閑話
ボクの名前はジム。農家のこどもだよ。
ほんのひと月前にね、村に変な二人組が来たんだ。それでちょっとの間、村はずれの集会所に泊ってたんだよ。背の低いジジイと小柄なガキが!ガキっていってもね、14歳の兄ちゃんぐらいだと思うけど、細っこいし、背なんか9歳のボクのほうがすぐ抜かしちゃいそうなんだ。しかもそのガキ、すげー弱ってて、おまけに顔にでっかいアザがあってさ!村長が疫病かもって、村に入れるのを渋ったんだって。ま、親父が言うには、泊めるには泊めることになったけど、村長ガメツイから、さぞぼったくったんだろうってさ!
子供は近寄るな、って言われてるんだけど。なぜか集会所には村の大人が入れ替わり立ち替わり入っていくんだよ。なんか古い魔道具を持ってさ。不思議だろ?だからある日、人が少なくなった時を狙って、こっそり中に入ってみたのさ。
真ん中へんのテーブルまわりには、ジジイと村の人たちがいた。うえっ、ジジイ、浮いてるよ!! 何かに乗ってるけど、あれ、なんだろう? 初めて見た!!
ジジイ、村のおっちゃんおばちゃんが持ってきたものを片手に、
「これは魔石が切れただけじゃのー。」
「そうか、新しい魔石を入れたらいいのか。」
「うむ、こっちは配線が切れておるの、ちょっとつなげるから待っておれ。」
「ほんと助かるわー。」
え、え、ジジイって、魔道具の職人なの?修理してんの?こんなことできるひと村にはいないよね?遠くの大きな街にでも行かないと……お、おお?しかもジジイ、すげえ器用!ちょちょちょいと道具を使って、ずんずん直してる。うわあ、ボク、すごいところ見てんのかな?だって、魔法だよ!魔法を使える道具なんだよ!?帰ったら、隣のフェルに自慢しなきゃ。
ガキのほうは、ジジイのななめうしろにすわって、弓の手入れをしていた。やっぱ、気色悪いや。だって顔の半分が変な色してんだもん。手足もそうなんだ。ぜったいなんかあるよ。
「鋤や鍬の補修は、鍛冶屋の仕事じゃー。持って帰るのじゃー。」
「そこは、ちょいちょいとやってくれたらいいじゃないか。」
「何を言うとる。こういうのは本職が一番じゃ。ワシの本職は魔道具じゃぞ。」
「ええー魔道具の鍬とか、鎌とか、できないのー?」
「ふぉふぉふぉ。それは無理じゃのう。」
みんなが大笑いするのを聞いて、ガキもちょっと笑った。笑えるんだ、あの顔で。それにしてもしんどそうだな、と思ったら、こっち見たガキと目が合っちゃった。
まずい。いや、ここは突撃だ。フェルにもっとすごい話をしてやる。……で、ずかずか歩いて行って、ガキの隣にすわりこんだ。
「おい、いきだおれたってな。」
「…行き倒れてない。」
「村の前でぶったおれたって。見てたんだぞ。」
まあ大人の話を聞いただけだけど。そこはいいよね。ガキめ、だまりやがった。みとめたな、はははは。でも、ほんとにダルそう。
「寝てなくていいの?」
「大丈夫。病気じゃないから。」
ちらっと、首にぶらさがってるタグが見えた。これ、見たことある。たしか…
「おまえ、冒険者?」「そうだ。」
魔道具職人に、ぼ、冒険者?ええ、ちょっとカッコイイ、かも。いやいや、まずは強気で行けって兄ちゃんが言ってたしな!
「あんま強そうじゃないなあ。いつなったんだ。」
ガキは少し考えてから、
「ちょうど一年前、かな。」
は、こんなちっこくて細いのに!?もう一年も冒険者やってんの?へえ、でも、ボクの方がきっと、ガタイもでかくなるし、冒険者になったら、コイツより強くなるに決まってる。
「ボクはまだ9歳なんだけどさ、成人の儀が楽しみなんだよ。だって、もしも魔法の才があったら、すげえじゃん。魔法使いになれるかもしれないんだ。えらい人がスカウトに来るかもね。」
あ、ガキの肩が震えてる。こいつ!
「笑うな!」「笑ってない、笑ってない。」
「めちゃくちゃ笑ってるじゃないか!」
「ごめん、ごめん。俺もさ、冒険者に話をしようと頑張ったことがあってさ。思い出したんだよ。」
「そう?」
「うん。」
集会所の入り口から、大きな声がきこえた。
「ジム!こんなところで油売ってないで、母さんを手伝え。」
「いっけね。」
親父に見つかった。しゃーない。かえろ。
ガキが立ち上がったボクに、手を振った。あれ、コイツの顔、近くでよく見たら、鼻とかあごとか、シュッとして悪くないじゃん。目だってきれいじゃん。少し引きつってるけど、まともな顔半分は、うちの姉ちゃんより美人なんじゃ……。
そんなことに気が付いたらさ、なんだかすげー恥ずかしくなって、僕はおおあわてで集会所から飛び出したんだ。あいつに、バイバイ、も言ってなかったよ!
――でね、それっきりなんだ。次の日に、二人は村を出ていったから。街へ野菜を売りに行く荷車といっしょにね。荷車の護衛がここでの宿泊料だったんだって、兄ちゃんが言ってた。でもね、ぜんぜんそれだけじゃなかったんだよ。
今日ね、ときどきくる行商人のおっさんが、さわぎだしたんだ。ジジイがなおした魔道具をみて、これはすごい、すごいって。
「だって、この魔道具のランプ。明るさの調節機能がついているんですよ。時間で自動消灯の機能も、くっ。こちらの製水器、水が美味しい上に、温水と冷水の切り替えができるじゃないですか!こっちの着火道具!出力大で使いやすくなったうえに、こちらも火力調整可能ときた。信じられません。
しかも、しかもですよ。どれも魔石消費量大幅減なんて!
これ、商人なら欲しくて当然でしょう!」
大人たちが大さわぎしてるんだ。あのジジイはホントにすごかったんだって。
でもボクは、あいつの方に会いたいかな。あーあ、またうちの村に寄らないかなあ。もうちょっと話がしたい。冒険の話とかさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます