

ガタイの大きい顎鬚金髪の男性、鉄火組の本部長の中本常太が驚きの声を上げた。

「えぇ、間違いありません。」

金髪眼鏡の男性 鉄火組の本部事務局長の天沢松人が答えた。

「日坂のバカが魔法少女とイザコザだと!」

目つきの悪い短髪の男性、鉄火組の舎弟頭の矢島法治が怒鳴り声を上げた。

「あの野郎、親父の町で喧嘩するなんて、いい度胸だな。」

矢島の後ろから右の頬に大きな痣のある男性、鉄火組の舎弟の綾部順が顔を出した。

「どうします、お頭?」

腕を組んだ天沢は中本に質問した。

「…んなの、決まっているだろう。」

中本はタバコをふかし、ニヤリと笑みを浮かべた。

「日坂をとっ捕まえて、ここに引きずってこい。」

中本は低い声で呟いた。

「…畏まりした、すぐに連れてきます。」

天沢達は軽く頭を下げた時だった。

「…いや、そいつは辞めといたほうがいいぞ。」

執務室のドアが勢いよく開いた。

部屋に入ってきたのは、ボサボサ黒髪の顎鬚の男性だった。

しかも、服装はだらしない服装だった。

「……歌舞鬼町に妙な連中が多く傾れこんできた。」

この男は歌舞鬼町で探偵事務所を開いている社長だが、それは表向きの顔で本当の顔は鉄火組の諜報部部長の多護善治である。

「………妙な連中だと。」

中本が顔をしかめた。

「………あぁ、カタギの人間やカタギの生物じゃねぇ。」

多護はそう言い、ポケットからスマホを取り出した。

「……これがその映像だ。」

多護は映像を中本達に見せつけた。

「なっ。」

「なんなんだこいつら⁉」

多護が見せたスマホの映像を見て、その場にいた全員が驚愕した。

それは、歌舞鬼町の街中を歩き辺りを見渡す、着ぐるみのマスコット達だった。

一匹や二匹だけじゃなく、十匹近くいた。

しかも、周囲の人間に話しかけ聞き込みをしていた。

「一匹、何をしているんだ、こいつら。」

矢島がマスコット達の映像を見て、疑問を抱いた。

「人を探しているみたいだ。」

「人探し?」

「そのマスコット達がある写真を持って、聞き込みをしていたんだ。」

「聞き込みだと?」

中本が首を傾げた。

「可愛いロリッ子少女の写真のな。」

多護はそう言い、スマホを操作し、別の写真を見せた。

写真は頭の上にティアラをつけた、西洋のドレスに身を包んだ、金髪のアッシュブロンドで、美しい碧眼を持つ、お姫様の姿をした少女だった。

「女の子?」

「外国の子かな?」

天沢と綾部が写真を見つめながら呟いた。

「結構可愛いじゃないか。」

矢島が腕を組み少し頬を赤くして、呟いた。

「……変態。」

「……スケベ野郎。」

「……ロリコン。」

「………幼女愛好家。」

四人はドン引きし、冷めた目で矢島に言い放った。

「俺は変態じゃねぇ!」

矢島は顔を赤くし、否認した。

「とっ、とにかく、はやくこの変なマスコット達を追い払わないと、鉄火組の名が揺らぎます。」

矢島が急に話題を変えた。

「それもそうだな。」

中本が険しい顔になった。

「矢島、綾部50人くらい、若衆を引き連れて、その変な奴らを町から追い出せ。」

「はい、承知しました。」

「かしこまりました、本部長。」

矢島と綾部は軽く会釈し、部屋を出て行った。

「多護。」

今度は多護に声を掛けた。

「………なんだ、中本。」

「もしもの時のために、その少女を探しておいてくれないか………もしものための切り札になる。」

「分かった、任せろ。」

多護は承諾し、少し急ぎ足で部屋を出て行った。

「……天沢。」

更に今度は天沢に声を掛けた。

