第2章 少女を拾う
数十分後
「……さぁ、行くぞ。」
「……和士のバカはどこで油を売っているんだよ。」
イナリ荘の玄関から松田と中嶋が傘をさして出てきた。
「最初はどこ行く?」
中嶋が隣にいる松田に質問した。
「取り敢えず、俺はホットマートを探してくる。」
松田はそう言い、ほどけたスニーカーの靴紐を結び直した。
「そうか、なら俺はホエールに行ってくる。」
ホエールとは、歌舞鬼町にあるゲームセンターの名前である。
「じゃぁ、見つかったら、スマホで連絡しろ。」
「あぁ、分かっている。」
「………日坂の奴、また、どこかでヒーローとかと戦ってないといいけど。」
「その時は、また、強引に引っ張って逃げるぞ。」
二人は傘をさし、手分けして和士を探しに行った。
そして、とうの和士はというと
ドン・キホーテ付近の歩道
「これで問題は解決だな。」
和士はそう言い、シャーロットをジッと見つめた。
神社を出ていった後、和士はシャーロットが裸足だとケガをしてしまうと考え、ドン・キホーテでサンダルを購入し履かせた。
「………ありがとう。」
シャーロットは和士にお礼を言った。
「……礼なんていらない、俺が勝手にやったことだ。」
和士はシャーロットの頭を優しく撫でた。
「じゃぁ、行こうか。」
「………うん。」
和士は傘をさし、シャーロットの手を握り、イナリ荘へと帰っていった。
道中、二人が入った傘の中はなぜか少し暖かかった。
同時刻 イナリ荘 廊下
武田と降谷から話を聞いた月村は、吉村と影崎を引き連れて和士を探しにイナリ荘を出て行く途中だった。
「そういえば、五十嵐と沢辺の姿を見かけないが知らないか。」
歩きながら吉村が月村に質問した。
「………あぁ、あのバカ二人なら、さっきホエールに行ったぞ。」
月村が答えた。
「はぁ、ホエールに⁉」
「………どうする、連れ戻すか。」
影崎が話に割って入った。
「いいや、好きにさせておけ。」
月村はそう言い、玄関のドアを開けた。
雨が、全てを押し流すほど凄まじく降り注いだ。
「………行くぞ、吉村、影崎。」
月村は傘をさし、豪雨な雨の中を歩いて行った。
「あぁ、任せろ。」
「了解。」
二人は月村の後に、続き傘をさし雨の中を進んでいった。
一方その頃
ゲームセンター ホエール
「…………。」
中嶋は呆然と立っていた。
「オラオラ、死ねー!」
「俺様に勝負を挑んだことを後悔するがいい。」
沢辺と五十嵐がゲームをやっていた。
しかも、調子に乗って大声で叫んで騒いでいた。
「………はぁ。」
中嶋は深く深呼吸した
「……こりゃー、骨が折れるな。」
中嶋は大きく腕を振るい、騒いでいる沢辺と五十嵐に近づいた。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」」
ゲームセンターに五十嵐と沢辺の苦痛の悲鳴が響いたのは言うまでもない。
ホットマート 店内
月村は店内を見渡し、和士を探した。
「あれ、松田………。」
「えっ、士郎。」
月村は偶然、同じように和士を探す松田を見つけた。
ちなみに、影崎と吉村はホットマートの周囲で聞き込みをしていた。
「………和士は見つかったか。」
月村は松田に問いかけた。
「いいや、探したがここにはいなかった。」
松田はそう言い、首を横に振った。
「………ここじゃないなら、後はホエールか。」
月村はそう言い、ゲームセンター『ホエール』のある方角に顔を向けた。
「そっちには中嶋が行っている。」
松田は月村に言い寄った。
「連絡が来てないってことは…………。」
「あぁぁ、まだ、和士が見つかっていないってことだ………どうする。」
松田はそう言い、腕を組み考え込んだ。
「………後、探していないのは、ドン・キホーテと麒麟かくらいか。」
「………行くのか、士郎。」
「………当然だ、それと一つ訂正しろ。」
「はっ、訂正?」
「……俺のことは月村か隊長と呼べ。」
「はぁ、なんでだよ。」
松田は眉をひそめた。
「士郎って呼んでいたのは、和士だけだ。」
月村はそう言い店を出て行った。
松田「……あんの野郎。」
松田も月村に続き、店を出た。
ホットマート 玄関前
「はぁはぁ大変だ、月村!」
外に出るなり、息を切らした影崎と吉村が月村に詰め寄った。
「急にどうしたんだ、お前ら?」
月村は首を傾げた。
「聞き込みしていたら、少し前に狛犬神社で一般人の少年と魔法少女二人が戦ったらしい。」
吉村は今にも、月村に飛びかかる勢いで言った。
「なっ、魔法少女と一般人が⁉」
松田は驚きの声を上げた。
「それでどうなったんだ。」
月村は吉村に言い寄った。
「……魔法少女をボコして、小中学生くらいの女の子を連れてどこかへ行ったらしい。」
「…………女の子。」
「なんでも、その子が魔法少女に狙われていて、フードを被った少年が助けたらしい。」
