第1章 非日常の中で

東洋一の歓楽街 歌舞鬼町

ネオンの光で着飾った賑やかな、この街には犯罪と娯楽の暗い影が存在していた。

そんな町の片隅に一軒の朽ち果てたコンクリートのアパートがあった。

アパート『イナリ荘』

一部屋の広さは畳6畳のワンルームでトイレと台所つき、風呂と食事、洗濯は全て共同のアパートである。

しかし、それは表向きの顔である。

このアパート『イナリ荘』は、世界征服を目論む悪の秘密結社『アタナシア』の支部である。

『アタナシア』新宿支部、新宿区を根城に活動する支部であり、構成員は11人でここに同居して暮らしている。

そして、構成員達は全員、15~17歳の少年である。

そして、このアパートに住んでいる住人達は全員『アタナシア』の怪人である。


とある部屋

「……ふぅ。」

黒髪の少年、屑鉄仮面こと日坂和士はため息をし、趣味の機械いじりに熱中していた。

「………これで調整はよしっと。」

和士は額から出た汗を拭った。

すると

コンコン

部屋のドアがノックされた。

「夕食だぞ、日坂!」

金髪で耳にヘッドホンをつけている少年、ロード・ボルトこと降谷善治がドアをノックした。

「悪い、これが終わったらすぐに行く。」

「はぁ、まったく。」

降谷はやれやれと肩を落とし、食堂へと向かった。

数分後、機械いじりを終えた、和士は食堂へと向かった。




食堂

食堂ではすでにアパートの住人達が食事を取っていた。

食堂の内装は料理を作る厨房があり茶の間は畳二十畳の上に座布団と細長い長方形の形をした卓袱台が縦一列に並べられ端と端を繋げていた。

そして、アパートに住んでいる住民達は厨房で出来上がった料理を受け取り、座布団に座って食べていた。

今日の料理は、甘口カレーだった。

カレーのスパイスの香りが厨房全体に漂った。

「すまない、遅くなった。」

和士は食堂につくなり謝罪した。

「遅い、10分も遅刻だぞ!」

食事中でもキャップ帽子を深く被る少年、ニトロ・リアクターこと武田彰浩が怒鳴った。

「………エッチなビデオでも見てたんじゃねぇのか?」

偉そうにかっこつけでメガネを上げる少年、ターボ・ウィンドこと沢辺洋がからかった。

「見ないよ、正雄じゃねぇんだし。」

和士は否定した。

「そうだな、そういう冗談は山口だけにしろ。」

黒髪短髪の少年、ジェット・ファルコンこと松田宗助が話に割り込んだ。

「はぁ、なんで俺が⁉」

特徴もなく地味な皆のイジられる少年、ドリル・ブレイカーこと山口正雄が戸惑った。

「いや、あり得るだろう。」

中二腐そうに右目を隠すように包帯を巻いた少年、スクラップ・ウォリアーこと影崎仁平は山口がエロなのに賛成した。

「お前、部屋に結構、エロ本隠しているだろう。」

影崎は山口に問いかけた。

「………なっ、いや、違う、俺の部屋にわだな。」

山口が戸惑いながら弁明する、恐らく図星だろう。

「…俺は賛成だ。」

背丈が高い赤髪短髪の少年、ダイナマイ虎こと吉村哲郎が話に入って来た。

「………この前、コンビニでアイドルのグラビア写真集を買っていたのを見たぞ。」

「……俺も山口がエロ野郎に賛成だ。」

吉村の隣で食事を取っている黒髪で白い鉢巻を巻いている少年、サイボー熊こと中嶋玄蔵も割り込んできた。

実は影崎だけじゃなく、和士達も山口がエロいことをしっていた。

「…じゃぁ、俺は反対で!」

丸坊主の少年、バッター飛蝗こと五十嵐勇が声を上げた。

彼は空気が読めない男である。

すると、隣で食事を取っていた降谷と影崎が距離を取った。

「バカが映るから離れよう。」

「そうだな、移ったら大変だ。」

二人はこっそりと五十嵐が座っていた座席とは違う席に座った。

ざわざわとごたつく中で

「お前ら、うるさいぞ!」

武田の隣で座って食事を取っていた金髪で片目隠れの少年、水晶騎士こと月村京志郎が怒鳴り声を上げた。