「お前は、この事を親父や陣川さんに伝えろ。」

「えっ、組長達にですか⁉」

「あぁ、何か嫌な予感、嫌、胸騒ぎがするんだ。」

「………分かりました、すぐに伝えます。」

天沢は敬礼し、組長のいる組長室へと向かった。

「……はぁ、日坂の件は保留だな。」

中本はやれやれと肩を落とした。




そして、当の日坂とは言うと

日坂の部屋

月村、シャーロット、日坂の3人は正座を囲みように座った。

「………なるほどなそういうことだったのか。」

月村は腕を組み、納得したようだ。

「それでその子はどうするんだ。」

月村はシャーロットを見つめた。

「この子は、俺が面倒を見る。」

「ダメだと言ったら。」

「お前は言わないさ。」

和士は真剣な瞳を月村に向けた。

「…止めても無理そうだな。」

月村は仕方なくシャーロットがここで、暮らすことに承諾した。

「この話はさておき。」

月村は話題を変えた。

「魔法少女とのイザコザはまずいんじゃないか。」

「えっ、どういうことですか。」

シャーロットが疑問を抱いた。

「鉄火組が黙っちゃいないぞ。」

「………鉄火組?」

シャーロットが首を傾げた。

「この町を仕切っている、連中だ。」

和士が説明した。

「……それってギャングみたいなものですか。」

「まぁ、省略すればそういう団体だな。」

「それが、どうして、まずいんですか。」

「この町は鉄火組の縄張りだ、問題とか起こしたら、鉄火組にシバかれるんだ。」

「それってまずいんじゃないですか。」

「だから、まずいんだ。」

月村は冷や汗をかいた。

「……ここに鉄火組の連中が来るのも時間の問題だ……。」

月村は和士に言い寄った。

「………お前、殺されるぞ。」

月村が低い声で呟いた。

「いや、殺されはしない。」

和士は否定した。

「……え?」

月村が首を傾げた。

「……親っさんはてめぇの命でケジメをつけさせるような腐った人間じゃない。」

「……親っさん?」

「城崎組長のことだ。」

「………お前、城崎組長と面識があったのか。」

「……あぁ、昔な。」

、士郎に一つ聞きたいことがあるんだが。」

「聞きたいこと?」

月村は不安げに頭を抱えた。


「…………実はここに戻る途中に、着ぐるみをきたマスコット達を途中、大勢見かけたんだが、何か知らないか。」


「………マスコット………あっ。」

月村は何か思い出したようだ。

「………そういえば、この町周辺に変な着ぐるみ達が町をうろついていたな。」

「……上から、何か聞いてないか。」

「……いいや、俺の方には何も。」

月村は首を横に振った。

「………あの~。」

ずっと、黙っていたシャーロットが話に割り込んだ。

「………その中に軍服を着たネズミはいませんでしたか?」

「………軍服を着たネズミ。」

「………そういえば、いたな軍服を着たネズミの着ぐるみ。」

「………やっぱり。」

シャーロットは俯き、暗い顔になった。

「……もしかして、その着ぐるみと知り合いなのか。」

和士はシャーロットに言い寄った。

「………はい。」

シャーロットはコクリと頷いた。




鉄火組総本部 

旧家のとある部屋の前

コンコン

扉のドアがノックする音が聞こえた。

「組長、入ります。」

天沢は一声、挨拶し部屋に入った。

天沢が入った部屋は組長室、部屋の中は、新聞や雑誌、本で散乱して散らかっていた。そんな汚い部屋で着物に身を包み右の頬に傷がある老人が、寝転がって菓子を食いながらテレビでサッカーを見ていた。


