第4話

 ここは、ツインレイク。

 街に入ろうとしたとたん、警備によって詰所へと強制案内されてしまった。なんでも、俺たちに対して窃盗の訴えがあったんだとさ。

 一体何の話だよ。

「少し前に戻った冒険者のチームから、訴えがあったんだよ。爺とガキの二人組にマジックバッグを盗まれたってな。ついでに、獲物もごっそりバッグごと持っていかれたってよ。

 それなのに、のこのこと現れやがって。被害者は、バッグと荷を返却するなら、大事にはしないと言っている。さっさと返却する方が身のためだ。

 今すぐ牢屋にぶち込んでもいいんだからな。」

「ジジイとガキってだけで、賊扱いかよ。ありえねえだろうが!」

「ヒューゴ。」イライジャは低い声で「ワシに任せておけ。」

 冷静だね。そうだな、俺、ちょっと頭が回っていない感じ。ここは任せよう。

 イライジャは、まじめな表情で話を切り出す。

「いきなり盗人扱いするからには、きちんと説明してもらいたいのじゃがの。」

「さっきの話で十分だろうが。」

「まあまあ。」別の警備が、同僚をなだめる。

「反抗的なのは、後ろめたいからに決まっている!」

「お前も落ち着け。」

 一人はいきり立ってるが、もう一人の警備は冷静だ。

「とにかく、訴えが出ているのだ。鞄を調べさせてもらう。窃盗と無関係というなら、問題ないだろう?」

「うむ、かまわんよ。」

「さっさと寄越せ。」

 警備の野郎は、俺の鞄をひったくるように持っていった。


 鞄はひっくり返され、中身をぶちまけられた。出てきたのは着替えとか、日用品とか、雨用の外套とか雑多な物だ。あと、普通は入れない野営用の折り畳み椅子(マジックバッグ入れ損ねた)なんかも、頭陀袋にいれていたね。

 あの短気な警備の野郎、あれ、なんで、とか言いながら、鞄と頭陀袋の縫い合わせまで調べている。

 イライジャのランドセル型バッグもだ、同じように調べられた。こっちも中身は、小物とか着替えとか雑多な物ばっかり。

 イライジャのマジックバッグだけどね。これ、本人以外使えないんだとさ。他人が使うと、ダミーの物が入ってる所が開く。はっ付けてある、っていってたなあ。爺さんの魔道具のセキュリティって、どれもやたら高いのよ。過去にいろいろあったんだろうね。


 さて。お目当てのバッグはない。

 盗んだという、討伐した獲物?も出てこない。俺たちを盗人扱いした野郎は、大いに焦っている。

「なぜだ、おかしい、なぜだ?」

 ぶつぶつと喚き散らされてもなあ。ここでイライジャの再登場だ。

「なぜだ、は、こっちが言いたいぞい。

 お主は最初に言ったのう。盗まれたのは、マジックバッグだと。

 今、お主らは、ワシと坊主の鞄を調べ終えたの。

 結果、そこにあるのはただの鞄で、マジックバッグではないと、確認されたわけじゃ。

 加えて、盗まれた物もでてこない。無関係とはっきりしておるのに、ワシらをいつまで盗人扱いする気じゃね。」

「途中で隠したんだろうさ。」

「ああいえばこういうの。」

 イライジャはすっかりあきれた顔で、

「そもそもの話、マジックバッグは高額じゃ。ワシらを犯人だと訴えた奴、名前も知らんが、そやつはバッグを持てるだけの、甲斐性があったのか?確かに所持していたという、証拠でもあるのか?あればここで示してみよ。まずそこからであろうが。

 ワシは、イライジャという。これでも、商業ギルドとは長年取引をしておるわ。問い合わせてみるがいい。お得意様じゃ、ギルド長が顔を青くするかもの。」

 警備の顔色が、明らかに変わった。

「このヒューゴもな、ファルスタルの冒険者ギルド長が、目をかけている有望株じゃぞ。お主らは将来上位クラスになりえる冒険者に、濡れ衣をかぶせておるのじゃ。

 のちのち後悔するのは、お主らの方になる。わかっておるか、ああん?」

 なにその上から目線は。それに、話を盛りすぎ。そんな与太話、誰も信じねえから。

 冷静な方の警備が、顔をしかめつつ口を開いた、

「こちらの不手際は謝罪しよう。だが訴えが出ているからには、しばらく街にとどまってくれ。宿泊する宿も、報告するように。経過はおって知らせる。」

 だって。一応解放、てことでいいんだろうか。



 ああーーー、すっげえ疲れた。だってもう夕方だよ?

 速攻で宿を取って、すぐに食事を出してもらった。二人とも空腹だったから、そりゃ貪り食った。宿の人、ちょっと引いてた。

 食べているうちにも色々と思い出して、愚痴が出るわ出るわ。部屋に入ってからも、文句が止まらなかったよ。


 俺たちを嵌めたのは、クラークで間違いないだろう。先に誰かをやって、道標に細工しやがったんだ。自分たちが通る際に元通りにしたんだろうね。街の警備に届けたのも同じ。奴らがホームにしている街だから、そりゃあ信用されるさ。

「せこい、やり方がせこい!」

「警備もひどいもんじゃ。あれでは、誰でも盗人に仕立て上げられてしまうぞ。」

「くっそー、あいつに鞄に入れてた金をすられたんだ。返却のとき聞いても、金なんか知らんと、とぼけやがった。」

「あきらめろ。おかげであの程度で済んだのじゃ。」

 まさか……俺ワイロを渡した形?うわああ。

「―――俺さあ、今まで会った警備のおっちゃんたちが、いかに真面目だったかって、実感した。ほんとに。」

「ふぉふぉふぉ、すこしは頭が冷えたかの?」

「あーごめん。今日の俺、だめだめだな。」

「そういう日もあろう。さて、ワシはシャワーでも浴びようかのう。」

「ごゆっくりー。」

 イライジャが浴室に消えてから、俺はベッドにころんと横になった。

 左手首の腕輪が目に入る。真鍮の古ぼけた腕輪に見えるけど―――


「リバース」


 腕輪が消え、ベットの上にポトンと小型の箱が現れた。手提げ金庫そのまんまだ。俺の所持金の大半はここに入ってるんだよ。

 今回の旅の報酬は、「リバース化」。俺は考えた末に、これを選んだんだ。

 だって、治安が悪い、宿の鍵付き個室だって、盗まれる時は盗まれる。金はもちろんのこと、タオルや下着だってなくなるんだ。それが嫌なら、全部持ち歩かなきゃいけない。ソロだったからさ、全部背負ったまま狩りや採取をやっていたんだわ。この前、まとまった報酬を貰っただろう?収納場所に悩む羽目になったわけ。

 結果、これを作ってもらった。めっちゃ便利、めっちゃ満足。

 イライジャからは「かっこいい武器がいいのに」ってショボーン顔されたけどな。

 ああ。瞼が重くなってきた。元の腕輪に戻しておこう。寝る前に、シャワーくらい浴びないと……そういや、シャワー付きの部屋なんて初めてじゃん。わお。



 さて、翌朝。俺たちは、改めて今後の事を話し合った。

 まず納品予定だった魔石や素材について。

 ここでの取引はやめた方がいいだろう。殆どイライジャの鞄に入っているけど、詰所では見せていない。表に出せば「やっぱり盗んでいた」と言われるのがオチ。幸い資金には余裕があるから、しばらくは大丈夫だ。

 街から出るな、だっけか。いざとなったら強行突破すればいいよね。イライジャとならできるぞ、たぶん。

 とりあえず、消耗品の補充等はすませておこう。外出不可とは聞いてない。あー、連絡しろと言われたか。面倒だなあ。

 これは、宿の下働きの子にお使いを頼もう。あの野郎の顔を見なくてすめば万歳です。チップ弾んどくね。

 さて、あとは連絡を待つだけだ。



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