月村は17歳だが、新宿支部の支部長を努めている。

「和士が遅刻したのが原因だ、次からは時間を厳守しろ。」

月村は和士を厳しく説教した。

「あぁ、次からは気をつけるよ、士郎。」

和士は頭を下げ、謝罪した。

そして、自分の分のカレーを取りに厨房へと向かった。

「まったく、お前らもあまり場を乱すような発言は控えろ。」

月村はそう言い、食事を続けた。

「すまない、月村。」

隣で座っていた武田が謝り、大人しく食事を続けた。

「すみません。」

「気を付けます。」

「さーせん。」

五十嵐、山口、吉村、中嶋、影崎、沢辺、松田、そして降谷も大人しく黙々と食事を続けた。

「……いただきます。」

和士は合掌し、座布団に座り食事を口に運んだのだった。




数分後

廊下

真暗な夜に雨が降った、廊下には湿気と寒気で寒く冷えていた。

食事を終えた和士達は囁き合いながら部屋に戻ろうとした時だった。

「えっ、今からコンビニに行く。」

松田が驚きの声を上げた。

「石鹸を切らしたのを思い出してな、今から買いに行く。」

「そうか、あっ、だったら、ポテトチップスを買っといてくれないか。」

松田が和士にポテトチップスを買ってくるよう注文した。

「コンビニに行くのならカップ焼きそば買っといてくれないか。」

五十嵐が話に割り込んだ。

すると、便乗して

「あっ、だったら俺は週刊誌ステップを頼む。」

「俺はカレーパンで。」

「カップケーキで。」

「グラビアアイドルの写真集をご所望する。」

次々とシンに注文した。

「………はぁ。」

和士はやれやれとため息をついた。

「分かった、取り敢えず買って欲しいものをまとめて紙にメモしてくれ。」

和士はあっさりと承諾したのだった。




数十分後

イナリ荘からコンビニまでの距離は徒歩10分でいける距離にあり、イナリ荘の住人達の全員が買い出しに使用している。

コンビニ ホットマート

ピロピロピローン

ドアが開き、入店音が店内に響いた。

「……よしっと。」

和士は店に入るなり、近くにあった買い物籠を手に持ち、一つ一つの商品棚に足を運んだ。

「まずははポテトチップスとポッキーか。」

和士は買い物メモを見ながら、次々と商品棚にある商品を買い物籠に入れた。

「次は雑誌か。」

今度は雑誌コーナーに足を運んだ。

「……確か、頼まれていたのは………。」

和士が紙に書かれていた雑誌を手に取ろうとした時だった。

ある、写真雑誌に目を止めた。


スクープ雑誌『人気上昇中の正義の魔法少女 ピュア・ピンキーの熱愛発覚‼』


「…………。」

和士は唖然とし固まった。

「………急いで帰らないと。」

和士は我に帰り、手を動かし雑誌を数冊、買い物籠に入れた。

そして、無事に買い物を終えた和士は、レジで会計を済ませ、家へと帰って行った。






翌日

歌舞鬼町の飲食街『アクション街』、スナックに長屋、酒屋にソープランドなどの300軒近くの店が立ち並ぶ、町である。

朝、その日は太陽の温かい光で照らされたアクション街の一角が騒いでいた。

ドン

街の建物が爆発し、住民達は逃げまどう、そんな中、一匹の異形の形をした怪物が姿を現した。

怪人名 ブラック・シャーク 「ギャハハハは、この町は俺達『ホワイト・ピクルス』のブラック・シャーク様の物だ。」

巨大なバズーカを持った黒い鮫の魚人怪人ブラック・シャークが大声で叫んだ。

悪の秘密商工会『ホワイト・ピクルス』は、和士達が所属する悪の秘密結社『アタナシア』を打倒しようとする敵対組織である。

「まずはこの町の人間達を蹂躙してやる、見ていろ『アタナシア』。」

ブラック・シャークは目に映る人間達を襲おうとした時だった


「そこまでよ!」


建物の屋上から呼び止める少女の声が聞こえた。

「あっ。」

ブラック・シャークは声が聞こえた屋上の方に顔を向けた。

「あなたの好きにはさせない。」