「…おう、よく来たな、松人。」


このだらしない老人こそ、歌舞鬼町の番人であり、鉄火組の組長、城崎兵五郎である。

「だらしないですよ、組長、他の組に舐められます。」

天沢は足元にあった散らかった本を片付けた。

「はは、すまないな。」

城崎は体を起こし、テレビを切った。

「まったく、いつも部屋を片付けにくる矢島や若衆達のことも考えてやってくださいよ。」

天沢は散らかっていた本や雑誌などをある程度、積み上げて束にしてまとめ、部屋の隅に置いた。

「………それで俺に何のようだ。」

城崎は急に険しい表情になった。

「はい、組長実は…………。」

天沢は歌舞鬼町で起きている出来事を全て城崎に話した。



「ほぉ~、面白いことになっているな。」

城崎は軽く微笑した。

「笑い事じゃ、ありませんよ。」

天沢は指摘した。

「どうします、組長?」

天沢は城崎に質問した。

「………さてと、どうするかな………。」

城崎は瞼を閉じて、黙祷した。

沈黙は数分、続き

そして

「……松人。」

「はい。」


「……和士をここに連れてこい!」


「……えっ⁉」

松人は驚きの声を上げた。

「どっ、どうして、あいつを⁉」

天沢は困惑しながら、質問した。

「それはな、あいつならこういう情報に敏感だからだ。」

「…敏感ですか。」

「まぁ、この前だってそうだったじゃないか。」

「……もしかして、稲田組の件ですか。」

今から丁度、一カ月くらい前の出来事である。

歌舞鬼町に金塚印刷会社という会社が建った。

一件どこから、どう見ても普通の印刷会社だと思うが、その正体は歌舞鬼町を乗っ取ろうと考えている、関西最大のヤクザ組織海神一家の2次団体組織、稲田組である。

そして、その情報を鉄火組、いや城崎にこっそりと密告したのが和士である。

そのお陰で、鉄火組は稲田組の存在にいち早く気づくことが出来たのである。

現在は、金塚印刷会社の周りを多護の率いる諜報部が嗅ぎまわっているのだ。

「…まぁ、あいつが密告してくれたおかげで、ネズミの巣穴を見つけることができたんだ。」

城崎はそう言い、立ち上がった。

「だから、今回の一件もあいつが一枚嚙んでそうなんだ。」

「………確かに、あいつは頭が切れますし、あり得ますね。」

「あぁ、とにかく、和士をここに連れてこい!」

「……はい、承知いたしました。」

松人は軽く会釈し、部屋を出て行った。

「………ふぅ、さてと。」

城崎はボソリと呟くと。

「一応、掃除でもやっとくか。」

散らかった物を片付け始めようとした、時だった。

「……組長、大変です!」

焦った組員が一人入ってきた。

「……おう、どうした、三平顔色が悪いぞ。」

戸惑いながら、城崎は駆け寄った。

「………総裁が。」

青ざめた表情で呟いた。

「……総裁が稲田組にはじかれました。」

歌舞鬼町は更に、騒がしくなった。




歌舞鬼町にある新宿西駅の出入口付近で抗争が起きていた。

「おら。」

矢島の手刀が犬の着ぐるみの顔面にめり込んだ。

「ぐふっ。」

犬の着ぐるみはうめき声をあげて、地面に倒れた。

鉄火組の舎弟頭矢島の率いる鉄火組の若衆50人と相対するは歌舞鬼町に現れた、着ぐるみのマスコット集団20匹が紛争していた。

一見、人数の多い鉄火組の方が有利だと思えるが着ぐるみのマスコット達が押していた。

「死ねぇ。」

「もご。」

「ほげっ。」

中でも軍服を着たネズミの着ぐるみが素早い動きで次から次へと倒していった。

「ぶはっ。」

「ほげっ。」

「ぼべっ。」

他の着ぐるみ達のパンチやキックをくらい次から次へと、鉄火組の若衆達が倒れていった。

「行くぞ、お前ら!」

「ごへっ。」

矢島の飛び蹴りがヤギの着ぐるみの腹にヒットし、倒れた。

「はい、兄貴!」

「……矢島の兄貴につづけ。」

「くたばりやがれ!」

若衆達は矢島を筆頭に着ぐるみ達に集中攻撃をし、撃沈していった。

こうして、次々と倒れていき生き残っているのは、鉄火組13人、着ぐるみ7体だった。

「………はぁはぁ、少しまずいぞ、兄貴。」

綾部が息苦しく呼吸をした。

「……あぁ、流石にまずいな。」

矢島は冷やせをかいた。

若衆を半分以上やられている上に、向こうは7体、数が多くても、向こうの方が強い、このままでは負けると矢島は苦難した。