「さっき、吉村と言ってみたんだが、これが神社の床下に落ちていたんだ。」
影崎が月村と松田にあるものを見せた。
それは、ホットマートのレシートだった。
そこには、購入した物が多く記載されていた。
そして、それを見た月村は目を丸くし、影崎からレシートを奪い取るように手に取った。
「………これって。」
月村は覚えていた。
和士がホットマートに出かける時に松田達が和士に渡した注文した内容とレシートに記載されている購入した商品が全て一致していた。
そして、月村と松田は魔法少女と戦った少年が和士である事を察した。
「……月村、これはまずいんじゃないか。」
「………あぁ。」
月村は冷や汗をかき、下唇を噛み締めた。
この歌舞鬼町には、凶暴な番人がいる。
歌舞鬼町を拠点に新宿区を仕切っているのは、東日本最大級のヤクザ組織、龍宮会直系団体組織、鉄火組。
鉄火組の組長、又の名を龍宮会の大侠客、歌舞鬼町の番人、大親分の異名を持つ男こそ城崎兵五郎(きのさきひょうごろう)は義理と人情に厚く歌舞鬼町の住人達からは信頼されていた。
そのかいあって、歌舞鬼町は警察の巡回が多い。
しかし、それは表向きの顔だった。鉄火組というのは仮の名でその正体は、悪の秘密結社『アタナシア』の隠密諜報部隊である。
当然、同じ組織の月村や松田達は、直接会ったことはないがこの事は知っていた。
そして、そんなヤクザが牛耳る町で問題行動を起こしたらタダではすまない。
下手をしたら殺されるだろう。
「「「…………。」」」
その場にいた全員が息を飲んだ。
「……この事が鉄火組の耳に入れば、和士は殺される。」
「あぁ、まず東京湾に沈められるのは間違いない。」
「どうするんだよ。」
「……取り敢えず、日坂を見つけよう、問題はその後だ。」
吉村と影崎が話に割り込んだ。
「……そうだな、まずは聞き込みをして、和士の居場所を…………。」
月村が松田達に指示をしようとした時だった。
月村のスマホに電話の着信音が鳴り響いた。
「………まったく、誰だよ、こんなときに。」
月村は不機嫌そうに、電話に出た。
「………もしもし、なんだ、山口か………それで何のようだ………えっ、それ本当か。」
月村は戸惑いながら、電話に向かって叫んだ。
「……直ぐに戻るから、和士を外には出すな。」
月村はそう言い残し、電話を切ネズミマホをポケットに入れた。
「………家に帰るぞ。」
「「「はぁ?」」」
吉村、影崎、松田は訳が分からず奇声を上げた。
「………さっき、山口からの電話で和士がイナリ荘に帰ってきたらしい。」
月村が理由を説明した。
「えっ、和士が⁉」
「それは本当か?」
「あぁ、本当だ。」
月村はコクリと頷いた。
「中嶋にも戻るようメールを送って、イナリ荘に行くぞ。」
月村はそう言い、松田達を引き連れて大急ぎでイナリ荘に帰ろうとした時だった。
「「「「…………。」」」」
目の前にある光景に月村達は足を止め、驚愕し固まった。
「おい、次どこ行く。」
「…キャバレーなんてどうだ。」
「あっ、それいいね。」
犬、豚、猫の着ぐるみを着たマスコット達が傘をさして歩いていた。
しかも、一匹や二匹じゃない、10匹近くいた。
そんな中で
「………おいこっちじゃ。」
軍服を着たネズミの着ぐるみマスコットが叫び声を上げた。
そして、他のマスコット達は軍服を着たネズミのマスコットの指示に従うように集まった。
「………月村。」
唖然となりながら、吉村が月村に話しかけた。
「……あぁ…関わるとやばそうだな。」
月村はボソリと呟き
「…………関わらないように距離をとろう。」
月村達、4人はマスコット達に気づかれないように、その場を去っていった。
狛犬神社付近の歩道では
「はぁはぁ。」
「……くっ、クソッ。」
泥まみれで汚れたピュア・マリンとピュア・フレッシュがよろよろと歩いていた。
「………あのクズ野郎。」
ピュア・マリンは唇をかんだ。
「…………えぇ、今度会ったら、息の根を止めてやる。」
ピュア・フレッシュは吐き捨てるように言った。
「………これからどうする。」
「……一旦、上からの指示を待ちましょう。」
「………ところで、リコッタさんは?」
「リコッタさんはさっき、部下を連れてシャーロットを探しに行った。」
二人は雨の中を濡れながら、歩き続けた。
イナリ荘 和士の部屋
「……これが俺の部屋で好きに使ってくれ。」
和士はシャーロットを自分の部屋に入れた。
イナリ荘の部屋で一番優遇な部屋は和士の部屋だった。
普通の畳6畳の部屋とは違い、トイレや台所の他に洗濯機と風呂がついていて、畳12畳の部屋である。
元々は巨大な物置だった、和士は機械や工作作業が趣味なので、改造し自分の部屋に私物化した。
「………おっ、お邪魔します。」
シャーロットは軽くお辞儀をし、部屋に入った。