建物の上には、ピンクのゴスロリ衣装に身を包み、桃色のフワッとしたセミロング髪をなびかせた一人の少女が見下ろしていた。

「……だっ、誰だ、貴様は!」

ブラック・シャークは少女に問いかけた。

すると、少女は


「私は、正義の魔法少女ピュア・ピンキー参上!」


かっこよくポーズを取って、向上した。

「これ以上、あなたの好きにはさせない。」

ピュア・ピンキーはそう言い、掌から剣を出現させ、握りしめた。

「……覚悟しなさい、ブラック・シャーク。」

ピュア・ピンキーはブラック・シャークに向けて剣を突きつけた。

「へっ、魔法少女ごときが笑わせてくれる!」

ブラック・シャークは蔑むようにあざ笑った。

「死ぬのはお前だ!」

ブラック・シャークは手に持っていた、バズーカを構えた。

銃口はピュア・ピンキーを捕えていた。

「くたばれ、ピュア・ピンキー!」

ブラック・シャークは引き金を引き、銃口からバズーカーの弾丸が発射した。

「マジック・ブレイク!」

ピュア・ピンキーは自分に向かってくるバズーカの弾丸にめがけて、剣からビームを放った。

バズーカの弾丸とビームは衝突しようとした時だった。

「待て!」

謎の黒い影がバズーカの弾丸とビームの間に割って入った。

「………えっ。」

「………はっ。」

ブラック・シャークとピュア・ピンキーは突然のことで、戸惑った

割り込んだ黒い影の左右にバズーカの弾丸とビームが衝突し


ドォン


砂煙を上げ爆発した。

強烈な爆発音と爆風が響き渡った。

「……まだまだだな。」

砂煙の中から、声が聞こえた。

そして、一つの人影が動いた。

やがて、煙は晴れ、姿が見えてきた。

「………あなたは、確か。」

「……ようやく、姿を現したなヒーローモドキ。」

その姿を見た、二人は思わず、声を漏らした。

赤い装甲を身に纏い、ヒーローに似ても似つかない外見を持つ機械の怪人屑鉄仮面だった。

「……歌舞鬼町で喧嘩するとは、いい度胸だな。」

屑鉄仮面はそう言い、ブラック・シャークとピュア・ピンキーを見つめた。

「……大人しく、引けば見逃してやるぞ。」

「へっ、誰が帰るかよ。」

ブラック・シャークは、バズーカの銃口を屑鉄仮面に向けた。

「くたばり、やがれ!」

そして、バズーカの弾丸が屑鉄仮面目掛けて、飛んでくる。

「盾!」

屑鉄仮面の右の前腕部の部分が変形し、巨大な盾にになった。

ドン

屑鉄仮面は盾でバズーカの攻撃を防いだ。

「次はこっちから、行くぞ!」

今度は背中が変形し、ジェットパックになった。

「………一撃で終わらせてもらう!」

ジェットパックの噴射によって推進する低空飛行の速さは誰にも反応できなかった。

ドォン

屑鉄仮面の手刀がブラック・シャークのみぞおちにめり込んだ。

「ぐはっ!」

屑鉄仮面の手刀で吹き飛ばされ、ブラック・シャークは電柱にぶつかり、気を失った。

「……悪いがお前を基地に連行する。」

屑鉄仮面は気絶したブラック・シャークを手で持ち上げた。

「待ちなさい!」

無視されていたピュア・ピンキーが呼び止めた。

「……まだ、私との勝負がついてないは。」

ピュア・ピンキーは歩道に着地し、剣の刃先を突き立てた。

「……悪いが俺はこいつを止めにきただけだ、お前と戦う気はない、それにお前には他にやることがあるだろう。」

屑鉄仮面はそう言い、壊れて崩れた街の方に顔を向けた。

「…この街を直すことだ………じゃぁ、トランスチェンジ!」

屑鉄仮面の身体全身が変形し、形態変化した。

赤い丸みのあるクラシックカーのトラックに姿を変えた。

屑鉄仮面の能力は、手、足、背中などの身体全身を自由自在に変形させ、ありとあらゆる、環境、状況などに適応し、形態と機能を創りかえる能力である。

「……今日はこれで、退散させてもらう。」

屑鉄仮面は、トラックの荷台に気絶した、ブラック・シャークを乗せ、トラックは発進した。

トラックはアクション街を出て、車道に出た。

「…………屑鉄仮面、あたなは一匹何がしたいの?」

一人残されたピュア・ピンキーはボソリと呟いた。

今まで戦ってきた怪人の中で、屑鉄仮面は異常だった。

倒したヒーローや魔法少女、更には逃げ遅れた民間人には、一切手を出さない。

それどころか、建物の下敷きになった民間人を助けたり、敵対組織の怪人と戦ったり、海で溺れた子供を船に変形して救助したり、ヒーローのような行動をするのである。

「………っ。」

ピュア・ピンキーが呆然と突っ立っていると

「…おい、もう終わったのか。」

「……なんだよ、急いできたってのによ。」

「骨折り損じゃんか。」

ダイナマイ虎、サイボー熊、バッター飛蝗の3人がやってきた。

「……あちゃ~、こりゃ~ひでぇ。」

バッター飛蝗がアクション街の辺りを渡した。

「…おい、あれ、ピュア・ピンキーじゃないのか。」。

「あっ、本当だ!」

怪人達は口々に呟いた。

「………あなた達は、確か屑鉄仮面の。」

ピュア・ピンキーは怪人達の方に顔を向けた。

「あぁ、折角来たんだ、俺達と遊ぼうぜ。」

「…やるか。」

「相手してやるぜ。」

怪人達は、腕を鳴らした。

「えぇ、構わないわ。」

ピュア・ピンキーは、今度は、怪人達に剣を突き立てた。


「……まとめて、かかってきなさい。」


ピュア・ピンキーは高飛車な声で言い、剣を構えた。





数時間後

歌舞鬼にある銭湯『玄武の湯』は東京で少し有名な温泉であり、歌舞鬼町で暮らす、キャバ嬢やホステス、ヤクザなどがよく使うので、変わった銭湯だと噂されていた。

そんな中で、仕事を終えた和士は一人湯船につかっていた。

「極楽、極楽。」

と刺青者やイケメンホステスが湯につかる中で一人ごとを呟いていた。

「……なぁ、日坂、今日のランキング見たか。」

隣で湯船につかっていた、降谷が声をかけた。

「……また、お前ランキング上位だったぞ。」

降谷はこっそりと持って来た防水加工が施されたスマホの画面を和士に見せた。

今、世間では『ポチッと格付けランキング』というアプリが流行っていた。

犬、猫、乗り物、料理など、様々な物や生き物が色々な人が投票し、色々なランキングで格付けされる。

その中で怪人の評価もあった。

例えば、五十嵐


怪人 バッター飛蝗

ランキング評価

5位 脇役そうな怪人

3位 つぶれ役の怪人

2位 地味な怪人

87位 ヒーローよりも人気のある怪人

87位 昆虫の怪人

127位 頭脳が高そうな怪人

1位 民間人でも勝てそうな怪人


そして、それらをまとめて評価されるのが総合ランキング怪人である

ちなみに、バッター飛蝗は

総合ランキング怪人 85位である



その中でも、和士こと屑鉄仮面のランキングが多かった。


怪人 屑鉄仮面

ランキング評価

1位 見た目がヒーローっぽい怪人

2位 敵なのにかっこいい怪人

1位 ヒーローに転職してほしい怪人

2位 メカニカルでかっこいい怪人

2位 敵なのに憎めない怪人

1位 グッズ化してほしい怪人

1位 不器用で優しい怪人

2位 頭が切れる怪人

2位 ヒーローに勝利し、撃破した数が多い怪人

1位 多能な怪人

1位 ダークヒーローな怪人

1位 応援したくなる怪人


総合ランキング怪人 12位 屑鉄仮面



評価が好評だった。

しかし、和士は違うものを見ていた。

それは総合ランキング怪人の順位だった。

総合ランキング怪人 順位

1位 アルテミス提督

2位 龍狐

3位 ウェザーマン

4位 フンドシ大将軍

5位 夜叉武人

6位 マッスルタイガー

7位 ハテナイト

8位 キャッスル・ゴーレム

9位 アイス・スパイダー

10位 アーク・サキュバス


「…やっぱりすごいな、龍狐は。」

和士は自分の順位を見て呟いた。

「……いいや、和士はすごい方だぜ。」