「……矢島の兄貴。」

若衆の一人、押田が矢島に声を掛けた。

「…………なんだ、押田。」

「………最後まで戦いましょう。」

押田は覚悟を決めた瞳だった。

「………このまま逃げるのは、ごめんこうむりますぜ、兄貴。」

「……ウチのシマで勝手なことをやったこと、後悔させてやりやしょう。」

「……エンコなり、破門なり、一緒にケジメをつけましょうや。」

今度は他の鉄火組の若衆達が声を上げた。

どうやら、全員覚悟を決め、腹をくくっているようだ。

「………お前ら。」

矢島は唖然とし

「………あぁ、ここで粘らないと鉄火組の名折れだ。」

矢島はニヤリと笑い、身構えた。


「………極道の底力見せつけてやれ。」


矢島の雄叫びを上げ、着ぐるみ達にめがけて決死の覚悟で突進した。

「「「………うぉぉぉぉぉ。」」」

若衆達も叫び、矢島の後に続いた。

矢島「おら!」

そして、矢島はネズミの着ぐるみに手刀をお見舞いした。

「もの殿、血祭にあげるのじゃ!」

軍服を着たネズミのマスコットは奇声あげて、殴り返した。




和士の部屋

「ふぅ~。」

和士はココアを一気飲みし、飲み干すと

「シャーロット………そろそろ、話してくれないか。」

険しい顔になった。

「……どうして君は、魔法少女に追われていたんだ。」

「……それは。」

シャーロットは手に持っていたコップを強く握りしめた。

「……どういう、理由で追われているかはしらないが。」

月村が話に割り込んだ。

「和士を巻き込んじまったからには、責任取って話すべきだ。」

月村はそう言いシャーロットに言い寄った。

「……強制はしない………嫌なら話さなくていいから。」

「………分かりました………。」

シャーロットは観念し、唇を動かした。




今から丁度、数時間前のことである。

異世界、和士達が暮らす世界とは違う並行世界があった。

シャーロットが暮らしている世界は魔法の世界、光と闇の魔法が対立しあっていた。

光の魔法で戦う『イングス公国』と闇の魔法の力を持つ魔王軍が戦っていた。

イングス公国は和士達が住む世界から魔法の力をコントロールできる才能のある少女に変身道具を与え、魔法少女にしていた。

シャーロットはシングス公国の第3王女であるが、魔法少女ピュア・ロイヤルとして戦っていた。

この世界でのシャーロットは愛嬌があり真面目で、人のために頑張ろうとする努力家で色々な人から信頼されていた。

しかし、その信頼は一瞬の出来事で全て消え去った。

魔王軍の幹部の一人、シャールという少女がいた、シャールはシャーロットと、髪型、瞳の色、身長全てがそっくりで瓜二つの少女だった。

性格はシャーロットと真逆で残酷で冷酷、人を嘲笑い、平気で傷つける少女で魔法少女達から忌み嫌われていた。

そんな非道な幹部、シャールはシャーロットに非道魔法をかけたのだ。

それはリバースという魔法だった。

リバースは掛けた相手を周囲の人間の知識、認識を真逆の立場にする魔法である。

そのせいで、シャーロットを信頼していた人間は信頼とは真逆に迫害、差別、疎外された。

自分が今まで守ってきた人達、友達、魔法少女の仲間達、家族、今まで出会ってきた人達全員から冷たく殺意のこもった白目を向けられた。

更に、シャールは洗脳魔法で、シャーロットの素性を魔王軍の幹部という筋書きを植え付けたのだ。

そして、シャーロットは『イングス公国』の軍隊や同志だった魔法少女達からの徹底的に攻撃され、命を狙われ続けた。

シャーロットは必死に戦い傷つき、ボロボロになりながら、洗脳された人達を元に戻そうと戦い続けた。

しかし、それは叶うことなかった。

シャールは更に洗脳魔法の力を使い自分がイングス公国の第3王女になっていた。

そんな、苦しいシャーロットは失望と絶望で心を締め付けられながらも堪え続けた。

しかし、ずっと我慢し続けていたシャーロットの心はとうとう限界を迎えた。

向けられ続ける敵視と殺意の眼差し。

浴びせられる罵声と暴言の声。

圧倒的な力による暴力。

それに耐えきれず、心が潰れシャーロットは全てを投げ出した。

取り戻そうとしたものを全て捨て、魔法少女の力を捨て、今まで紡いできた人との繋がりを断ち切った。

全てを捨て、無になったシャーロットは自分が住んでいた世界とは違う世界に逃げ込んだ。

そうその世界こそ、和士達が住んで世界である。

ボロボロのドレスを引きずり、神社の床下で雨宿りをした。

そして、我慢できず泣いてしまった。

今までずっと我慢していたが、堪えきれずに泣いてしまった。

そんな泣くことしかできないシャーロットに一つの影が近づいて来た。

その影こそが和士だった。

「………うっ。」

シャーロットは話すと終わりに、涙を流した。

「………あっ、ごめんなさい、涙が急に。」

シャーロットは涙を拭った。

「………そんなことが。」

「…辛い思いをしたんだな。」

月村と和士は憐れんだ目でシャーロットを見つめた。

「………大丈夫か?」

和士は優しく、シャーロットに寄り添った。

「………すまない、辛い事思い出させて。」

月村はシャーロットに謝った。

「………ううん、大丈夫。」

シャーロットはそう言い、笑顔を作った。

「…………。」

「…………。」

二人はシャーロットの可愛い笑顔に魅了され、熱を上げた。

「なっ、なぁ、シャーロット。」

和士は口下手そうに言った。

「………それで、さっき話に出ていた着ぐるみ達だけど、もしかして………。」

「……イングス公国の兵隊さん達だよ、魔法少女と一緒に私を追ってきたの。」

「……強いのか?」

月村が首を傾げた。

「……うん、しかもここに来ているのはイングス公国の国王直下の近衛兵部隊だよ。」

「近衛兵か。」

「それなら、そうとうやるな。」

「………その中に、私の大好きだった人がいるんだ。」

「……大好きだった?」

「イングス公国、国王直下の近衛部隊長、リコッタ大佐………。」

シャーロットは少し悲しそうな声で言った。

「………リコッタ大佐、もしかして、さっき言っていた軍服を着たあのネズミの野郎か?」

「………うん。」

シャーロットはコクリと頷いた。

大好きだった人に殺意を向けられ、息の根を止めるまで追われ続けられる、彼女にとって辛く残酷な思いをしただろう。

「……うっ。」

シャーロットはまだ、涙を流しそうだった。

「………私、すごく、辛い胸が苦しくて、今にも壊れちゃいそうだよ。」

シャーロットは自分の胸を鷲掴みした。

「………なぁ、シャーロット。」

和士が少し険しい顔になった。

「俺には、お前の辛いことも、悲しいことも俺には理解することは、できない……でも…

カズトはシャーロットに手を伸ばし

「………もし、本当に胸が苦しいのなら。」

和士がシャーロットの頭を優しく撫でた。

「………全て、出しちまえ。」

「………えっ?」

シャーロットは涙目になりながら、首を傾げた。

「………辛い事も、悲しい事も、腹に溜めているもの全てここで吐き出せ、俺が全て受け止めてやるよ。」

「………和士さん。」

シャーロットはボソリと呟いた。


「………泣くことは恥ずかしいことじゃない、当たり前のことだ。」


「………私、私は………。」

ポタポタ

床にシャーロットの涙が落ちた。

「………うっ、あぁぁぁあぁ。」

シャーロットは涙を滝のように流し、うめき声が鳴き声か、大きな叫び声を上げ和士に抱き着いた。

「皆、嫌い大嫌い!」

シャーロットは泣きながら叫んだ。

「……大佐もお父さんもお母さんも嫌い!」

泣きじゃくりながら、呟いた。

「………魔法少女の皆も大嫌い………………。」

「辛かったな。」

和士は優しく、シャーロットの背中をさすった。

「…よしよし。」

今度はシャーロットの頭を撫でた。

「よく頑張ったな。」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、皆嫌い。」

シャーロットは泣き続けた。

「……相変わらず、面倒見いいな。」

月村は肩を落とした。




そして、一方新宿西駅の出入口付近では、イングス公国の近衛部隊と鉄火組の若衆達との紛争の決着がついていた。

「はぁはぁ。」

「ちっ。」

「くっ。」

「クソッ。」

地面に背をつけて、矢島と若衆たちは喚いていた。

「くそ、俺達があんな着ぐるみ野郎どもに負けるなんて。」

矢島は唇を噛み締めた。

「……こりゃ~、エンコモノだな。」