「ココアでも作ろうか。」
和士はシャーロットにタオルを渡し、台所にある冷蔵庫の扉を開けた。
「………あっ、ありがとうございます。」
シャーロットは和士から貰ったタオルを使い雨で濡れた髪をふいた。
「ついでに風呂にでも入れ、そのままじゃ風邪をひく。」
シャーロットの服を指さした。
シャーロットの服は雨や泥水で歪んで汚れていた。
「……あっ、はい。」
「風呂場はここだ。」
和士はそう言い、風呂場を案内した。
「…………はい、ありがとうございます。」
シャーロットは風呂場に入った。
「着替えは適当に俺が用意しておく。」
和士は物置から自分の服を取り出した。
「何から何までありがとう。」
シャーロットは涙目になりながらニッコリと笑顔でお礼を言った。
イナリ荘 玄関付近
月村達、4人がイナリ荘に帰ってきた。
「ただいま。」
「ったく、ヒドイ雨だな。」
「まったく、お陰で財布がずぶ濡れだ。」
「俺なんか、スマホが水で壊れちまったぜ。」
「それはお前が転んで、スマホを落としたからだろう。」
月村達が口々に喋っていると、
「………ふぅ、お疲れ。」
今度は、中嶋達が帰宅した。
「……おう、中嶋……。」
「………骨折り、損のくたびれだった………。」
中嶋を見た、見た松田、吉村、影崎が氷りついた。
「…………あっ。」
「………うっ。」
沢辺と五十嵐が玄関の床にボロボロのずぶ濡れ姿で、失神して倒れていた。
「遅いぞ、中嶋、どこで道草を食ってたんだ。」
月村は中嶋に詰め寄った。
途中、床に倒れている沢辺と五十嵐を踏んづけたが月村は気にしなかった。
「……憐れだな。」
「……まぁ、大方の検討はつくけどな。」
影崎と吉村は憐れんだ目で、五十嵐と沢辺を見つめるのだった。
数分後
グツグツ
和士は鍋を使って、シャーロットのためにココアを作っていた。
一方のシャーロットとはというと
シャー
お風呂でシャワーを浴びていた。
「よし、出来た。」
和士はココアを完成させ、二つのカップに入れた。
「………あの和士さん。」
風呂上りで着替えを着たシャーロットが出てきた。
着替えに渡した服は、和士が中学の時の体操服とジャージだった。
サイズはシャーロットにピッタリだった。
「……他の服も買う必要があるな。」
和士は独り言を呟くと、ココアが入ったカップを卓袱台に置いた。
「………ココアだ、飲め。」
和士は卓袱台に座り、ココアを一気飲みした。
「いっ、いただきます。」
シャーロットは合掌し、ココアを息で冷まして飲んだ。
「………あの和士さん、一ついいですか。」
「なんだ。」
「………その………和士さんはこの町が好きなんですか。」
「えっ?」
和士は首を傾げた。
「………神社で言っていたじゃないですか。」
「………神社で。」
和士は神社での記憶の糸を思い返した。
『………親っさんの町をガキの屍で汚すわけにはいかねぇ。』
「……!」
和士は思い出した、シャーロットの前でかっこつけたいあまり、口を滑らせて言ってしまったのだ。
「……それは。」
和士は口下手そうに呟いた。
「…あの人みたいにかっこつけたかっただけだよ。」
和士は少し照れくさそうに答えた。
「…あの人?」
シャーロットは首を傾げた。
「…………あの人がいなかったら、今の俺はなかった。」
和士が天井を見上げながら、懐かしそうに語り始めた。
「………俺はあの人に恩返しがしたくて、歌舞鬼町にいるんだ…この町を、親っさんの愛したこの町を汚す奴は、誰だろうが、俺は許さない。」
和士は拳を強く握りしめた。
「…大好きなんだね、その人のことが。」
「あぁ、俺の命の恩人だからな。」
和士はそう言い、今度は窓の景色を見つめた。
「なぁ、今度は俺が質問していいか。」
和士は改まって、真剣な表情になった。
「なんで、魔法少女に追われていたんだ。」
和士は直球な質問をした。
「…………。」
シャーロットはピタリと動きを止めた。
「………それは。」
シャーロットが答えようとした時だった。
ガラッ
玄関のドアが勢いよく開いた、そして
「………おい、和士!」
月村が怒鳴り声をあげて、部屋に入ってきた。
「士郎⁉」
和士は驚きの声を上げた。
「………お前、今までどこ行ってたんだ⁉」
月村は和士にすごい剣幕で詰め寄った。
「まっ、待ってください。」
シャーロットが月村を止めた。
「和士さんは私を庇ってくれたんです。」
「おっ、落ち着けって、士郎。」
和士は月村を座布団に座らせ、ことの顛末を説明した。
「……じゃぁ、どういうことなのか説明させてくれ。」
月村は和士に言い寄った
「……分かった、話すよ。」
和士は観念し、いきさつを士郎に全て話した。
つづく
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