降谷はそう言い、にっこりと微笑んだ。

「こんなに人に好かれる怪人はお前くらいだぞ。」

降谷はからかった。

「…そうだな、ありがとう。」

和士は嬉しそうに微笑んだ。





数時間後

「いい湯だったな。」

「肩こりもなくなったぜ。」

銭湯を出た二人は暗い夜道を歩いていた。

「……なぁ、メシでも食うか。」

降谷は街並みにある寿司屋『花道』に目を向けた。

「………食わないよ、それに今日の料理は、カレーだぞ。」

和士は注意した。

「……カレーか。」

降谷は固まった。

「……カレーは俺の好物だ。」

わざとらしくかっこつけるように考え込んだ。

「……はぁ、そういうのいいから、帰るぞ。」

和士はノリ突っ込みをかわした。




数十分後

アパートにつくなり、二人は食堂で食事を取った。

食堂には既に先客が夕食のカレーを食べていた。

「……そういえば、五十嵐達は大丈夫か。」

武田が隣に座っている吉村達の方を向いた。

ピュア・ピンキーに勝負を挑んだ、吉村、五十嵐、中嶋の3人はその後、あっけなくボコボコにされ、今顔中に包帯を巻き、絆創膏などを貼って食事を取っていた。

「あのクソ女。」

「今度は絶対にぶっ飛ばしてやる。」

「俺達の固い絆を見せてやろうぜ。」

3人は愚痴口言いながら、食事を口に運んだ。

「……そういえば、正雄達は大丈夫だったか。」

和士は武田に質問した。

「……まぁ、ボロ負けだったけどな。」

武田は帽子を深く被り、答えた。

実は今日、山口、沢辺、影崎の3人は歌舞鬼町にある巨大ショッピングモール『オーシャン』の屋内で閃光戦隊の大総帥グリッド・キングと勝負した。

結果は手も足も出せず、ボロ雑巾のように叩きのめされ敗北したのだった。

その成果、3人は殺気だったオーラを出してご飯を食べていた。

「あのクソ、○○野郎。」

「今度あったら○○〇して○○した後、奴の金的を○○○○して、とどめに○○して海に沈めてやる。」

「賛成だ、あいつ絶対に○○○そうぜ!」

等と口々に放送禁止用語などの下品な言葉を叫んでいた。

「…はぁ、どいつもこいつもバカばっか。」

月村はやれやれと肩を落とした。

頭を抱える月村の後ろでは和士はと言うと

「俺、これ食ったら、ちょっと買い出し行ってくるわ。」

「…出かけるなら、カップヌードル買ってきてくれ、チーズワサビのやつな。」

「……俺はカツサンドで。」

松田、降谷はまた、和士に注文した。

「じゃぁ、俺はハンバーガーで。」

「どんべいを頼む。」

それに続くように他のメンバーも注文した。


その後、和士は松田達から買い物メモを貰い、ホットマートへと出掛けていった。

「なんで、いつもこうなんだ。」

和士は肩を落としながら、ネオンで光あふれる街中を歩いてmホットマートへと向かった。





この時、和士がお出掛けしたことで非日常を大きく変えることを誰も予想するものはただの一人もいなかった。





数分後

ホットマートの扉からレジ袋を持った和士が出てきた。

「………激しい雨だな。」

和士は持参していた、傘をさした。

無事に買い出しを終えた和士は買った商品の入ったレジ袋を手に持ってイナリ荘へと帰宅していった。

和士「………。」

ふっと昨日のあの雑誌の文字が頭に浮かび上がった。


魔法少女 ピュア・ピンキーの熱愛発覚


和士の胸は嫌悪感と嫉妬でいっぱいだった。

魔法少女ピュア・ピンキーの正体は和士の小学生の時からの幼馴染、広瀬結衣である。

実は和士は広瀬の正体を知りながら、密かに好意を抱いていた。

しかし、昨日のあんな雑誌を見たら、胸が痛むのは当然である。

「………。」

和士は苦しい胸を手で強く押さえた。

和士は分かっていた、怪人の自分と正義の魔法少女の広瀬が釣り合わないことは最初から分かっていた。それでも胸は痛む。

今にも心臓が苦痛で押しつぶされそうだった。

和士(まだ、痛いな。)