矢島は瞼を閉じ、肩を落とした。

勝負はリコッタ大佐の率いる近衛部隊の勝利だった。

そして、とうのリコッタ大佐達はというと



キャバクラ『レイン』

歌舞鬼町、最大の風俗キャバレーと謳われたキャバクラに不思議な客がやってきた。

「えぇ、それでは皆さん、勝利を祝して…………。」

包帯を巻いたリコッタ大佐が高くワインの入ったグラスを上に掲げ

「「「乾杯!」」」

リコッタに続くように包帯を巻いた他の近衛兵達もグラスを上に掲げ、グラスに入ったワインを飲み干した。

「…………。」

「…………。」

「…………。」

オーナーや店員達、キャバ嬢たちは驚愕のあまり、沈黙していた。

鉄火組に勝った嬉しさのあまり、打ち上げをしていた。

「………ぷはっ、やっぱり、勝利の美酒は最高だぜ。」

リコッタの補佐を務める虎の着ぐるみ、バリアント曹長が歓喜の声を上げた。

「こら、バリアント。」

リコッタが注意した。

「あまり、はしゃぐとお店に迷惑じゃ。」

「えぇ、今日くらいいいじゃんか。」

「……そうだよ、大佐。」

近衛部隊で伍長を務める狼の着ぐるみ、ソロ伍長である。

「……こういう時くらい、はしゃがないと。」

ソロはそう言い、グラスに入っているワインを一気飲みした。

「………はぁ、まったく。」

リコッタはやれやれと肩を落とした。

「………これ飲んだら、シャーロットを探しにいくぞ。」ゴクゴク

リコッタは自棄になりワインボトルを一気飲みした。

すると、突然、店の扉が勢いよく開いた。


「こら、あなた達、何をやっているの!」


一人の黒髪のロリっ子で、可愛いドレスを着た少女がキャバレー入ってきた。

その少女はシャールだった。

リコッタ達の認識では、シャールはイングス帝国の王女であると認識されていた。

「………シャール。」

リコッタはボソリと呟き、顔を青ざめた。

「…姫様。」

「………なんでここに?」

「……キャバレーになんか。」

近衛部隊は口々に騒ぎ出した。

「……おっ、俺は何も知らない。」

「……ソロ伍長に無理やり、付き合わされたんです。」

「ゆうこと聞かないと、クビにするぞと脅してきて。」

「……お前ら、上司を売る気か。」

中には罪の擦り付け合いをしていた。

「遊んでないで、とっと仕事しなさい!」

シャールは大声で怒鳴り散らし、命令した。

「……はっ、はい、なのじゃ。」

「……わっ、分かりました。」

「……了解。」

リコッタ達は大急ぎでグラスに残っているワインを飲み干し、会計を済ませ、大急ぎで店を出て行った。

「はぁ、まったく。」

シャールは、不機嫌そうに顔を膨らませた。

「いつになったら、シャーロットは死ぬのかしら。」

シャールは深くため息をついた。



とある家

電気が灯るリビングに置かれたソファーで少女達がケガを療養していた。

中嶋恵「……痛っ、あの野郎。」

城戸祥子「……今度、あったら覚えておきなさい。」

ピュア・マリンこと、メガネをかけた少女、中嶋恵とピュア・フレッシュこと、髪を三つ編みにしている少女、城戸祥子が愚痴をこぼした。

広瀬結衣「……二人共、大丈夫。」

ピュア・ピンキーこと、金髪ポニーテールの少女、広瀬結衣は救急箱を使って二人のケガを手当てした。

「ところで、本当に和士君なの?」

広瀬は少し冷たい声で呟いた。

「……うん、結衣の写真に写っていた子に間違いないよ。」

「……私達も驚いたんだから。」

「……こんな形で見つかるなんて………。」

広瀬は腕を止め、俯いた。

「……和士君、なんで…歌舞鬼町なんかに……。」

広瀬は震える手を握りしめ、拳を作った。

「……とにかく、ここで落ち込んでいても、なんの解決にもならないよ。」

中嶋が広瀬を励ました。

「明日、歌舞鬼町に行って、和士君を探そう。」

「……そうだよ、今からでも間に合うよ。」

城戸も広瀬を励ました。

「……恵、祥子。」

広瀬は顔を上げ、二人を見つめた。

「……そうだね、ごめん………ケガが治ったら探しに行こう。」

広瀬はそう言い、ニッコリと微笑んだ。




こうして、歌舞鬼町の騒がしい夜は幕を閉じた。






つづく

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