和士が胸を撫で下ろし、前を向いたた時だった。

和士「…えっ?」

目の前の光景に和士は唖然とし固まった。

帰宅する道にある神社に目を止めた。

?「……うわぁぁぁ。」

ぐちゃぐちゃになったふわっとした金髪の髪、そして、髪に刺さるティアラのような髪飾り、泥だらけになったおとぎ話に出来てそうなど洋風の白いドレスを着た裸足の少女が神社の床下でうずくまって泣いていた。

和士「…………。」

和士は体の向きを変え、神社の鳥居をくぐった。


狛犬神社

「そんなところで何やっているんだ。」

和士は神社の床下に入り蹲って泣いている少女に詰め寄り、声を掛けた。

「………んっ。」

少女は涙を拭い、顔を和士に向けた。

少女はフワッとしたアッシュブロンドの金色の髪をなびかせ、美しく輝くようなエメラルドブルーの瞳がジッと和士を見つめた。

「取り敢えずこれでも食って元気出せ。」

和士はそう言い、さっきコンビニで買ったハンバーガーとオレンジジュースを少女に差し出した。

ハンバーガーは中嶋、オレンジジュースは沢辺にそれぞれ注文で買ったものだが、和士が負担して買ったので、例え無くなっても犬にあげたと言えば誤魔化せる。

「いっ、いりません。」

少女は跳ねのけた。

ぐぅぅぅぅ

少女の腹の虫がなった。

「…………。」

少女は顔を赤くし、お腹を押さえた。

「食え。」

和士は食べ物を少女に押し付けた。

「……何か食わないと体に障るぞ。」

和士は少女の両手にハンバーガーとオレンジジュースを握らせた。

「あっ、ありがとう。」

少女はハンバーガーとオレンジジュースを握り、和士にお礼を言った。

そして、ハンバーガーを口かぶりつき、オレンジジュースを口に注いだ。

「………美味しい。」モグモグ

少女は黙々と食べた。

「……なぁ、なんで裸足なんだ。」

和士は少女の裸足を見て、問いかけた。

「…………。」

少女は動きを止め、食べるのをやめた。

「……そうか、言いたくないのなら言わないでおく。」

和士は傘を折りたたみ、床下の板に立て掛けた。

「………その傘やるよ。」

和士はそう言い、コートについていたフードを深く被った。

「……どういう理由で、ここにいるかは知らないが。」

和士は少女の頭を優しく撫でた。

「……一人悩んでも何の解決にはならないぞ…。」

和士はそう言い、優しい眼差しを少女に向けた。

「……俺で良かったら、相談に乗るぞ。」

「……うっ。」

少女は涙目になりながら潤んだ瞳で、和士を見つめた。

まるで、地獄から解放されたようだった。

「……実は………。」

少女が唇を動かし、事情を説明しようとした時だった。

「見つけた!」

どこからか、叫び声が聞こえた。

和士は声が聞こえた方に顔を向けた。

「………。」

和士は唖然とした。

「………ついに見つけた。」

「………覚悟しなさい。」

和士の目の前には、テレビで見たことある二人の人気魔法少女が立っていた。

今にも襲いかかるような、怖い目をしていた。

ピュア・マリン「………。」

青い衣装に身を包んだ魔法少女 ピュア・マリン

ピュア・フレッシュ「…………。」

黄色い衣装に身を包んだ魔法少女 ピュア・フレッシュ

二人の魔法少女はそれぞれの武器を持ちこちらを睨んでいた。

「なんで、魔法少女がここに⁈」

和士は訳が分からず戸惑っていた。

すると、ピュア・マリンが口を開いた。

「魔王軍の幹部シャーロット・シェリンフォード隠れてないで出てきなさい!」

ピュア・マリンは少女を指さした。

「………あなたはここで私達が息の根を止める。」

そう言い、持っていた槍を身構えた。

そして、

持っていた剣を振った。

「……まっ、待って。」

少女は慌てて、床下から出てきた。


「……私は魔王軍の幹部じゃない………いい加減目を覚まして!」


雨に濡れ、ずぶ濡れになりながら講義した。

「……まだ、嘘をつくつもりか。」

ピュア・フレッシュは蔑んだ目で少女を見つめた。

「………この害虫女が!」

ピュア・フレッシュはそう言い、ゴミを見るような目を少女に向けた。

「………牢獄の中で自分の罪を悔いる事だな。」

ピュア・フレッシュは少女に殺意を向け、少女に切りかかった。

「死ねー!」

剣を大きく振るいかざし、刃は少女の頭上目掛けて降下した時だった。


バン

「ぶはっ!」

ピュア・フレッシュの顔面に缶がヒットした。しかも、トマトジュースの缶だった。

ドン

ピュア・フレッシュは地面に落ち服が泥水で汚れ、無事、少女の危機は回避された。

「大丈夫⁉」

慌てながら、ピュア・マリンが駆け寄った。

「………ええ、大丈夫よ。」

ピュア・フレッシュはそう言い立ち上がった。

「………魔法少女に攻撃するなんて、どういうつもりなの。」

ピュア・フレッシュは冷たい目で和士を見つめた。

ピュア・フレッシュにトマトジュースの缶を投げたのは和士だった。

「えっ、あなたは。」

「……なんで、ここに。」

和士を見た魔法少女二人は驚愕した。

「……やめろ。」

「………どういうつもりもなにも。」

魔法少女達は和士を睨みつけた。

「………俺は。」

和士は少女の前に出て、拳を強く握りしめた。

「……俺はただ、これ以上面倒ごとを起こして欲しくないだけだ。」

和士はそう言い、後ろにいる少女を見つめた

「「はぁ?」」

二人は声を漏らした。

「あなた、ふざけているの?」

「………そのために、わざわざ、私達(魔法少女)と戦うの?」

「本気じゃなきゃ、やらねぇよ………それに。」

和士は少し鋭い目で魔法少女達を睨んだ。


「………親っさんの町をガキの屍で汚すわけにはいかねぇ。」


「……何をしたいのかわからないけど、ふざけたいのならここから出て行ってくれるかしら。」

「悪いがそれは出来ない。」

「あなたには関係ないでしょ。」

「…関係大ありだ。」

和士はそう言い、魔法少女二人を睨みつけた。

「拳を握りしめたからには、覚悟は決めている。」

和士はポキポキと指を鳴らした。

つまり、戦う意志があるという表示だ。

「どうやら、やる気のようだな。」

「生身の人間が私達に勝てると思っているのかしら。」

二人の魔法少女は武器を構えた。

「……叩き潰してやる。」

和士はそう言い、身構えた。

「………くっ、私達に刃を向けたことを後悔しなさい!」

「………私達に殺されることに感謝しなさい!」

二人はすごい勢いで和士に突撃した。

「………でぃおら。」

和士は雄叫びを上げ、魔法少女目がけて、突撃した。

そして、魔法少女に左フックをかました。




イナリ荘 山口の部屋

「王手!」

中嶋はそう言い、将棋盤にある将棋の駒を動かした。

「おっ、やるな!」

武田もそう言い、将棋の駒を動かした。

中嶋と武田が部屋の片隅で将棋をしていた。

「………よっと、これでどうだ。」

「………うわっ、きてなぇ。」

ベッドの上には松田と降谷がスイッチでマリモカート略して、“マリカー”のゲームをして遊んでいた。

「人の部屋で何やってんだ!」

突然、部屋の玄関付近で山口が怒鳴り声を上げた。

「ちょっ、うるさいぞ、山口。」

「………急に怒鳴るなよ。」

「そうだ、そうだ!」

「……驚いて手元がくるっちまったじゃないか。」

部屋で寛いでいた、中嶋達はヤジを飛ばした。

「それはこっちのセリフだ!」

山口は大声で言い返した。

「……なんで、いつも俺の部屋で寛ぐんだよ。」

山口はそう言い、怒り狂った。

「えっ、だって、お前の部屋、俺達の部屋より少し広いじゃんか。」

中嶋はそう言い、部屋を見渡した。

イナリ荘の一部屋の広さは畳6畳だが、山口の部屋は畳8畳で通常の部屋より、少し大きい部屋なのだ。

その優遇に嫉妬しているのか、中嶋達は時々、山口の部屋に入って寛いでいるのだ。

「なぁ、山口、コロッケパン買ってきてれくないか。」

松田が山口に小銭を差し出し、買ってくるよう促した。

「はぁ、なんで俺が。」

「あっ、なら、アメリカンドッグも頼む。」

更にそこに降谷が入ってきた。

「買うか、そんなもの!」

山口は猛反発した。

「をれなら、さっき日坂に頼めよ。」

「……確かにな、言われてみれば………。」

「つ~か、あいつ遅くないか。」

松田は心配し、窓に映る外を見つめた。

「確かに遅いな。」

中嶋も納得したかのように腕を組んだ。

和士が出て行ってから、30分も経っている。

「……いいから、全員出て行………。」

山口が言いかけた時だった。

「俺、ちょっと行ってくる。」

心配になったのか降谷は立ち上がり、山口の部屋を出て行こうとした。

「待て、降谷!」

ずっと黙っていた武田が呼び止めた。

「俺はお前が探しに行くのに反対だ。」

武田はそう言い、降谷をジッと見つめた。

「………はぁ?」

「………この前、お前が探しに行ったらどうなった?」

武田は降谷を睨みつけた。

「………あっ、そういえば。」

中嶋はある事を思い出した。

先週、買い物に出ていったきり帰ってこない五十嵐と影崎を探しに、スマホが繋がらないので降谷が探しに出掛けていった。しかし、降谷が探しに行った5分後に五十嵐と影崎が帰ってきた。更にその日は、降谷のスマホは故障していて修理に出していてスマホを持っていなかったため連絡が出来なかった、お陰で今度は、降谷を探すために武田を含めた数人が外を出る嵌めになったのだ。そして、探しに行った降谷はというと、なんと、ドン・キホーテで買い物をしていたのだった。その前科があるせいか武田は探しに行くことに反対しているのだ。

「お前が行くとろくなことがない。」

「……じゃぁ、誰が日坂を探すんだ。」

「………それは。」

武田は困惑し、頭を抱えた。

「おい、お前らいい加減に………。」

山口が出て行くように言いかけた時だった。


「………俺が探してくる。」


松田が遮り、立ち上がった。

「和士は俺が探してくる。」

「松田。」

「……探して連れ戻してくる…もしそれでも、見つからなかったら。」

武田はそう言い、中嶋達を見つめた。

「………隊長に………士郎に伝えろ。」

松田はそう言い、部屋を出て行った。

「………本当、和士のことが好きだな、松田の奴。」

「………あぁ、親友だもんな。」

降谷と武田は松田を見送った。

すると、今度は

「………俺も日坂を探してくる。」

中嶋が立ち上がった。

「……松田が一人で暴走しないか見張っとく。」

中嶋はそう言い。松田の後を追いかけるように部屋を出て行った。

「面倒見いいな、あいつ。」

「まぁ、心配性だからな。」

二人はそう言い、中嶋を見送った。


「………はやく、俺の部屋から出て行け!」


ずっと、無視されていた山口が等々爆発したのだった。




狛犬神社

「おらぁ。」

傷だらけの和士は魔法少女二人のみぞおちに手刀を食らわせた。

「がっは。」

「ぶはっ」

バタン バタン

ボロボロの魔法少女二人はお腹を押さえながら地面に倒れ、失神した。

「………勝負あったな。」

腕の傷を押さえながら和士は、さっき投げたトマトジュースの缶を拾い、床下に置いたレジ袋に入れた。

「……さてと。」

和士は辺りを見渡し、レジ袋を手に持った。

「………なぁ、シャーロットつったか。」

和士は少女に声を掛けた。

「………行くところがないなら、俺と一緒にこないか。」

和士はそう言い、少女に詰め寄った。

「…………でっ、でも、私といたら、今みたいに危険な目に。」

「大丈夫だ、俺はそういうのには慣れている。」

和士は頭をかいた。

「………誰かに甘えることは恥ずかしい事じゃない。」

和士はそう言い、軽く微笑えみ、手を差し伸べた。

少女「…………。」

少女は瞳から出てくる涙を拭い、そして


「……うん、ありがとう。」


コクリと頷き、和士の手を取った。

「………改めて聞くが名前は。」

和士は少女に尋ねた。

「………シャーロット・シェリンフォード。」

シャーロットは無邪気に微笑んだ。

「………俺は日坂………日坂和士だ……。」

和士はそう言い、シャーロットの手を優しく握り

「和士って呼んでくれ。」

和士はほっこりと微笑んだ。



こうして、和士とシャーロットの非日常な日々が更に非日常な日々へと変貌したのだった。





つづく

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